「「妖怪を襲う妖怪?」」
「はい。奇妙な話でしょう」
突然やって来た射命丸から聞かされた妖怪が妖怪を襲うという奇妙な話。
射命丸が突然やってくるのはいつもの事だが、今回持って来た話は随分と変った内容だな。
「妖怪が妖怪を襲うってそんなの只の縄張り争いじゃない」
「それでしたらワタシだって気にしませんけど、どうも奴等はそう言うのとは違うみたいでして」
「違うって何が如何違うっていうんだ」
「ワタシは直接目撃したわけではありませんが、出逢った者の話ですと目に付く生き物全てを殺して周っているとか。縄張り争いでしたらそこまでする必要はありませんでしょ」
「……確かにそうね。でも、妖怪の小競り合いに興味はないわ」
「まぁまぁそう仰らずに少しは興味を持ってくださいよ」
「そんな事を言われてもねぇ……」
霊夢は射命丸の話を興味なさ気に聞いているが、俺はこの話に若干引っ掛かる物を感じていた。
確かに妖怪同士の小競り合いなら如何でもいい話だが、目に付く生き物を殺して周る意味が分からん。
自分の力を誇示したいにしても変なやり方だし、人間達を震え上がらせたいのだとしても今度は妖怪を襲う意味が分からない。人間を震え上がらせるなら直接人里を襲ったほうが手っ取り早いからな。
「……射命丸。その妖怪ってのはどんな容姿なんだ」
「えっと……確か骸骨の騎士って話ですよ。それがどうかしましたか?」
「ちょっと気になったから聞いてみたんだが、その容姿の妖怪だったら知っているぞ」
「あら、私は知らないわよ。そんなみょうちくりんな妖怪」
「霊夢が元旦の行事をしている時に神社にやって来た妖怪の中に同じのが居たんだ。此処に来た奴は全て斬り捨てた筈だから、何処か別の場所に潜んでいたんだろ」
「なるほど。つまり今回の件はリュウさんが斬り残したのが原因であると」
「神社に来た奴は全部斬り捨てたって言っただろ。変な解釈をするな」
勝手な解釈をする射命丸にツッコミを入れておく。此処で聞き流しておくと後でどんな風に新聞に書くか分かったもんじゃないからな。
それにしてもアイツ等の生き残りが居たなんて思いもしなかった。あの時全て斬り捨てたと思っていたが、他の場所に潜んでいたとは。
アレが本当に妖怪なのか若干疑問ではあるが、このまま放置して被害が拡大するのも気分が悪いな。
「それで射命丸。その妖怪ってのは普段どの辺りに出現するんだ」
「それでしたら一つお願いあるんですけど……」
「お願い? ……あぁ、また取材がしたいってんなら別に構わないぞ」
「その言葉が聞きたかったッ!」
「取材の一つや二つでそんなに喜ぶなんて、天狗ってのは良く分からないわ」
「お二人の事を新聞に出来るかどうかでその月の売り上げが変わってきますからね。売り上げが伸びれば定期購読者も増えて万々歳なんですよ。……まぁ、大天狗様には睨まれますけど」
「上司に睨まれるくらいなら無理に俺らの記事を書く必要はないだろ」
「はっはっはっはっはッ。例え上司から睨まれたとしても新聞の売り上げには変えられません」
「その根性と情熱だけは凄いと思うわよ……」
「いや~そんなに褒めないでくださいよ~」
照れる射命丸を他所に俺と霊夢は呆れて溜息を吐く。
恐らくは自分の欲求に素直なんだろうけど、上司に睨まれてまで貫こうとする姿勢はある意味凄いと思う。
きっとこの先出世するのは難しいと思うが、コイツなら新聞の売り上げが良ければそれでいいとか言い出しそうだな。
………
……
…
射命丸から情報を聞いて件の骸骨騎士が多く目撃された場所に着てみたが、それらしき影は見当たらない。
周囲は雪が積もった平原で姿を隠せる様な物は何もなく、何処かで身を隠せるような場所ではなかった。
「見当たらないわね。あの天狗、私たちを謀ったのかしら」
「俺達の怖さを知らんわけでもないだろうし、命を捨てるような真似はしないだろ」
「じゃあ何で居ないのよ」
「……外出中とか?」
「外出中ってそんな訳ないでしょ」
霊夢が呆れて溜息を吐くと、その小さな音を掻き消すように馬の嘶きが聞こえてくる。
その声に反応して後ろを振り返ると、黒い大きな馬が豪快に雪を掻き分けながら俺達に向かって突撃してきていた。
「「なッ!?」」
余りにも非現実的な光景に俺と霊夢は驚き、目を丸くするがその僅かな間も馬は止まる事無く駆け続ける。
俺達は慌てて馬を避けるように左右に分かれるが、馬の背には射命丸が言っていた髑髏騎士が跨っていた。そして擦れ違い様に奴が握っていた巨大な剣に俺は斬られてしまう。
しかし斬られたといっても切先が軽く触れる程度。このくらいなら大した傷じゃないだろう、そう高を括っていたが傷口から信じられない程の血が噴出した。
「リュウッ!」
「だい、じょうぶだ。くそ、なんだ今のは」
自分でも血が噴出した事が信じられなくて傷口に触れてみるが、俺が思った以上に大きな傷が出来ていた。
切先が軽く触れた程度で出来た傷ではなく、まるで裂けてしまったかのように出来た大きな傷。どう考えてもあの程度の一撃で出来るような傷じゃない。アイツが持っている剣に何か秘密でもあるのか?
