リュウSide
霊夢の家……じゃなくて、博麗神社に居候が決まった翌日。
俺は朝食を食べた後、霊夢から仕事を頼まれた……と言うか、押し付けられた。
俺としてもタダで住まわせて貰えるとは思っていないし、仕事を頼まれるとは思っていたが、まさか押し付けられるとは思ってなかった。
ちなみに、その押し付けられた仕事と言うのは、この神社の境内の掃除。
普段は霊夢が一人で掃除しているそうだが、今後は俺に掃除を任せる様だ。
「しかし、この時間にする事が掃除だけとは……」
渡された箒を片手に呟くものの、巫女の仕事を知らないんだし、雑用を頼まれるのは当然と考え割り切る事にした。
とは言え、俺が掃除をしてるなんてフォウルが知ったらどんな反応をするのやら。
元は同じ存在だとして、永い時間分かれていたから俺とは性格が全然違うんだよな。
「……アイツならきっと、『何故その様な事をしなければ為らない』とか言って、霊夢と喧嘩しそうだな」
その事を考えると、何故か苦笑いが零れた。
自分であるのに何処か他人の様な感じだからか、それとも考えるだけ無駄だからか。
どちらの答えも正しい様な気がするが、今は置いておこう。
コレ以上物思いに耽っていると、霊夢に怒られそうだし。
「…よし、それじゃ頑張ってみるか」
俺は箒を握り締め、慣れない手付きで境内の掃除を始めた。
………
……
…
掃除を始めて大体1・2時間が経っただろうか。……掃除は未だに終わっていない。
……いや、うん。正直言って、掃除と言うものを舐めてました。
この作業って、こんなにもメンドクサイものだったんだな。
旅をしていたから、料理を作ったり使った食器を洗ったりはしてたけど、こんな風に掃除をした記憶はないな。
フォウルの時なんて戦う事しかしてなかったから、料理を作るなんて事はなかったし。
それにアイツは、西の大陸を統一した帝国の初代皇帝だから、掃除をするなんて発想自体が無い様な気がする。
こうやって考えてみると、本当に俺とフォウルって違うな。
一つになる前は分からなかったけど、今ならアイツとの違いや考えが良く分かる。
……でも、やっぱり俺はリュウよりの人格だ。考えが分かってもアイツの様に人を滅ぼそうとは思えない。
俺はリュウの様に力を捨てる事は出来ない。だったら、あの古竜達の様にこの地を見守るのも良いのかも知れないな。
「もし、少しお時間宜しいかしら?」
「…?」
掃除をしながら色々と考えていると、紫色のドレスを着て日傘を差した金髪の女性に話し掛けられた。
幾ら俺が物思いに耽っていたとは言え、話し掛けられるまで彼女の存在に気が付かないとは思わなかったな。
「えっと…俺に何か用ですか?」
「いえ、貴方ではなく霊夢に用があるのだけど…何処に居るか知らないかしら?」
「霊夢なら母屋の方に居ると思いますよ」
「そう。有り難うね、異世界の竜さん」
「えっ?」
女性がそう言うと、そのまま母屋の方へと歩いていった。
俺は彼女に声を掛けようと思ったけど、なんでか言葉が出て来なかった。
如何して言葉が出て来なかったのか分からないけど、あまり彼女に関わりたくない……そう思ってしまったから。
リュウSide out
霊夢Side
「……今日も平和ねぇ~」
そんな事を呟きつつ、縁側で用意したお茶を一杯飲む。
リュウが境内の掃除をしてくれるお陰で、私は普段よりものんびりしてられる。
最初にアイツを拾った時は如何しようかと思ったけど、こうして見ると良い拾いモノだったのかも。
……まぁ、掃除の腕前はイマイチみたいだけど。
昨日の話しを聞く限りは、まともな掃除の経験が無いみたいだし、多少時間が掛かるのは仕方が無いか。
それに、アイツに頼める仕事って言うと雑用しかないのよね。流石に巫女の仕事は任せるわけにもいかないし。
「ハァ~イ。お久し振り霊夢」
「帰れ」
「……いきなりそれは酷いじゃない」
縁側でお茶をしていたら、いきなり八雲 紫がやって来た。
全く、このスキマ妖怪は何をしに来たのやら。……本当に下らない用事だったら、全力で追い返そう。
「今日は何をしに来たのよ。下らない用事だったら怒るわよ」
「全然下らなくないわよ。……今日来たのは、あの竜に付いてよ」
「リュウが如何したのよ」
「惚けるんじゃないの。…貴女も気が付いてるでしょ。あの莫大な力を」
