竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百九十七話 冥界決闘

夜が深まった冥界では顔が半分欠けた死霊の竜が何かを探し回っている。

死霊の竜の周りには全ての霊魂が退避させられ、竜の周りには虫の霊魂すらも存在していなかった。

獲物を求めてさ迷い歩く竜の前に現世より舞い戻った妖夢が新たな剣を手に立ちはだかる。

 

「……見つけました。今度こそ討たせていただきます」

 

妖夢は剣を包んでいた布を取り払い、神社から持ち出した両刃の大剣を構える。

霊夢により清められた剣は清らかな気を纏い、この世の不浄を払わんと言わんばかりに柄の宝玉が輝きを増す。

半分は霊である妖夢には柄を握っているだけでも痛みが走るが、構えた剣を決して崩そうとはしない。

何かを探し回っていた死霊の竜は妖夢の姿を認識した途端、脇目も刳らずに妖夢へと向かって突撃していく。

その華奢な体を噛み砕かんとばかりに開いた顎が妖夢へと迫るが、妖夢は寸前のところで地面を蹴って飛び上がり死霊の攻撃を回避する。

硬いモノ同士がぶつかる様な甲高い音が冥界に響き渡り、死霊の顎の力の強さを周囲に知らしめる。

妖夢はその音の大きさに眉間に皺がよるが、直ぐに気を取り直して大剣を振り被って死霊の竜に切り込む。

振り下ろされた剣は竜の頭蓋にぶつかり弾かれるが、頭蓋に出来た傷は斬馬刀で斬ったときよりも大きな物が出来た。

 

「相変わらず硬いけど、これならいけるッ!」

 

体勢を立て直して地面に着地した妖夢は即座に地面を蹴って死霊の竜へと切り込んで行く。

そして反撃が来る前に剣を振るい、出来たばかりの傷を更に深く傷付ける。

頭部を攻撃されて煩わしいのか、死霊の竜は頭を振るって妖夢を払い除けるが、妖夢は即座に体勢を立て直してもう一度頭部の傷に攻撃を加える。

死霊の竜は腕を振るい妖夢を吹き飛ばすが、それでも妖夢は諦める事無く東部へと攻撃を続けていく。

何度払い除けられても、何度攻撃を邪魔されようとも妖夢は頭部への攻撃をやめることはなく、最初は小さかった竜の傷が次第に大きくなっていく。

傷の周りには小さな皹ができ、そこに妖夢が更に攻撃を加えると耐え切れなくなった頭蓋の一部が砕ける。

 

「まだまだッ!!」

 

頭部を自力で砕いても慢心する事無く妖夢は攻撃を続けるが、死霊の竜は自らの体をバラバラに分解し、骨の雨を降らせて妖夢へと攻撃する。

その雨には流石に対処する事ができず、妖夢は後退を余儀なくされる。

死霊の竜との間合いが大きく開き、降り注ぐ骨の雨により次第に逃げ場がなくなっていく。

周囲を骨に囲まれ逃げ場がなくなって来たところに死霊の竜は口から猛毒のガスを吐き出す。

先の戦いであのガスの脅威は身に沁みているが、骨に取り囲まれ逃げ場がなく、空を飛んで逃げようにも降り注ぐ骨の雨に撃ち落とされるのは目に見えている。

もはやコレまでかと妖夢が諦めかけ目を瞑ったとき、瞼の裏にリュウの姿が浮かび上がった。

どれだけの弾幕を打ち込んでも臆する事無く剣一つで斬り払うその姿に、妖夢はこの状況を打開する方法を思いつく。

それが出来る保障なんて何処にもない。自分なら出来ると信じ込めるほどの自信なんて持ち合わせていない。妖夢にあるのは祖父が教えてくれた剣術と、リュウを呆れさせるほどの負けん気だけ。

いつか辿り着きたいと願う祖父の背は未だ遠く、リュウを本気にさせることすら出来ないほどに未熟。……それでも妖夢は前を向き直り剣を握り締める。

直ぐ前にまで来ている毒のガスを前に妖夢は片腕だけで剣を振り被る。

頭にイメージするのは全てを斬り払うリュウの剣技。今まで一度も練習したこともない技だが、リュウの剣は間近で何度も見てきた。

祖父が教えてくれた剣技も全て見取り稽古で覚えてきた。なら、リュウの剣技も模倣する事が出来るはず。

妖夢は覚悟を決めて一歩前に踏み出し、振り下ろす間際に両手持ちに変えて裂帛の気合を込めて切り込んだ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

