竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は全編リュウの視点でお送りします。


第百九十八話 救済のあり方

 

地底深くにある地獄の捨てられた地に構える都『旧都』。

地上を捨てた鬼や封印された妖怪が居を構えるこの地を調査しに来たんだが、どういう訳か旧都は負傷した鬼達で溢れていた。

大通りを擦れ違う鬼達は皆、腕を負傷していたり、松葉杖を突いていたり、片目を隠すように顔に包帯を巻いていたりと傷を負った鬼ばかりと出会う。

以前来た時に鬼達をボコボコに叩きのめしてやったが、その時に負傷したにしては傷の治りが遅すぎる。

それに俺の記憶が確かなら、あの戦いの時にここまで負傷した鬼は居なかった筈だ。

急となんて滅多に来る様な所じゃないが、まさか此処も冥界の様にアイツ等が出現しているのか?

 

「う~む……」

「お、其処にいるのはリュウじゃん。こんな所でなにやってんの?」

「その声は萃香か?」

 

声に反応して振り返ると、居酒屋で酒を飲んでいる萃香と星熊の姿が在った。

最近地上で見かけないと思ったら、萃香の奴こんな所で飲んでいやがったのか。そりゃ見かけない訳だ。

 

「おぉ、久し振りじゃないかリュウ。地底に一体何のようだ?」

「ただの調査だ。地上に出現している死霊どもが地底から出てきているんじゃないかと思ったんだが、この様子だと当てが外れたみたいだな」

「なんだ遊びに来たわけじゃないのか、つまんないの~」

「……今はそれどころじゃねぇだろ」

 

コッチの苦労も知らずに暢気に酒を飲む萃香に思わず頭を抱えてしまう。

別に調査しなくてもいいって言うなら家でのんびりしてるけど、そういう訳にもいかないからアチコチ出回っているっていうのにコイツと来たら……。

 

「はぁ~……」

「そんな溜息なんか吐いて如何したのさ。溜息ばっかり吐いてると幸せが逃げてくよ」

「俺だって吐きたくて吐いてるんじゃないんだが……まぁいい。それよりも星熊、アンタに幾つか聞きたい事があるんだが良いか」

「それは構わないが、萃香の事は名前で呼ぶのにアタシの事は苗字で呼ぶのかい? アタシも名前で呼んでくれても構わないんだが」

「気が向いたらな」

「つれない男だねぇ。まぁいいさ。それで聞きたい事ってのは?」

「最近の地底の様子と奴等に付いて何か心当たりはないか」

 

俺が知りたい事を尋ねると星熊のやつは難しそうな顔をする。

 

「前者については教えられるが、後者についてはアタシらもさっぱりさ。ただ一つだけ言えるとしたらアイツ等は地獄に居た亡者どもじゃないってことだ。もし地獄の亡者どもなら鬼や閻魔が黙っちゃいないからね」

「なるほど。それなら前者については如何なんだ?」

「はっきり言ってしまえば今の地底は地上と大差ない感じだね。骸骨騎士やトカゲ人間が何処からともなく現れて妖怪も亡者も関係なく襲っている。血の気の多い連中は遊び相手が幾らでも出てくるって喜んでるけど、痛い目を見て大怪我を負って帰ってくる奴が大半だ」

「地上でアイツ等と何度も戦っているが鬼が怪我をするほど強くはないだろ」

「それは相手が弱いからって舐めてかかった結果さ。自分の技量も弁えずに団体さんに喧嘩を売った代償ってところだね」

「そうか……」

 

星熊が俺の質問にちゃんと答えてくれたのはいいが、彼女の話を聞く限りだと地獄の怨霊どもの線は低そうだな。

怨霊が人知れず抜け出して骸骨に乗り移ったって線も捨てがたいが、もし本当に怨霊どもが原因なら閻魔や死神連中がもっと動きを見せてもいいはずだ。

今の所奴等が何らかの行動をしている様子もないし、原因は別にあると考えてもよさそうだが……原因は一体なんだ? 冥界も今回の件で言えば被害を受けている側だし、地獄でも奴等が暴れているとなるともっと別な所に原因があるのか?

