竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百九十四話 封印された大魔法使い

 

「貴方達がどれだけ強くともわたしは行かねばならないのです。……では、南無三!」

 

変わった掛け声と共に放たれる僧侶の弾幕。一つ一つは小さい物の量が多く、本気で俺達に抵抗するつもりの様だ。

僧侶が放つ弾幕に対し霊夢も弾幕で抵抗するが、僧侶の弾幕の多さに本人にまで届く事はなく、相殺し合い拮抗する。

霊夢と僧侶の弾幕が拮抗する中、俺は邪魔になる弾幕を切り裂き僧侶へと向かって一気に駆け抜ける。

弾幕の量は衰える事無く濃さを保っているが、弾幕を切り裂いて進む俺にとって弾幕の量など大した問題じゃない。

僧侶もそれに気付いているのか、放つ弾幕の量を増やして圧倒しようとしてくるが既に奴は俺の間合いのなかにに入っている。

弾幕の量を増やされる前に空を蹴って懐に飛び込み、胴を薙いでから袈裟を斬ってから更に斬り上げる。

数百年も生きているから普通の肉体じゃないだろうと思っていたが、斬った手応えはそこ等にいる人間と大差ない。どっかの天人みたいに硬いのかと思ったが、この分なら直ぐに終わりそうだ。

 

「く、強い……。ならばッ!」

 

俺の一撃に顔を歪ませた僧侶だが、策を思い付いたのか小さな声で何かを詠唱し始める。

だが、何を思いついても俺の叢雲の前ではそんな物に意味はない。

俺は剣を振り下ろし詠唱の邪魔をしてやるが、おかしな事に俺の剣が僧侶の細い腕に受け止められてしまう。

さっきまでは普通の人間と同じ柔らかな感触だったのに、今は天人と同じ位の硬さを感じる。あんな細腕に俺の剣を受け止められるのは流石にショックだな。

受け止められた事に多少なりと悔しさを感じていると、僧侶は腕を振り払って俺の剣を弾き、空いた懐に弾幕を放とうとしてくる。

このタイミングでは逃げる事も防ぐことも出来ない。被弾は確実だが黙って受けるのはガラじゃない。

俺は叢雲の刃を返し、僧侶が弾幕を放つよりも早く渾身の力を込めて剣を振るう。

刹那の攻防。俺は僧侶が放った弾幕を掠めたが、奴を遠くへと斬り飛ばすことが出来た。

斬り飛ばされ僧侶が体勢を崩した隙に亜空穴でやってきた霊夢の援護が入る。

 

「霊符『夢想妙珠』」

 

霊夢が放った七色の光弾は僧侶に命中するが、あの程度の攻撃じゃ奴は倒れやしないだろう。

俺の剣を受け止め弾くなんてことが普通の人間に出来るわけがない。

奴は自分で魔法を使う僧侶だと言っていたからあの詠唱で何かの魔法を唱えたんだろうが、幾らなんでも詠唱速度が速すぎる。今の姿じゃ詠唱を中断させるのは難しいだろうな。

 

「どうしたのよ、リュウ。アンタが剣を弾かれるなんて珍しいじゃない」

「あの攻防の最中、僧侶が魔法を詠唱したんだ。その所為で奴の防御力が上がった。恐らくは身体能力強化系の魔法だろう。防御以外にも速力や筋力も強化できると考えたほうがいいだろうな」

「能力強化か……。それは面倒そうね」

 

俺達は光弾で巻き上がった煙を見詰めていると、突然煙が吹き飛び僧侶が姿を現す。

煙の中から姿を現した僧侶の背後には先程までなかった黄金に光る紋様が浮び、その四隅には睡蓮の花が咲き誇っている。

突然浮かび上がった紋様と花も気になるが、俺達の攻撃を受けて無傷でいることに驚かされる。

 

