竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二百二話 立ち込める暗雲

紅魔の事件が数日が経ったが、幻想郷は化け物が跋扈している以外とくに何時もと変わらない日々を送っていた。

俺と霊夢はフランに描いて貰った不審者の絵と睨めっこしながら、人里で毎日張り込みをしていた。

フランの話によるとあの蛸は人の姿に化けれるらしく、逃げ隠れるとしたら人気のない森よりも人の多い里に隠れると思ったからだ。

だから毎日の様に里に行っては怪しい奴が居ないか探っているんだが、全部空振りに終わっている。

 

「……見つからないわね」

「そうだな。まだ幻想郷に居ると思ってたんだが、他の世界にでも逃げちまったのか?」

「他の世界って例えば何処に逃げたのよ」

「人の姿で隠れられそうなのは天界か、外の世界かのどっちかだな」

「天界はまだしも外の世界に逃げられたらどうしようもないわよ。あんな人の多い世界で探せれるわけないじゃない」

「だよな……」

 

面倒くさいという思いから思わず溜息が零れてしまう。

アイツ自身はそこまで強く無さそうだったし、放っておいても死人がでるような事態にはならないと思うが、アイツは今回の事件について色々と知っているみたいだし、なんとしても捕まえて白状させたいところだ。

 

「大体フランの描いた絵が分かりにくいのよ。こんなの子供の落書きじゃない」

「本人曰く、コレが一番出来がいいとの事だが」

「出来が良くても落書きじゃ意味が無いわよ」

「あ、あははは……」

 

霊夢がフランの描いた絵を酷評するが、その気持ちは分からんでもない。

フランが描いた絵は本当に子供が描いたような出来で、本人からすると特徴は捉えているそうだが……実物を見てみないと判断ができん。

とりあえず白髪で白い髭を蓄えた普通の爺さんだってことは分かるんだが、この絵だとそれしか特徴が無いから探すのに苦労する。

レミリアが片腕を落としてくれたから隻腕になっていると思うけど、そんな老人を見かけていないからこうして困っているんだよな……。

 

「……やっぱ別の方法を考えたほうがいいかな」

「お、リュウじゃないか。そんなところで何をしてるんだ?」

「ん? 八百屋のおっちゃん?」

 

蛸が見つからずに困り果てていると、八百屋のおっちゃんが偶然俺達の前を通りかかった。

珍しく夫婦で出かけていたのか、今回は奥さんも一緒のようだ。

 

「ちょっとアンタ、龍神様にその口の聞き方は失礼だろ。すみません、龍神様。ウチの馬鹿亭主が」

「あ~いや、俺はそういうの気にしない方だから。それよりも二人は一体何処に行っていたんだ?」

「里の傍に出来たって言う寺を見物しにな。ありがたい宝船が変形して出来たそうだし、そのご利益にあやかりてぇな~っと」

「寺っていうと……あの僧侶たちのやつか。一応神様の弟子がいるし、何らかのご利益はあるでしょうけど宝船というには程遠いボロ船だったわよ、アレ」

「おや、巫女様は宝船に乗り込んだことがあるのですか?」

「ちょっと野暮用でね。ところで貴方達、このお爺さんについて何か知らないかしら」

 

そういって霊夢はフランが描いた絵を二人に見せる。

二人は描かれている絵を見て眉を顰めるが、おっちゃんの方が何かを思い出したように手を叩く。

 

「おぉ、この爺さんなら寺で見たぞ。確か集った人達に救済がどうこう言っていた気がする」

「だけどお前さん。あの爺さんは隻腕だったじゃないか。この絵のは両腕があるよ」

「そういやそうだな。じゃあ別人か?」

「いや、この絵を描いた奴は両腕があった時の姿しか知らないだけで今は隻腕の筈だ」

「成る程ね。この爺さん僧侶達の所で身を潜めていたのか。そりゃ里の中を探しても見つからないわけだ」

「あそこの連中は完全な平等を理想に掲げているからな。アイツを匿っても何ら不思議じゃないが……これで居場所が割れた。感謝するよ二人共、ありがとう」

 

俺が感謝の言葉を口にすると二人揃って困った様な顔をする。

 

「そんな大した事はしてませんよ。ただお寺で見かけたってだけですし」

「二人には何度も助けられているからな。このくらい如何って事ないさ」

 

大した事無いといって二人は笑うが、俺達からしたらアイツの居場所を教えてくたのは凄く助かることだ。

でも二人からしたら本当に大した事ではないのだろうし、この程度の事で助けてもらった恩を返せるとは思っていないのだろう。

別に気にするほどの事でも無いんだが、俺がそう言ったところで二人の感謝の念が消える訳じゃないか。

 

