フランSide
今日は朝早くからリュウが屋敷に遊びに来てくれた。
最近は忙しくて遊んでくれなかったし、お姉様が外は危険だからって屋敷から出してくれなかった。
だから今日は久し振りに思いっきり遊べると思ったんだけど―――
「ねぇリュウ、遊ぼうよ~」
「ん、後でな」
「ぶー……」
―――リュウは図書館で本ばっかり読んでいてちっとも構ってくれない。
今日は調べる物があってきたって言っていたけど、別にそんなの後でもいいじゃん。本ばっかり読んでいてもつまらないもん。
それにリュウが読んでいる本って神様に関する本ばっかりで、私はちっとも面白くない。
そんな訳の分からない本ばかり読むならフランと遊んでくれたっていいと思うの。
「こう見えても俺も忙しいんだ。そんなに忙しいならレミリアと遊べばいいだろ」
「それだけは嫌」
「なんでだよ。アイツもどうせ暇を持て余しているんだろ?」
「確かにそうかもしれないけど、お姉様とは当分遊ばないって決めてるの」
「遊ばないってお前等喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩じゃないもん! アイツの横暴に対しての反抗だもん!!」
「あ~はいはい。反抗ね。それで如何して反抗なんかしてるんだ?」
「お姉様がまた私に外出禁止命令を出してきたから!」
「レミリアの奴が? なんでまた」
「知らないよそんなの。ある日突然「フラン、貴女は当分の間屋敷から出る事を禁止にするわ」だって。自分は外に出ているのに私だけ駄目なんて酷いと思わない!?」
今思い出しただけでも腹が立つ! 私は何も悪い事なんてして無いのに、いきなり外に出るななんて幾らお姉様でも横暴が過ぎるよ!
そりゃお姉様は家長だから色々と命令できる立場にあるけど、フランにばかりあーしろこーしろって命令してくるのはズルイよ! フランだって外で思いっきり遊びたいのに!!
「あのレミリアがねぇ~。何か考え合っての事だと思うが……少し気になるな」
「そんな事はいいからリュウ遊んでよ~。このままじゃフラン、暇で死んじゃうよ~」
「安心しろ。そんな理由で死ぬ様な生き物は存在しないから」
「むぅ……。なによ、リュウのバーカ! そんなに本が好きなら本に埋もれちゃえ!!」
「いや、そこまで本が好きってわけでもないんだが……って、ちょっと待てフランッ!!」
「せ~の……そりゃ!!」
リュウの言葉になんか耳を貸さず、リュウの後ろにある本棚を倒してやった。
沢山の本が入っていて凄く重たかったけど、何とか倒してリュウは大量の本と棚の下敷きになった。
―ドサドサドサドサッ―
「ぬがッ!?」
「ん? 今の音は何かしら?」
「さぁ? ちょっと見てきますね」
「お願いするわ」
「あ、不味い」
今の物音でパチェと小悪魔に気付かれちゃったみたい。
この場には倒れている本棚に散らかっている大量の本と、その下敷きになっているリュウとそれを見下ろしている私。……どう考えても直ぐにフランがやったってばれちゃう。
こんな事がばれたらパチェに怒られちゃうし、きっとリュウだって物凄く怒ってるよね。
「……よし、逃げよう」
怒られたくない一心で散らかった大量の本も、下敷きになっているリュウも放置して一目散に図書館から逃げ出す。
パチェと小悪魔に見つからないように抜け出し、脇目も刳らず急いで隠れる場所を探しに行く。
自分の部屋は……きっと真っ先に探しに来るだろうし、お姉様の部屋は隠れる場所も少ないだろうし、バレたらアイツにも怒られるだろうから却下かな。咲夜の部屋なら時間は稼げると思うけど咲夜も捜索に回られたら手も足も出せないな。