 

「……結局分からず仕舞いのままか。何の進展もないまま降り出しに戻るのはキツイな」

「そんなに落ち込むなってリュウ。酒でも飲んで一息つきなって」

「酒じゃ一息はつけないだろ。ったく、この酔っ払いは」

「ま、萃香だから仕方がないさ。アタシら鬼の中でもこれだけ長く酔い続けているのはコイツくらいなもんだ」

「それ、何の自慢にもならねぇからな」

「「アッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

何が可笑しいのか分からないが、二人の鬼は豪快に笑い出す。

コッチは手掛かりがなくなって困っているってのに、コイツ等は気楽で本当に羨ましいよ。俺もこんな異変さっさと解決して昔の様に神社でのんびりとしていたいもんだ。……まぁ現状を鑑みるにまだ暫くはできそうにないけどな。

頭では分かっている事だったけど、実際に直面して見るとやっぱり気落ちしてしまう。

気を取り直して早く次の調査に乗り出すべきだろうが、冥界や地獄が違うとなると他に怪しそうな場所がコレといって思いつかない。

天界って線もあるにはあるんだが、あそこの連中がこんな事をしても何のメリットもないか。他に怪しそうな場所となると……高天原みたいな神の世界か月の連中か? いや、流石にそれはないか。

奴等は穢れの塊みたいな奴だし、アイツ等が好き好んで使役するとは思えない。特に月の連中はそう言うのに対しては潔癖みたいだしな。

 

「すぅ………………だっしゃーんッ!!」

「ぬあッ!? な、なんだ今の声!?」

 

耳元で挙げられた大声に驚いて後ろを振り返ると、閉じられたままの第三の眼を持つ少女がおれの真後ろに立っていた。

考え事に集中し過ぎていて全く気がつかなかったが、何時の間にか俺の背後に回りこんでいたようだ。

突然の大声に心臓がバクバク言っているが、驚かした本人は悪戯が成功して嬉しいのか笑顔を浮かべている。

 

「あははははははッ。どう驚いた? 驚いた?」

「お、驚かすなよこいし。今のは心臓に悪い」

「ごめんなさ~い。でも、今のは中々に面白い反応だったよ」

「ちっとも嬉しくねぇ……」

 

この子に会うのも久しぶりだが、そういえばこういう性格の子だったっけか。

相変わらず表情からは何も読み取れないから、悪気があるのか無いのかも良く分からんな。

 

「お前は……確かさとりの妹だね。姉妹そろって屋敷から出ないのにこんな所に居るなんて珍しい」

「確かにお姉ちゃんは引き篭もってるけど、わたしはよく屋敷から出てるよ。ただ誰も気付いてくれないだけ」

「本当か? 私も外に出ているのを見るのはすんごく久し振りだと思うんだけど」

「嘘じゃないよ。わたし、酔っ払ってる貴女たちが居酒屋から追い出されるの見てるんだから」

「な、何故それをッ!?」

「……お前等、一体何をしてるんだよ。鬼の四天王じゃないのか」

「いや~、ちょっとお酒を飲みすぎちゃいまして。暫くあの店に出禁になっちゃって」

「本当に何をしてるんだよ……」

 

鬼が作った旧都の居酒屋で鬼の四天王の二人が出禁をくらうって何か間違ってないか? 店としても商売だからやり過ぎた客にはそれなりの処分を下すだろうけど、四天王の二人揃って出禁とか威厳の欠片もありゃしねぇ。

 

「そう言う訳で、わたしはお姉ちゃんと違って外に出ているのです。えっへん」

「さいですか。……それでこいしは一体何をしに旧都に来たんだ? ただの暇潰しか」

「うん、そんなところ。お姉ちゃんで遊ぼうと思ったら急に来客が着ちゃってさ。暇だったからなにか面白そうな事はないかなぁ~って思って」

「来客ってあの根暗で有名なさとりの所にか? そりゃまた珍しい事もあるもんだ」

「わたしも驚いたよ。あの根暗なお姉ちゃんを尋ねてくる物好きがいるなんて思わなかったし」

「自分の姉なのにひでぇ言い様だな」

「だって本当の事だし。お姉ちゃん、友達はペットの動物しか居ないんじゃないかな?」

「……そこまで来ると哀れとしか言いようがないな」

「アイツの能力は特に嫌われてるから仕方がないっしょ。で、さとりの元にやって来た客ってどんな奴?」

「えっと確か……目玉の付いた変な帽子と丸い注連縄くらいしか記憶にない」

「八坂と洩矢か。それだけで把握できるってのもなんか嫌だな」

 

普通だったらそれだけじゃ伝わらないはずなんだが、アイツ等だけは例外的にそれだけで伝わってしまう。

幻想郷には変わった格好の奴が沢山居るけど、アイツ等ほど特徴のある装飾品をつけている奴もそうはいないよな。

 

