アイツ等を連れてつきより帰還した俺と霊夢は、衣玖に挨拶もそこそこにしすぐさま永遠亭に向かった。
天照は分霊だから高天原に戻れば回復するとの事で直ぐに帰ったが、残りの四人は生身だ。地上は穢れているととか言って毛嫌いしているコイツ等を家に置いとくことは出来ないし、月夜見を診てもらう事を考えて同郷の者が居る永遠亭に預けるのが一番だろう。
そういった理由から永遠亭に戻ってアイツ等を預けたんだが、流石に大人しくはしてくれないか。
「……何故だ」
「あ? なにがだよ」
「何故、私たちを地上に連れて来た。何故月の民たちを見捨てた。答えろ、竜!」
月夜見たちを預け、漸く一息つけるかと思いきや依姫の奴に詰め寄られた。
王を助け出す事が出来ても、目の前で民たちが化け物に襲われる瞬間を目撃したんだ。やり切れない思いがあるのも分からなくは無いが、俺をそのはけ口にされても困る。
「あの状況じゃお前等だけしか助けられなかった。ただ、それだけの事だ」
「だが、お前の力なら化け物を殲滅させる事だって出来ただろう。なのに何故ッ!?」
「確かにあの力なら殲滅する事はできるが、その余波で間違いなく都は滅ぶ。戦って生き残れるのは霊夢くらいなもんだ。それにアイツ等は神が命じれば喜んで命を投げ捨てるような状態だぞ。仮に助けられる状況だったとしても俺の救いは拒むだろうさ」
「……くそッ」
俺に言い負かされ、何も言えなくなったのか依姫は苛立ちを隠そうともせずに立ち去った。
他の奴に当たるような真似はしないと思うが、心の整理が出来る様になるまではまだ暫く時間が掛かりそうだ。
今後の身の振り方を如何するのかはわからないが、当面の間は永遠亭で大人しくしてもらうしかないだろう。
「やれやれ。やっぱり面倒な奴を引き込んじまったかな」
「あの子は頭がいい。きっと貴方の言っている事をちゃんと理解していますよ。ただ心が納得できていないだけです」
「そうだと良いんだけどな。……ところで、もう起き上がっても平気なのか月夜見」
「えぇ。お陰さまで」
声を掛けられ後ろを振り返ると、そこには月夜見の姿が在った。
長い事アイツに力を搾取され続けていた所為か、若干やつれている様に見えるが一人で立って歩く位に体力が回復したみたいだ。
「起き上がれるくらいに回復したのはいいが、アンタは俺に何の用だ? アイツの様に嘆きに来たのか」
「確かに近しい者を亡くし、嘆きたい気持ちはあります。ですが、その様な事をしても現実は何も変わらない。けれど、ケジメは付けておきたい」
「ケジメねぇ……。今のアンタに出来る事なんて何もねぇよ。立ち上がれるといってもまだ全快した訳じゃないんだ、大人しく布団で寝てろ」
「そうしたいのは山々ですが、此度の件で私たちが失ったものは余りにも大きい。本当なら私が率先して動きたいのですが、貴方の言う通りまだ回復しきっていない。……だからお願いします、私たちの代わりにあの者を、あの邪神を討ち取ってください」
月夜見は俺に頭を下げてデスエバンを倒して欲しいと頼み込んでくる。
自分の領地を奪われ、民を洗脳され、蹂躙の限りを尽くしたアイツを許す事ができないのか、神々にとって天敵である俺を頼ってくる。
どんな存在であれ〝神〟と名乗る相手を殺すのに俺は最適かもしれないが、月夜見の復讐の為に戦うなんて事するつもりはない。
「……悪いけど、俺はアンタの為に戦うつもりは無い。復讐してほしいなら他の奴に頼んでくれ」
「どうしても……ですか」
「どうしてもだ。第一、月の都がどうなろうと俺の知った事じゃないからな。天照を助け出せた時点であの都に関心は無い」