そうなるとチルノの家に匿ってもらうのが一番かな。お姉様たちもまさか私が外に出るだなんて考えもしないだろうし、久し振りにチルノと遊べるし一石二鳥ってやつだね。
「そうと決まれば早速家から抜け出さないと!」
「あ~そこのお嬢さん、少しよろしいかな」
「ん? 今の声……誰?」
「こっちだよ、お嬢さん」
声を掛けられてそっちを振り向くと、其処に居たのは知らないお爺さんだった。
人間……がこんな所に来るわけないし、多分妖怪なんだろうけど一体誰なんだろ。
「私に何か用、お爺さん」
「ちょっと道に迷ってしまってね。お嬢さんはこの屋敷の住人かい?」
「うん、そうだよー。お爺さん、その見た目で道に迷うだなんて……もしかして方向音痴?」
「ハハハ、そこまで酷くは無いよ。ただ、この屋敷は広いからね。迷い易いんだ」
「う~ん……そうなのかな? フランは一度も迷った事が無いよ」
「それは君がこの屋敷に暮らしているからさ。初めて来た者からすれば迷い易い屋敷だよ」
「ふ~ん……」
あんまり気にした事は無いけど、他所の人からすればこの屋敷って大きいのかな? 他の人の家って神社かチルノのお家くらいしか知らないから良く分からないや。
「私はこの屋敷から出たいのだが、出口がドッチなのか分からなくて困っていたんだ。すまないが案内してくれないかい?」
「うん、いいよ。フランも外に出ようと思っていたところだし」
「そうか、それは助かるよ。なら早速頼むよ」
「うん! 逸れないでフランについてきてね!」
「あぁ分かっているとも。君にはしっかりと役に立ってもらうさ」
お爺さんを連れて歩き出した途端、自分の体の中におぞましい何かが入って来る様な感触がした。
驚いて後ろを振り返ると、そこに居たのはさっきのお爺さんではなく、蔓の様な腕をもった見た事の無い化け物がいた。
私は驚いて声を挙げようとしたけど、体の中に入ってくるおぞましい感覚に耐え切れず、そこで意識が途切れてしまった。
フランSide out
リュウSide
「……あ~本が片付かねぇ~」
フランに癇癪を起こされ、本の下敷きとなった俺だったが様子を見に来た小悪魔に救助された。
その後パチュリーに事情を聞かれたが、俺はフランを庇って棚が勝手に倒れてきたとだけ説明した。
パチュリーの奴には凄く怪訝な顔をされたが、深くは追求してこなかった。……その代わり本の整理を一人でやらされる破目になったんだけどな。
倒れた分だけだから図書館の蔵書量からみれば少ないんだが、棚一つでもかなりの数が入っているから元通りに整理するだけでもかなり面倒な作業だ。
面倒だから適当に戻そうかとも思ったけど、本がバラバラに並べられてるのって収まりが悪くて落ち着かない。
だから一冊一冊を順番どおりに戻しているんだが……数が多くて嫌になってくる。
「ったく、此処の本はホントに無駄に多いな。こんなに集めたって全部読みはしないだろ」
「全部読むかどうかは重要じゃないわ。重要なのは本の蔵書量よ」
「それはただの収集癖となんら変わらない気がするんだが、その辺りはどうなんだレミリア」
「あら、別に私が集めているわけじゃないわよ。コレクターなんかと一緒にしないで貰いたいわね」
「さいですか」
突然やって来たレミリアの茶々を適当に流しながら、床に散らばった本を棚に戻していく。
ただ本を戻しているだけの作業をレミリアは暇そうに見ているが、そんなに暇だって言うならフランと遊んでいれば良いだろうに。姉妹揃って俺と遊ぶのが好きみたいだが、二人の〝遊ぶ〟は意味が大きく異なるから困る。
「ところでレミリア。お前どうしてフランを外に出してやらないんだ? アイツの実力なら外の連中に囲まれても平気だろ」
「確かにそうだけど……ちょっと嫌な運命が見えてね。それであの子を家に閉じ込めておくしかなかったのよ」