妖夢が真っ直ぐに繰り出した一閃は凄まじい剣圧を生み出し、迫って来ていた毒ガスを切り裂いた。

思い描いていた一閃にはまだ遠いが、このとき確かに妖夢は大気を切り裂いてみせた。

切り裂かれたガスは左右に逸れて行くが、妖夢はまだ漂うガスを飛び越えて竜の頭蓋へと向かう。

降り注ぐ骨の雨を剣で弾き、頭蓋に出来た真新しい傷に剣を振り下ろして傷を広げる。

竜の頭蓋は頭を振るって剣を弾かれるが、妖夢は怯む事無く剣を握り直して即座に振り下ろす。

骨の雨は妖夢へと降り注ぐものの、妖夢は自分から間合いを離す事でそれを回避し、逃げられなかった頭部は自らの骨により更に砕かれる。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーッ!!」

 

自らの骨により頭部は更に砕かれ、死霊の竜はたまらず雄叫びを挙げる。

頭部に突き刺さった骨は直ぐに引き抜かれるが、その時に出来た隙を突いて妖夢が頭部へと切り込んで行く。

妖夢の攻撃と自らの骨により既に頭部はボロボロとなっている。

妖夢は骨を掻い潜り、ボロボロの頭蓋の通り過ぎて擦れ違い様に十字に斬り裂く。

頭蓋骨には大きな十字の傷が出来、頭部全体に大きなが亀裂が無数に走る。

妖夢は自信の霊力を剣に纏わせて、青く光る巨大な刀身を創り上げた。

そして後ろを振り返り、振り向き様に巨大な刀身を頭部にできた大きな十字傷に叩き込んだ。

 

「断迷剣『迷津慈航斬』」

 

振り下ろされた必殺の一閃により頭部は完全に砕かれ、空に浮んでいた骨たちも地面に落下し土煙をあげる。

妖夢は光の刀身を維持したまま骨を見据えていたが、動かなくなった事を確認してから刀身を消してその場に座り込んだ。

 

「はぁ~…………。つ、つかれた……」

 

全身の力を抜いて吐き出した一言。まだ毒が抜け切っていない上に、リュウの動きを模倣したため精神的にも大きく疲弊したのだろう。

普段はこんな戦い方をしないから分からなかったが、妖夢は改めてリュウの凄さを痛感していた。

相手の攻撃にも臆さず斬り込むのは端から見ればカッコイイ事なのだが、実際にそれを実行するにはかなりの度胸がいる。

一瞬の読み違いが即死に繋がりかねない状況の中を駆け抜けていく。それは今までの自分ではまず出来なかった戦い方だった。

 

「……あの人と戦えて私も少しは強くなれたのかな」

 

自分に言い聞かせるように一言呟くが、あまり実感が湧かないのか妖夢は可笑しそうに笑う。

一頻り笑った後、立ち上がって勝手に借りた剣を返しに行こうと歩き始めたとき、背後からおぞましい気配を感じ取り直ぐにその場から離れる。

すると妖夢がさっきまでいた場所を頭を失った死霊の竜が通り過ぎていった。

 

「そんなあの竜は倒した筈なのに……ッ」

 

驚く妖夢を他所に頭部を失った竜は辺り構わず暴れ始める。

頭部を竜は生えていた木を薙ぎ払い、存在していた岩を破壊したりと手のつけ様がないほどに暴れている。

まるで標的を見失ってしまったかのように暴れる竜に妖夢は向かって行くが、暴れまわる竜の猛攻の前にあっけなく弾き飛ばされてしまう。

なんど近付こうとしてもその度に竜に弾き飛ばされてしまい、間合いを詰めるどころか竜の攻撃を受けないように逃げ回るので精一杯になる。

動きが止まったところを見計らって攻撃を仕掛けても、骨に傷が付く程度でさっきまでと何も変わらない。

さっきと同じ戦い方では意味がない。アレを倒すには全ての骨を破砕するか、根源にあるものを斬り裂くしかない事は妖夢も理解している。理解していても如何すれば良いのか分からないでいるのだ。

辺り構わず暴れまわる竜なんて自分の手に余る。やはり見栄を張らず素直にリュウさんに頼めばよかった。

手の施しようのない状況に妖夢の心が再び挫けそうになったとき―――

 

「なにをしておる、妖夢。それでもワシの孫か。その程度の奴さっさと斬り捨てい」

 

―――何処からともなく祖父の声が妖夢の耳に届いた。

 