「八坂と洩矢っていうと前に神社ごと山に引っ越してきた神様だっけ? そんな奴が地底に何しに来たのさ」

「さぁ? なんか難しいことを話しててよく分からなかったけど、最近暴れている骸骨が灼熱地獄跡が原因なんじゃないかって必至になって聞いてたよ」

「あそこの釜の蓋が開いたのはアイツ等が原因だからな。自分達の身の潔白を証明するために態々聞きに来たのか。ご苦労な事だ」

 

まぁ態々地底に来て自分の身の潔白を証明しに来たのも、俺の怒りに触れるのを恐れての事だろう。

今回の件は今までの異変と比べてもかなり厄介な部類に入るし、もしその原因が自分達の行動にあったとなれば落ち着いていられないだろう。主に俺に殺されるんじゃないかって心配で。

地獄烏に厄介な力を与えて、地底に封印されていた僧侶の一派を地上に出す切欠を作ったわけだし、今回の件もアイツ等の行動に原因があるとすれば……流石に黙っているわけも行かないよな。

 

「……とりあえず、勝手な行動が出来ないように両手足を切り刻んでおくか」

「なんか怖いことを言ってるけど、あの神様たちは今回の件に関係ないと思うよ」

「ん? そうなのか?」

「うん。地獄跡に居る怨霊はお燐がしっかり管理してるから。怨霊が地上に出たらあの人達に殺される~って」

「流石に殺しまではしないが……一応管理はしているってわけか」

 

こいしが嘘を吐いている可能性もあるが、今回は自分や家族を庇ったんじゃなく八坂と洩矢を庇った。この子があの二人を庇いたてする理由もないはずだし、嘘は吐いていないと考えてもよさそうだな。

そうなると異変の原因が地獄にあるって線はほぼ無くなるな。地獄にコイツ等も知らない奴が居て、こっそりと悪さをしているなら分かるが、コイツ等とは無関係と考えていいだろう。

こうなると完全に当てがなくなるな。月や高天原に攻め込むわけにも行かないし、アイツ等が絡んでくると色々と面倒くさい。

アイツ等を倒しながら自体が好転するのを待っていても仕方がないが、調査しようにも当てがないんじゃ動きようがないからな。調査の為とは言え、あそこの連中を刺激するような真似はしたくない。

何か証拠があれば強硬手段に乗り出すことも出来るけど、地上でそれを見つけるのはまず無理だろう。

他にすることも特に思いつかないし、暫くは人里で流れている噂の調査でもしているか。……調査したところで事態が好転するとは思えないけど。

 

「連日空振りばっかだと本当に嫌になってくるな」

「なにが空振りだって?」

「異変の調査がだよ。……そういえばこいし。お前の姉さんって確か他人の心を読めるんだよな?」

「うん、そうだよ。本当はわたしも同じ能力を持っていたけど、嫌気がさして潰しちゃった」

「能力なんて簡単に捨てられない思うが……まぁ深くは追求しない。それじゃ、俺もお前の姉さんに会ってみるか」

「お姉ちゃんに? 会ったところでどうにもならないと思うけど?」

「今は藁にも縋りたい気分なんでな。あの死霊どもが何を考えてるのか聞いてみる。ま、一度も遭った事がないって言われたらお手上げだけどな」

「ふ~ん……。それじゃわたしも一緒に行こうかな。これ以上旧都をうろついても何も無さそうだし」

 

俺が地霊殿に行くというとこいしも一緒について来ると言い出した。

地霊殿はこの子の家だし、別に一緒に行くのは構わないんだが……俺について来ても面白い事なんて何も起こらないと思うがな。

 

「なんだもう行くのかい? 少しは酒に付き合ってくれてもいいだろうに」

「お前等の酒盛りに付き合っていたら日が暮れるだろ。家には俺の帰りを待ってる奴が居るんだから、お前等の酒盛りになんか付き合えるか」

「帰りを待たれているって言うのも不自由だねぇ~。ま、そう言う事なら今回は大人しく諦めるさ」

「霊夢たちに宜しく伝えておいて。暇が出来たら酒を飲みにいくってさ」

「……普通に遊びに来いよ、普通に」

 

