竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二十話 湖での釣り

 

木枯らしが吹き抜ける中、俺は神社の倉庫を漁っていた。

そろそろ冬も本番になると言うことで、霊夢から防寒具を持って来てくれと頼まれたからだ。

コタツと言う少し変わったテーブルと、火鉢(ひばち)と言う石で出来た器らしいんだが……どれがそうなのかよく分からん。

倉庫の中には色々な道具が置いてあって、言われたものを捜しだすのも一苦労だ。

古びた巻き物や書物なんかはまだ分かるが、如何考えても使わないだろう家具がどうかと思う。

頼まれた物は毎年使う物だから、変な場所には入り込んでないらしいんだが、初めて入る俺に探せというのは無謀だったんじゃないのか?

そんな事を考えつつ、俺は違うと思うものを退かしながら倉庫の中を捜していると、ふとした拍子に一本の釣竿を見つけた。

前に何処かで見た事のある収納式のロッドに、糸が付いた丸いリール。

霊夢は釣りをしない筈なのに、なんでコレが倉庫に眠っていたんだろうか?

俺はそんな疑問を持ちつつも、その釣竿を手に取り観察してみる。

 

「……もしかしてコレって、とびまるの竿じゃないのか?」

 

手に取って見てみると、あの世界で金欠で困って売った竿にそっくりだった。

ロッドの長さといい、リールの大きさといい、何処を如何見てもあの竿としか思えない。

なんでこの釣竿が博麗神社の倉庫に眠っているのか謎だけど、使わないのなら俺が貰っても良いかのな?

釣竿を手にしながらそんな都合の良い事を考えていると、誰かが倉庫に入って来た。

俺は誰かと思い出入り口を見てみると、其処には霊夢が立っていた。

 

「よう、霊夢。何か用か?」

「アンタが戻って来ないから様子を見に来たのよ」

 

霊夢は呆れ顔でそう言うと、隙間を縫うようにして俺の傍にやって来た。

 

「……その竿、如何したのよ?」

「如何って…この倉庫にあった奴だけど?」

「なんでウチの倉庫にそんなのがあるのよ」

「……俺が知る訳ないだろ」

 

俺が溜息交じりでそう言うと、霊夢はなにやら考え始めた。

俺は霊夢の邪魔をしては悪いと思い、頼まれていた防寒具の捜索を再開した。

辺りにある道具を退かしながら、それらしいものを探すが……やはり中々見付からない。

探す場所が違うのかと思い、今度は今まで探していたのとは反対側を捜し始める。

反対側を捜し始めると、直ぐに変わったテーブルと石で出来た器を発見した。

 

「なんだ、こんな所にあったのか」

 

俺はそう呟いてから、持ち運びの楽そうな火鉢からもって行く事にした。

火鉢の中にさっきの釣竿を入れ、火鉢を持ち上げる。

石で出来ているからか見た目よりも重いが、けして運べない重さじゃない。

俺は霊夢を倉庫に残し、火鉢を持って居間へと向かった。

 

居間に火鉢を置いたら、今度はコタツを運ぶ為に倉庫に戻る事にした。

だが倉庫に向かうと、そのコタツは既に霊夢が運び出そうとしている。

一人で運ばせる訳にも行かないし、霊夢の手伝いをしに直ぐに向かった。

 

「手伝うぞ、霊夢」

「お願い」

 

俺は霊夢の反対側を持ち、二人してコタツを居間に運び入れる。

居間にあったちゃぶ台は既に退かされていて、居間には霊夢は持って来たと思われる布団が置いてあった。

俺達はコタツの足を立たせて居間に置き、その上に布団を乗せ、最後に重石代わりの板を布団の上に乗せた。

 

「……よしっと。これで少しはマシになるわね」

「コレでか?」

 

霊夢は満足そうに言うが、俺は訝しげにそう尋ねた。

俺はコタツも火鉢も初体験だから、霊夢の言葉がイマイチ信じられない。

幻想郷の防寒具としては一般的らしいのだが、俺が居た世界ではこんな物見た事が無い。

特に火鉢なんかは、中に灰が詰まっているだけで本当に温まるのか怪しいものだ。

 

「本格的に使うのはまだだけど、今はこれで十分よ」

「ふ~ん」

 

霊夢はこう言うが……やっぱり信じられない。

別に霊夢が信じられない訳じゃないが、やっぱり火鉢がかなり胡散臭い。

囲炉裏はまだ信じられるんだけど、この見た目がどうもな。

 

