竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百九十二話 水難事故の念縛霊

 

霊夢が開けた穴から船の中へと侵入したが、船内は俺の思っていた以上にボロかった。

造られてから既に何年も経っているのかアチコチが朽ちかけていて、とてもじゃないが近年に出来上がった新造艦とは思えない。霊夢の一撃で穴が開いたのは、この船に使われている木材が薄いんじゃなくて単純にこの船が脆くなっていたからか。

こんなボロ船で何処に向かっているのかも分からなくなったが、どうやってこの船が浮んでいるのかも謎だな。

この船の事を知れば知るほど謎が深まるが、今はその疑問は頭の片隅に追い遣っておこう。

散らばっている木片に気を付けつつ、壁にもたれ掛かっている女性へと歩み寄る。

彼女はまだ戦う気があるのか、俺達が近付くと痛むであろう身体に無理をさせて立ち上がろうとする。

一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか知らないが、怪我人をこれ以上痛めつけるような趣味は俺達にはない。

俺はよろよろと立ち上がろうとする彼女に先手を打ち、叢雲の切先を彼女の喉元に突きつけた。

 

「動くな。下手に動くと自分で自分の喉笛を掻っ切る事になるぞ」

「………………」

「アンタに聞きたいのは二つ。この船の行き先とアンタ等の目的だ」

「そんな事を知ってどうするつもり」

「如何するかは聞いてから考えるわ。だからさっさと話しなさい」

「………………」

 

俺達には話せない様な事なのか、彼女は敵意むき出しの眼で俺達のことを睨みつけてくる。

しかし今までに多くの異変を解決してきた俺達がその程度の睨みで動じるわけもなく、彼女の小さな抵抗は余りにも無意味だ。

今の幻想郷はコイツ等よりも厄介な奴がうろついているから、コイツ等にばっか構っていられるほど俺達も暇じゃないんだ。さっさと聞かれたことを話してくれれば助かるんだが、どうも彼女は口が硬いみたいだな。

このまま剣を突きつけていても何の情報も聞き出せない。そう思い始めた時、左側から何かが風を斬って飛んで来るような音が聞こえてきた。

俺は咄嗟に霊夢を後ろに下げ、叢雲を盾代わりにして飛来物を受け止めるが、飛んで来たものは予想以上の重く後ろに押されてしまう。

足腰に力を入れて押し飛ばされないように堪えるが、飛んで来たものは俺の予想の斜め上の物体だった。

普通この状況だと飛んで来るものは弾幕か射撃武器のどっちかだが、俺が受け止めた物は如何いう訳か船のイカリだった。

飛んで来たイカリを受け止めきると、イカリは勢いを失いその場に落ちて大きな音を立てた。

 

「……なんでイカリが飛んで来るんだよ。飛ぶものじゃないだろ、コレ」

「そりゃあたしが投げたからさ」

「こんなもん投げんな」

 

暗がりの中から現れたのは、水兵の様な格好をした一人の少女だった。

俺達の様に侵入して来たとも思えないし、恐らくは頭巾の女性と同じくこの船の船員だろう。

頭巾の女性の仲間と言う事は彼女も妖怪の類だろうが、いきなりこんな物騒なモンを投げつけてこなくてもいいだろうに。

 

「む、村紗。助けに来てくれたの?」

「当たり前でしょ。あたしはこの船の船長で一輪の友達なんだから助けるに決まってるじゃない」

「ありがとう、村紗。それと気をつけて、あの二人恐ろしく強いわ」

「一輪を倒すほどだもんね」

 

水兵は頭巾の女性と話をしながらも、何処からとも無くイカリを取り出し臨戦態勢に入る。

あの様子から見てこっちの話を聞く気はない様だが、俺達の事は本当に知らないようだ。

俺の事はともかくとして博麗の巫女である霊夢の事を知らないとなると外の世界から来た可能性が高いか。

態々あの世界から何をしにきたのかは知らないが、少しくらいはコッチの話を聞いてもいいだろうに。

 

「ま、そう言う訳だからあたしの友達を苛めたのと密航したって事でそれなりの罰を受けてもらおうか」

「別に密航なんてしてないわよ。大体先に仕掛けてきたのはそっちじゃない。私たちは降りかかる火の粉を払っただけよ」

「その言い分が通るんだったら世界から戦争はなくなっていると思うけど」

「……それは話を飛躍させすぎだろ」

「そんな事はないと思うけどね。そんじゃ始めようか!」

 

その宣言の直後に水兵はまたしてもイカリを俺達に向けて投げつけてくる。

あんな細い腕で良く投げられるものだと感心するが、幻想郷じゃ見かけで判断できない奴が沢山いるからそれほど驚く様な事でもないか。

俺はさっきと同じ様に叢雲でイカリを受け止めるが、流石に鉄の塊で出来ているだけあってかなり重い。

叢雲で両断してしまえば受け止める必要もなくなるんだが、この狭い船内じゃ流れ弾が後ろに居る霊夢に当たってしまうか。

 

