竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二百四話 月の現状

 

「月の都が神に占領されたですって?」

「はい。……信じられないでしょうが事実です。豊姫様、依姫様に月夜見様も現在お城に幽閉されています」

「あの二人だけではなく月夜見までもが……」

 

月の都の現状を聞いて永琳は何か思う所でもあるのか、沈痛な面持ちになる。

表面上はなんとも思っていないように装ってはいるが、古巣なのだからそれなりに思い入れはあるのだろう。

こっちとしては月の都が占領されたからなんだって話だが、最後に出て来た月夜見ってのは一体誰だ? 最初の二人は一応会った事あるし、顔も…………なんとか覚えている。

 

「あ~……話の腰を折るようで悪いけど、一つ聞いてもいいかしら」

「……なにかしら」

「月夜見ってのは一体誰。兎の口ぶりからしてお偉いさん?」

「そうね……分かり易く言えば、彼は穢れが物から永遠を奪うことに気付いた賢者であり、月に移り都を開いた王であり、私の親戚と言ったところかしらね」

「アンタの親戚ねぇ……。ならもう一つ質問。その月夜見ってのは私の知っている(・・・・・・・)ツクヨミで良いのかしら」

「恐らくはね。もっとも彼の伝承がどの程度地上に残っているのか知らないけど」

 

意味深な説明をする永琳に対し、霊夢は頭を抱えて面倒くさそうに溜息を吐く。

俺は今の話を聞いても永琳の親戚くらいにしか感想をもてないけど、霊夢は彼女の親戚の事を知っているのか?

 

「成る程。月の民がどうして地上の人間を見下すのか何となく分かったわ。つまりアイツ等は神に選ばれた人間ってわけ」

「それは少し違うわね。月の民というのは全て月夜見の親戚よ。彼が信頼出来る親族を引き連れて開いた都だから、あそこの住人たちは親戚とその末裔だけよ」

「そっちの方が余計に頭が痛くなるわよ。ったく、一体何を考えてるのよあの神は」

 

永琳の話を聞いて霊夢は完全に呆れているが、俺は話に全くついていけていない。

 

「霊夢。お前はそのツクヨミってのを知っているのか?」

「まぁね。月夜見ってのは神道の月の神様の名前で、天照や素戔男尊の兄弟とされている。姉の天照が太陽を司るの対し、弟の月夜見は月を司る神とされているんだけど……」

「されているんだけど、なんだよ?」

「あの神様の伝承って殆ど伝わっていないのよ。伊邪那伎(いざなぎ)が黄泉国から帰ってきた時に行った禊から生まれた神とは伝わっているけど、その性別すら分かっていない。現存する文献に少しだけ登場するけど、本当に少しだけで大したことは伝わっていないわ」

「じゃあ、その謎の多い神が月の都の王の正体だと?」

「永琳の口ぶりから察するとね。でも幾つか納得出来る点もあるのよ。月夜見の伝承が少ないのはそれを書き記される前に彼が月へと行ってしまったからでしょうし、月の住民に寿命がないのも神代の存在なら納得だわ」

「ふ~ん……」

 

霊夢が説明してくれたお陰でなんとなく分かったが、正直なところ余り関心は持てなかった。

月の王が天照の弟だとしても仲良くする意味もないし、今重要なのは月を占領した神とやらの事だ。

もし兎が言っている神が俺達が探している奴だとしたら、かなり面倒な事になる。下手したら都一つ落とす必要も出てくるか……。

 

「とりあえず月の王の事は分かった。それで月を占拠した神ってのは何者なんだ? 如何してそうなった」

「それは……えっと……」

 

兎は困った顔で俺達と永琳の事を見比べてはじめる。恐らく月での出来事を俺達に話していいのか悩んでいるんだろう。

話すつもりが無いなら二人の会話を盗み聞きすればいいだけだが、余り面倒を掛けたくないんで出来れば素直に話して欲しい。

そんな俺の考えを察しったのか、永琳は兎の顔を見ながら一つ頷いて話を促した。

 

「……事の始まりは去年の年明けからでした。年が明けて間もない頃、月の影から大量の化け物たちが現れ、都を襲い始めたのです」

「影から化け物が? 月は穢れの無い世界だというのに如何して……」

「原因は分かりません。それを調べる間もなく化け物たちは津波の様に押し寄せてきましたから。玉兎の仲間たちや月の兵達も戦いましたが駆逐することが出来ず、追い詰められていきました」