「……納得してないみたいね」

「そりゃな」

「まぁ、別に良いけどね。……それよりもリュウ。あの釣竿の事だけど」

「…? アレが如何かしたのか?」

「わ、私はもう使わないから、アンタにあげるわ」

 

霊夢は少し顔を赤くしながら、そんな事を言って来た。

なんで顔を赤くしてるのか分からないけど、俺にとっては願ってもない事だ。

今までにも何度も釣りがしたいと思っては諦めていたからな。

 

「本当にアレを貰っても良いのか?」

「えぇ。……それともなに? アレじゃ不満だって言うの?」

「そんな事ない! 物凄く嬉しいよ! ありがとな、霊夢!!」

「ぇ? あ、うん。どう致しまして」

「それじゃ俺、早速釣りに入って来る! 夕食までには戻ってくるから!!」

 

俺は霊夢のそう告げると、火鉢に入れている釣竿を取り出し、外に飛び出した。

 

 

 

………

……

 

外に飛び出した俺が向かったのは『霧の湖』。

何時もの様に霧が立ち込めているが、里の噂でこの湖は大物がいると聞いていた。

それを確かめる意味も兼ねて、俺はこの湖にまでやって来た。

 

湖に着いた俺は、まず適当な地面を掘り返してミミズを探す。

釣竿が針はあるものの、肝心な餌を持っていない。

だから、地面を掘って餌に使えそうなのを捜す事から始めた。

ミミズを何匹か捕まえたら、ロッドを伸ばし、ミミズに針を刺す。

此処までの準備が出来たら、後は針を遠くまで投げ飛ばし魚を誘う。

 

「……………」

 

霧の所為で遠くの状況が分からないが、岩や木にぶつかった感触はしない。

後は底の岩や水草に絡まないように注意しつつ、一定のリズムでリールを巻いて行く。

数ヶ月ぶりの釣りと言う事もあって、いきなり難しいのではなく簡単なもので慣らす。

 

一定のリズムで巻いて行くと、針が足元にまで戻って来てしまう。

俺はもう一度針を投げ飛ばし、今度は違うリズムで針を巻いて行く。

さっきとは違うリズムでリールを巻くものの、やはり当たりはなく針がまた戻って来る。

俺はもう一度針を遠くに投げようとするが、針が何かに引っ掛かってしまった。

周りに木々の少ない場所を選んだのに、一体何に引っ掛かったんだ?

そんな事を思いつつ後ろを振り返ると、針が引っ掛かってスカートが捲れ上がっている銀髪のメイドが居た。

 

「……………」

「何か言い残す事は?」

「えっと、そんなところに居たら危ないぞ?」

「死ネ」

 

メイドが無表情になると、俺の周囲に無数のナイフが出現した。

ナイフは俺の周りを取り囲む様に浮んでおり、既に逃げ場は残されていない。

そしてナイフ達は一斉に襲い掛かり、俺は全身串刺しの刑に処された……。

 

 

 

 

………

……

 

「いって~。咲夜、もう少し手加減してくれよ」

「殺されなかっただけマシだと思いなさい」

「うぇ」

 

俺は咲夜にナイフを抜いて貰いながら、回復魔法を使って怪我を治して行く。

腕とかに刺さったモノは自分で抜けるが、背中に刺さったモノは如何する事も出来ない。

だからと言って、刺さったままでいると血が抜けて気分が悪くなる。

出血多量で死ねるのか分からないけど、このまま血を流し続ける訳にもいかないからな。

 

「それで、貴方は此処で何をしてるのよ」

「見ての通り釣りだ」

「……へぇ。貴方の言う釣りってのは、女性のスカートを捲る事なの」

「だから、アレは事故なんだって」

 

一応弁解しようとしてみるけど、咲夜は責める様な視線で俺の事を睨みつけて来る。

ナイフが刺さっている間に、さっきの事が事故だと説明したが信じて貰えなかった。

……でも、捲ったのも事実だから簡単に信じて貰えないも仕方がない。

だけど、いきなり俺の真後ろに出現する咲夜も悪いと思う。

 

「何か言いたそうね?」

「……ベツニナニモ」

「そう」

 

俺は文句の一つでも言おうと思ったが、血の付いたナイフを向けてきたので止める事にした。

咲夜はナイフを仕舞うと、引き続きナイフを抜く作業に戻った。

ナイフを抜かれる度に痛みが走るが、刺さったままだと回復の邪魔になるので我慢するしかない。

……暫くの間痛みに耐えていると、漸く全てのナイフが取り除かれた。

 

「あ~…痛かった」

「自業自得よ」

「だからアレは事故なんだって」

「関係ないわ」

「……さいですか」

 