傷口が裂けた事に疑問を覚えながら、自分に回復魔法を掛けて傷の治療を施しておく。
「ちょっとアンタ! いきなり斬りかかって来るなんて何考えてるのよ!」
「………………」
「なんか答えなさいよ、コラッ!!」
骸骨騎士は霊夢の抗議にも反応せず、黒い馬に跨ったまま少し離れたところで俺達のことを観察している。
全身が骨になっているため表情はなく、ちゃんとした意識があるのかすら怪しいもんだが、それ以上に信じられないのは奴が持っている剣だ。
全身が骨である為当然のように筋肉はないのだが、黄金の柄に黒い宝石が埋め込まれている巨大な両刃の剣を握り締めている。アレだけのサイズとなると重量はかなりの物になるはずだし、乗馬しながら戦える様な品物じゃない。にも拘らず奴は乗馬したまま俺の事を斬ってみせた。そこらの妖怪じゃ出来ない芸当だな。
「まったく、なんなのよアイツ。変なのが多い幻想郷だけどあんなのは初めてだわ」
「文句を言っている場合じゃないぞ霊夢。来るぞ」
「分かってるわよ」
俺達が武器を取り出し構えると、馬が大きな嘶きを挙げて雪を掻き分けながら走り出す。
接近される前にケリを着けようと霊夢が弾幕を張り、俺が斬撃を飛ばして攻撃をするが、それでも馬は止まらず駆け続ける。
骸骨騎士は俺達の間を駆け抜けながら剣を振り下ろし、奴の左側に居た俺に斬り掛かって来る。
今度は叢雲を盾にして繰り出された一撃を防ぐが、その一撃がとても重く、骨になった奴が繰り出す一撃とはとても思えない。
なんとか奴の剣を弾き、刃を返して反撃しようとするが馬は立ち止まる事無く駆け抜けていったため、剣を振り抜いても攻撃を当てる事が出来なかった。
骸骨騎士を乗せた馬は雪の平原を駆けながら反転し、再び俺達に向かって突撃して来る。
霊夢は即座に弾幕を張って迎撃するが、馬の突進を阻む事は出来ず再び斬り抜けられる。
今度は霊夢が斬られるが、俺の様に傷口がさける様な事にはならなかった。
「大丈夫か、霊夢」
「ちょっと掠っただけよ。でも、なんでアンタの時だけ血が噴出したのかしら」
「さぁな。分からねぇからちょっと確かめてくる」
「確かめるって……ちょっとリュウッ!?」
霊夢の制止を聞かず、俺は空を飛んで雪の平原を駆ける馬に近付いていく。
あと少しで俺の間合いに入るといったところで馬が速度を上げ、近付いてきた俺を一気に引き離してくる。
薄気味悪い骸骨を乗せているとは言え馬は馬。本気になって走ればかなりの速度が出るのは当然か。
馬と並走しながら戦うのは若干無理があると判断した俺は、馬が走るルートを読んでその前に立ちはだかる。
俺が前に立ちはだかっても馬は止まらず速度を上げ、背に乗る骸骨騎士は擦れ違い様に俺と剣を交える。
馬は止まらずに走り抜けた為一気に押し込む事はできなかったが、奴の剣になんとか触れる事が出来た。
奴の剣に触れた手に出来た傷はさっきみたいに裂け、またしても血が噴出す。普通の剣じゃまずこんな事にはならないし、霊夢が掠ったときも血が噴出す様な事はなかった。俺の時には起こって、霊夢の時には起こらないとなると……竜殺しの武器としか考えられないな。
如何いう経緯で骸骨が竜殺しなんて物を手にしたのかは知らないが、今の姿のままで奴と斬り合うのは愚策か。
手に出来た傷を治しながら馬の動きを観察していると、霊夢が俺の元へとやって来る。
「リュウ、大丈夫」
「手が裂けたが特に問題はない」
「普通は問題あると思うんだけど……まぁいいわ。それでどうする。あの馬を追いかけながら戦うのは面倒よ」
「そうだな。でも、お前が居てくれるなら如何にでもなるさ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。何かいい策でもあるの?」
「別にそれほどでもないさ。動き回る相手ならその動きを止めてしまえばいいだけの事だ」
「確かにその通りね。じゃあ準備しておくから追い込むのは任せたわよ」
「任された」
返事をして霊夢の傷を治した後、俺は空を飛んでもう一度馬を追いかけにいく。
追いかけられた馬は速度を上げて振り切ろうとするが、その先に斬撃を飛ばして雪を巻き上げる。
突然の出来事にも馬は驚いた様子を見せないが、舞い上がった雪を避けるために進路を逸らす。
そして立ち止まる事無く雪の平原を駆けて行くが、俺はもう一度斬撃を飛ばして進路を変えさせる。