「チッ。私の夢想妙珠とリュウの剣をまともに受けて無傷なんてどんな硬さよ」

「そちらの竜の一撃がかなりのものでしたのでそれに耐えられるように強化しただけです。貴女の技の威力が低いわけではありません」

「だが、強化する前に俺の攻撃を喰らってる筈だ。その跡すらないとなると……アンタ、自己治癒も強化できるのか」

「ご明察です。中々の慧眼をお持ちのようで」

「茶化すな。……硬い上に自己治癒も持っているとかどっかの誰かを思い出して頭が痛くなる」

「何処のどなたを思い出しているのかは分かりませんが、戦う気がないのでしたらそこを通していただけませんか?」

「通すわけないでしょう。アンタは此処で封印する!」

「そうですか。ならわたしも本気でいかせて頂きます」

 

僧侶の言葉に反応して俺達が武器を構えると、僧侶は目つきを変えて懐から青い筒の様なものを取り出す。

その筒から何かを取り出すのかと思えば、僧侶が筒に手を翳すと七色に光る光の帯が描かれる。

帯には良く分からない図形が描かれていてなんて書いてあるのかさっぱり読めないが、このタイミングで出してきたからにはアレが只の光る玩具な訳がない。武器にも見えないし、なんらかの術具と考えるのが妥当か。

 

「魔法『マジックバタフライ』」

 

僧侶が名を口にすると紋章と花が反応し、紋章からはレーザーが放たれ、花からは大量の蝶の弾がばら撒かれる。

レーザーと蝶の複合攻撃。どちらか片方だけなら楽勝だがその二つが合わさるとなると中々に面倒だ。

蝶の方は霊夢の弾幕で相殺できるが、霊夢の弾幕じゃレーザーまでは対処出来ない。

だからレーザーの方は俺が切り払うことになるが、断続的に照射されるうえに速度も速い。

叢雲一つじゃこのレーザーを捌き切るのは辛い。そう判断した俺は左手に光剣を作り出し二刀で切り払う。

霊夢を守る様に彼女の前に立ち、迫り来るレーザーを二つの剣を使って次々と切り払って行く。

花より飛び立つ蝶は霊夢の弾幕の前に次々と撃ち落とされ、下へと落下しながら消滅する。

 

「これでは無理ですね……。ならば、習合『垂迹大日如来』」

 

その光景を見て僧侶は苦々しい顔をすると、七色の帯を更に輝かせて弾幕を強化してきた。

紋章から放たれるレーザーの数は増え、花から飛び立っていた蝶は姿を変え大型の弾幕となって辺りにばら撒かれる。

俺達は同じ様に対応しようとするが、その量に圧倒されてしまい捌き切ることが出来ない。

相殺したり切り払ったりしているお陰で直撃こそないが、ギリギリのところを掠っていく弾が次第に多くなる。

霊夢の結界で暫くの間凌ぐという方法もあるが、防いでばかりいるというのも性に合わない。

僅かな隙を見つけて斬撃を飛ばしてみるが、僧侶の弾幕が濃すぎる所為で途中で打ち消されてしまう。

半分ほどは切り裂けたんだが、斬撃一つじゃあの弾幕を斬り裂くのは無理だろうな。

一つの斬撃で無理なら放つ斬撃の量を増やせばいいだけの事だ。

俺は視線で霊夢に合図を送って一旦僧侶から距離を取り、二つの剣に力を注ぎ込む。

 

「剣舞『双刃乱舞』」

 

光の津波の様な僧侶の弾幕が迫りくる中、十分に力を注ぎこんだ剣を振るい斬撃を飛ばす。

放った斬撃が光の津波を切り裂いて行くが途中で打ち消されるが、間髪いれずに次の斬撃を放って津波を切り裂いて行く。

二撃目も途中で津波に打ち消されるが次々に斬撃を放つ事で津波が元の形に戻る前に斬り裂く。

剣を振るう速度を上げ、絶え間なく斬撃を放ち続けた結果、厄介だった光の津波を両断してみせた。

二つに割れた津波は俺達から逸れていき消滅するが、切り裂いた津波の向こうに僧侶の姿は見えなかった。

あったのは俺の斬撃によって斬られた紋章だけ。津波の向こうに人影はなく辺りにも奴の姿は見えない。

寅たちの元へ行きたいといっていたから弾幕を目くらましにして戦場から逃げたのか。

そう思い空を見上げてみるが、空にも奴の姿は見当たらなかった。

 