萃香の発言に若干頭を痛めながら、俺は二人の鬼と別れてこいしと共に地霊殿を目指して歩き始めた。

旧都の中心部に建っているから迷わず辿り着けるのはいいが、一緒に行くといっていたこいしがちょっと目を離しただけで直ぐに見失ってしまうから困りものだ。

彼女の能力上、仕方のない事ではあるが……こう何度も見失ってしまうのはかなり厄介だ。

また悪戯をされる前に彼女を見つけ出して、勝手に何処かに行かれる前に襟首を掴んで猫の様に運ぶ。

端から見るとかなりアレな絵になっていそうだが、この際四の五の言っていられない。

周囲の奇異の眼を無視しながら、若干早足になりながらさっさと地霊殿へと向かう。

 

旧都の中心部に在り、旧灼熱地獄の上に蓋をするように建つ大きな屋敷『地霊殿』。

この屋敷の主に話を聞きに来たのは良いんだが、よくよく考えてみると今この屋敷には八坂と洩矢の奴が着ているんだよな。

アイツ等と鉢合わせになると色々と面倒な事になる予感がするし、もう少し時間を置いてから尋ねるべきだったか。まぁ此処まで来て引き返すのも癪だし、奴等と鉢合わせしてしまったらそのとき考えよう。

玄関のドアを開け、屋敷の中に入ると中は驚くほど静かだった。

屋敷の主の妹が帰って来たんだし、出迎えの一つや二つあると思っていたんだが……そんな様子も特にない。

この様子だと妹君が帰ってきたんだと屋敷の連中が認識していない可能性もあるな。

無意識を操る程度の能力。便利であるのと同じかそれ以上に不便な能力だな。

 

「ん? どうかしたの?」

「いや、なんでもない。それより、こいしの姉さんが何処に居るか分かるか?」

「うん。道案内なら任せてよ」

「それは頼もしい言葉だが、寄り道はしないでくれよ」

「はいは~い」

 

掴んでいた襟首を離してやって、こいしに姉のところにまで案内を頼む。

紅魔館なみに広い屋敷をこいしは迷わず歩いていき、二階にある一室の前にまで辿り着く。

流石に姉の私室に連れてくるなんて事はないだろうから、恐らく此処は地霊殿の応接室ってところか。

直接姉に会わせてくれれば良かったんだが、流石にいきなり私室に連れて行くわけないよな。

そう思いながらドアに手を掛けようとすると、部屋の中から話し声が聞こえてくる。

扉越しのため詳しい内容は聞き取れないが、八坂と洩矢のやつがまだ姉を話をしているんだろう。

いきなり部屋に押し掛けて話に割り込むわけにも行かないし、もう少し時間を空けてから来るべきだったか。

話し合いが何時まで続くか分からないし、何処かで暇でも潰してこようかと考えていると―――

 

「たっだいま~、お姉ちゃん!!」

 

―――こいしの奴がドアを勢いよく開けて部屋の中に乱入しやがった。

いや、彼女の家だから俺は別に構わないんだけど、来客がいる時はもう少し空気を読めよ。

 

「こ、こいし?! 突然なんですか、いきなり入ってくるなんて」

「そんなに怒らないでよ、お姉ちゃん。新しいお客さんが来たから案内しただけだよ」

「新しいお客? 一体誰が……って、貴方は」

「……よう、久し振りだな」

「げっ白竜……」

「こ、今回の件は私らは関係無いからね! 本当だからね!!」

「別にお前等を追いかけてきたわけじゃねぇよ」

 

八坂と洩矢は予想通りの反応だったが、実際にこういう反応をとられると流石にチョット傷付くな。

まぁコイツ等を何度も叩きのめしたんだから仕方がない事だけど、此処まで露骨に拒絶されるもな……。別に好かれたい訳でもないけどさ。

 

「山の神に続いて竜神ですか。今日は神様が良くやって来る日ですね」

「俺を勝手に神様扱いするな、傍迷惑だ」

「いや、寧ろお前さんを普通の竜として扱うのは無理があるだろ」

「うるせぇ。……ところで古明地の、そいつ等との話し合いはもう終わったのか」

「えぇ、殆ど。今は灼熱地獄跡を使った実験施設の話をしていましたが、大した内容ではないのでお構いなく」

「そうかい。なら、なんで俺が此処に来たのかは説明する必要はないよな」

「はい。ですが……随分とおかしな事を聞きに来たのですね」

「何の手掛かりもなくて手詰まり状態なんでね。……それで、あの骸骨騎士たちは何を考えているんだ?」

 

古明地に問い質すと、部屋の中の空気が一気に張り詰める。

八坂と洩矢はもちろんの事、部屋の空気に当てられたのかこいしまでもが黙って古明地の言葉を待つ。

 

