炎の海の中を駆け抜け、フランに向かって剣を振るう。
俺が振るった剣はフランが持つ魔剣に受け止められてしまうが、その隙にレミリアが紅い槍をフランに向かって投げつける。
それに気付いたフランは炎の刀身を消して、身動きが取れるようになったところで後ろに下がりレミリアの槍を難なく避けた。
後ろに下がったところを突いて再び斬り込んで行くが、即座に炎の刀身を再構成して俺の剣を受け止める。
魔剣の途方も無い熱量に汗を流しながら、叢雲の刀身の上を滑らせて受け流し、体勢が崩れたところを見計らって魔剣の柄目掛けて剣を走らせる。
これ以上火の手が上がると屋敷その物が焼け落ちかねない。そうなる前にあの剣を破壊しようと思ったのだが、そうはさせまいとフランも剣を振り上げ、俺の胴を焼き切ろうとしてきた。
俺は咄嗟に上に跳んで難を逃れるが、フランが剣を振り上げたことで巻き起こった炎に飲まれてしまう。
服は所々焼けてしまったが、火属性に耐性があるお陰で炎に焼き殺されるという事はなかった。
一旦後ろの下がって間合いを切った所に、レミリアが紅い鎖をフランに向けて放つが、炎の魔剣を一振りしただけで全て焼き払われてしまう。
「チッ。やっぱり捕らえられないか。せめて今が満月の浮ぶ夜だったらもっと力が発揮出来るのに」
「それはフランも同じだろ。満月の時に今のフランと戦ったら、それこそ幻想郷が火の海に変わる」
「分かっているわよ。そのくらい」
レミリアは悪態をつきながらいうが、決してフランから目を離す様な事はしなかった。
それは俺も同じなのだが、どうもあのフランからは何か違和感を感じる。
以前に薬を飲んで暴走した時のフランはもっと苛烈に攻撃を仕掛けてきた。
弾幕も分身も使って攻撃してきたのに、今のフランはレーヴァテインしか使っていない。
単純に俺達の事を舐めているとも考えられるが、フランの表情は相変わらず虚ろで思考が全く読めない。
洗脳されているのか、何かに操られているのかその辺りをはっきりさせないと。ただ倒すだけじゃフランは助けられない。
周りの状況を見ながら原因を考察するが、フランは炎の魔剣を握り締めて俺達に襲い掛かってきた。
「ったく、考える時間もなしかよ」
愚痴を零しながら、振り下ろされる魔剣を叢雲で受け止めて弾く。
弾かれて体勢が崩れてもフランは止まらず、剣を振り上げ斬りかかってくる。
それも受け止めてから弾くが、当たらなくても魔剣の熱で体が焼けるんじゃないかと思わされる。
弾幕を使ってくる気配は微塵も無いが、剣だけでも十分なほどの脅威か。
「いい加減止まりなさいフランッ!」
レミリアがフランを止めようと槍を繰り出すが、その一撃も避けられ脇腹を掠めることしか出来なかった。
槍を掠った事でフランの脇腹に切り傷ができ、血が零れるがフランは顔色一つ変えずにレミリアに向かって剣を振り下ろそうとする。
標的が俺から逸れたのを見て、フランを思いっきり蹴り飛ばしてもう一度間合いを切る。
これで一度仕切りなおしと行きたかったのだが、フランは蹴られた体勢のまま炎の刀身を伸ばし、そのまま俺達を薙ぎ払った。
反撃されるとは思ってなかったから反応が遅れてしまい、レミリア共々魔剣に焼き切られ、壁に激突する。
炎によって熱せられた壁で背中が焼けてしまいそうになるが、今はそんな泣き言を言っている場合じゃない。
「レミリア、まだ生きてるか」
「生きてるわよ。この程度の傷、直ぐに治るわ」
「そうかい。それなら回復の手間が省ける」
俺は立ち上がりながら、腹にできた焼け焦げた傷口を魔法で治療する。
レミリアも直ぐに立ち上がると、言っていたように傷は焼け焦げた後一つなく治っていた。
一方でフランも脇腹にできた傷は既に塞がっており、何事もなかったかのように平然と立ち上がっている。
掠めただけとは言え、レミリアの一撃を受けて顔色一つ変えていないところを見る限りだと、今のフランは傷みと言う物を感じていないんだろう。
痛みが無いから恐怖も感じず、ただ敵を倒すだけの存在。其処だけを見れば以前暴走したアリスの人形みたいなところがあるが、少し試してみるか……。
「さて、本当にどうしましょうか。このままだとあの子と叩きのめすしか手段がなくなるわよ」
「俺が前に出るから、俺が下がったらフランの頭上目掛けて槍を投げてくれ」