「………………」
「でも、アイツの所為で幻想郷が大変な事になったからな。放っておいたら更に面倒事を引き起こしそうだし、そうなる前にケリを付けるさ」
俺の言葉に月夜見は一瞬驚いたような顔をするが、直ぐに引っ込みコッチを見て微笑んでくる。
その微笑みは俺を誰かと重ねてみているようで、何処となく懐かしんでいるかのようにも見えた。
「……なんだよ」
「いえ、貴方は素戔男尊とよく似ているのだなと思いまして」
「俺がアイツと? 一体何処をどう見ればそうなるんだよ」
「良くも悪くも自分の心に正直な所とか、こちらの言う事を聞かないけど、その心根は決して悪ではないと言う所とかでしょうか」
「……俺に何を見出したのかは知らないが、アイツと重ねて見るのはやめろ。寒気がする」
「そうですか。貴方がそう言うのであれば彼と重ねるのはやめましょう。そして復讐を頼むのも。……ですから竜、貴方は貴方の心が命じるままに剣を取り、戦ってください」
「アンタに言われなくてもそのつもりだ。俺は俺の大切な物を守り切ってみせる。絶対にな」
月夜見を前に堂々と宣言してやると、急に永遠亭内が騒がしくなり始める。
依姫のやつがウサギ達に当たっているのかと思ったが、そう言うのとはまた違う様な気がした。
月から帰ってきたばっかなんだし、もう少しくらいのんびりさせろよと心の中で思っていると、霊夢が慌てた様子で俺達の元へと駆けつけてきた。
「此処に居たのね、リュウ! ……って、月夜見。アンタもう大丈夫なの?」
「えぇ、お陰さまで。それよりも一体如何為されたのですか、随分と慌てていたようですが」
「と、そうだった。大変なのよ、リュウ。急いで私と一緒に里に来て!」
「だから一体何が起こったんだよ」
「今さっき衣玖が来て知らせてくれたんだけど、月で見た化け物どもが幻想郷に現れて里を襲ってるのよ! 怪我人も結構出ちゃってるみたいだし、手遅れになる前に早く!」
「そう言う事か。……こっちに休む間も与えず攻め込むなんて意外とやるじゃねぇか」
「暢気にそんな事を言ってないで早くする!!」
「分かってる。……そう言うわけだから月夜見、アンタはあの姉妹と一緒に此処で大人しくしてろ。勝手に動き回られても困る」
「そうですね。手伝えることも無いようですし、此処で貴方達の武運を祈っていましょう」
「そりゃどうも」
適当に返事をしたあと、月夜見に背を向け霊夢と共に急いで里へと向かった。
………
……
…
俺達が慌てて里へと辿り着いたときには戦局はこう着状態となっていた。
里は上白沢さんが隠してくれているのか更地となっているが、化け物共と戦うには戦力が明らかに足りない。
妹紅や先代も頑張ってくれているし、僧侶の一団も戦ってくれているんだが敵の数の方が多い。
普段見かける骸骨騎士やトカゲの戦士だけならまだしも、月に空いた孔から出て来た紅い魔人や二足歩行の馬やら幻想郷じゃ見た事の無い奴がして押し切れずにいる。
兎が話していた月で起こった戦争もこんな感じで膠着していたのかもしれないが、確かにこんな風に数で押され始めたら一たまりも無いな。
「これはキツイな。一気に片付けるぞ、霊夢」
「分かってるわよ」
俺は叢雲を取り出し、敵陣のど真ん中に飛び込んで近場にいた奴等を切り刻む。
突然の俺の乱入に何らかの反応が在るかと思ったが、奴等は俺が飛び込んでも驚いた様子もなく、機械的に目の前に現れた存在を消そうとしてくる。
背筋が凍りそうなほどの殺意を撒き散らしながら、化け物どもは俺に挑みかかってきた。