「リュウ、前ッ!」

「なにッ!?」

 

霊夢の声に反応して即座に剣を構えると、僧侶の奴がありえない速度で突撃して来た。

その手に握られていたのは先程の青い筒ではなく、金色に輝く双頭の槍の様な変わった道具。

その先端からは光が刃の様に伸びていて、少し変わった形の片手剣のようにも見える。

僧侶はありえない速度を維持したまま突撃し、俺は咄嗟に叢雲で奴が持つ剣を防ぐが突撃時の勢いに負けて後ろに押されてしまう。

見た目からしてそんなに重くないと思うが、天狗並みの速度を出して突撃されたら流石に踏ん張りきれないか。

今のはどう考えても人間が出せる速度じゃないし、身体能力を強化してるにしても限度ってモノがあるだろう!

 

「つぅ……ッ」

「今の奇襲にも反応しますか。流石は竜族と言ったところでしょうか」

「ちょっとアンタ! 馴れ馴れしくリュウに近付いてるんじゃないわよ!」

 

亜空穴を通って霊夢が僧侶に奇襲を仕掛けるが、天狗並みの速度を持つ今の僧侶に容易く避けられ、背後に回られてしまう。

そして即座に僧侶は霊夢に攻撃を仕掛けようとするが、俺が霊夢の腕を引っ張って彼女と入れ替わり叢雲でその一撃を受け止める。

霊夢は直ぐに反転して陰陽玉を僧侶に叩き込もうと腕を伸ばすが、その攻撃も容易く避けられてしまう。

霊夢は悔しそうに顔を歪めるが、天狗並みの速度で移動する今の僧侶には霊夢の攻撃は余りにも遅い。

元々攻撃速度自体速いほうじゃないんだ。あんな速度で接近戦を挑まれたら霊夢じゃ対処の仕様がない。

そんな事は本人が一番よく分かっているだろうけど、それでも手が出てしまうのはなんとも霊夢らしいな。

 

「あ~もう、ちょこまかと鬱陶しい! 天狗や蚊じゃないんだから大人しくしなさいよ!!」

「その二つを同列にして比べるな。……ま、鬱陶しいってのは分かるけど」

 

霊夢が言うように今の僧侶は速度を駆使して縦横無尽に動き回っている。

俺達に狙いをつけさせないのが目的なんだろうが、光の軌跡を残して動き回られるのは正直鬱陶しくて堪らん。

あの速度なら俺達を振り切って船に逃げる事も出来る筈だが、それをしないのは障害を今の内に断っておきたいからか。……俺達も舐められたもんだ。

 

「霊夢。奴の動きは俺が止めるからトドメは任せる」

「分かったわ。久し振りに大技で決めてやろうじゃないの」

「……何をする気かは知りませんが、そうはさせません」

 

動き回っていた僧侶がいきなり俺の前方に姿を現し、俺に向かって片手剣を投げつけてきた。

俺は投げられた剣を弾き飛ばすが、僧侶は一瞬の内に間合いを詰めて弾いた剣を拾って俺の横を斬り抜ける。

斬られた腹に痛みは走るが、僧侶の攻撃はその一撃だけに留まらず、怯んだ隙を狙って天狗並みの速度を駆使し怒涛の攻撃を仕掛けてきた。

高速移動からの連続斬り。普通の奴なら最初の一撃を受けた時点で何も出来ずに切り刻まれるんだろうが、似たような攻撃を俺は良く知っている。

妖夢の奴からラーニングした『未来永劫斬』。あの技も高速移動を駆使しての連続斬りだ。

アレと似たようタイプの技なら防ぎきるのはさほど難しくはない。

高速で繰り出された一撃目を捌き、続いて繰り出される二撃目を弾き、直ぐに繰り出される三撃目を防ぐ。

辺りに金属がぶつかり合う甲高い音を鳴り響かせながら、目にも止まらぬ速度で繰り出される連撃を捌いていく。

身体能力を強化されている上に速度が乗っていて一撃一撃が重いが、俺の眼と体が僧侶の動きに反応し対応していける。

常人ならば防ぎようのない連続剣を俺は全て捌ききって見せた。

 