「この私にフランの顔を槍で穿てと?」
「別に当てなくていい。フランの頭上を通過すればそれで十分だ」
「……何を考えているか知らないけど、今日のところは乗ってあげるわ」
「それはありがたい……ッ!」
レミリアの返事を聞いたと同時に俺は駆け出し、フランに向かって剣を振り下ろす。
フランも当然それに反応して剣を振り上げるが、俺は力尽くで炎の魔剣を捻じ伏せる。
そして直ぐに剣を振り上げられないように足で踏んで押さえつけ、フランの周りだけを覆うように結界を張り巡らせた。
結界はフランを取り囲む様に発動するが、何も変わらずフランの表情は虚ろなまま。
俺は何も変わらない事を確認してから後ろに下がると、入れ違うようにレミリアの紅い槍が飛んでいき、フランの頭上を通過した……が、虚ろな表情のまま何も変わらなかった。
その事も確認しているとフランは刀身の消失と再構成を即座に行い、炎を巻き起こしながら俺目掛けて剣を振り下ろしてくる。
俺は叢雲を覆っていた力を解除し、刃を剥き出しにして振り下ろされた炎の刀身を両断する。
自身の剣が斬られてもフランの表情は変わらないが、刀身がなくなった事で大きな隙ができた。
その隙を突いてフランの体を両断せんと剣を振るうが、フランは体を無数の蝙蝠に変化させて俺の一撃を避ける。
こんな方法で避けられるとは思いもしなかったが、変身した蝙蝠たちの中で一匹だけおかしな奴を見つける。
蝙蝠たちのなかで異様に大きいそいつは、どす黒いオーラのようなものを纏っていた。
他の蝙蝠たちはそいつから逃げる様に飛び散るが、その個体はオーラを触手の様に伸ばして逃げる蝙蝠たちを一匹残らず絡め取り、自分の下へと引き寄せる。
黒いオーラに絡め取られ、逃げる事の出来なくなった一匹の蝙蝠と目が合うと―――
《タス…ケテ……》
―――その蝙蝠は掻き消えてしまいそうなほどに小さな声で、確かにそう呟いた。
俺はその声を聞いて反射的にオーラを纏う個体を斬り捨てるが、黒いオーラ自体が消えることはなく、他の個体に纏わりついて直ぐに復活する。
斬り捨てた個体もオーラに絡め取られ、フランは俺から離れたところで虚ろな表情のまま復活した。
救い出せなかったという悔しさから奥歯を噛み締めていると、接近戦を嫌ったのか、煌々と燃え上がる炎の弾を俺に向かって投げつけてきた。
投げられた弾は速く、今の状態じゃ避け切れないと判断した俺は受け切るため身構えると、上から紅い槍が飛んできて炎の弾を相殺した。
「ちょっとそんな所で蹲っている場合じゃないわよ」
「レミリアか。すまん、助かった」
「……貴方が素直に礼を言うなんて変な感じね。それで、何か分かったのかしら?」
「あぁ、今のフランは何者かに取り付かれているってことが分かった」
「その根拠は?」
「魔法による洗脳なら俺の結界と解ける筈だし、糸で操られているならレミリアの槍で切り裂ける筈だ。薬物による催眠だとしても、蝙蝠に変身した時に自分から逃げる様に飛んだりしない筈だし、逃げる個体をオーラで絡め取ったりしない。恐らく何者かがフランの中に入り込んで操っているんだろ。剣しか使えないのもフランがそいつに抵抗しているからだ」
「あ、あの短時間でよく其処まで考察できたわね」
「戦闘中に相手を観察するってのは良くやっていたからな。俺はこの観察力のお陰で多くの敵の技をラーニングしてきたから、この程度ならわけない」
「美鈴や妖夢の技を覚えれたのもそれが理由と言うわけ。末恐ろしい観察力だわ」
レミリアが俺の観察力に驚いているようだが、分かったところで助ける方法がない事に変わり無い。
オーラを纏っていた個体を斬っても直ぐに他のに取り付いてしまうし、蝙蝠をすべて斬り捨てるのはフランを殺すのと同じことだから使えない。
オーラを斬ったときの手応えは霊体に近い感じだったし、恐らくあの状態では物理攻撃は効かないだろう。
霊夢が居てくれれば祓う事もできたのかも知れないが、この場に居ない奴を当てにしても仕方が無い。
残っている方法としては俺のテラ=ブレイクで中に居る奴を直接滅ぼすか、何らかの方法で中に居る奴を外に追い出すしかないか。
テラ=ブレイクを使うのは最終手段だな。アレは人の状態でも殺傷力のある技だし、上手く調整しないとフランごと滅ぼしてしまう。……どれを選んでも結局は賭けになるか。