「ふ~ん。化け物がどんなのか知らないけど月の民も大したことは無いわね」

「それは仕方が無いわよ。月は地上とは比べ物に為らない程の技術を持っているけど、それで対処出来ないような相手が来たら手の打ち様がなくなるし、玉兎たちは化け物を前にして逃げ出したのでしょう。戦闘の経験なんて殆どないのだから」

 

永琳の鋭い一言に兎は図星を付かれたのか、肩を落とし小さくなる。

 

「まぁ玉兎たちをせめても仕方が無いし、兵たちが押し込まれたのも別にいいわ。でも、依姫はどうしていたの? あの子の力なら如何とでも押し返せたと思うのだけど」

「依姫様は其処の男との戦いで瀕死の重傷を負いましたので、あの時の戦いには参加できませんでした」

「そうなの。……彼らが月に行ったのは雪が降り始める前のこと。そして化け物たちが月に現れたのは年が明けてすぐでは戦線復帰は無理ね。全く、貴方さえ行かなければ依姫も大怪我を負う事はなかったでしょうに」

「文句なら俺にじゃなくて俺を無理やり連れて行った魔女に言え。俺だって好きで行った訳じゃねぇよ」

「それは分かっているけど愛弟子がやられたのだもの、恨み言の一つでも言いたくなるわよ」

「そりゃ悪かったな」

 

永琳の恨み言を軽く聞き流す。今までにも多くの恨み辛みを買ってきたから、そんな物を一々聞く気にはなれん。

当の本人はそんな俺の態度に何か言いたそうな目で見てくるが、直ぐに無駄と悟り大きな溜息を吐く。

 

「……リュウにこれ以上何を言っても無駄ね。それで、戦争が始まって追い込まれた後なにが起こったの?」

「あ、はい。月の民は追い込まれた後も懸命に戦いましたが覆す事はできず、誰もが絶望し諦めていたそんな時です。あの老人が現れたのは」

「老人?」

「はい。その老人は自らを神の使いと名乗り、このどうしようもない劣勢を覆してみせると言いました。最初は誰も信じようとはせず、妄言だと言って追い出そうとしましたが老人は居座り続けました。頑なに出て行こうとしない老人に一人の兵が〝この劣勢を覆せる物なら覆してみろ〟と投げかけると、老人は待っていたと言わんばかりに頷いて化け物達が蠢く最前線へと赴き、一柱の神を光臨させました」

「………………」

「その神は化け物たちを残らず駆逐し、あの戦争を終わらせました。それを見て月の民達は大層喜びましたが王だけは皆とは違う反応でした。王は助けてくれた神に感謝しながらも、今すぐ月から出て行くように迫ったんです」

 

助けてもらった相手に出て行くように迫った? 自分の国を救ってくれた相手なら城に招くことはあっても、礼もせずに相手を追い出すような真似はしないはずだが……それが出来ない事情があったのか。

 

「助けて貰っておいて随分と酷い言い草ね。普通は城に招く物なんじゃないの?」

「確かにそれが普通の対応かもしれないけど、月夜見は物事の本質を見抜くのに長けていたわ。恐らくその神の本質を見抜いて追い出したのでしょう」

「はい。突然の王の発言に最初は皆戸惑いましたが、続けて王はその神を居ては為らないモノだと断言しました。そして神とその使いは残念そうにしながら都から出て行きました……が―――」

「そいつ等は都から出て行っただけで月から出ては行かなかったと」

「その通りです。化け物の襲来で都が滅茶苦茶になりましたし、亡くなった方の弔いや都の復興などで確認する暇もありませんでしたから。そして奴等は気付かれない内に月の民たちを洗脳して行きました。最初のうちは王の態度に不満を漏らす程度でしたが、次第にそれも大きくなり……やがては王は間違っていると、自分たちを導いてくれるのはあの神を置いて他にないと言い始め、誰も彼もがあの神を唯一神と崇めるようになりました。職務に復帰した依姫様と豊姫様はあの状況を打開しようとしたのですが、如何する事も出来ませんでした」