それを食い止めるように俺を中心に八角形の結界が張られ、化け物どもを逃がさないように更に大きな結界が張られる。
「夢境『二重大結界』」
二重に張られた巨大な結界。霊夢が俺の傍に降り立ち足元の陣に触れると、一つ目と二つ目の間に閉じ込められた化け物どもは陣から湧き上がる霊力の光に飲み込まれ、欠片一つ残す事無く蒸発する。
大掛かりな結界を使い多くの敵を蒸発させたが、まだ敵の一部を蒸発させたに過ぎない。
敵の数はまだ多く、あの程度の数では優勢に立ったとは言いがたい。
霊夢もそれが分かっているのか、紡いだ結界を直ぐに解いて次の攻撃に備えようとするが、結界を解くと同時に新たな化け物が俺達の前に現われた。
それは形容し難いとても奇妙な姿をしていた。蛇の胴体をしているのに獅子と山羊の頭を持ち、竜の様な翼を持ちながら四本の腕を持つ。
とても生物とは思えない姿をしたその化け物は、なんの躊躇いもなく俺達に襲いかかってくる。
「■■■■■■■■ーッ!!」
「チィッ!」
化け物が飛び掛ってくるのを見て、俺は霊夢を抱きかかえて後ろに飛んで下がる。
あの化け物は地面と激突するが、いとも容易く地面を砕き化け物は無傷だった。
「なんなのよ、アレ。幾らなんでもあの姿はおかしいでしょ」
「姿が変なのは同意するが、そんな事を話している時間もないみたいだぞ」
「全く、少しはゆっくりさせなさいっての!!」
周りから迫って来た骸骨騎士たちを霊夢が弾幕で蹴散らし、正面から飛び掛ってきた化け物を俺が叢雲で受け止める。
化け物が繰り出した二本の腕と叢雲がぶつかり合うが、相手は見た目どおりの力を持っているらしく、受け止めても後ろに押し込まれてしまう。
腕が痺れなかったのは不幸中の幸いだったが、向こうに反撃の隙を与える気は無いらしく、反対の腕から灼熱の業火を放ってきた。
迫り来る炎。初撃を受け止めた所為で回避する暇もなく、炎を切り裂こうにも化け物の腕を押し付けられていて構え直すことも出来ない。
自らの腕を犠牲に俺を焼き殺すつもりの様だが、化け物を取り囲む様に結界が張られた。
化け物が放った炎は結界を焼き尽くすことが出来ず、結果として自らの炎に焼かれる事となった。
結界によって阻まれた灼熱の炎は出口を求めるかのように上へと昇っていき、敵陣の真ん中で巨大な火柱が立ち昇る。
自らの炎によって焼かれた化け物だったが、流石に自分の炎で焼き尽くされる様な事はなく、火柱が消えた途端に結界の中で暴れ始めた。
「■■■■■■■ーーッ!!!」
炎に焼かれ、所々焼け落ちていながらも目に映る存在を殺そうと吼える。
今は霊夢の結界によって阻まれてはいるが、あんなモノが今後幻想郷中を暴れまわるかと思うとゾッとする。
敵の数はまだ多く、俺達が一体の敵に梃子摺っていたら他の敵が先代や妹紅たちの方へと行ってしまう。
コッチの人数は少ないんだ。息つく暇もなく敵の猛攻にさらされ続けていたらいずれ瓦解する。
そう判断した俺は霊夢に合図を送り、邪魔な敵を斬り捨てながら先代達の元へと向かった。
敵の数に圧倒され、大分押し込まれていたのか、俺達が辿り着いたときには皆疲労を隠せずにいた。
「霊夢、それにリュウ。援軍に来てくれたのは嬉しいですが、この状況を覆すのは至難の業ですよ」
「母さんにしては随分と弱気ね。確かにこの状況は今までに経験した事が無いけど、なんとかなるわよ」
「なんとかなるって、随分と暢気な事を言うのですね。まぁ、貴女がそう言うのなら信じてみましょう」
「それなら少しの間だけジッとしていて頂戴ッ!」
そう言うと霊夢は俺以外の奴を結界で覆い、それと同時に異形の化け物の結界を解く。
