竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二百十一話 護る為に神を滅ぼす者

「……さってそれじゃ始めましょうか。これがアンタの描いた歪な夢想の果てよ」

「いい加減過去に縛られて生きるのは止めにしたいんだ。……だから終わらせるぞ、お前との因縁を!」

「おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

聞いたものの心を挫いてしまうような邪神の咆哮。おぞましい声を聞いても二人は臆する事無く立ち向かう。

恐れずに立ち向かってくる二人にデスエバンはその両腕を振り下ろし、二人を叩き潰そうとしてくる。

しかし今のリュウにしてみればその攻撃は余りにも遅く、避ける必要さえないほどのもの。

二人に迫り来る巨大な腕、その腕を前にリュウは足元の石橋を踏み砕きながら迫る腕を一瞬の内に斬り刻んだ。

リュウに斬り刻まれた腕が藍錆色の肉片となって振り落ちる中、霊夢がリュウの前に出てデスエバンと肉薄する。

 

「さっきの借りを返させてもらうわ!」

 

霊夢は体内で練り上げた力を腕に集め、掌から太陽の様に眩く輝く霊力の塊をデスエバンに叩き込んだ。

先ほどは全く通じなかった霊夢の一撃。しかし今は天照をその身に宿し、太陽の力を振るっている。

世界を遍く照らし、不浄を浄化するその圧倒的な力の前に、デスエバンの身体も光玉に触れた部分が蒸発した。

それを見た霊夢はもう一撃叩き込もうとするが、デスエバンの腹にある口が開き、そこから舌ではなく更に別の小さな口が伸びる。

その口から細い無数の舌がのびた瞬間、リュウと霊夢は力が吸われる様な脱力感に襲われた。

急な脱力感により霊夢の技は不発に終わり、逆にデスエバンの欠損した部分が突如として再生する。

身体が再生した事に驚く霊夢をデスエバンはその巨大な腕で殴り飛ばした。

結界が張るのも間に合わず、回避する事も出来なかった霊夢は軽々と殴り飛ばされ、大きく引き離される。

勢いに押されて体勢を立て直すことも出来ず飛ばされていた所をリュウが受け止めた。

 

「あ、ありがとうリュウ」

「それは良いが前に出すぎだ。天照の力を借りているとは言え、基本は生身の人間だって事を忘れるな」

「ぐっ……。言い方はアレだけどその通りだから言い返せない」

「分かっているなら慣れない戦い方をするな。こんな時にまで出し惜しみする必要は無いだろ」

「はいはい、分かってますよっと」

 

若干不貞腐れながら霊夢はリュウから離れ、自分の周囲に無数の光玉を作り出し展開する。

その量、質ともに普段の霊夢では考えられないほどに多く、後の事など全く考えていないようだ。

霊夢はデスエバンに向かって腕を振り下ろし、光玉の弾幕を邪神に向かって放つ。

放たれる光玉の多さに、もはや弾幕と言うよりも絨毯爆撃と言ったほうが正しいのかも知れない。

その余りにも多い弾を受け、デスエバンの身体は少しずつ崩壊し始めていく。

光玉の雨に晒されるデスエバンだが、腹から伸びた小さな口により霊夢の弾幕は全て吸収されてしまう。

そして吸収した力を使い、自らの身体を完全に修復するとデスエバンは両目を黒く輝かせる。

黒い輝きを受けた二人の身体は一瞬の内に氷の中に閉じ込められ、身動きが取れなくなってしまう。

デスエバンは氷の中に閉じ込められた二人に近付き、二人を握り潰そうと腕を伸ばす。

だが、デスエバンが二人に近付いたときリュウを閉じ込めていた氷が砕け、霊夢を閉じ込めていた氷も蒸発した。

それでも構わず二人を握り潰そうと腕を伸ばすが、リュウは掌の中に黄色い光球一つと紅い光球二つを作り出し、その三つを混ぜて今にも弾けそうな白い光の塊を作り出した。

 

「……終極『スーパーノヴァ』」

 

リュウは作った塊をデスエバンに投げ付けると、霊夢を連れて即座にその場から離脱した。

二人が離脱した次の瞬間、投げられた光の塊が弾け、全てを滅ぼすような光の波動が巻き起こる。

抗いようの無い力の流れにデスエバンも飲み込まれ、滅びの光を全身に浴びて身体を崩壊させていく。

途方も無い光の波動が止むと間髪いれずに霊夢の光玉が雨の様にデスエバンに降り注ぐ。

光の波動を受けて崩壊しかけた身体に不浄を浄化する光の雨を受け、身体の崩壊を加速させていくがデスエバンを滅ぼすには決定打に欠ける。

光玉は数を大量に作る事が出来るが、一撃の威力はそこまで高い物でも無い。

手数で攻める弾幕ではデスエバンを滅ぼす事が出来ないと判断した霊夢は、攻撃を切り替えて弾幕ではなく力を集束させた光弾に変更する。

天照より譲り受けた鏡を前面に配置し、その中心に力を集束させて極大の光の塊を作り出した。

作り出された光の塊は小さな太陽といっても過言ではなく、膨大な熱と力強さを秘め闇の世界を明るく照らす。

 