「霊夢、一旦場所を変えるぞ。ここじゃやり難い」

「分かってるわよっと!」

 

霊夢は陰陽玉の様に霊力の塊を作り出して天井に大きな穴を開ける。

その開けた穴を通って霊夢が先に甲板に出て、俺もイカリを切り裂いてから彼女の後に続いて甲板に出る。

狭くて薄暗い甲板に出ることは成功したが、外に出たらでたで何やらおかしな事になり始めていた。

船尾の方は幻想郷の風景が広がっているのに、船首の方は見た事も無い様な禍々しい景色が広がっている。

見た感じだと船、幻想郷から別の世界に移動している途中らしく、船首の方に広がっている光景はその移動先の世界の風景なんだろう。

こんな世界で一体何をするつもりなのか分からないが、どうやらあちらさんは俺達に考える時間すらくれないらしい。

 

「逃がすかッ!」

「ったく、少しは考える時間を寄越せってのッ!」

 

霊夢が開けた穴から飛び出してきた水兵は持っていたイカリで殴りかかってきた。

俺は叢雲でそのイカリを斬り裂くが、水兵は斬られたイカリを即座に捨てて別のイカリを取り出して殴りかかってくる。

それも即座に叢雲で斬り裂くものの、水兵は何度自分の武器を斬られても直ぐに代わりを用意して攻撃の手を緩めようとはしない。

霊夢が後ろから弾幕で援護をしてくれているが、水兵は霊夢の弾幕をイカリで打ち消してしまう。

中々決定打を与えられずにいるものの、どうやらこの水兵は接近戦が得意という訳でもないらしく、彼女の攻撃は物凄く拙いものだ。ただイカリを振り回しているだけで、なんらかの特殊な技法という訳でも無さそうだ。

あのイカリが霊夢の弾幕を打ち消しているのも能力によりモノでも無さそうだし、これ以上水兵の相手をする時間すらも惜しいな。

 

俺は視線で霊夢に合図を送ると、霊夢は頷き俺と水兵の間に大量の弾幕を放つ。

放たれた大量の弾幕は俺達の間に壁の様に展開されるが、水兵は邪魔なその壁をイカリで打ち消した。

その弾幕を水兵がイカリで打ち消すのを見計らって、がら空きになった水兵の懐に飛び込み十字に斬り抜ける。

俺が斬り抜けたことでイカリも切り裂かれるが、水兵は直ぐに新たなイカリを取り出そうとする。

しかしそれを霊夢が張った結界が阻み、結界の中に捕らえた水兵の動きを封じた。

 

「くそ、こんなものッ!」

 

結界の中に囚われた水兵は結界を壊そうと足掻くが、この程度の妖怪に霊夢の張った結界が壊せる筈もなく、水兵の抵抗も空しく足元から立ち昇る霊力の光に飲み込まれる。

霊力の奔流を受けてもなお水兵は戦おう事をやめようとはせず、イカリを取り出して霊夢の結界を破壊しようとする。霊夢の一撃で素直に倒れてくれれば楽だったんだが仕方がない。

俺は叢雲に力を注ぎ込み溢れ出た光で刃を形成し、水兵が破壊しようとしていた結界ごと水兵を斬り捨て、船の甲板に叩き付けた。

甲板に水兵が激突すると甲板に大きな穴が開くが、船が貫通するまでには至らなかった。

 

「……そこまで強く斬ったつもりはないんだが、思った以上に脆い船だな」

「見た目通り相当古い船なんでしょ。こんなボロ船で一体何をするつもりかしら」

「素直に話してくれればコッチも無駄な戦闘をせずに済んだってのに全く」

 

霊夢に愚痴を零していると甲板を突き破ってイカリが飛んで来る。

飛んで来たイカリを避けながらそれを掴み取り、勢いを殺さないようにしながらイカリを投げ返した。

投げ返したイカリはそのまま甲板を貫き、止まる事無く船底も突き抜けて船を貫通する。

貫通した船を睨みつけていると、ボロボロになった水兵が穴から這い上がってきた。

 

「くっそ、あの不意打ちでも駄目だなんて……」

「あんなの不意打ちにもならねぇよ。これ以上の修羅場を何度も潜り抜けてきたんだからな」

「私らもアンタ等と遊んであげるほど暇じゃないのよ。これ以上面倒を掛けさせないでちょうだい」

「……確かにアンタ等は強いよ。でもね、あたし達だって聖を助け出さなくちゃいけないんだ。こんなところでやられる訳にはいかないんだよ!」

 