「そうか。……それじゃ俺達は行くよ。少し騒がしくなると思うが直ぐに静まると思うから安心してくれ」

「さらっと不安になる様な事を言ってくれるな。でも、お前さんがいうなら本当にそうなんだろ。信じてるぜ」

「あぁ、任せろ」

「それじゃ失礼するわ」

 

二人に別れを告げた俺達はその足で真っ直ぐ里の傍に出来たと言う寺に向かう。

人の流れを頼りに道なりに進んで行くと、今までなかった所に出入り口が出来ており、その先に武家屋敷の様な大きな建物が建っていた。

その建物の敷地はウチの神社の倍はあるんじゃないかと言うくらいに広く、中は八百屋夫婦のようにご利益にあやかろうとする人で賑わっている。

ウチの神社とは正反対の賑わいっぷりに感心してると、敷地の一角に不自然な人だかりが出来ていた。

その一角に特別な建物が建てられている訳でもないのに、皆足と止めて誰かの話しに耳を傾けている。

 

「困窮とした日々が続き、救いを求める人々よ。容赦なく現れる怪異に涙する人々よ、私の声を聞くのです。救いなき日々に絶望しておられるでしょうが、ご安心なさい。間もなく神がこの地に光臨され救済が始まります。不安や苦しみと言ったモノから解放され、真の安らぎを得る日がもうすぐ来るのです! 神は全てのモノをお救い為される。善人も悪人も等しく救済され、この世の全てのしがらみから解放されるのです! さぁ皆さんも私と共に約束の日を待とうではありませんか!」

 

集った人々の視線の先で行われていたのは、神の光臨や救済を謳ったなんとも胡散臭い演説。

此処の僧侶が目指す完全な平等な世界というのも面倒だったが、この演説も同じかそれ以上に胡散臭い。

そんな何時来るかもわからない日を待つ気にはなれないが、不思議と人々の足はその演説の前で止まっている。

何かしらの裏が在りそうな気もするが、俺達が此処に来た目的は只一つ。あんな胡散臭い演説を聞きに来たわけじゃない。

俺達は集り続ける人だかりを掻き分けて前へと進み、集った観衆の最前列に立つ。

胡散臭い演説を行っていたのは八百屋夫婦が言っていたように隻腕の老人だった。

フランが描いてくれた絵の特長にも似ているし、俺と目が合うと爺さんは明らかに狼狽する。

 

「よう、久し振りだな」

「き、きさま……何故此処に」

「何故ってそんなの聞くまでも無いだろ」

 

狼狽する爺さんを他所に、俺は叢雲を取り出し迷わず斬り掛かる。

人間はおろか、そこ等にいる妖怪でも躱せないような一閃だったが、老人は人間離れした動きで俺の一撃を避けてみせる。

レミリアのグングニルを避けたし、アイツが素早いのは分かっていたが、まさかあの間合いからでも躱されるとは思いもしなかった。

老人はすぐさま此処から逃げ出そうとするが、機転を利かせた霊夢が即座に結界を張り、老人を結界の中に閉じ込めた。

俺が剣を取り出したことで寺の敷地ではちょっとしたパニックが起こるが、些細な事だから別に気にしなくてもいいだろう。

 

「はい、確保っと。ちょっとリュウ、仕留めるなら一撃で仕留めなさいよね。手間を掛けさせないでよ」

「悪かったな。でも、俺だって躱されるとは思ってなかったんだよ」

「アレが人間じゃないって教えてくれたのはアンタでしょうに」

「いや、まぁ……確かにそうだけど」

 

一撃で仕留める事が出来なかったし、アレが人間じゃ無い事を知っていたからあまり強く言い出せない。

油断をしていたつもりはなかったんだが、レミリアのグングニルを避けたのはまぐれじゃないって事か。

そんな事を話していると騒ぎを聞きつけたのか、あの厄介な僧侶が寅を引き連れてコッチにやって来ちまった。

 

「何をしているのですか貴方達! 早くその人を解放しなさい!」

「悪いがそれは出来ない。こいつには色々と聞かないといけないことがあるんでな」

「貴方達はなんの罪も無い老人を捕らえて平気だというのですか!」

「あのねぇ……本当に何もしていない人間を私たちが捕らえると思う? 大体コイツは人間じゃないわよ」

「何を言っているのですか。どうみても只のご老人ではないですか」

「……霊夢、頼む」

「はいはいっと」

 