「レミリア、ちょっと耳を貸せ」
「また何か策でも思い付いたの? 火の手も大分回ってきたし、あまり悠長に構えてられないのだけど」
「そんなに難しいことじゃないから安心しろ」
俺の口元に耳を近付けてきたレミリアに思い付いたことを耳打ちする。
それを聞いてレミリアは怪訝そうな顔をするが、現状ほかに方法が思いつかない以上信じてもらうしかない。
「貴方……本当にそんな事が出来るの?」
「やった事が無いからなんとも言えんが、他に方法が無いんだ。やってみるしかないだろ」
「確かに私じゃ如何する事も出来ないから貴方に頼るしかないけど、あの子にもしもの事があった時は……分かってるんでしょうね」
「あぁ。煮るなり焼くなり好きにしろよ」
「……分かったわ。それじゃさっさと始めましょうかッ!」
そう言ってレミリアはフランに向けて何本もの紅い槍を投げつける。
フランはその槍を炎の魔剣で切り払うが、レミリアは切り払われても構わず槍を投げ続ける。
敵の意識がレミリアに集中している隙に俺がフランに近付いて、剣に必要最小限の力だけを込めてフランを切り抜け、力を体内に流し込んで炸裂させる。
最小威力でのテラ=ブレイク。内側から破壊する技を受けて、今まで変わらなかったフランの表情が歪む。
内側から破壊していき、神々の魂ですら滅ぼすことの出来る技だが、本人だけではなく入り込んだ奴にもダメージが通るようだ。
だが、フランの体内に入り込んだ奴を滅しきる事は出来ておらず、羽根の水晶は黒く、瞳もまだ虚ろなまま。
出来れば今の一撃で終わって欲しかったんだが、流石にそう甘くはないと言うことか。
仕方がなく俺は作戦通りに有りっ丈の力を剣に込めて、叢雲の刀身を光り輝かせる。
それを見たフランは先程の一撃の威力を思い出したのか、俺から逃げる様に距離を取り始める。
必至になって俺から逃げようと飛び回るフランだが、レミリアが槍を投げてを逃走を阻む。
乱れ飛ぶ槍の間を縫うようにして逃げていくが、室内では逃げる場所に限りがあり次第に追い詰められていく。
逃げ場に困ったフランは標的をレミリアへと変更し、彼女へと向かっていくが俺達としては願ってもない事だ。
自分へと向かって来るフランを見て、レミリアは槍を投げるのを止め、四つの魔法陣を周囲に展開する。
四つの魔法陣からは紅い鎖が伸び、フランの四肢を拘束し動きを止める。
フランは鎖を力尽くで引き千切ろうとするが、その前に俺がフランとの間合いを詰めた。
「行くぜ、フラン。痛いかもしれないが我慢しろよ」
俺はフランに向けて剣を振るい、刀身に込めた力を彼女の体内に流し込む。
さっきの一撃とは比べ物に為らない程の威力を秘めた一閃。力を流し込まれてフランの体が光り出す。
膨張していく光の中から黒い塊が弾き出され、実体となって俺達の前に現われる。
それは人と同じ様に服を着た人間ほどの大きさの蛸ようなの化け物だった。
海の無い幻想郷に海生生物の妖怪は存在しないし、こいつからは幻想郷を荒らし回っているアイツ等を同じ気配がする。
「……テメェか、この異変の犯人は」
「犯人? さて、なんのことでしょうか。私はただ信託に従ったまで。それよりも惨い事をする。自分を慕う少女を手に掛けるとは」
「何寝言を言ってるんだ蛸が。俺がフランを殺すわけねぇだろ」
フランの体から溢れて膨張していた光だが、その光は炸裂する事無く収束していく。
光も収まり、中に入っていた異物も弾き出された事でフランの羽の水晶は七色に戻り、虚ろだった表情は安らかな寝顔に変わった。
「なッ!? まさか今の一撃は私を彼女の中から追い出すために……ッ?!」
「そう言う事だッ!!」
今の一撃はテラ=ブレイクに限りなく近く見えるように放ったもの。
最小限の力で放ってもどれだけの力を秘めているのか身をもって知ったのなら、何度も受けないように全力で回避しようとするのは分かっていた。だからそれを利用させてもらった。
フランの中から出てくればコイツを殺す方法なんて幾らでもあるからな。
全ての憂いがなくなり、これで終いにしようと蛸に向かって剣を振るうが、寸前のところで蛸は後ろに跳んで俺の一撃を避ける。
再びフランの中に入ろうとするが、俺がそうはさせまいと蛸の前に立ちはだかる。
これでは分が悪いと感じたのか、蛸は俺に背を向け直ぐにこの屋敷から逃げようとするが―――