「嫌な運命ねぇ……。フランが幻想郷を破壊し尽くす姿でも見たのか?」
「大体そんなところよ」
「それは面白くない冗談だな」
レミリアが見たという余りにも笑えない運命の話にこの場の空気が変わる。
余りにも信じがたい話ではあるが、レミリアがそう言うヴィジョンを見たと言う事は、それは近い将来起こりうる出来事という事か。
「冗談で済ませられるなら越した事は無いけど、私が見たのは不確定な未来ではなく確定した運命。ほんの一瞬だけだったけど、羽にある綺麗な水晶が全て黒く染まったあの子が幻想郷を火の海に変えている光景を見た。どうしてそうなったのかは分からないけど、あの子には実現するだけの力を持ってしまっている」
「だから現実にならない様にフランを家に閉じ込めて外界との接触を断ったのか」
「私にはそれ以外の方法であの子を守る術が思いつかなかったのよ。原因が何であるか分からない以上、閉じ込めてあの子を守る以外に方法がなかった。その結果、あの子には嫌われたけどね。愚かな姉を笑うなら笑うがいいわ。運命を知っておきながらこんな方法でしか妹を守れないのかって」
「いや、笑わない。方法はなんであれ、お前は妹を守ろうとしてるんだ。そんな奴をどうして笑える」
何でもないようにレミリアは言うが、表情から彼女にとってもこの選択は苦渋の決断だった事が窺える。
妹を守りたくても如何してそうなったのか原因が分からず、対処法が思いつかず悩み抜いた末の結論がこれなんだろう。屋敷に閉じ込めるという方法はフランにとって苦痛でしかないが、屋敷の外に出すにはリスクが高すぎる。フランを守れるだけの実力を持った奴を常にそばに置いておくこともできないし、閉じ込めておくしか方法がないだろうな。
「お前は自分の家族を守ろうとしているんだ、その行為を後ろめたく感じる必要は無いさ。今は仲違いしていても、この異変が解決すれば仲直りできるさ」
「本当にそうだと良いのだけどね。……ところでリュウ。熱心に神話を読み漁っていたみたいだけど、欲しい情報は見つかったのかしら」
「いや、全然駄目だ。まだ全ての本を読んだわけじゃないが掠りもしなかった」
「あらそうなの。朝からウチに来て読んでいたのに収穫ゼロとは、貴方の捜し方が悪いんじゃないの?」
「それは否定出来ないが、龍神の奴から言わせれば救済を謳いながら殺戮をする神なんていないんだとさ。龍神も知らず、神話も残っていないとなると最近になって地球に来た神って可能性が出てくるな」
「理屈としては分かるのだけど……この星以外に生命体なんているのかしら」
「忘れてるのかもしれないけどな、俺も一応は地球外から来た存在だぞ。可能性としてない訳じゃないだろ」
「……なるほどね。そうなると今回の犯人は宇宙人ということかしら」
「その呼び方が正しいのかは分からないけど、その可能性もあるな。……もしくは遥か昔からこの星にいたが、誰にも気付かれなかったかのどっちかだな」
「誰にも気付かれなかったって、どれだけ存在感のない神様よそれ」
レミリアと今回の事件の犯人について話し合っていると、急に図書館の外が騒がしくなり始めた。
「騒がしいわね、一体何事かしら」
「馬鹿でかいゴキブリでも出現したか」
「台所の清掃は咲夜が完璧に行っているわ。通常のゴキだろうと出現する事はありえないわ」
「すんげ~変な自信だな」
冗談半分に言ってはいるが、外の騒ぎは害虫が出た程度の物とは思えないほどに切迫している。
骸骨剣士が屋敷に侵入したとしても、アイツ等程度なら咲夜と門番が力を合わせれば幾らでも対処できる。
あの二人でも対処出来ないような化け物が現れたのか。外の騒ぎに耳を傾けながらそんな事を考えていると、何時ものように咲夜がレミリアの傍に突然出現した。