咲夜の辛辣な一言に俺は肩を落とす。

それでも頭を切り替えて、俺は竿を取りもう一度釣りを始めた。

今度はさっきみたいな失敗をしないように、咲夜から離れた位置に移動してから針を投げる。

予想外のトラブルで時間を喰ったが、まだ釣りを楽しめる時間は残っている。

俺はまた一定のリズムを刻みながらリールを巻いて行く。

 

「貴方の釣竿、随分と変わってるけど……香霖堂で買ったの?」

「霊夢に貰った」

「……あの巫女が人にプレゼントをあげた?」

 

霊夢がプレゼントを贈ったのが予想外らしく、咲夜はかなり驚いた表情をする。

 

「いや、驚く事じゃないだろ」

「そう言うタイプには見えなかったのよ」

「ふ~ん」

 

俺は適当な返事で返しつつ、足元に戻って来た針をもう一度遠くに投げる。

 

「……そう言えば咲夜って何しに来たんだ? 買い物に行く途中か?」

「お嬢様から〝リュウが来たから様子を見てきて〟と言われたのよ」

「なんだそりゃ?」

「それは私が聞きたいわよ」

 

レミリアの良く分からない指示を聞いて、俺と咲夜は首を傾げた。

なんでそんな事を言って来たのか気に為ったが、指示を受けた咲夜が分からないのに俺に分かる訳がない。

そう考えた俺は、また戻って来た針を遠くに投げ飛ばした。

 

何度も投げているが、一向に魚が掛かる様子がない。

コレで駄目だったら別の場所に移動した方が良いかもしれないな。

そんな事を考えながらも、俺は一番難しいリズムを刻んでリールを巻き上げていく。

 

リールを巻いていると、針に仕掛けた餌に何かが喰らい付いたのを感じた。

喰らい付いたのを感じた俺は、竿を立てその当たりに素早くアワせる。

アワせた瞬間、針が魚の口に引っ掛かったのか、魚が物凄い勢いで暴れ始めた。

 

「おっしゃ、HITッ!!」

「な、何事?!」

「魚が掛かったんだ! ……この手応え、かなりの大物だな。…おもしれぇ、俺も全力で相手してやるよ!!」

「……貴方、ちょっと性格が変わってるわよ」

 

咲夜が若干引き気味に何か言ってくるが、今は気にしている余裕がない。

今回掛かった魚は引きがかなり強く、リールが中々巻けない。

まだ距離があるにも関わらず、滅茶苦茶に暴れまわっている。

あまりの強さに、コッチが湖に引き込まれそうだ。

足を踏ん張り、腰を入れるが……それでも引っ張られていく。

……このままだと不味いと思い、俺は近くにいる咲夜に声を掛けた

 

「咲夜! 悪いけど手伝ってくれ!!」

「手伝うって……時を止めて魚を持って来れば良いのかしら?」

「違う!! 俺の身体を支えてくれって言ってんだよ!!」

「支えるって言われてもねぇ」

「俺に抱き付くとか色々あるだろ! コッチは今にも持って行かれそうなんだ! 早くしてくれ!!」

「……あ~もう。仕方が無いわね」

 

咲夜は文句を言いつつも、俺の腰に抱き付いて支えてくれた。

コレでさっきよりはマシになったが、魚の勢いは衰えるところを知らず、なんら変わらない勢いで暴れ続ける。

それでもなんとかリールを少しずつ巻いて行くと、霧の向こうで大きな魚が飛び跳ねるのが見えた。

跳ね上がった魚の全長は……凡そ200cm。

過去に釣り上げた勇魚(いさな)の250cmには及ばないが、それでもかなりの大物だ。

……あのサイズとなると『バラムンディ』か『スタージョン』クラスか!!

 

「フハハハハハハハッ!! テンション上がって来たーッ!!」

「……キャラ変わり過ぎよ」

 

咲夜が何か言って来てるが、そんな事は気にしない。

俺はただリールを巻く事にだけ専念する。

 

 

………

……

 

……魚と格闘し始めてから、既に10分近くが経過した。

本当に少しずつではあるけれど、徐々に魚との距離が近くなって来てる。

このまま行けばあの魚を釣り上げられるが、此処に来て最後の抵抗を始めた。

突如魚が糸を加えたまま沖に向かって泳ぎ始めたのだ。

コッチは二人掛りで踏ん張っているが、それ以上に魚の勢いの方が強い。

それでも俺は負けまいと必至になってリールを操る。

 

「ねぇ、まだ釣れないの?!」

「あと…ちょっと!」

 

