空を飛ぶ謎の船を追いかけて神社を飛び出した俺と霊夢。
船が何処へ向かっているのか、乗組員が乗っているのかも分からないが、骸骨騎士を地上に降ろしている様な事はなかった。
「……此処から見る限りだと特に危険は無さそうだな」
「そうみたいね。でも、アレは一体なんなのかしら?」
「普通に考えたら船が空を飛ぶ事なんて無いからな」
「日の本の神話には
「マジかッ!?」
余りの驚きに大声を出してしまったが、この国にそんな船が存在していたなんて思いもしなかった。
流石あの船が霊夢の言う天之浮船だとは思えないが、この国にそんな物を作る技術が有ったとはな……。
忘れられたモノが辿り着く幻想郷だし、隈なく探していればどっかに同じ様な船が眠っているんじゃないだろうか。思わずそんな事を考えていると、空飛ぶ船から置物のような小さな塔が落ちてきた。
落ちてきた置物を拾ってみたが、一体なんなのかさっぱり分からん。ただ、置物にしては異様な力を感じるな。
「何かしらコレ」
「さぁな。ただの置物じゃないみたいだけど」
「あの船から落ちてきたものが普通の物だとは思えないけど、今はあの空飛ぶ船を追いかけるのが先決よ」
「……それもそうだな」
この置物の事も気になるが、霊夢の言うとおり今はあの船を追いかけるほうが先決だ。置物の事は船の調査が終わってから森近さんにでも見せて鑑定すればいいだろう。
そう思った俺は拾った置物をいつもの様に仕舞って、あの船に向かって飛んでいく。
霊夢と話していたから少し距離が開いてしまったが、船の速度自体は其処まで速いものでもないし、この程度の距離なら少し速度を上げるだけで追いつけるだろう。
そう思い、速度を上げようとしたそのとき、今度は船から少女が慌てて飛び降りてきたのが見えた。
船から降りて来た少女はネズミの様な耳と尻尾を生やしている。耳や尻尾を生やした妖怪は今までに何度も見てきたが、ネズミってのはコレが初めてだな。
「あ、すまない其処のご両人。今、船から宝塔が落ちたと思うが見なかった?」
「宝刀? そんな物騒なモンみてないわよ」
「そうか。確かにこちらの方に落ちたと思ったのだが……。全くご主人め、なんだってこんな大事な時に宝塔を失くすんだ」
「あ~……詳しい事情は知らないが、アンタも大変みたいだな」
「同情痛み入る。それではすまないが、わたしは急いで宝塔を探しに行かなければならないから、これで失礼させてもらう」
「あ、ちょっとッ!」
霊夢が引きとめようとしたが、ネズミの少女はその声に耳を貸さず大急ぎで地上へと降りていった。
あの様子からすると相当大事な品物のようだが、宝刀なんてもんがあの船から落ちるところなんて俺達は見ていない。あの慌て方からして少女が嘘を付いているとは思えないが、もしかして俺達何か勘違いしているのか?
「行っちゃったわね。あの船の事を色々と聞いてみたかったけど、仕方がないか」
「少なくとも話の出来る妖怪がいると分かっただけでも収穫だろ」
「確かにそうだけど、まともな話し合いになるのかしらね」
「……今までの経験からしてまず無理だろうな」
「私もそう思うわ」
「「……はぁ」」
今まで色んな異変に関わってきたからなんとなく分かるが、今回の船もただの調査じゃ終わらないだろうな。
そう思うと溜息が出てくるが、ここで溜息を吐いていても仕方がない。
若干げんなりとしながらも、俺達は速度を上げて空を飛ぶ船へと近付いて並走する。
遠くから見た時は分からなかったが、近くで見てみるとと意外と船が大きい事に気付く。
川を渡るような小船ではなく、大海を進むような大型船といったところだろうか。これだけ大きいのは前の世界でも見た事はあるけど、この規模を船を動かすのにそれなりの人員が必要だったはず。
空を飛んでいるから勝手は違うだろうが、あの船を同じだけの奴が乗っていたらかなり面倒だな。
「随分とデカイが破壊しにきた訳でもないし、普通に乗り込めば良いか」
「ちょっとリュウ。前見てよ、前」
「あん?」
霊夢に言われて前を見てみると、そこには不自然な雲が浮んでいた。
空に雲が浮んでいるのは別に問題はないんだが、気になったのはその雲の色だ。普通の雲は白が基本的な色の筈だが目の前に浮んでいる雲は何故か桃色だった。
桃色の雲なんて聞いたことも無いし、見るのもコレが初めてだが……なんというか気色悪いな。
「……なんだありゃ」
「そんなの私が聞きたいわよ。私たちが船に近付いたら急に湧いて出て来たんだから」
「湧いて出て来た?」
雲なんて突発的に出来上がるもんだと思うが、あんな色の雲が湧いて出てくるってのもおかしな話だ。
この船に乗っている奴の仕業だろうけど、こんな雲を出現させたところで何が出来るわけでもないだろうに。
そんな事を思いながら怪しい雲を観察していると、同じ色の小さな雲が二つ出現し、凄いスピードで俺達に向かって飛んできた。
突然の事で驚きはしたが所詮は雲。叢雲で切り払うなんて造作もない。
俺は瞬時に叢雲を取り出し、飛んで来た小さな雲を難なく斬り払う。
斬られた雲はそのまま霧散すると思っていたが、雲は直ぐにもとの形に戻り再び飛び掛って来る。
雲が再生するとは思いもしなかったが、再生するのならそれが出来なくなるくらいにまで粉々に切り刻むだけ。