「そんな馬鹿なッ! 貴方はあの速度に付いてこられるというのですか!?」

「舐めるなよ女。俺は竜族だ、お前の常識だけで測れると思うな」

「そんでもって私がいる事を忘れないでよねッ!」

 

俺の頭上を飛び越えた霊夢は僧侶に向けて両手を伸ばし、鬼神玉を超える特大の陰陽玉を作り出す。

 

「喰らいなさいッ! 宝具『陰陽飛鳥井』ッ!!」

 

霊夢は作り出した特大の陰陽玉を僧侶に向けて放つ。

大き過ぎる上に至近距離で放ったため僧侶は避ける事ができず陰陽玉をまともに喰らう。

陰陽玉の圧の前に僧侶は抵抗も出来ずに魔界の地面へと向かって落ちて行く。

特大であった陰陽玉の姿が少しづつ小さくなっていくと、突然黄金の光が陰陽玉を貫いて光を纏った僧侶が俺達の前へと舞い戻る。

僧侶は背後に紋章と四つの花を再び出現させて、俺達に狙いを付けるかのように睨みつける。

 

「……『アーンギラサヴェータ』」

 

何かの言霊と共に花より放たれた四つの黄金の光。

全てを貫いて進もうとする黄金の光を前に俺達は逃げる事はせず正面から立ち向かう。

叢雲と光剣をしまい両腕に力を集める。

黄金の光が迫り来る中、俺は両腕を合わせて前に突き出し腕に集めた力を一気に解放した。

 

「竜砲『ドラゴンバースト』」

 

解き放った力は赤い砲撃となって全てを飲み込み破壊して行く。

僧侶が放った黄金の光は拮抗する事もできずに掻き消され、僧侶も抵抗する間もなく砲撃に飲み込まれた。

赤い砲撃は射線上にある物を飲み込んでいきながら地平線まで伸びていく。

溜め込んだ力を全て解き放ち、砲撃が止んでいくが飲み込まれたはずの僧侶はまだ立っていた。

砲撃を受けたから服こそボロボロだが、あの頑丈さと自己治癒のお陰でまだまだ戦えそうだ。

俺の砲撃を受けて出来た傷は所々見られるがそれも徐々に治ってきている。

集束時間が短かったとはいえ、あの程度の傷しか与えられなかったってのは流石に凹むな。

 

「今のは効きましたがこの程度ではわたしは倒れません」

「そうみたいだな。……でも、コレで終わりだ」

「何を言っているんですか。わたしはまだ―――」

「周りをよく見てみろよ」

「周り? ……ッ!?」

 

僧侶は今になって気付いたのか目を丸くして驚きをあらわにするが、気が付いたところで今更遅い。

彼女の周囲には十六枚の札が展開されていて、霊夢の方も既に準備を終えている。

僧侶は慌ててその場から逃げ出そうとするがそれよりも早く霊夢が結界を張り、八角形の二重結界を作り上げる。

 

「く……遅かったですか。ですが、即席で作った結界などッ!!」

 

僧侶は霊夢の結界を壊そうと黄金の片手剣を取り出し、足元に浮かび上がっている陣に突き立てるが、結界を貫く事が出来ず弾かれてしまう。

往生際悪く何度も結界を破壊しようと足掻くが、何度試そうとも弾かれるだけで結界を破壊する事は出来ない。

それでもと諦めずに剣を突きたてようとするが、何の前触れもなく柄から伸びていた光の刀身が消滅する。

 

「そ、そんな……。独鈷杵(とっこしょ)の光が消えるなんて……」

「その道具がなんなのかは知らないけど、アンタの力は魔法と法力だってのは分かってる。ならその両方を封じてしまえばアンタはそこらの人間と何ら変わらない。ただそれだけの事じゃない」

「戦闘開始時から結界を張る素振りを見せていなかったのに、あんな短時間でそれほどの結界を張れる筈がッ!」

「リュウも言っていたけどアンタの常識で私らを測るな! 博麗の巫女を舐めるんじゃないわよ!!」

「ま、まだです! わたしの帰りを待ってくれている子達の為にも、また封印されるわけには……ッ」

「そんな戯言はもう聞き飽きた! 受けなさい、夢境『二重大結界』ッ!!」

 