「お、おじいちゃんッ!?」

 

その声に気を取られてしまい、死霊の竜の攻撃を受けてしまい弾き飛ばされてしまう。

妖夢は地面を数回跳ねて漸く止まるが、近くにまだ竜がいるのを忘れて祖父の姿を探してしまう。

だが、幾ら探しても祖父の姿は何処にも見当たらず、この辺りには自分とあの竜しかないと思い込む。

今のは幻聴だったのかと落胆しながらも、妖夢は何処か懐かしそうな笑みを浮かべる。

 

「……相変わらず手厳しい人だな、おじいちゃんは」

 

今の声が幻聴だったのかは妖夢自身にも分からない。だが、祖父が修行を付けてくれた日々の事を思い出した。

厳しくて辛い毎日だったけど、祖父はどんな時だって妖夢なら出来ると信じてくれていた。

その事が重荷に感じてしまった事もあったけど、その信頼があったからこそ今の妖夢がここに居る。

頭を無くした竜は暴れまわりながら妖夢の元へと全速力で向かってきている。

竜の肋骨にはどす黒い塊が守られており、恐らくアレがあの竜の根源的なものなのだろう。

弱点が何処にあるのかさえ分かれば十分。あとは今の自分に本当にアレを斬り捨てるだけの技量があるのかどうか……。

 

「ふふっ。そんなの考えるまでもないか、おじいちゃんは無理だと思ったことは絶対に言わない人だったし」

 

妖夢は迷いを振り払い、剣を握り締めて迫り来る竜を見据える。

迷いが晴れても恐怖がない訳ではない。もし仕留め切れなかった事を考えると切先が鈍ってしまいそうになる。

だが、妖夢が敵と見定めた相手はこの程度の恐怖など物ともせず切り込んで行く。

そう考えると自分も負けていられないなと奮い立たされ、鈍っていた切先が研ぎ澄まされる。

恐怖に打ち勝ち気力も十分に漲った。あとはただ駆け抜けるのみ。

 

「さぁこい、死霊の竜! 今の私に斬れないものなどあんまりないッ!!」

 

自分自身に気合を入れ、妖夢は首なしの竜へと向かって一気に駆け出して行く。

暴れまわる竜を恐れず真っ直ぐ駆けて行った妖夢は擦れ違い様に竜を上空へと斬り飛ばす。

竜ほどの巨体の生物をコレが初めてであった為、斬り飛ばした直後に腕が痺れて動きが鈍くなってしまう。

しかしそんな自分に喝を入れ、妖夢は歯を食いしばって斬り飛ばした竜に向かって斬り込んで行く。

その追撃は一撃で終わることはなく、竜の周りを高速で駆け回り二撃三撃と斬り付ける。

高速で斬り付けられ続けた竜は空中に描かれた斬撃の結界に囚われ、身動き一つ取れなくなる。

斬り刻まれ、欠けていく竜の骨は斬撃の結界によって更に斬り刻まれ、粉となって消滅していく。

竜の骨という骨を斬り刻み、とうとう肋骨によって守られていたどす黒い塊にまで手が届くほどになった。

全ての骨を斬り裂き、ただ空中に浮ぶだけとなった黒い塊を妖夢は真下から斬り裂き、斬撃の結界ごと塊を両断してみせた。

 

「……人鬼『未来永劫斬』」

 

地面に着地し剣を一度払ってから技の名を言うと、それを合図にしたかのようにどす黒い塊は霧散し消滅した。

死霊の竜が完全に消滅すると冥界に静寂が戻り、何時もの静かな夜が戻ってきた。

妖夢は冥界の夜空を見上げて一人物思いに耽っていると―――

 

「今のは中々によかったぞ。それでこそワシの孫だ」

 

―――再び祖父の声が妖夢の耳に届いた。

慌てて振り返っても祖父の姿は何処になく、耳が痛くなるほどの静寂だけが辺りを包んでいた。

妖夢はその静寂を暫しの間見ていた後、誰も居ないほうに向かって深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「……なんとか勝ったみたいだな」

「当然よ。妖夢は私の自慢の従者ですもの」

 

妖夢が頭を下げている方角とは反対の林の中。その中にはリュウと幽々子の姿があった。

二人は林の中で妖夢の戦いを観戦していたのだが、二人の前には骸骨騎士たちが地面に倒れ伏せていた。

 