「……はっきり申し上げれば彼の考えは私には理解出来ないものです。彼が考えている事は救済、ただそれだけです」

「救済? 一体何から誰を救おうとしてるんだ?」

「特定の個人ではなく、全ての存在を救おうとしているのです。この世に在る全ての存在を救済するために殺戮を繰り返している。怨霊などの霊魂を襲っているのも、彼からしたら救済の一つなのでしょう」

「……成仏する事もできず、罪を償うまで地獄の責め苦を味わい続ける連中を救おうとしてるってのか」

「恐らくですがそうなのでしょう。閻魔が下した罰を否定し彼らを救おうとしていますが、私には理解出来ない行為です。しかし、私が彼から読み取る事の出来た感情はそれだけなのです」

「ちょっと待ってくれないか、さとり。全てを救うために殺戮を繰り返すなんて幾らなんでもおかしいだろ」

「そうだよ! それじゃ救えるものも救えないじゃないか!」

「……いや、そうとも言い切れないな。場合によっては死ぬ事が救いになる事もある」

 

古明地の話を聞いて頭に浮んだのは、昔一緒に旅をしていた仲間の姉の事だった。

戦火で傷付いた人々を見舞いに行った先で敵に連れ去られ、狂気の研究のモルモットにされた人。

普通に考えれば八坂や洩矢のいう様に殺す事が救いに繋がるなんて思えないが、彼女の事を想えばあの時のクレイの判断はきっと彼女を救うことに繋がった筈だ。……そう願わなければ彼女が哀れでならない。

 

「……エリーナさんですか。随分と綺麗な方ですね」

「ッ! 俺の心を読んだのか。それがアンタの能力だから仕方がない事とは言え、そうやって直ぐ口に出す癖は直したほうがいいぞ。嫌われる原因だろうからな」

「今更だとは思いますが一応善処しておきます」

「白いの、そのエリーナって誰? もしかして昔の彼女?」

「違う。昔一緒に旅をしていた仲間の姉さんだ。彼女は神を創るなんて馬鹿げた研究の実験体にされて、死ねない身体になったんだ」

「死ねない身体になったって、不老不死の研究とはまた違う物なのかい? 幾らなんでも神を創ろうだなんて無茶も良いところだ」

「あの研究の全容なんて知らないし、知りたくもない。あんな事なんか思い出したくもない」

 

あの実験の事は今でも忘れてしまいたい記憶の一つだ。アレに関しては嫌悪の感情しか湧いてこない。

神を創ろうとすること自体が理解出来ないのに、実際にそれを実行した奴等の考えなんて分かりたくもない。……あんなの、まともな人間の発想じゃねぇよ。

 

「とにかく、あの人は自分でも死ぬ事が出来ない身体になって、好きだった人に自分を殺してくれと頼んだ。そして彼は彼女の願いを叶えてやった。俺が知ってるのはその位だ」

「……それでその人は救われたって言うのか? 好きな人の手で殺される事で彼女は救われたと?!」

「少なくとも俺はそう願ってる。……それともなにか、八坂の。お前は化け物のまま永遠を生きろとでも言うのか? もう人間とも呼べない様な身体で生き続けろと? そっちの方が死ぬ事よりもずっと辛いだろ」

「…………そう、だな。すまない、わたしの考えが足りなかった」

 

八坂が珍しく俺に謝罪すると、部屋の中は重苦しい空気に包まれる。

話す切欠を作った古明地も、何を考えているのか分からないこいしも俺の話を聞いて複雑な表情を浮かべる。

俺としてもこんな話をしに来たわけじゃないんだが、古明地の話を聞いて彼女の事を思い出してしまったんだから仕方がない。

 

「さて、話は変わるが古明地の。お前はさっき骸骨騎士達の事を団体としてではなく、単体みたいに話していたが如何いう事だ?」

「ぇ……あぁ、その事ですか。確かに彼らは団体として行動しているように見えますが、実際には同じ存在の意志もと行動をしています。もし個別に意志があるのなら多少の違いがある筈ですが、彼らは全く同一の心を持っていました。普通ならまず考えられません」

「それはつまり、奴等には個人という概念が無い存在ってことなのか?」

「というよりもあの骸骨達は人形なのでしょう。大本の存在が自分の心を幾つにも分けて骸骨に与えているのではないかと」

「なるほど。考え方としては神降ろしに近いものがあるな」

「……先に言っておくけど、わたしや諏訪子は今回の件とは一切関係無いからね」

「分かった分かった」

 