霊夢によって張られた二重結界。その結界から立ち昇る霊力の光に僧侶は抵抗も空しく飲み込まれる。

結界の中が白一色で染まってしまうほどの霊力の光。それから逃れようと僧侶は足掻こうとするが、能力を封じられた今の彼女に抵抗する手段など残されてはいない。

結界を白く染め上げていた霊力の光が落ち着くと、僧侶は結界の中で倒れ伏せていた。

霊力の光を浴びただけだから外傷は無さそうだがピクリとも動かずに陣の上で倒れている。

魔力も法力も封じられた状態であれだけ術を受けたんだ。コレでまだ立ち上がることが出来たらそれこそ化け物だ。

 

「よっし、終わりッ! あ~すっきりした」

「久々に派手に決めたな。大技を使うと言っていたが、まさかコレを使うとは思わなかったぞ」

「一応数百年前の人物だからね。今よりも妖怪が活発だった時代を生きた人間を封じるにはこの位やらないと」

「そっか。……それでこの後は如何する? 流石にこのまま放置する訳にも行かないだろ」

「まぁね。今のは戦うための力を奪っただけに過ぎないし、本格的に封印するならちゃんとした儀式を行わないと」

 

霊夢とコレからの事を相談していると、遥か頭上から八つの光が放たれ結界の基点と激突した。

八つの光は結界の基点を貫こうとするが、霊夢の張った結界がその程度で壊れるはずもなく、光は力尽きて霧散する。

突然の出来事に状況を確認しようとするが、そんな事をする必要もなく襲撃犯は俺達の前に姿を現した。

 

「……アンタ等、一体何のつもりよ」

「船で答えた筈です。私達は聖を助ける為に此処まで来たのだと」

 

結界を破壊しようとしたのは船であった僧侶を慕う妖怪どもだった。

今まで何をしていたのかは知らないが、あの僧侶が封印されそうになっていると知って無謀にも駆けつけてきたのか。

ネズミと寅は兎も角として、残りの二人と雲は俺達にやられてボロボロだろうに……。無茶をする。

 

「ナズと村紗はあの結界の破壊を試みてください。一輪は私と一緒にあの二人と戦ってください!」

「分かったよ、ご主人。宝塔がないんだから無茶はしないでよ」

「一輪、あたしの仇はアンタに任せた!!」

「……さっき私の仇を討とうとしてくれた奴の言葉とは思えないわね」

 

言葉を掛け合ってお互いを奮い立たせているが、俺達に勝てる筈がない事は分かっている筈だ。

それでも奴等はあの僧侶を助け出す為に出来る筈のない結界破壊と、勝てるはずのない俺達に勝負を挑んでくるのか。

 

「わっかんない奴等ね。アンタ等じゃ私達に勝てないっていい加減学びなさいよ」

「貴女方に勝てないのは百も承知です。だからと言って聖を見捨てるような真似は絶対に出来ないッ! あんな思いをするのはもう沢山なんです!」

「姐さんを封印なんて二度とさせない。私らはそう誓い合って此処にいる。貴方達がどれだけ強敵であっても姐さんは必ず助け出す!!」

「……ほんっとにめんどくさい連中ね、アンタ等!!」

「なんとでも言ってください! 行きますよ、一輪」

「嗚呼ッ!!」

 

寅は槍を構え、頭巾の女は雲を呼び出して無謀にも俺達に挑みかかってくる。

霊夢は札を手にし奴等を迎撃しようとするが、俺がそれを止めて彼女たちの前に立つ。……こういう憎まれ役は俺の方がいい。

油断も慢心もなく挑みかかってくる彼女たちの攻撃に合わせ、取り出した叢雲を振るい無慈悲に薙ぎ払う。

叢雲の一撃を受けて二人は吹き飛ばされ結界に激突し、雲は巻き起こった突風により蹴散らされる。

結界を破壊しようとしていた二人は突然飛んで来た二人に驚き、目を丸くする。

 

