竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百九十五話 救済の噂

 

人里と神社を結ぶ道の途中で俺は突如として現れた骸骨騎士三体に襲われていた。

つい先日あの僧侶と戦ったばっかだって言うのに、碌に休みもなくコレか……。

 

「ったく、道具拾いも楽じゃねぇな」

 

愚痴を零しながらも叢雲を振るって応戦するが、三体とも馬に乗っているもんだから機動力はかなりの物だ。

骸骨剣士なら特に気にしないが、三体とも竜殺しの武器を所持しているから非常に鬱陶しい。

なんで同じ武器が複数も存在しているのか謎だが、向こうはそんな事を考える暇すら与えてはくれない。

せめてもの救いはアイツ等にはコンビネーションと言う物がない事だろうか。俺に取って非常に厄介な武器を持っているのに、攻撃がてんでバラバラだから回避するのは然程難しくはない。

一撃でも受けてしまうと裂傷が出来てしまうが、逆に一撃も受けなければいいだけの事だ。

骸骨騎士たちは乗っている馬の速度を上げてコッチに向かって来る中、俺は一番後ろに居る奴に狙いを定める。

まず一体目の攻撃を剣で受け止め、二体目の攻撃を前転の要領で躱し即座に三体目の騎士が乗る馬の足を斬り落とす。

足をなくした馬はその場で転倒し、背に乗せていた骸骨騎士を放り出す。

地面に激突して粉々に砕けてくれれば楽できたんだが、流石にそこまで都合よくは行かず、頭蓋骨が欠けながらも骸骨騎士は立ち上がる。

俺は一瞬の内に骸骨騎士との間合いをつめ、横を通り過ぎながら十字に斬り捨てた。

斬られた骸骨騎士はその場に崩れ落ちるが、技の後の硬直を狙って残りの二体が左右から襲い掛かってくる。

タイミング的に今から避けるのは難しいけど、左右から同時に襲い掛かってくるのならやりようは有る。

俺は左手の中に光剣を作りだし、骸骨騎士が来る前にその場で一回転し円形の斬撃を周囲に飛ばす。

円形の斬撃は迫っていた馬の足を斬り落とし、背に乗せていた骸骨騎士を地面に放り出す。

その隙に右側の骸骨騎士との間合いをつめ、剣を構える隙も与えずにその場でバラバラに斬り刻み、即座に剣の持ち方を変えて背後に向けて剣を突き出す。

背後から何かが砕ける音と共に手には硬い何かを貫いたような手応えが伝わる。

その感触を確かめてから叢雲を引き抜いて一息つくと、背後で最後の一体が地面に崩れ落ちた。

 

「やれやれ、手間取らせやがって」

 

一言吐き捨ててから周囲の様子を見渡す。

最初に倒した骸骨騎士は既に消滅していて、残りの二体も既に消えかかっている。

他に敵の姿が見えない事から一先ず先頭は終了したと考えてもよさそうだが、また何時襲われるか分かったもんじゃないから気は抜けないな。

今のところ敵の影は見えないものの、こうして辺りを見渡してみると春らしくない陽気だと思い知らされる。

桜も咲いて新芽が芽吹き始めているのに気温が全然上がらない。春はまだコレからだからはっきりとした事はいえないが、なんとなく日差しが弱くなっている様な気がするな。

天照の奴に何か遭ったのかも知れないが、俺が高天原に行っても門前払いを受けるのが関の山か。

 

「まぁ俺が気にしていても仕方がないか。こっちも暫く様子を見よう……って、お?」

 

消滅した骸骨騎士がいた場所の傍に何故か今も消滅せずに奴等の剣が残っていた。

普段は奴が消滅するのと一緒にこの剣も消滅していたが、今回だけは消滅せずに地面に転がっている。

傷一つなく完璧な状態で残っているその剣をなんとなく手に取る。

剣の柄に埋め込まれた黒い宝玉からはおぞましい気配を漂わせているが、俺の叢雲ほどではないが剣としてはかなりの一品なのは間違いないだろう。

(おれ)を斬り裂くその切れ味に、両刃の大剣ならではの重量。何度見てもあんな骸骨が持つには過ぎたものだ。

俺には叢雲があるから要らないけど、この剣を香霖堂に持って行けばそれなりの値段で売れそうだな。

今年に入ってアイツ等が現れるようになってからは連日の様に討伐しに出かけていて、満足に道具を拾えていない。衣玖が上手い事やり繰りしているけど金は有限。何時までもある訳じゃない。

流石におぞましい気配をさせたまま売りにいく訳にも行かないが、霊夢の奴にお払いをしてもらってからなら十分に売れるんじゃないのか?