「死霊の竜が冥界に現れたと聞いて予想はしていたが、まさかこんなにいるとは思わなかったぞ」

「最初の内はそれほど多くなかったのだけど、此処最近になって数が増えてきたのよ」

「霊魂しかいない冥界は大丈夫と高を括っていたが、考えが甘かったか」

「紫以外には誰にも話していなかったことだもの、仕方がないわ。……それにしても良くここまで倒した物ね。今も残っているだけでも百はあるんじゃないかしら」

「コイツ等の半分を倒したのはあの爺さんだ。まったく、年寄りとは思えない動きだったぞ」

「妖忌ですもの、当然といえば当然ね。……孫が心配なら顔くらい見せていけば良いのに」

 

既に立ち去った妖夢の祖父を思いながら、幽々子は小さな声で呟き寂しげに溜息を吐く。

その事にリュウも気が付いてはいるが問い質すような真似はせず、黙って聞き流す。

 

「……ところで亡霊姫に一つ聞きたい事があるんだが」

「あら、何かしら。竜神さんが私に質問なんて珍しい」

「今幻想郷中に現われているコイツ等はアンタの眼には如何写っているんだ」

「……難しい事を聞くわね。私にも彼らのことは理解出来ていないわ」

「そうか……」

 

理解出来ていないと語る幽々子の言葉にリュウの顔には珍しく落胆の色が浮ぶ。

冥界の管理人でもある幽々子ならば何か知っているのではと期待していたが、その当てが外れた事には流石のリュウも落胆を隠せずにいるようだ。

 

「幾ら冥界の管理を任されているといっても、全ての幽霊を統括しているわけではないわ。それに彼らは私の管理というよりも地獄が管理している亡者たちに近いんじゃないかしら」

「地獄か……。確かにコイツ等が現れるようになったのは地獄の蓋が開いてからだしな」

「確か最近越して来た二柱の神が地獄烏に太陽の力を与えたから蓋が開いたのよね」

「あぁ。全く持って傍迷惑な話だよ」

 

リュウはあの二柱の神を思い出して心底迷惑そうな顔をして吐き捨てる。

そんなリュウの顔を見て幽々子は珍しいモノを見たと言いたげな顔で可笑しそうに笑う。

 

「くすくす……。噂には聞いていたけど本当に二柱の神が嫌いなのね」

「嫌いというか面倒ばかり起こすから鬱陶しく思っているだけだ」

「似たようなモノじゃないの」

「ほっとけよ。……まぁなんにしても今後の方針が決まったな」

「地獄にいって鬼達に問い質しにでもいくのかしら?」

「ああ。閻魔の元に直接出向いても良いんだが、それだと喧嘩になりそうだからな。旧都に行って鬼たちに聞いてくる」

「頑張って頂戴ね、守護の竜神さん」

「……その名で呼ぶのはやめろ」

 

心底嫌そうな顔をするリュウとは反対に幽々子は楽しげに笑う。

そんな幽々子をみて溜息を吐いた後、リュウは木から少し離れたところで足元に魔法陣を展開した。

 

「あら、もう帰るのかしら」

「ああ。いい加減眠いし、夜明けまでに戻らないと霊夢と衣玖が騒ぎ出すからな」

「それは大変ね。早く帰って彼女たちを安心させてあげなさい」

「言われんでもそうするっての」

 

そう言いながらリュウは手の中に一本の野太刀を出現させ、それを徐に幽々子の方に向かって投げる。

突然投げられた事に流石の幽々子も目を丸くするが、危なげなく投げられた野太刀を受け取った。

 

「これは……あの子の刀ね。どうして貴方がこれを?」

「うちに忘れていったモノだよ。それとアイツに伝言を頼む」

「あら、なにかしら?」

「その剣は暫く貸してやるが、この事件がひと段落したら返せって伝えておいてくれ」

「えぇ、分かったわ。でも、私としてはあの剣は早く引き取ってもらいたいから出来るだけ頑張ってね」

「それは保障しかねるな」

 

最後にそう言い残すとリュウは足元の魔法陣から立ち昇る光に包まれ、冥界から姿を消した。

幽々子はリュウが言い残した言葉に今回の事件は相当根深いのだと理解する。

何時まで掛かるのか分からない事件に一抹の不安を覚えながら、幽々子はその気持ちを押し殺して勝利を祝いに妖夢の元へと向かうのだった。

 




紹介する機会がないと思うので此処で紹介しますが、妖夢が勝手に持ち出した剣の名前は『ノートゥング』って言う名前の聖剣です。
この名前にピンッと来る人もいると思いますが、実はこの剣BOF2に聖属性付き武器として登場してるんですよね。
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