気楽そうに返事をすると、霊夢は結界に霊力を注ぎ込む。

霊力を注ぎ込まれた結界は老人の足元から光が立ち昇り、捕らえていた老人は霊力の光に飲み込まれる。

その様子を見て寅が霊夢を止めようと駆け寄るが、彼女の喉元に叢雲を突きつけて動きを止めた。

少しの間霊力の光が立ち昇っていたがそれも次第に終息していく。

霊力の光も落ち着いたが中に居た筈の老人の姿もなく、代わりに結界の中に居たのはオレンジ色の肌をした隻腕の蛸の化け物だった。

老人が急に化け物になり騒動は更に大きくなるが、化けの皮を剥がした事で僧侶も文句を言ってこなくなるだろう。

 

「これで分かった? アンタが庇おうとした奴は人間じゃなくて化け物だったのよ」

「……これには驚きましたが彼が何者であろうと差別はしません。早く彼を解放してください」

「あんな化け物も庇おうって言うの? ……本当に面倒くさいわね、アンタ」

「なんとでも仰ってください! とにかく、この寺の敷地で勝手な事をされても困ります!」

 

僧侶の完全平等主義には本当に呆れるが、寺の敷地で勝手なことをしているのは事実だ。

でも、これから寺の敷地で暴れるから黙ってみてろなんて言えるわけも無いし、この僧侶がそんな事を許すとは思えないしで、結局は勝手にやるしかないんだよな。

蛸には色々と聞かないといけないことがあるってのに、本当に面倒くさい奴だよまったく。

なんとかしてこの面倒な奴を言い包めれないかと考えていると、蛸が懐から一冊の本を取り出した。

その本はかなり年季が入っているのか見るからに古く、愛読するには些か不便な様な気もするがこのタイミングで出した本が唯の本なわけがないか。

 

「おかしな真似をするなよ、蛸。少しでも何かすれば問答無用で斬り捨てるぞ」

「いえいえ、その様な事はしませんよ。ただ私は神の御心に従い、自分の為すべき事を為すだけです。ですからこのような所で捕まるわけにはいきませんね!」

 

そう言って蛸が本に力を込めると本はドス黒く光りだす。

俺は即座に本と蛸を斬り捨て様と剣を振るうが、横から割り込まれた巨大な斧によって阻まれてしまう。

叢雲に纏わせていた力を解除すれば難なく斬る事はできるが、その間に結界を壊され蛸が脱走してしまう。

結界を破壊し、蛸を逃がしたのは長柄の巨大な斧を持った巨大な黒い悪魔。そうとしか形容できない化け物。

ついさっきまでコイツ等の陰も形もなかったし、さっきの古書を使って呼び出したのか。

 

「な、なんですかコレは……。ハルクさん、貴方は一体何をッ!?」

「いけない聖、下がって!」

 

いきなりの悪魔召喚に僧侶も気が動転しているようだが、蛸はそんな事など気にも留めず、強烈な殺意を俺に向けてくる。

 

「……やはり貴方が最大の障害。貴方さえいなければもっと早く神が光臨され、救済が為されたというのに」

「アンタの言う救済ってのはただの殺戮じゃない。そんな物騒な救済なんてコッチから願い下げよ」

「何故拒むのですか? 全てのしがらみから解放され、真の安らぎが約束されるというのに」

「それを望むかどうかは人それぞれだろ。望んでいない奴からすれば傍迷惑なだけだ。テメェ等の勝手な主義を他人に押し付けるのはやめろ」

「神の使者たちを殺戮しただけでは飽き足らず、神の御心すら拒絶するとはもはや捨て置けぬ。神に代わり、神罰を下してくれる!」

「悪いがそんなもんを受けるつもりはねぇ。たかが神の使い走りが竜神(おれ)を裁けるなどと思い上がるな」

 

蛸の殺意を跳ね除けるように力を解放し、叢雲に力を注ぎこむ。

力を注がれ、光り輝く刀身を見て蛸は慌てたように呼び出した黒い悪魔に溶け込んでいった。

一体どういう原理で溶け込んでいるのかは知らないが、フランの時とは違い纏めて斬り捨てられるから楽でいい。

 

「あ、貴方達、まさか此処で戦うつもりですか?! それは駄目です! 此処には無関係の人達が沢山―――」

「私たちを引き止めようとするよりも、その無関係な連中を避難させたほうが早いわよ。アンタの言葉じゃリュウは絶対に止まらない」

「……ッ。……星、急いで皆さんを安全な場所に避難させますよ」

「は、はいッ!」

 

霊夢に言い負かされた僧侶は寅を引き連れて急いで野次馬達の避難誘導を始める。

俺達に突っ掛かっている暇があるなら最初からそうしろといいたい。全く融通の利かない女だ。

 