 

前に拾った置物と一緒にどのくらいの値段が付くか予想していると、突然辺りに新しい気配が幾つも増えた。

拾った剣を地面に突き刺し、叢雲を握り締めて辺りを警戒していると今度はトカゲの戦士達の姿が見える。

数はざっと見て二十は超えている様だが、骸骨騎士と違って奴等は厄介な武器を持っていないし、あの程度の数ならなんて事はないだろう。

先手を取られる前にこっちから攻め込もうと一歩踏み出すと、突然現れた火の鳥が頭上を飛び越えトカゲの戦士達の中心に降り立った。

火の鳥はトカゲたちの中心で紅蓮の翼をはためかせ、両翼の炎で奴等を包み込んでいく。

戦いを挑もうとする者も鳥から逃げようとする者も全て等しく炎に飲み込まれる。

炎が鎮火した後に残されたものは、鳥に焼かれて灰となった草花と炎に飲まれて黒く焦げたトカゲ達だけだった。

 

「……いきなり何をするんだ妹紅」

「なに、あの化け物に襲われているように見えたからちょっと手助けをね。大きなお世話だったかな」

「大きなお世話どころかアレはやり過ぎだろうが……」

 

トカゲだけではなく草花まで灰にした事に呆れて溜息を吐く。

奴等を黒コゲにするぐらいの火力だから草花が灰になるのは仕方のない事だが、奴等を倒すなら他の方法でもよかっただろうに……。

灰しか残らなかったあの区画を哀れみながら、後ろを振り返って妹紅と顔を合わせる。

 

「それで何の用だ、妹紅。この先にはウチしかないぞ」

「里の人達に頼まれてお前の家に行こうとしてたんだよ」

「あの人達に頼まれたってことは里の防衛に関してか」

「あぁ、話が早くて助かる。最近はあんな連中が何処にでも現れるようになったから皆不安がってて」

「気持ちは分からなくも無いが、流石に里に常駐して守るってのは無理だぞ。奴等が何処からどうやって現われているのか調査しないといけないからな」

「そうだよな。……となると如何したものかな。慧音に里をずっと隠してもらう訳にも行かないし」

 

妹紅の言うように里の守りを何とかしないといけないのは分かっているが、奴等が何処から来ているのか分からない以上、俺と霊夢が里を開ける時間が如何しても出来てしまう。

調査したり討伐しに幻想郷中を駆け回らなくちゃいけない以上、里に常駐して警備に当たる訳にも行かない。

里には先代を始めとする妖怪退治が出来る奴は何人かいるだろうけど、奴等が一度に現れる数を考えると里に居る人達だけじゃ心許無い。

こう言うのに協力しそうな守矢の連中も同じだろうし、誰か別に強くて里に常駐してくれそうな都合の良い奴って居なかったかなぁ~……。

 

「……あ、そうだ。アイツ等なら里に常駐してくれるかも」

「お、誰か都合の良さそうな奴を思い出したのか」

「あぁ、空を飛ぶ船に乗る妖怪の一団だ。そいつ等の頭の僧侶は妖怪と人の神も全て平等だと謳っているかなりの変わり者だが、奴等なら里に常駐してくれるだろ」

「へぇ~そんな奴等が居たのか。しかし、妖怪の一団なのに頭が僧侶って如何いう事だ?」

「アイツ僧侶の癖に魔法を使うんだよ。それに数百年も生きているらしいしな」

「なるほど魔法使いなのか。それは確かに妖怪だな」

 

妹紅は俺の言葉の意味を理解してくれたのか、納得したかのように何度も頷く。

この世界では魔法使いも妖怪として数えられているから、元々は人間だったとしても魔法使いとして不老になったからにはあの僧侶も立派な妖怪だ。

この事を本人が知ったら何て思うかは知らんが、きっとやる事は変わらないだろうな。

 

