竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二百五話 都への潜入

兎が話してくれた月の都の現状。そのお陰で月の民がおかしな事になっているのは分かったが、まさかが地上にやって来て自爆をするほどとは思いもしなかった。

地上は穢れに満ちているといって毛嫌いしていた筈なのに、奴等は何の躊躇いもなく神の為と信じて自分の命を捨てやがった。

月で何を言われたのかは知らないが、自分が死ぬ瞬間に嬉しそうに笑えるなんてどうかしている。

縁も所縁もない連中だが、他人の死を見てここまで怒りを覚えたのは久し振りだ。

 

「……悪いな、永琳。アンタの知り合いを助けられなかった」

「いえ、貴方が謝る事じゃないわ。どの道あの状況では助けられなかったもの」

「………………」

 

俺の所為ではないといいながらも、永琳は俺と顔を会わせようとはせず、土の柱を見上げてなくなった者達の事を悼んでいる。

月を捨てて千年以上は経っているだろうが、それでもアイツ等の死に想うところがあるのだろう。それにさっきの話からするとあそこの住民は全員永琳の親戚だ。近しい者が死んで嘆かない奴はいないか。

 

「おい、兎」

「ぇ……あ、なに」

「お前、月の都に詳しいのか」

「それなりには詳しいかな。お城の方で働いていたし」

「だったら道案内を頼む。月でふんぞり返っている奴にお礼参りしに行かないといけないからな」

 

突然の俺の発言に誰もが目を丸くし、驚きをあらわにする。

 

「お礼参りしにってそんな無茶な! 貴方がどれだけ強くても月にはまだ沢山の兵器が残っているし、それらを使いこなす兵士たちも大勢いる! 少し攻撃を凌げた程度で調子に乗らないで! ここはやはり八意様の知恵をお借りして作戦を練ったほうが―――」

「ないわよ、そんな物。彼が月に乗り込んで暴れる、これ以上の上策なんて私には思いつかないわ」

「な、何を言っているんですか八意様! 幾ら彼が強いからって無策で戦いを挑むなんて無茶ですよ!」

「確かに普通の奴なら無茶でしょうけど、彼は普通じゃない。私の計算を上回る動きを見せるのに下手な策を与えれば返って足を引っ張る事になるわ。貴女も月では彼の指示に従いなさい」

「わ、私も行くこと前提なんですか!?」

「えぇそうよ。私が月に行っても良いのだけど、月から使者が送り込まれているみたいで、私は地上に残って輝夜を守らないといけないし、庭の後始末もしないと。案内ならうどんげを付けても良いのだけど、あの子が拒否するでしょうから貴女しかいないのよ。だからお願い、彼に協力してあげて」

「……八意様がそこまで仰るのでしたら」

 

永琳に説得されて、兎は渋々ながら月への動向を了承してくれた。

これで案内役の確保は出来たのはいいが、月に辿り着いてからどうするかなんて全く考えていない。

永琳の奴は俺を高く買ってくれているみたいだが、生憎と彼女の期待に応えてやれる保障なんてない。

細かい事は月についてから考えればいいとして、問題なのはあの兎を庇いながら神のいる所を目指さないといけないって事だよな。……すんごく面倒くさい。

 

「……まぁ、そう言う訳だからちょっと行って来る。留守番頼むぞ、霊夢」

「ちょっと待ちなさい。なんで私を置いていこうとしてるのよ」

「いや、だって今から向かう月は神に支配されてんだぞ。なら向こうに行ったらまず間違いなく戦闘になる。普段の弾幕ごっことは違う、本当の殺し合いだ。そんな所にお前を連れて行けるわけ無いだろ」

「そんな事くらい分かってるわよ。だからこそ一緒に行きたいの」

「軽く言っている意味が分からないんだが……」

「アンタの事を放っておけないっていってるの! 確かにリュウなら一人で行っても如何にか出来るかもしれないけど、そこで起こしたことの責を全部一人で背負でつもりでしょ」

「別にそんな事は―――」

「そんな事ある! この間の僧侶の時だって結局はアンタが憎まれ役を買って出たじゃない。今回もそうするつもりなんでしょ。それが分かっているのに家でアンタの帰りを待っているだけなんて絶対にいや! リュウが罪を背負うっていうなら私も一緒に背負うわ。…それに前に言ったじゃない。助けてくれるなら支えたいし、傷付いているなら助けたいって。だから、私にも少しは背負わせなさいよ」

「………………」

 

霊夢は必至に頼み込んでくるが、俺は何て返事をすれば良いのか分からなくて困り果てた。

霊夢に人殺しなんてして欲しくないし、彼女を置き去りにして兎と月に行くのは簡単だ。だけど、霊夢が隣りに居てくれるから安心して戦えるのも事実だ。

月で何が起こるか分からないから、比較的安全な地球に居て欲しいと願うのは俺の我が侭なんだろうか。

 