「……………」
成る程、紫が何を言いに来たのか分かったわ。
要するに、リュウの力が幻想郷の害になるか如何かって話しね。
まぁ、紫の心配も分からなくも無いけれど、私は其処まで気にしなくても良い様な気がするな。
「単純な力なら鬼を陵駕する程よ。幾ら修行をサボリがちの貴女でも理解出来るでしょ?」
「当たり前よ。アイツの力が分からない程鈍っちゃいないわ」
「だったら、何故あの竜を住まわせるの」
「別に大した理由は無いわよ。ただ、アイツを放り出すのが危険だと思っただけよ」
「……本当にそれだけ?」
「如何言う意味よ」
「別に大した理由はないわよ」
「ふ~ん……。それで? アンタから見てリュウは如何なの?」
「…正直、訳が分からないわ」
「でしょうね」
アイツが持っている力を見たら弱い妖怪は逃げ出すだろうし、紫の様に強い妖怪は警戒を始める筈。
でも、実際のアイツを見るとごく普通の少年と言った感じにしか映らない。
確かに力は神と崇められるだけのモノはあるんだけど、威厳と言うものが一切ない。
正直な話し、あの性格なら人里で暮らしてもバレないと思うのよね。
「様子を見るために近付いたら、境内を掃除してる上に、普通に応対されて拍子抜けだったわ」
「アレだけの力があるのに、境内の掃除をしてたら妖怪賢者のアンタでも拍子抜けするか」
「…それと同時に、霊夢の神経の太さにも驚いたわ」
「失礼ね。私の何処が図太いのよ」
「其処までは言ってないわよ」
「言ってるようなもんじゃない」
否定する紫に私は思わず食い掛かった。
神経が図太いと言われて嬉しくないし、コイツにだけは図太いなんて言われたくない。
「まぁ、それは置いておくとして―――」
「置いとかないでよ」
「―――今後は彼を如何する積もり?」
「……別に如何もしないわ。このまま神社に居候させるだけよ」
「もし暴れだしたら如何するの?」
「その時は……私がアイツを討ち取る。元々そう言う約束だしね」
「そう。なら、もっと真面目に修行しなさい」
紫はそう言うと、地面に作ったスキマに潜り忽然と姿を消した。
全く、最後の最後で小言を言って行ったわね。如何言う形であれ、巫女の仕事をこなしてるんだし問題ないじゃない。
紫が消えた縁側で一人、温くなったお茶を啜りそんな事を思った。
………
……
…
紫が帰ってから少し経って、リュウが私の元にやって来た。
如何やら境内の掃除が漸く終わったみたい。……でも、二時間半は掛かり過ぎね。
「全く。もっと手早く出来なかったの」
「初めてだから勝手が分からなくて」
「言い訳しない」
「はい、すいません」
私が叱るとリュウは少し落ち込むが、その姿を見ると本当に竜なのか疑問に為ってくる。
いや、コイツから感じられる力は明らかに人の物じゃない……んだけど、なんか釈然としない。
別に媚び諂ってる訳じゃないんだけど、如何しても納得出来ないのよね。
これじゃ、何処にでも居る普通の少年と変わらないじゃないの。
「…………」
「ん? 俺の顔に何か付いてるのか?」
「ええ。目と鼻と口が付いてるわ」
「いや、それは付いていて当然だろ」
適当にからかって見ても、返って来る反応は普通なもの。
これで変な返しをされても困るけど、これじゃ益々威厳が無くなるわね。
……威厳のあるリュウか。イマイチ想像出来ないわね。
「ねぇ、リュウ。ちょっと威厳のある一言を言ってみてよ」
「へっ? なんで?」
「良いから」
「…………………余に従え愚民共」
「うわ、似合わない上に無性に腹が立つ」
「言わせたの霊夢だろ?!」
「うっさい」
こうして話してると、こいつに威厳なんてものを求めるのは無理ね。全然似合わないし。
そう考えると、今のリュウが一番合ってるのかも知れないわね。
日本の神様だって、時には人間以上に人間くさく為るんだし。
「…それじゃ、食料買いに行くわよ」
「今から?」
「そうよ。元々一人分しか蓄えてないのに、アンタが居候するんじゃ数日で蓄えが無くなるわ」
「成る程」
「分かったんなら、荷物持ち宜しくね」
「りょーかい」
こうして私とリュウは、神社を下りて人里へと向かった。
本当は空を飛んで行けば速いんだけど……まぁ、道案内がてらノンビリ歩いて行きますか。
霊夢Side out