「さて、これでお邪魔虫が消えたわけだけど……何か策はある? なんか、蛸が悪魔の中に入り込んだみたいけど」

「別に策なんか必要ない。いつもの様に斬り捨てる。ただそれだけだ」

「なるほどね。ま、私もそう言うのは好きよ。難しいこと考えなくて済むし」

「なら、さっさと片付けるぞ。直ぐに静まるって言っちまったしな」

「分かってるわよッ」

 

そう返事すると同時に霊夢が悪魔に向かって札を投げつける。

その攻撃を開戦の合図に俺も斬り込んでいくが、霊夢の札は中っているのに効いている様には見えない。

俺も叢雲を振り上げ、悪魔の腕を斬り落としてみるが、悪魔は動じる事無く長柄の斧で反撃してくる。

振り下ろしてくる斧を叢雲で防ぎ、ダメージを軽減するが流石に勢いまでは受け止めきれずに押し飛ばされる。

体勢を立て直して地面に着地すると、悪魔は傷口から黒い触手を伸ばし、落ちていた腕を捕まえて引っ張り、元通りにくっ付けてしまう。

攻撃を受けても動じない辺りはフランの時と同じだが、切り落とした身体のパーツがくっ付くのは蓬莱の時と似ているな。

あの時は触手なんて出てこなかったが、アイツに余計な力を与えたのは蛸が言っていた神とみて間違いないか。

相手の出方を窺いつつ色々と考察していると、悪魔は両手で柄を握り締めて斧を霊夢に向けて振り下ろそうとしてくる。

俺は急いで二人の間に割り込み、一瞬の内に奴の腕ごと斧をバラバラに斬り裂く。

そして直ぐに奴も同じ目に遭わせてやろうとしたが、俺が踏み込もうとすると悪魔は後ろに飛んで下がる。

悪魔は再び自分の腕を直すのかと思いきや、悪魔は自分の足元に魔法陣を展開した。

奴の足元に魔法陣が展開されると突如として地面が揺れ始め、まともに立つことも出来ない程の大地震が発生する。

地震は揺れだけではなく地面を隆起させ、発生源である魔法陣を中心に大きな地割れを引き起こす。

 

「……しゃらくせぇッ!!」

 

俺は掌に作り出した黄色の光球を地面に押し当て、地破土(ジハード)を繰り出し相手の地震を抑制する。

俺の魔法で地震を抑制すると言っても、相手が繰り出した魔法の方が規模が大きく、完全にその力を押さえ込むことが出来ない。

それでも地震の規模は間違いなく抑制され、これ以上地面が破壊される事もなく、堪えれば立っていられる程度には抑えられた。

悪魔はもう一度同じ魔法を繰り出そうとするが、悪魔の周囲に八枚の札が浮び、それらを基点とした八角形の結界が展開される。

新たに描かれた八角形の陣により奴の魔法陣は展開することが出来ず、奴の魔法は不発に終わった。

 

「神技『八方鬼縛陣』」

 

霊夢が名を宣言すると悪魔の足元に在る陣から霊力の光が立ち上り、先程よりも強力な光が奴を飲み込んだ。

結界より立ち昇る光の奔流は暫く続いたが、中に居る悪魔は堪えているようには見えない。

だがしかし、既に両腕と武器をなくし、頼みの綱の魔法も霊夢の結界で阻害されている今、アイツに抵抗する術は無い。

それをあの蛸も感じていたのか、悪魔の身体から黒い光の様なものが抜け出す。

黒い光は霊夢の結界をすり抜けようと試みるが、それよりも先に俺が奴との間合いを詰めていた。

俺は奴を捕らえている結界ごと黒い光と悪魔を斬り刻み、八つ裂きにしてみせた。

斬り刻まれた結界は消滅し、中に居た悪魔はバラバラの肉片となって地面に転がり、骸骨騎士同様に消滅する。

黒い光のまま斬り刻まれた蛸は元の姿に戻り、地面の上に転がるがしぶとく未だ生きていた。

バラバラになった自分の身体をくっつけ、この場から逃げようともがく奴の前に突如として空間の隙間が出来た。

その隙間を通って八雲が姿を現すが、その表情はすこぶる不気味だった。

満面の笑みを浮かべている筈なのに背筋が凍りそうなほどの寒気を感じさせる。表情からは何を考えているのか読み取れないが、用があるのは俺達ではなくあの蛸のようだ。

 