予防線を張ってくる八坂を適当に聞き流し、古明地から聞いた情報を纏める。

話を聞いて分かった事が奴等の目的が殺戮による救済だって事と、今まで戦ってきた奴等は全て人形と同じで、実際には何者かの意志の元で動いていたって事か。

こんな事を仕出かせる妖怪なんて俺は聞いたことがないし、ただの妖怪が全ての存在を救うために行動するとは考え難い。

あの僧侶の一派なら全てを救うための行動を起こしても不思議じゃないが、骸骨どもがやっているのはただの殺戮だからあそこの連中は除外してもいいだろう。平等を謳ってはいるが殺戮を肯定するとは思えん。

大体自分の心を幾つにも分けて兵士を作るなんて能力を持っている奴は居なかったし、そんな事が出来そうな存在なんて神々くらいしか思いつかない。

あまり考えたくない事ではあるが、現状でこんな事が出来そうな存在を俺は他に知らない。

それに今里で流れている噂と、蓬莱が言っていた〝神様〟の事を考えれば可能性は十分にある。あるんだが……神殺しである俺が幻想郷に居るのにそんな事をするか?

正面から俺に戦いを挑める神なんて限られているし、それ以外の連中は俺を恐れて極力関わろうとはしない。

こんな事をすれば俺の怒りを買うだけだと分かりそうなもんだが、もしかして俺の事を知らない神がこの星に居るのか? だとしたらそれは一体何処の神様だよ。

 

「……一つの謎が解けたと思ったら今度は別の謎が出て来たか」

「その様ですね。ですが世界は広いといいますし、貴方の事を知らない神がいても不思議ではないでしょう」

「別にそれは問題じゃない。俺が気にしてるのはどの神を倒せば良いのか分からないって事だ。手当たり次第に叩きのめす訳にも行かないだろ」

「貴方は神々と戦争でもする気ですか? 死が救いになると認めている貴方が」

「確かに否定はしないが、そいつがやっているのは只の押し付けがましい救済だ。全ての存在が死を願っている訳じゃないのに救済という名目で殺されて堪るか。俺はアイツ等と一緒に生きていたいんだ」

「その為ならば救済を謳う神を殺すというのですか」

「嗚呼。相手が何処の誰だろうと、こんな傍迷惑な救済を押し付ける輩は滅ぼしてやる」

 

二柱の神がいる前で俺は堂々と神を殺すと宣言してみせた。

流石の二人は目を丸くして驚いている様子だが、過去に多くの神々を討ち取ってきたんだ。今更増えたところで何も変わりはしない。

 

「はぁ……。呆れ果てるとは正にこのことですね。神がいる前でその様な発言をしますか、普通」

「俺が神殺しだってのは古くから知れ渡っているからな、今更だよ。それよりも貴重な話を聞けた、礼を言う」

「いえ、此方としてもあの存在には困っていたところです。それをなんとかしてくれると言うのでしたら協力は惜しみません」

「そうかい」

「あ、あの白竜が他人に礼を言うだなんて……信じられん。明日は季節はずれの雪でも降るんじゃないか」

「あのなぁ~……。俺だって他人に感謝する時くらいあるっての」

「そうは言うけど私らは白いのにお礼なんて言われた事無いんだよ。驚くなって方が無理だよ」

「それはお前等の行動に問題があるんだろうが。ちったぁ自分の行動を顧みろ」

「うぐッ! い、痛いところを付くなぁ」

 

この神々は本当に反省しているのかしていないのか分からないが、コイツ等に付き合っていても時間の無駄になるだけだ。一々気にするのは止めにしよう。

 

「それじゃ俺はもう帰る。色々と世話になった」

「道中お気をつけてお帰り下さい」

「またねぇ~お兄さん」

「あぁ、またな」

 

彼女たちに別れを告げて、俺は地霊殿の応接室を後にする。

今回の調査で分かった事や新たに出て来た謎もあるが、今後の俺達が取るべき方針が何となく見えた。

一先ずは今回の事を霊夢たちに話してから、今里で流れている噂の調査とこんな事をしそうな神に付いて調べる必要がありそうだな。

噂の方は里に足しげく通うしかないが、神については……龍神の奴に聞くか、紅魔館の図書館を使わせてもらうしかないか。

 




BOFⅣの終盤にあるエリーナのイベントは今でも覚えてる。アレは本当に辛いイベントだった……。
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