「……そして神によって洗脳された民の手により城が占領されたのね」

「はい、あっという間の出来事でした。もうすぐ一年が終わると言う時に民たちが城に攻め込んできました。依姫様は暴動を鎮圧しに行こうとしましたが、神の洗脳は城の内部にまで及んでおり手の施しようがありませんでした。それでも依姫様は王を救おうと戦いを挑んだのですが……捕らえられてしまい、王と依姫様を人質にされ豊姫様は降伏しました」

 

一頻り話を終えた兎は悔しさからか自分のスカートの裾を力一杯握り締める。

永琳も話を聞き終え沈痛な面持ちで物思いに耽るが、兎に掛けられる言葉はなかった。

若干長い話ではあったが現在の月の状況を一通り聞くことは出来たかな。中々面倒な状況になっている様だが、月を占領した神とやらは中々にねちっこい奴みたいだな。一年も掛けてほぼ全ての民を洗脳するか普通。

 

「……月で何が起こっているのかは分かりました。それで貴女は何をしに此処へ? まさかまた逃げてきたんじゃないでしょうね」

「ち、違います! わたしは豊姫様に頼まれて永琳様にご助力をお願いしに来たのです。自分の力だけでは如何する事も出来ないからと、混乱に乗じて豊姫様が送って下さったんです」

「混乱ってまだ平定してないの? 民を洗脳してるのに?」

「いえ、そうではなくて別の理由での混乱です。なんでも神の使いの老人が地上で行方不明になったらしくて」

「地上で行方不明に? ……一つ聞くが、その老人ってのはハルクって名前の白髪に白髭を蓄えた老人か?」

「その通りだけど……何か知っているの?」

「知ってると言うか、つい先日俺達が叩きのめした相手と言うか……」

「……えっ?」

「あ~そう言えば蛸の化け物が人に化けているときの姿がそんなんだったわね。色々と情報を聞きだそうとしたら紫の奴に掻っ攫われたけど、まず間違いなく生きてないでしょ」

 

なんだか変な所で話が繋がっちまったが、どうやら俺達が探していた神は月に隠れていたみたいだ。

そりゃアレだけ探し回っても手掛かりが見つからないわけだ。月の情報なんて手に入れようが無い。

奴が何を考えてこんな事を仕出かしたのかは分からないが、居場所が分かったのなら直接乗り込んで問い質せばいいし、その上で斬り捨てればいいだけの事だ。

漸く事態の解決が見えてきて内心喜んでいると、殺気だった何者かが塀を乗り越えて永遠亭に乗り込んできたのに気付く。

数でいうと十程度と大した事はないが、おかしな事に殺気をまったく隠そうとはしていない。

そう言う点ではあの骸骨騎士たちと同じだが、コイツ等は何かをするような気配もなく真っ直ぐ此方へと向かって来る。

誰が標的なのかは分からないが、少なくとも誰かを殺しに来ている事だけは分かる。

俺は叢雲を取り出し、いつ何が来ても良いように構えていると一筋の光が兎に向かって放たれる。

早く真っ直ぐ飛んで来る光線は、兎には到底かわせる様なものではない。

俺はその光線を叢雲で払い兎の事を助けてやる……のは良かったが、払った光線が着弾したところは大きな孔が開いてしまった。

助ける為に仕方がなかったとは言え、あまり被害を広げすぎると文句を言われそうだな。

 

「な、何今の!? 一体誰があんなものを?!」

「誰も何も、あそこで構えているアンタの追っ手でしょ」

 

霊夢が指差した先に居たのは見た事の無い銃を構えた男数名と、光の棒みたいなものを持った男たちだった。

どちらも幻想郷では余り見ない物と持っているし、真っ先に兎を殺そうとした所を見るに月の連中か。

 

「あら、随分とい懐かしい顔が居るわね。私の首でも取りに来たのかしら」

「なんだ、あの中に知り合いでも居るのか?」

「えぇ、見知った顔が数名ね。……でも、とても正気には見えないわね」

 