「ちょっと紫、何しに出て来たのよ」

「そこの死に損ないにちょっと用があってね。ずっと監視していたの」

「監視って……変な所まで見てるんじゃないでしょうね」

「私も貴女達の怒りを買う様な真似はしないわ。プライベートな事は一切見ていないわよ」

「ぷらい…べーと?」

 

霊夢が聞きなれない言葉に首を傾げていると、八雲は蛸の頭を鷲掴みにして持ち上げる。

蛸はこれ幸いにと八雲の身体に入り込もうとするが、万物の境界を操れる八雲にそんな事が出来る筈もなく、案の定何らかの境界を操られて蛸は八雲に入り込むことが出来なかった。

 

「無駄よ、貴方の能力は私には通用しない。その能力を使って吸血鬼の妹を操り、幻想郷に災厄を起こそうとしたのでしょうけど……残念だったわね。一昨年の時と同じく竜神さんに邪魔をされちゃって」

「き、きさま……一体何時から私の事を見ていた」

「貴方が私の家に泥棒に入った時からよ。中々姿を現さない上に関係のない物まで持ち去るから色々と苦労させられたけど、追いかけっこはもうお終い。幻想郷を滅茶苦茶にした罪、その身で払ってもらいましょうか」

「ひぃッ!」

 

残忍な笑みとでも言えばいいのか。八雲が浮かべた笑みは見たモノを恐れさせるのに十分なものだった。

顔が青ざめたままの蛸を掴んだまま、八雲は隙間空間へと潜っていこうとするが……このまま行かせるのはなんか癪だな。

 

「ちょっと待て八雲。俺もソイツには色々と聞きたい事が在るんだ。勝手に連れてかれちゃ困る」

「そうでしょうね。でも、この死に損ないが素直に話すと思っているのかしら?」

「いいや、全然思っちゃいない。だけど、そのままお前に連れてかれるのはなんか癪なんだよ」

「成る程貴方らしいわね。でも私もコレにしなくちゃいけないお礼が沢山あるから譲らないわよ」

「……………」

 

分かっていた事だがやはり八雲はあの蛸を放そうとはしない。

それどころか周囲の空間に隙間を作って、何時でも攻撃が出来る様に準備し始める。

開いている隙間は目に見える範囲だけでも五十を超え、本気で俺とやり合う気でいるようだ。

ついさっき戦ったばっかではあるが、特に怪我をしたわけでもないし、連戦には何の支障も無い……んだが、たかが蛸一匹の為に八雲と喧嘩するのも馬鹿らしい話だ。

 

「……はぁ。なんか馬鹿らしいし、そいつの事は好きにしろよ」

「えぇそうさせてもらうわ」

 

満面の笑みを浮かべる八雲を見て、なんだかよく分からん疲れがどっと出て来た。

コレがあるからコイツと会って話をするのは嫌なんだよ。色々と面倒くさいし。

そんな人の疲れを他所に、八雲は蛸を連れて隙間空間へと入っていこうとする。

蛸は必至になって抵抗するものの、俺に斬り刻まれた身体では大した抵抗も出来ない。

それでも必至になって抵抗するが……それも空しく終わり、奴は自分の死期を悟ったようだ。

 

「……もはやこれまでか。神をこの地に光臨させるという大業を果たす事が出来ないとは痛恨の至り……。しかし安心するがいい、私が居らずとも神は必ず光臨され全ての物を救うだろう。これは妄言ではない、なぜなら神は既にこの世に居られるのだからッ!! あは、アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

「……言いたい事は言ったかしら? それじゃもう行きましょうか。まずはその耳障りな口を二度と開けないようにしてあげる」

 

最後まで妄言を垂れ続けた蛸は、八雲の手によって隙間空間へと引きずり込まれた。

こっちからじゃもう干渉する事の出来ない空間で何が行われるのかは分からないが、まず間違いなくあの蛸は生きてこの世に戻って来れないだろう。その事だけは確信することができた。

 

「結局最後の最後まで言いたい事を言っていたけど、これで異変は解決したのかしら?」

「さぁな。結局蛸は八雲が連れていっちまったから判断できねぇな。暫くは様子を見るしかないだろ」

「……それもそうね」

 

俺の言葉に納得をしながらも、霊夢の表情は決して明るいものではなかった。

恐らく霊夢の中で異変が解決したと言う実感が湧かないのだろう。それは俺も同じなのだが、唯一事情を知っていたであろう蛸が居なくなっちまった以上、俺達にはもう如何する事も出来ない。

空の向こうで立ち込める暗雲が俺達に更なる面倒事が起こると俺達に予感させていた。

 




……やっと此処まできた。そろそろラストスパート掛けていくか。
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