「アイツ等の理想には共感できないが、精々役に立ってもらうとしよう」

「……なんか言葉の節々に棘を感じるんだが私の気のせいか?」

「つい先日アイツ等をボコボコにしてきてな。きっとその所為だろ」

「それじゃ今何処にいるのかも―――」

「あぁ知らん。結構痛めつけてやったから今は何処かに隠れて傷を癒してるんじゃないか?」

「…………………」

 

俺の発言に妹紅が絶句しているようだが、あんな連中が何をしていようと俺の知った事じゃない。

アレだけ痛めつけたから直ぐには行動を起こせないはずだが、奴等を監視するためにも居場所をはっきりさせておいた方がいい。里なら比較的近し、買い物ついでに様子を見に行くことも出来るだろう。

 

「と、とりあえずその僧侶の一団なら力になってくれるかもしれないんだな」

「恐らくな。でも、他所の宗教の人間だし、きっと先代はいい顔しないと思うぞ」

「それはそれで困るが……この際四の五の言ってられないか」

「そうか。なら後は自力で頑張れ」

「他人事だと思って気楽に言いやがって……。先代を怒らせると物凄く怖いんだぞ!」

「あぁ知ってる。霊夢の奴がよく怒られてるから」

「知っててそれかよ……。まぁここでお前に愚痴を言っていても仕方がないか。私は一旦里に戻って慧音達にこの事を話してくる」

「分かった。先代に会ったら宜しく伝えておいてくれ」

「はいはいっと」

 

背中に炎の翼を現出させた妹紅は翼をはためかせて飛び上がるが、何かを思い出したのか突然その場で制止する。

 

「そういえばリュウ。今、里で変な噂が流れているの知ってるか?」

「変な噂? また俺が化け物だって話か?」

「いや、そうじゃなくて今の混迷とした世を救うために救済の神が顕現するって胡散臭い噂だ」

「なんだそりゃ。初めて聞いたぞ。てか、救済の神ってお前……」

「人を哀れむような目で見るな。私だって信じてないし、そう言う噂が流れているだけだ」

「また随分と無責任な噂だな。居るかどうかも分からない神が現れるのを待つよりも自分達の力で足掻こうとは思わないのかねぇ」

「全ての人間にそんな気概が持てるわけないだろ。大体、この救済の神ってのはお前なんじゃないかって皆が言ってるぞ」

「いや、俺を勝手に祀り上げられても困る。第一俺は〝救いたい〟んじゃなくて〝守りたい〟だけだ。救うことと守ることは違うだろ」

「成る程、リュウらしいな。まぁお前の場合、救済の神よりも破壊の神として祀られてるほうがピッタリだけどな」

「ほっとけッ!!」

「あはははははははッ。それじゃ今度こそ私は行くよ、慧音たちには〝幻想郷はリュウが守ってくれる〟って伝えておく」

「あ、テメェ! 新しく変な噂を流そうとするんじゃねぇ!!」

「それじゃあな」

 

俺の必至の引止めに耳を貸さず、妹紅は紅蓮の翼をはためかせて里の方へと飛び去ってしまった。

さっきの話が上白沢さん達にだけ伝わるならいいけど、人の口に戸は立てられないって言うし、きっと里中に広まるんだろうなぁ……。そう考えると暫くは里に近付きたくないな。

なんだか自分で盛大な墓穴を掘ってしまった様な気がして頭が痛くなってくる。

如何してこうなったのかと自分で問い質したくなるが、今更そんな事を言っても仕方がない。

今から妹紅の口を黙らせにいく訳にも行かないし、もうどうしようもない事だと割り切ってしまおう。

そう思いつつも眼を逸らしたくなるような出来事の所為でつい溜息が出てしまう。

その所為でこれ以上は道具を拾う気力も湧いてこず、地面に指した剣を回収して家に帰る事にした。

……それにしても、一昨年の年末に流れた噂といい今回の噂といい、一体誰がこんなデマを流しているんだ?

 




さって、予定していた原作の異変は全て終わったし、後は最終回に向けて頑張っていくか。
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