どれだけ馬が速く走ろうとも目の前に障害が発生すれば無意識の内にそれを避けようとするものだ。ならそれを利用して奴が走る道を限定してしまえばいい。
もし馬が雪を気にせず突っ切るようだったら別の方法を考えたが、こっちの思惑通りに進路を変えてくれているから気にしなくてもいいだろう。
斬撃を飛ばし何度か進路を変えさせ続けると、奴の直線状に霊夢が立っている。
馬は霊夢へと向かって速度を上げるが、霊夢はその場から動こうとはせず雪の上に手を置く。
馬はどんどん速度を上げ、背に乗る骸骨騎士は巨大な剣を振り上げ霊夢に斬りかかろうとするが、奴の足元に展開した八角形の結界によって阻まれる。
「神技『八方鬼縛陣』」
霊夢がそう呟くを骸骨騎士を囲った結界から霊力の光が溢れ、骸骨騎士はその霊力の光に飲み込まれる。
骸骨騎士は叫び声を上げることはなく光に飲み込まれるが、霊夢の一撃を耐え抜いて見せた。
結界は効力を失い消滅し、骸骨騎士は今度こそ霊夢に攻撃しようと剣を振り上げるが、その前に俺が間合いを詰めた。
「人鬼―――」
馬ごと骸骨騎士を上空へと斬り飛ばし、落下してきた奴に更に追撃を掛ける。
斬撃の結界で奴の周囲を囲み、高速で斬り刻んでいく。
そして最後に斬撃の結界ごと骸骨騎士を斬り上げ、奴の身体をバラバラに斬り刻んだ。
「―――未来永劫算」
地面に降り立ち剣を振り払うと、粉々になった剣の欠片が降り注ぐ。
骸骨騎士を馬は以前見た奴と同様に消滅したのか、降り注いでくるのは剣の欠片だけだった。
剣の欠片に混じって空から黄金の柄が落下してくる。骸骨騎士が握っていた所為かその柄は原型を留めている。
俺はその柄に向けて斬撃を飛ばし、原型が分からないくらいに斬り刻んだ。
………
……
…
「やれやれ、面倒な仕事だったな」
「まったくね。それに結局アレがなんなのか分からず仕舞いだし」
「骸骨なんだから言葉なんか話せるわけないだろ」
「わっかんないわよ~。此処は幻想郷なんだし、喋る骸骨の一つや二つあっても不思議じゃないわ」
「……それはあんまり会いたくないな」
骸骨騎士を始末した俺達は他愛のない話をしながら帰路に着いていた。
奴を始末した事で妖怪の縄張りを荒らす奴も居なくなっただろうと思っていると、慌てた様子の射命丸が突然やって来た。
「見つけましたよお二人さん!」
「なんだよそんなに慌てて。話していた骸骨騎士ならさっき倒したぞ」
「その骸骨騎士が他の場所でも目撃されたんですよ!」
「目撃されたってそんな訳ないでしょ。私とリュウがいまさっき倒したんだから」
「ですがワタシ見たんですよ! 黒い馬に乗って走る骸骨騎士の姿を!」
「……冗談でしょ」
「本当なんですって! まぁ走っていた方角的に行き先は紅魔館でしょうから、倒しに行く必要はないと思いますが……」
射命丸は今見てきたことを必至になって俺達に伝えるが、コイツが話す妖怪は俺達が倒したばかりの相手だ。
妖精みたいに復活するにしても早すぎるし、天狗みたいに同じ種族の奴がまだ他にも居ると考えるのが妥当か。
俺が倒した骸骨騎士は馬に乗っていなかったが、同じ奴が何体も居たからさっきの奴も同じ様に何体も居ても不思議じゃないか。
「……馬に乗った骸骨騎士が走っていったのは紅魔館の方だな」
「え、あ、はい。確かにそうですけど」
「それなら一度確かめにいくか。此処で話し合ってても埒が明かないし」
「え~今から紅魔館に行くの。結構面倒よそれ」
「だからってほっとく訳にも行かないだろ。嘘だったら射命丸をボコればいいんだし」
「……それもそうね」
「お二人して酷い事言いますね。しかしこの射命丸文、清く正しい幻想の伝統ブン屋として嘘は吐いてません」
「その言葉がイマイチ信用出来ないんだよな」
「ま、鴉天狗だし仕方がないでしょ」
「……お二人の余りの信用のなさにワタシ泣いてしまいそうです」
「はいはい、そう言うのはいいからさっさと行くぞ」
「本当に酷い……」
落ち込んでいる射命丸を他所に俺と霊夢は来た道を引き返して紅魔館へと向かう。
あの館の事だから俺達が着く頃には倒していると思うが、射命丸が言っていた通り他にもあんなのが居るのだとしたら考え物だ。
他の妖怪の脅威になるかどうかは兎も角、竜殺しの武器を持った奴が複数いるとかあまり考えたくない。
出来れば嘘であって欲しいけど、こう言う時って大体本当の事なんだよなぁ……。はぁ、面倒だ。