永琳の言葉を裏付けるかのように、男たちは再会を懐かしむ様な事もなく、自身の持つ獲物を構える。

隠そうともしない殺気をこちらに叩き付け、銃を持った男たちは躊躇わずに引き金を引いた。

再び放たれる光線は俺達を撃ち抜こうと真っ直ぐ飛んで来るが、即座に張った霊夢の障壁に阻まれる。

放たれた光線を防ぎ切り、障壁が消え去ると俺達の目の前には光の棒を持った男たちがいた。

光線が放たれ意識がそっちに向いているうちに間合いを詰めたのだろう。

あの僅かな時間に此処まで間合いを詰めるとは大したもんだが、天狗なんかと比べればまだまだ遅い。

俺は目の前の男よりも早くそいつを斬り伏せ、すぐさま霊夢を狙っていた男を薙ぎ払う。

そして永琳を兎を狙っていた奴も斬り裂き、残っていた最後の一人には突きを叩き込んでやった。

僅かな時間に仲間がやられたというのに、銃を構えている連中の表情に焦りはなく、人形の様に無表情。

銃を構えている連中は近くに仲間が倒れているにも拘らず、俺達に向けて銃を乱射してくる。

仲間を巻き込むのも厭わないその在り方に驚愕するが、俺にも守らないといけない奴が居る以上手は抜かない。

放たれた幾つもの光線を前に意識を集中し、目の前に迫ってきた光線を斬り払い、全ての弾道を逸らした。

逸れた弾道は塀や地面に孔を空けるが、コッチの被害はゼロ。誰一人として光線は掠らなかった。

普段ならここらで自分の攻撃が通じて居ない事を悟るんだが、どうやら男たちにそんな頭はないらしく、またしても無意味な攻撃を続けてくる。

その学習能力のなさに呆れ果てるが、向こうはそんな事を気にするような素振りもなく攻撃してくる。

だが、奴等が放った光線は霊夢が張った結界によって阻まれ、俺達に攻撃が通ることはなくなった。

結界によって奴等の攻撃を防いでいるうちに、俺は黄色の光球を作り出し握り潰す。

すると奴等の足元の地面が陥没し、奴等を穴に落としたあと土が盛り上がり、首から下を地面に埋めた。

奴等が動かなくなったのを確認してから近付き、その内の一人の喉元に叢雲の切先を突きつける。

 

「兎狩りをしに来たにしては大人数だが、相手が悪かったな。コッチとしても色々と聞きたい事が在るし、大人しくしていれば命までは取りはしない」

「…………………」

「まずは兎を狙った理由とお前等が崇めている神とやらに付いて色々と喋ってもらおうか」

 

叢雲を喉元に突きつけ喋るように促すが、男は口を割ろうとはせず沈黙を続けている。

恐怖の余り喋れなくなっているようには見えないし、この状況でも危機感を懐いているようには見えない。

他の奴も危機感を懐いていないようだが、命の危険に晒されているって自覚はないのか?

 

「……神よ、与えられた天命を今果します。我等の命は貴方様の為に」

 

男がそう呟くと足元の地面が盛り上がり、後ろで倒れていた連中の武器が突然光り始める。

突然の異変に危機感を覚えた俺は大急ぎでその場から離れるが、その最中に嬉しそうに笑う男たちの顔が眼に入った。

この状況下で笑える精神も理解出来ないが、コレから自分達がどうなるのか分かった上で笑っているなら狂っているとしか言いようが無い。

悪い予感がしているのは霊夢も同じらしく、俺が傍に駆け寄ると即座に結界を張って防御の体勢を整える。

結界を張って守りを固めたのはいいが、威力がどの程度なのか分からないし、奴等をそばに置いておくのは危険すぎる。

俺は黄色の光球を作り出して即座に握り潰し、男たちの居る地面を操作して天高く持ち上げる。

永遠亭の庭に十の土の柱が出来上がった瞬間、柱の天辺が爆発した。

辺りに爆発の衝撃と熱が巻き起こり、蒸発せずに残った土が永遠亭の庭に降り注いだ。

余りにも突然の出来事に兎は腰を抜かしてへたり込み、永琳ですら驚きを隠せずにいる。

霊夢が張った結界のお陰で誰一人怪我はしていないが、俺達を襲って来た連中の遺体も見当たらなかった。

 

「……まさかとは思うけど、最初から自爆特攻をするつもりで来てたんじゃないでしょうね」

「恐らくはそのまさかだろうな。神の為に自分の命捨てるとか幾らなんでも頭おかしいだろッ」

 

この惨状を前に俺は苛立ちを抑えることが出来ず、無駄と知りながらも地面に拳を叩きつける。

蛸は自分の信じる神がこの全ての物を救うとか言っていたが、こんな事をして一体何が救われるって言うんだ。

やり場のない怒りを感じながらも、俺はただ拳を握り締めることしか出来なかった……。

 

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