「……何が起こるか分からないんだぞ」

「そんなの何時もの事じゃない」

「最悪命のを落とすことだってありえるんだ」

「そうなる前にリュウが助けてくれるでしょ? 私、信じてるから」

「其処は俺頼みかよ……。ったく、もう好きにしろよ」

「えぇそうするわ。今までだってそうして来たんだから」

「やれやれ……」

「話はもう終わったのかしら?」

「あぁ。スマンな、変に手間取って。直ぐに片を付けて来る」

 

兎が俺達の傍にやってきたのを見計らって、俺は自分の足元に魔法陣を展開し転移の準備に入る。

魔法陣から立ち昇る光により、徐々に周囲の景色が見えなくなっていく。

頭に前に行った月の浜辺の光景を思い浮かべながら、足元の魔法陣に力を注ぎ込む。

 

「リュウ、あの子達の事を頼んだわよ」

「……それは保障しかねるな」

 

不安を煽るような言葉を残し、足元の魔法陣を起動させて永遠亭の庭から月の浜辺にまで転移する。

転移した浜辺は素戔男尊との戦いの傷跡が残ったまま何も変わっておらず、人の手が加えられた様子もなく荒れ果てていた。

あの戦いから一年以上が経過している筈だが、人の手が加わっていない所を見るに月の連中は此処を見放したようだ。斬り裂かれた地面は無理だとしても、他の部分は何とか出来ただろうに。

荒れ果てた海辺を見てそんな事を思いつつ、ちゃんとした足場の所まで二人を連れて飛んでいく。

 

「よっし、到着っと。やっぱりリュウの転移魔法便利だわ」

「豊姫様のお力とは随分と違うし、一体どんな原理で飛んでいるんだろ……」

「そんな事を気にしても仕方がねぇだろ。それよりも今は月の都へ行く事が先決だ。案内頼むぞ、兎」

「分かってる。こっちよ、付いて来て」

 

先を行く兎の後を追って、俺と霊夢も歩き始める。

何が出てきてもいい様に周囲の警戒は怠らないようにするが、月に着いた時から何者かの視線を感じる。

目に見える範囲には俺達以外の人影は見当たらないが、既に月の全土は神によって掌握されていると考えて良いのかもしれない。

既に俺達のことは敵に知られていると考えたほうが良さそうだが、今のところは向こうから何かを仕掛けてくるような気配は無いか。

全く気が抜けない状況だが、仕掛けてこないのなら下手な行動はせず、月の都を目指したほうがいいだろう。

そう思い月の都を目指して先を急ぐが、向けられた視線に不安を拭いきる事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「こ、此処が月の都です」

「……これが、ねぇ」

 

兎の案内で難なく月の都に辿り着き、物陰から町の様子を窺っているんだが、俺達の目の前にはなんとも不気味な光景が広がっていた。

都の街並みは漆喰の壁に瓦の屋根と俺の帝国と似ているが、問題なのは其処で暮らしている人々の表情だ。

誰も彼もが笑顔で、幸せそうにしているのに……何故かその表情に違和感を感じてしまう。

顔は笑っているのにその顔がどうも作り物臭いというか、笑う以外の表情が失われているような、そんな違和感があった。

 

「ちょっとレイセン。月の都の住人ってのは何時もこうなの?」

「ち、違うわよ。確かに皆明るい人達だけど、全員が笑顔だなんて私も初めてみた」

「だとしたらこれが神に洗脳された結果なのかしらね。何処を見ても笑顔だなんてすんごく不気味」

「ねぇおねえちゃんたち、こんなところでなにをしているの?」

「ん?」

 

物陰にいる俺達に話しかけてきたのは、兎の耳を生やした年端も行かない小さな少女だった。

街中には同じ様に兎の耳を生やした何人もいるが、兎の耳が無い俺と霊夢は相当浮いているんだろう。

 

「ねぇこんなところでなにをしているの? かくれんぼ?」

「ちょっとした人間観察よ。……いや、この場合だと兎観察になるのかしら」

「ふ、普通に玉兎観察で良いと思うんだけど」

「でもアンタ等って月での兎なんでしょ? だったら別に兎観察でもいいじゃない」

「……なんだろう、凄くやり切れない気持ちになる」

「よくわからないけど、おねえちゃんふしあわせなの? だめだよ、このまちのひとはみんなしあわせでなくちゃいけないんだから」

「皆幸せってそんなの夢物語でしかないわ。そんな馬鹿な事を言うのも大概にしなさい」

「ばかなことじゃないよ。このまちはね、みんなかみさまがすくってくれたの。だからおねえちゃんたちもすくってあげるね」

 