決死の覚悟とでも言えばいいのか、水兵はイカリを取り出しボロボロの身体のまま挑みかかってくる。

その姿はあまりにも痛々しいが、挑みかかってくる以上は振り払うしかない。

水兵はふら付きながらイカリを振り上げて攻撃しようとしてくるが、俺は振り下ろされる前に彼女の背後に回り船尾の方へと水兵を斬り飛ばす。

斬り飛ばされた水平はまた甲板に激突しそうになったが、見知らぬ少女に受け止められ難を逃れる。

金髪に黒髪が混ざる珍しい色の髪をしているが、先の二人の事を考えると彼女も人間じゃないだろう。今度は何の妖怪なのか知らないが、不思議と俺の相手にはならない様な気がする。

格下の妖怪なんて今まで沢山見てきたが、相手を見下す様な事はあんまりしてこなかったんだが……はて?

 

「星……。あんた、宝塔探しはもういいのかい」

「いえ、まだ終わってはいませんが友人が戦っているのを黙って見過ごす事なんて出来ません。私も共に戦います」

「それは助かるけど、あの二人信じられないくらい強いよ」

「相手がどれだけ強くても私たちは聖を助け出さなくてはならない。どのような相手でも引く訳には行きません。さぁ、密航者よ! 次は毘沙門天の弟子である私がお相手をしま…す……」

 

意気揚々と現れた乱入者は俺の姿を見た瞬間突然固まってしまった。俺はあの少女と初対面なんだが前に何処かであっただろうか?

 

「む、村紗。今貴女が戦っている相手と言うのはあの二人ですか?」

「そうだけど……それがどうかした?」

「……………」

 

俺の姿を見たまま固まった乱入者は大量の冷や汗を掻き、段々と顔色が悪くなっていく。

水兵を助けたときの勢いは何処へ行ったのかと言いたくなるが、向こうの様子がおかしい以上こっちからは手を出しにくい。

戦う気がないのなら引っ込んでいて欲しいんだが、この場合は如何すればいいんだろうか。

あまり陥った事のない状況に如何すれば良いか苦慮していると、乱入者が突然その場で土下座をしてきた。

 

「この度は私の友人がご迷惑をお掛けして本当に申し訳御座いませんでした!」

「ちょッ?! いきなり何謝ってるのさ星! わけが分からないんだけど!?」

「わけも何もあの青髪の男性、竜じゃないですか! 数多の神々を打ち倒した神殺しにして最強の竜神! わが師毘沙門天も過去にあの竜と戦い、死の間際にまで追い遣られたという化け物。もしあの者と出遭う事があったら絶対に戦うなと師からきつく言われているんですよ! それなのに神仏にとって最凶最悪の怨敵と戦いでもしたら聖を助けるどころ話じゃなくなるでしょ!!」

「え、なに、あの男ってそんなに危険な奴なの?」

「知らずに戦いを挑んだんですか、貴女はッ!!」

 

あの乱入者は俺の過去を知っているのか、必至になって水兵に俺がどれだけ危険な奴かを説明し始める。

説明といっても半ば錯乱しているように見えるし、アイツの説明はかなり大げさに言い過ぎている様な気もするが、神殺しってのは間違いじゃない上に昔の事を忘れているから否定する事も出来ない。

無駄な戦闘をしなくて済んだのは良いんだが、なんだか複雑な気分だ……。俺と出遭ってここまで錯乱した奴は秋神の姉妹以来だな。

 

「アンタの悪行が役に立つだなんて珍しい事もあるわね」

「まぁ普通ならありえない事だけどな。てか、悪行って言うな」

「でも如何考えても善行じゃないわよね」

「うっせぇ」

 

隣りにいる霊夢に茶化されるが、過去の自分が行った所業の所為だから強く言い返すことも出来ない。

俺は忘れてしまっている出来事だから全く覚えていないってのに、あんな風な反応をされてしまうとこっちも如何出れば良いのか分からなくなる。

 

「ご主人、今戻ったぞ……って、コレは一体如何言う状況なんだい?」

「俺に聞くな、俺に」

「ナズ、そんなところにいないで早く貴女もコッチに着なさい! そして一緒に彼の怒りを静めるのを手伝って!」

「全くもって意味が分からないよ。誰か説明して欲しいんだけど」

 

ネズミの妖怪が船に戻ってきたことで状況は更に混沌としていく。

早くあの乱入者が落ち着いてくれることを願うしかないが、あの様子じゃまだ掛かりそうだ。

仕方が無いから俺達も甲板に降りて、彼女たちが落ち着くのを待つ事にした。早いところ目的を聞き出したいがアレじゃどうしようもないか。……しかし怨敵ってそんなにも怨まれていたのか。

 




星蓮船の話が短くなる主な理由、それが寅丸星との戦いがない事です。
昔のリュウなら毘沙門天とも戦っているでしょうし、その事を師から聞いていれば戦おうだなんて思いませんよ。下手すれば殺されますし。
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