「お嬢様、大変です!」
「騒がしいわよ、咲夜。一体何事なの」
「それが……突如として妹様が暴れだして、メイド達を壊し始めたのです」
「なんですって? ちょっとリュウ、コレは如何言う事」
「俺に聞くな。確かにフランの奴に構ってやらなかったから不機嫌になったけど、その程度で妖精たちを壊して遊ぶ様な事はしないだろ」
「確かにそうだけど……あの子の事だから、絶対に無いとは言い切れないのよね」
「其処は自分の妹を信用してやれ」
「お嬢様、今回ばかりは私もリュウと同意見です。メイド達を壊していますが自分の意志でやっているにはぎこちない動きでした。以前の薬の時の様に一種の錯乱状態に陥っているのか―――」
「―――何者かに操られているのかもしれないか。……何れにせよあの子は止めなければならない。咲夜、貴女はメイド達の避難誘導とこの気に乗じて侵入してくるであろう賊を始末しなさい。フランは私とリュウで止めるわ」
「畏まりました。お嬢様、如何かご武運を。……リュウ、お嬢様と妹様に怪我をさせたら只じゃおかないわよ」
「無茶を言ってくれるな、おい」
悪態を付いて返事をするが、咲夜は言いたい事だけ言ったあと姿を消して主の命令を遂行しにいった。
相変わらず主に忠実な奴だと関心するが、今はそんな事よりもフランを止めに行くほうが先決か。
散らばった本をそのままにして行くのは心苦しいが、フランを放っておく事なんて出来ないし、本はフランを止めてから戻せばいいだろう。
俺は床に散らばったままの本をそのままにし、レミリアと共に大急ぎで騒ぎの現場へと向かう。
地下と地上を繋ぐ階段を駆け上り、廊下を駆け抜けた先で俺達の眼に飛び込んできたものは火の海だった。
玄関ホールは全てを焼き尽くすような炎が燃え広がり、その真ん中で炎の剣を携えたフランが佇んでいる。
咲夜は暴れているといっていたが、今は大人しくしているようみたいだが、明らかに普段のフランじゃない。
背中の羽の七色の水晶体が全て黒く染まっていて、フランの眼は余りにも虚ろだった。
俺の血で出来た薬を飲んだときは狂気に染まっていたが、今回のフランはあの時とは違う原因みたいだな。
「あの剣は確かレーヴァティンって言ったか。世界を焼き尽くすという剣……。この光景を作り出したのも頷けるな」
「暢気に言っている場合じゃないわ。このままじゃあの子は私の見た運命の通りに幻想郷を火の海に変える。そうなる前になんとしてもあの子を止めないと」
「分かってるよ」
俺が叢雲を取り出し、レミリアがグングニルを作り上げるとフランは虚ろな瞳のままこちらを見る。
闇の様に暗く沈んだその瞳は何も映し出さず、狂気で顔を歪める事もなく、ただ炎の魔剣をこちらに向ける。
「こうなる事は分かっていたのに変えれなかった。これじゃ運命が見えても意味が無いじゃないッ」
「持って生まれた能力にケチ付けたって意味は無い。それにまだ悲観するには早すぎるだろ? お前が見たモノは火の海となった幻想郷だが、まだ幻想郷は焼き尽くされちゃいない。此処で俺達がフランを止めればお前の見た運命は覆る。……そうだろ、レミリア」
「ッ! …………えぇ、そうね。その通りだわ。まさか貴方に慰められる日が来るとは思わなかったわ」
「俺もこんな事を言う日が来るとは思わなかったよ。……さて、行くぞ吸血姫。俺の足を引っ張るなよ?」
「それは私の台詞よ竜神。私の足を引っ張るようなら、その心臓を抉り取るわよ」
「ハッ、上等!」
その言葉を合図に俺達は燃え盛る炎の海に飛び込み、魔剣を構えるフランへと向かって駆け抜ける。
如何してこうなったのか分からないが、必ず助けてやるから少し痛いの我慢しろよフランッ!