少女が訳の分からない事を言うと、霊夢の首に掛けられていたペンダントの宝石が黒に変わった。

そのどす黒い色を見て嫌な予感がした俺は、霊夢の襟首を引っ張って無理やり後ろに下げると同時に、少女が隠し持っていたハサミを霊夢に突き出してきた。

 

「なッ!?」

「あれ? はずしちゃった」

「外しちゃったじゃないよ、駄目でしょそんな事しちゃ!」

「どうして? これでさせばおねえちゃんたちをすくえるってかみさまがいってたんだよ?」

「……えっ?」

 

兎の驚きを他所に、少女の言葉を合図に街の様子が一変した。

さっきまで幸せそうに笑っていた連中の顔から笑顔が消え、近くにある凶器になりそうな物を各々が手にする。

そして誰も彼もが俺達の方を振り向いて、凶器を手にしたまま俺達のほうへと近付いてくる。

街に入ったら戦闘があるだろうと覚悟していたが、流石にこんな事になるなんて予想だにしなかった。

相手がある程度の年齢だったら男も女も関係なく斬るんだが、あんな小さな子を斬るのは流石に気が引ける。

 

「……二人共、一旦逃げるぞ」

「賛成ね。この状況はちょっときついわ」

「で、でも逃げるといっても何処から……」

「そんなの屋根からに決まってるだろ」

 

まだ気が動転している兎を脇に抱えて、地面を蹴り上げて屋根の上に登って走る。

霊夢も俺の後に続いて屋根の上に登るが、街の住人達は凶器を手にしたまま俺達の事を追いかけてくる。

機転を利かせた霊夢が結界を張って大通りを封鎖するが、別のルートから来た住人が屋根に梯子をかけてよじ登ろうとして来た。

橋の上で乱戦になるのは面倒だから住人ごと梯子を蹴落とすが、直ぐに別のところに梯子をかけて登ってくる。

俺は霊夢に視線を送り反対側の建物に飛んで逃げ続けるが、それに対応して住人達もすぐに別の梯子をかけて追いかけてきた。

面倒だから叢雲を取り出して全員斬り捨てたくなるが、大人も子供も関係なく襲ってきやがるもんだから、どうしても躊躇ってしまう。

コッチのいやな所を的確についてくるが、何時までも逃げ回っていても仕方が無いか。

 

「おい、兎。何処かに隠れられる場所は無いか」

「か、隠れられる場所っていわれても街の中じゃ何処も同じだし……。あ、そうだ! お城の中なら隠れられるかも! あそこなら街の人達も入ってこないだろうし」

「なるほど。それでお城ってのは何処にあるのよ」

「大通りを真っ直ぐ行った先にある大きな建物。アレがそう!」

「前に見えているあのデケェのか。……よし、行くぞ霊夢!」

「了解ッ!」

「え、あ、ちょっとッ!?」

 

街の住人を振り切るために速度を上げて飛んで行き、脇目も刳らずに城壁前へと辿り着く。

下の門から入れれば苦労はしないんだが、街での騒ぎを聞いていたのか、門の前には沢山の兵士の姿が見える。

アイツ等を斬り捨てて中に入るという選択肢もあるが、街の住人と合流されて乱戦になるのは避けたい。

正直面倒ではあるが、目の前の城壁に星脈弾を叩き込んで壁にデカい風穴を開けて内部に侵入する。

兵士達も俺らがこんな方法で侵入するとは思っていなかったのか、上を見上げて大騒ぎをしているだけ。

今の内に中に侵入して何処かで身を隠そうとするが、何時の間にか俺達の前に知らない筈の老人が立っていた。

 

「……お久し振りですね、使命の子よ」

「あ?」

 

懐かしそうに話す老人に言い返そうとするが、不思議な事に身体がピクリとも動きやしない。

身体が動かないのは俺だけではないらしく、脇に抱えている兎と後ろに居る霊夢も動く気配が無い。

この老人に声を掛けられる前は体が動いていたし、威圧されて動けなくなっているでも無さそうだし、俺達が気付かれないような極僅かな時間に何らかの術を施して、俺達の動きを封じたのか。

 

「貴方とはゆっくり語らいたいものですが、ここはその場に相応しくない。場を設けますので、暫しの間別室で待機していただきましょう」

 

そういって老人が手を下に振り下ろすと、その動きに合わせて俺達の身体が地面に叩きつけられる。

動かない体では受身も何も出来ず、ただされるがまま地面に激突するしかなかった。

なんとかして立ち上がろうと足掻くが、まだ動きを封じられていて如何する事も出来ず、抵抗する事もできずにやってきた衛兵に捕まってしまった。

 

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