当然化け物どもは結界の外に居る俺に向かって殺到するが、俺の狙いは其処にある。
「おい、リュウ! そんな所に残ってたら幾らお前でも危ないぞ!!」
「そうなる前に全てを薙ぎ払うだけだ」
悲鳴を上げる妹紅を無視し、俺の目に映るものが敵だけな事を確認する。
全てを飲み込み蹂躙しようとする化け物の集団を前に、俺は叢雲の切先を後ろに下げて構える。
先陣を切って異形の化け物が近付き、その爪で引き裂こうと振り下ろした瞬間、俺は叢雲を振り抜いた。
「……神剣『天叢雲剣』」
自分の降りかかる災厄を薙ぎ払うその一太刀に、化け物達は剣の太刀筋に沿って両断され、俺の視界に入るもの全てが薙ぎ払われる。
この一太刀で勝敗が決し、里を襲っていた殆どの化け物が消滅した。
他に敵が居ないのを確認して漸く一息つけるかと思いきや、地面から湧き上がるように第二陣が出現する。
出現した敵の内容は先程と変わりないが、間を置かずに敵が復活するのを目の当たりにすると流石に嫌になってくる。
「ったく、勘弁してほしいもんだ」
愚痴を零しながら剣を握り直し、霊夢の結界が残っている内に力を解放して一気に殲滅しようかと考えていると、急に空が暗雲に覆いつくされてしまう。
叢雲を掲げていないから俺が呼び寄せた暗雲ではない筈。
また別の敵が出現したのかと警戒しながら空を見上げると、雲の中で蠢く深緑色の鱗を持つ巨大な龍の姿が在った。
その龍は雲から顔を覗かせ雄叫びを挙げると、目の前で突然天災が巻き起こり、目の前に居た化け物共を一掃する。
天災は里だけではなく、幻想郷の各地で巻き起こり、そこで暴れていた化け物共を消し去った。
深緑色の龍が雲の中に戻り、巻き起こっていた天災が収まると目の前には災害の後だけが残されていた。
上白沢さんの能力で里を隠していたとは言え、少し派手にやりすぎじゃないのか? ……力の出し惜しみをしていた俺よりはマシか。
そんな風に思い、自嘲めいた笑みを浮かべていると、いきなり誰かに背中を殴られる。
「アイッタッ!? 誰だよ、いきなり背中から殴ってきたのは!?」
「妾じゃ。なにか文句があるか」
殴った奴を問い詰めようと後ろを振り返ると、其処に居たのは龍神の化身体だった。
今回の件で色々と思う所があるのかかなり不機嫌だが、俺に当たられたって困るっての。
「なんだ龍神か。いきなり殴る事はねぇだろ」
「うっさい、馬鹿もん。それよりも一体何が起こっているのか説明してもらうぞ」
「分かってる。先代や上白沢さんたちも聞いてくれ」
「ふむ、既に隠居している私にも声が掛かると言う事は、かなり厄介な状況にあると判断していいのですね」
「嗚呼。レミリアみたいな力のある妖怪にも参加してもらいたいから、夜に神社に来てくれ」
「……説明すると言うなら今は退こう。じゃが、後できちんと説明してもらうぞ」
「分かってるって。龍神は八雲の奴に連絡を……つけなくて良いか。アイツもこの会話を聞いてそうだし」
「まぁ紫じゃからのぉ。……とりあえず妾は一旦帰る。また後で会おうぞ」
「ああ」
若干不満そうにしながら龍神が姿を消すが、空を覆っている暗雲が晴れることはなかった。
敵の第三陣がやってくる気配はなく漸く一息をつくことが出来たが、話し合いの為に幻想郷中を駆け回らないといけないのかと思うと溜息しか出てこない。
転移魔法を使えば瞬時に移動出来るけど、回らないといけない箇所が多いから面倒くさいんだよな。
ま、文句を言っていても始まらないし、霊夢に事後処理を任せてさっさと有力者に声を掛けにいくか。