凄いスピードと言っても天狗に比べれば遅く、粉微塵に斬り裂くのもそう難しいことじゃない。
俺は剣を構え、真っ直ぐに飛んでくる二つの雲に向けて、今の状態の俺が繰り出せる最速で雲を切り刻んだ。
切り刻まれた雲は今度再生することなく霧散し、やがて消えてなくなった。
「……雲山の攻撃を防ぎきるとは中々やりますね」
船の方から突如として声が聞こえ、そっちの方に眼を向けると青白い頭巾を被った変わった格好の女性がいた。
幻想郷でも外の世界でも見た事の無い服装だが、俺の事を知らないのをみるに恐らくは新参者だろうな。
「アンタ誰。その船の船員?」
「えぇ。この船の番人をしている『雲居一輪』。そしてその雲は入道の『雲山』」
頭巾を被った女性が桃色の雲を紹介すると、突然何もなかった雲に顔が浮かび上がる。
桃色の雲ってだけでもかなり珍しいモノなのに、顔まで在るとは……。これはかなりみょうちきりんな妖怪だな。今まで色んな妖怪を見てきたが、コイツ以上にインパクトのある奴は見た事がないな。
「く、雲に顔が生えた……」
「別に生えたのではなく浮き上がっただけよ。それにしても貴方、雲山の攻撃を防ぐなんて大したものね」
「今まで散々戦ってきたんだ。あの程度の攻撃を防ぐなんてわけねぇよ」
「なるほど。……この忙しい時に事を荒立てたくないのだけど、この船を守るのが私の仕事。だから本気でいかせてもらうわ」
「こっちの話を聞く気もないってわけね。やれやれ、面倒だわ」
俺も霊夢と同じ気持ちだが、向こうはそんなこと関係ないらしい。
俺達の溜息を他所に頭巾の女性は入道の前に立ち、彼女が拳を構えると同時に入道は自分の身体から雲を二つ切り分け、桃色の拳を作り出す。
自分の身体を切り分けて拳を作るのは雲だからこそ出来る芸当だな。真似したいとは思わないが、入道が存在する限り何度でも作りなおせるってのは中々厄介だ。
「もう少しで姐さんを助け出せる。だからこんな所でモタモタしていられない!」
「……姐さん?」
女性に真意を聞く間もなく、入道は二つの拳を繰り出し殴りかかって来る。
さっきと同じ様に切り払うものの入道は直ぐに拳を作り出す上に、ラッシュを掛けて猛攻を仕掛けてきた。
二つの拳による連打。人間大の拳とは言え存在が雲だから当たっても突き抜けるだけのように思えるが、本当にそうだったら雲で殴りかかるような馬鹿な真似はしない。
叢雲で斬ったときに確かな手応えを感じるし、あの拳で殴られた間違いなく痛いだろうな。
「……とはいっても所詮雲は雲か。霊夢、今回は任せたぞ」
「分かったわよ。アンタもこの鬱陶しいのは頼んだわよ」
「嗚呼。……そんじゃ行きますか!」
俺は左手に光の剣を作りだし、叢雲と光の剣を振るって目の前に無数の斬撃を飛ばして壁を創る。
目の前に出来上がった壁に雲の拳がぶつかると、斬撃によって雲は微塵に切り刻まれていく。
幾ら切り刻んでも入道が直ぐに拳を作りだしてしまうが、奴の拳では斬撃の壁を打ち砕く事は出来ず攻め事が出来ない。
切り刻まれ霧散した拳によって周囲には桃色の靄が発生し、このあたりの視界が急激に悪くなっていく。
視界が悪くなっているのは俺達だけではなく入道たちも同じらしく、風に乗って桃色の靄が向こう側へと流れていっている。
「クッ、視界が……。頼むわよ、雲山!」
頭巾の女性の声に反応して、入道は拳を繰り出すのを止め自身の一部だった桃色の靄を吸い込み始める。
元は同じものだったからか、桃色の靄は急速になくなっていくが……それが奴等に取って致命的な隙になった。
靄が晴れ、周囲の視界が良好になっていく中、霊夢が亜空穴を抜けて頭巾の女性の懐に潜り込んだ。
「ッ?! 貴女、何時の間に!?」
「何時の間にですって? そんなの今に決まってるでしょ!」
「チィッ! 雲山!!」
女性の言葉に入道は靄を吸い込むのを止め、無数の小さな拳を作り全方位から霊夢に殴りかかろうとするが、それすらも亜空穴で回避しきった。
無数の拳は空しく空を切り、亜空穴を抜けた霊夢は頭巾の女性の真横に出現する。
「……神技『陰陽鬼神玉』」
霊夢は手の中で創り上げた霊力の塊を巨大化させて女性に押し付けて放つ。
巨大な霊力の塊は女性を船の側面にまで追い遣り、そのまま船をぶち抜いた。
女性を吹き飛ばされた事に腹を立てたのか、入道は直ぐに霊夢に攻撃を仕掛けようとしたが、意識が俺から逸れた内に十分に間合いを詰めそのまま入道を斬り散らした。
斬り散らされた入道はバラバラになり小さくなるが、元が雲だから放っておけばその内復活するだろう。
「……船の番人って言う割には大した事なかったな」
「確かにそうね。ま、あんな女の事なんて放っておいて船を調べちゃいましょ。丁度入り口も空いた事だし」
「その入り口の先にさっきの女性が居るって事を忘れてねぇか?」
「あれだけやれば大丈夫でしょ。それにアンタと殴り合えるだけの実力が有るとは思えないしね」
「……ま、それもそうか」
船に大きな穴を開けてしまったが、元々乗り込んで調査するつもりだったんだし問題はないだろ。
あの船に後何人乗っているか分からないけど、最悪の場合はあの船ごと落としてしまえば良いか。
リュウと霊夢が〝宝刀〟と言っていますが、これは誤字じゃないです。