咲夜も頑張っているが、俺もそろそろリールを巻く手が疲れてきた。

だが、向こうも疲れて来たのか、先程までの勢いが無くなって来ている。

俺は魚が落ち着いたのを見計らって、一気にリールを巻き上げる。

 

漸くの思いで糸を巻き上げ、岸辺に浮かび上がってきたのは、薄い黄色の鱗を持つ巨大魚。

俺も目算どおり、全長200cmは下らないだろう。

魚が近くまで来た所で、俺は竿を地面に置き、咲夜に頼み事をする。

 

「咲夜。コイツを岸に上げるのを手伝ってくれ」

「え、えぇ」

 

返事をすると、咲夜は俺の腰から離れ魚の尾の方を持つ。

俺は頭の方を持ち、力を合わせて魚を持ち上げ岸に上げた。

 

「おっしゃー! 漸く釣れたーッ!!」

「つ、疲れた……」

 

ずっと俺を支えてくれた咲夜は、本当に疲れたのかその場に座り込んだ。

俺も久し振りのファイトで疲れたけど、今は喜びの方が大きかった。

 

「ありがとな、咲夜! コイツを釣れたのもお前のお陰だよ!!」

「……それは良かったわね」

 

俺はお礼を言うが、咲夜は疲れた様子で適当な返事をする。

あの屋敷のメイド長をしてるから、もっと体力があるのかと思ったがそうでもないのか?

俺は一刻も早く霊夢のこの成果を見せたかったが、こんな状態の咲夜を置いて行く訳にもいかない。

そう考えた俺は、釣竿を手早く片付けると、咲夜を片腕で抱き抱え、反対の手で魚を持ち上げた。

 

「ちょっと何してるのよ」

「何って……このまま紅魔館に運ぼうかと」

「別にそんな事する必要はないわ。私は歩いて帰れるから」

「んな無理しなくても―――」

「―――無理はしてないから降ろしなさい」

「はい」

 

俺は首元にナイフを突き付けられ、大人しく咲夜を降ろす事にした。

地面に降ろすと少しふら付いたが、直ぐに立て直した。

 

「それじゃ、私帰るから」

「今回のお礼に少し分けるけど?」

「要らないわ。……それじゃあね」

「おう、またな」

 

短い挨拶を交わすと、咲夜は忽然と姿を消した。

俺は魚を持ち直し、そのまま博麗神社へと帰る事にした……。

 

 

 

………

……

 

巨大魚を持って神社に帰ると、居間で霊夢と魔理沙がお茶を飲んでいた。

二人は俺が帰ったのを察知したのか、こっちを見ると眼を見開いて驚きを顕わにする。

 

「ちょっとリュウ! その馬鹿デカイ魚はなによ?!」

「マジでデカイな……。一体何処で釣ってきたんだ?」

「霧の湖で釣って来た」

 

俺は魚を高々と持ち上げ、二人に今回の釣果を見せる。

 

「いや~。釣りをするのは久し振りだったけど、腕がさび付いてなくて良かったよ」

「それは良かったわね。(……こんなに喜んで貰えるなら、もっと早くあげれば良かった」

「…? 今何か言ったか?」

「な、なんでもないわよ!」

「…?」

 

霊夢は少しムキに為りながらそう言うが、一体如何したのだろうか?

前々からそう言う事があったが、なんでムキになるのかが分からない。

魔理沙にそれとなく聞いたりもしたが、如何やら〝乙女心〟ってものらしい。

それが何なのか分からないが……男の俺には理解出来ないモノだと言う事は分かる。

魔理沙にそう言ったら、〝霊夢の奴、苦労しそうだな…〟って遠い目をされたっけか。

 

「ところで、その魚は如何するんだ?」

「そりゃ、食べるに決まってるだろ」

「……食べれるの、それ?」

「うん」

「「……………」」

 

霊夢と魔理沙は怪しそうにジッと魚を見てくる。

二人が何を心配してるのか知らないが、大抵の物は確り火を通せば食べられるぞ。

あの世界でも色んな魚を釣っては、旅の食料にしてたから間違いない……筈。

 

「……霊夢、頼みがあるんだが」

「分かってるわよ、魔理沙の分の食事も用意するわ」

「流石霊夢。話が早いぜ!」

「はいはい。……それじゃリュウ。その魚を台所に運んで頂戴」

「了解っと」

 

霊夢に頼まれた俺は、台所へ向かい邪魔に為らない場所に魚を置いた。

……そして、この日の夕食が魚尽くしだったのは言うまでも無い。

 




最近の暑さの所為で編集する気力が中々湧かない。
……マジで夏なんて無くなれば良いのに。
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