「ちょっと待ちなさい。私の妹を弄んだ礼が済んでないわよ」
―――深紅の槍を構えたレミリアが蛸を引き止めた。
「貰って行きなさい。神槍『スピア・ザ・グングニル』」
レミリアが繰り出して渾身の投擲を阻める物はなく、その直線状に入るモノ全てを貫く。
屋敷の壁に大きな孔を開け、紅い光線となって森の木々を薙ぎ倒し何処までも突き進んで行く。
今の一撃を受ければ只ではすまないだろうが、残念なことにあの蛸には逃げられてしまった様だ。
屋敷の中に蛸の死骸は見つけられず、孔の開いた壁の傍に蛸の腕を思われる肉片が転がっていた。
地面に転がっていた肉片は骸骨騎士たち同様に消滅し、奴が居たという痕跡は全てなくなった。
「……外したな」
「外したんじゃなくて、避けられたのよ。見かけに拠らず素早いわね、あの化け物」
「お前が仕留めてくれれば今回の異変も解決したのかもしれないんだが」
「何を言っているのよ。妖怪退治や異変解決は〝博麗〟や貴方の仕事でしょ。私に文句を言う暇があるなら早くアイツを見つけ出して始末しなさい」
「ったく、言ってくれるな」
至極全うな意見ではあるが、相変わらずなレミリアの態度に思わず呆れてしまう。
俺は溜息を吐きながらもフランを拘束していた紅い鎖を切り裂き、彼女を抱きかかえて床に降りる。
フランには目立った外傷もなく、呼吸も安定している事から大事には至っていないようだ。
眠っているフランをレミリアに預けても大丈夫だろうが、問題なのは今なお燃え続けている炎の方か。
叢雲で室内に雨を降らせてもいいが、レミリアたちが傍にいるのに流水は不味いか。
酸素を根こそぎ奪って火を消しても一時的なものだし、空気が入ったら急激に燃え広がる可能性もある。床の炎なら地面の中に埋める事が出来るけど、壁とかで燃えているやつは流石に出来ない……となると、炎そのものを根こそぎ奪うしかないか。
正直面倒ではあるが仕方が無いと割り切り、今も燃えて続けている炎を掌の中に集束させる。
そうして掌の上に煌々と燃え上がる光球が出来上がると、屋敷の中で燃えていた炎は全て消え去っていた。
「相変わらずとんでもない事をやるわね。ま、私としてはこれ以上火が燃え広がらなくて助かるのだけど」
「そう思うならもうちょい感謝の意を示せよ……」
まるで感謝する気の無いレミリアに呆れつつ光球を握り潰すと、急激に気温が下がったからかフランが目を覚ました。
「う、うぅ~ん……。あれ、なんで私こんなところで寝てるの?」
「気が付いたのね。まったく、心配ばかり掛けさせるんだから」
「あ、お姉様。おはよう」
「おはようと言うには大分遅い時間よ、フラン。これだけの事をしておいて何も覚えていないの?」
「よく分かんない。知らないお爺さんに声を掛けられて、道案内をしようとした所までは覚えてるんだけど……それから先は何かと戦っていたというか、何かに抗っていた記憶しかない」
「そう。……まったく、知らない人に声を掛けられても付いて行っちゃ駄目って教えたでしょ」
「付いていって無いもん。道を教えてあげようとしただけだもん」
「屁理屈言わないの!」
「おひぇえしゃま、いひゃいいひゃい」
屁理屈を捏ねるフランの口をレミリアはお仕置きばかりに引っ張る。
その所為でまともに発音ができなくなるが、端から見れば微笑ましいようにも見える。
レミリアも本心では妹が助かって嬉しいんだと思うが、叱らなきゃいけない場面だからきつく言っているんだろうが、こう言う時くらいフランの無事を喜べばいいのに。
「……ところでフラン、一つ聞きたい事があるんだが」
「ん~。にゃ~に~?」
「声を掛けられたお爺さんの顔って覚えているか?」
「うん。おひょえひぇるよ」
「なら後でその爺さんの似顔絵を描いてくれないか? ちょっとその爺さんに用が出来たから」
「わかっひゃ」
「その前に貴女は反省が先!!」
「う~……わるひゃったっては~」
「……やれやれ」
BoFⅣには画面に表示されない隠しステータスが存在します。その中の一つに観察力というのがあるらしく、これは技をラーニングする時の成否判定に影響を与えるものです。
リュウとフォウルはこの数値が25%もあり、この二人の本来の力であるこの作品のリュウは更に高い観察力を持っていると言うのがこの作品の裏設定の一つです。