「や、やぁ一輪に星。随分とお早いご帰還で」

「茶化している場合じゃないですよ村紗。結界の破壊に集中してください」

「分かってはいたけど本当にとんでもないわね、あの男。神仏の怨敵というのは伊達じゃないか」

 

俺に吹き飛ばされても二人の眼に陰りは見えず、結界を破壊しようとしている二人も諦めようとしない。

ネズミと船幽霊は自分の道具を手に結界の基点を破壊しようと奮闘しているが、結界に小さな皹一つ入れられずにいるのが現実だ。元々結界を破壊する為の道具じゃない筈なのに無駄な事を……。

 

「とにかく今は時間との勝負です。二人は結界の破壊に集中して、一輪は飛び散った雲山を掻き集めて下さい」

「ご主人はどうするつもりだ」

「私はあの二人をなんとしてでも止めます!」

「ご主人、それは幾らなんでも無謀だ!」

「無謀は承知の上です! ……たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

槍を握り締めた寅は裂帛の気合を込めて俺に挑みかかってくる。

しかしそれはあのネズミが言っていた様に無謀な行為でしかなく、アイツ一人では俺を止める事すら出来ない。

無謀な行為を繰り返す命知らずなコイツ等にはもう呆れるしかない。

俺は挑んできた寅の槍を斬り裂き、その勢いのまま鬱陶しい寅も斬り捨てた。

後は残りの三人を斬り捨てればだと思っていたが、寅は倒れずただの棒となった槍を俺に向けてくる。

そんな寅を斬り飛ばし、残りの三人の元へと赴こうとするが寅は懲りずに棒切れのままで挑んでくる。

何度斬り飛ばしても寅は諦めずに挑み、立っているのがやっとの状態にまでなる。

もはや戦う力なんて残されていないはずなのに寅は決して諦めようとはしなかった。

 

「……そんな棒切れで俺に勝てると思っているのか」

「か、勝てなくてもいい……。聖を助けだせればそれでいい」

「お前、毘沙門天とか言う仏の弟子なんだろ? あの女にそこまでしてやる価値があるのか?」

「ありますとも……。私が毘沙門天に弟子入りできたのは彼女のお陰ですし、彼女には返しても返しきれない恩がある。……それにもう嫌なんですよ、何も出来ずに彼女が封印されるのを見ているのは……」

「……………」

「何も出来なかった、ただ見ていることしか出来なかった。止められた筈なのに、彼女を助ける事が出来た筈なのに私は何も出来なかった。あんな思いはもうしたくないんです! 皆と離れ離れになるのも、聖を助けだせずに後悔する日々を送るのも! 聖を助けだせるならこの命、幾らでも貴方に差し出します!!」

「ちょっとご主人、一体何を言ってるだ!!」

「良いんです、ナズ。この命一つで聖を助けだせるなら安いものです」

 

寅の発言にネズミたちは慌てて止めようとするが、寅の眼は本気だった。本気で命を捨ててあの僧侶を助けようとしていた。

そこまでしてあの女を助け出そうとするのは理解に苦しむが、ただこのまま繰り返していてもこの寅は決して諦めたりしないだろうな。

俺は叢雲に纏わせていた力を消し、刃を剥き出しにした状態で寅の首目掛けて叢雲を振るった。

 

「ご主人ッ!!」

 

ネズミの悲痛な叫びが辺りに木霊し、結界の中で気を失っていた僧侶が目を覚ます。

僧侶は今の状況を目の当たりにして驚きを顕わにするが、俺は寅の首を撥ね飛ばしたりはしなかった。

 

「……私の首を斬らないのですか」

「あぁ。逆に聞くが良く逃げなかったな。本当に自分の命が惜しくないのか?」

「私は本気で命を捨てる覚悟でいましたから」

 

俺は寅の首を撥ね飛ばさず、首筋まで数ミリのところで叢雲をピタリと止めた。

寅は今も命を捨てる覚悟を決めた眼のままで俺の事を真っ直ぐに見据えてくる。

自分の命惜しさに逃げ出したり、防いだりするようなら本当に刎ねてやろうかと思ったが、どうやらコイツは本物の莫迦みたいだ。

恐らくこのまま剣に力を込めようものなら、アイツ等は自分が代わりになるとか言い出してくるんだろうな。……全く持って付き合いきれん。

 

「……はぁ、これ以上は付き合いきれねぇな。後は勝手にしろ」

 

それだけを吐き捨てて、叢雲をしまい奴等に背を向ける。

霊夢を含めて全員が呆然をしているようだが、これ以上コイツ等に関わっても面倒が増えるだけだ。

 

「ちょっとリュウ、良いの? アイツ等放っておいて」

「別にいいよ、あんな奴等。どうなろうと知った事か。……それとも霊夢は此処でアイツ等を封印しておきたいのか?」

「う~ん……そう聞かれると微妙なところね。あの僧侶は幻想郷で異変を起こそうとしている訳じゃないし」

「だったら良いだろう、放っておいて。俺はこれ以上あの莫迦どもと顔を突き合せたくない」

「ま、その気持ちは分からないでもないけどね。……しょーがない、アンタがそこまで言うなら今回だけは見逃してあげますか」

「悪いな」

「別にいいわよ。気にしてないし」

 

霊夢が笑って応えてくれると、背後からガラスが砕けるような音が聞こえてきた。

恐らく霊夢が結界を解除した音なんだろうが、今となってはどうでも良い事だ。

俺は自分達の足元に魔法陣を展開し、転移魔法を使ってさっさと家に帰ることに決めた。

帰りまでアイツ等の船に乗船したくないし、魔法を使ったほうが船に乗るよりも断然速いからな。

 

「ま、待って下さい!」

「なんだ僧侶。折角拾った命を捨てる気か」

「いえ、捨てはしませんが一言お礼を。……星を殺さないでくれてありがとうございます」

「何わけの分からん事を言っているんだ、このど阿呆。それよりも一つ覚えておけ、お前等がこの幻想郷で如何生きようと知った事じゃねぇけどな、もし騒ぎを起こしたらそのときは全力で潰しに行くぞ」

「あ、アレでまだ全力じゃないって言うのかい?」

「何言ってるのよ。もし私らが最初から本気だしてたらアンタ等なんか欠片一つ残さずに消し飛んでるわよ」

「そう言う事だ。命が惜しいなら俺達に目を付けられないように生きるんだな」

 

それだけを言い捨てると足元から立ち昇る光に包まれ、俺達は魔界から博麗神社の境内へと転移する。

既に日が沈み始めていて、空を見上げれば一番星が輝き始めていた。

最後に邪魔が入った所為で大分遅くなっちまったが、なんとか夕餉の時間までには間に合った様だ。

もし夕餉の時間に遅れた衣玖に何を言われるか分かったもんじゃないからな。何とか間に合ってよかった。

 

「あ~……つっかれた。結局あの船は謎生物たちとなんも関係がなかったわね」

「そうだな。全く無駄な時間を過ごした。これならあんなの無視すればよかった」

「今更言っても仕方のない事だけど、やっぱり愚痴の一つや二つ出てくるわね」

「まったくだ」

 

俺と霊夢は今回の件の愚痴を零しながら家路に着く。

明日もまたあの化け物共と戦わないといけないってのに、今回は本当に無駄足だった。

後悔してもしきれないが、とっとと忘れて家でのんびりするかな。

 




はい、駆け足になりましたが星連船編はコレにて終了となります。
終わりが近付いている中での原作異変でしたが……今更新キャラを出しても活躍させる活躍させる機会もないだろって自分で思ってる。
その上星に宝塔を返してないし、ぬえの存在をすっかり忘れていたりで……色々とすみません。
当初の予定では星連船の異変が終わってから、幻想郷に骸骨騎士なんかが出現するようになる予定でしたが、今回の異変の季節と大晦日の儀式を鑑みた結果今回の様な形に成っちゃいました……。
宝塔は折を見てナズーリンに渡せばいいだろうけど、ぬえは本当に如何しよう……。
こんな考えなしの作者ですが、最後までお付き合い下さい。
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