「喰らいなさい! 日輪『天照大御神』!」

 

霊夢の手より放たれた小さな太陽はデスエバンへと向かって飛んでいくが、デスエバンは腹から三度小さな口を伸ばし太陽すら吸収しようとする。

全ての不浄を焼き尽くす力に身を焼かれながらも、霊夢が作り出した太陽は徐々に小さくなっていき、デスエバンに全て吸収されてしまう。

デスエバンは太陽を吸収しただけではなく、離れていたリュウと霊夢の力も吸収し自らの身体を再生させた。

 

「あの力が全て吸収された? 太陽すら飲み込むなんて一体どんな構造してんのよ」

「あんな醜悪な身体をした奴の構造を考えるだけ時間の無駄だ。それよりも奴をどうやって滅ぼすかを考えろ」

「どうやってって言われてもねぇ~。あの吸収を何とかしない限り、戦いは何時まで経っても終わらないわよ」

「それくらいの事は分かっている」

 

リュウは面倒くさそうに溜息を吐きながらデスエバンを見下ろし、対策を考える。

距離が離れていても力が吸収され、攻撃に使ったエネルギー体も吸収されてしまう。

此方のエネルギーが多ければ多いほどそれを使って再生し、エネルギーが底を尽きた所を狙って叩き伏せてくる。なんともいやらしい戦い方だ、あの見た目通りの戦法だな。

相手の戦い方はもう読んではいるのだが、あの吸収をどうやって止めれば良いのか未だ分からずにいる。

だからと言って何もせず傍観している訳にもいかず、リュウは突破口を見出すために剣を握り締めデスエバンに挑みかかる。

リュウは一瞬の内に間合いを詰め、デスエバンの醜悪な身体を斬り刻む。

それに続けとばかりに霊夢が光の弾幕をデスエバンに放つが、デスエバンは闇色の弾を無数に生み出し霊夢の弾幕を相殺し始める。

光と闇の弾幕は互いに打ち消しあい、攻撃が相手に届く事無く消滅する。

リュウはそんな弾幕の中を駆け抜け、デスエバンの横を通り過ぎながら奴の腹を斬り裂く。

そして直ぐに反転し、今度は背中から十字に斬り抜け、体勢を立て直しながら刀身に光の刃を纏わせ、振り向き様にデスエバンの身体を薙ぎ払う。

リュウが繰り出した連撃にデスエバンの攻撃の手が緩み、そこを突くかのように霊夢の弾幕がデスエバンの体を撃ち抜く。

霊夢の弾幕を受けて動きが止まった所を突いて、リュウは叢雲に更に力を注ぎ込み光の刃をより巨大なモノにする。

リュウは白く輝くその刃を振り下ろし、デスエバンの身体を両断していくが、腹の口から伸びた小さな口に力を吸収されてしまい、光の刃の長さが徐々に短くなっていく。

力を吸収され、短くなった刀身ではデスエバンの身体を両断する事は出来なかったが、残り僅かとなった光の刃の切先が腹から伸びた口を斬り裂く。

すると突如として力の吸収が中断され、光の刃は完全に消滅する事無く僅かに残った。

それを見たリュウは叢雲に再度力を注ぎこみ、光の刃を再構成してデスエバンに斬りかかる。

一瞬の内に身体を斬り刻むが、このまま止めを刺そうとする気が無いのか、中途半端な傷ばかりつけている。

デスエバンは全身を斬り刻まれ、再び力を吸収しようと腹から小さな口を伸ばすと、リュウはそれを待っていたと言わんばかりに伸びた口を目掛けて剣を振り下ろす。

光の刃が腹から伸びた口に振り下ろされるが、デスエバンは伸ばした口から闇色の砲撃を放ってきた。

予想外の一撃にリュウは完全に虚を突かれ、放たれた闇の中に飲み込まれてしまう。

叢雲の刃が闇を斬り裂くが、放たれた勢いまでは殺す事が出来ずにリュウは吹き飛ばされてしまった。

闇色の砲撃を受けてもリュウに大したダメージはなく、出来た小さな傷も直ぐに再生する。

しかし、リュウが吹き飛ばされたのを良い事にデスエバンは二人の力を吸収し、傷を再生させただけではなく即座に砲撃の第二射を放ってきた。

リュウに向かって放たれた闇色の砲撃。その前に霊夢が降り立ち、結界を張って砲撃を防ぎきって見せた。

 

「ちょっとリュウ、しっかりしなさいよ。私に前に出すぎとか言っておきながら、アンタも出すぎじゃないの」

「すまん。だが、俺が前に出るのはいつもの事だろ」

「……それを言われたら反論できないんだけど」

「そんなことより、アイツの吸収を如何にかできるかもしれないぞ」

「本当? それでどうやるの」

「別に大した方法じゃない。とにかくどんな方法でも良いから奴に攻撃をし続けてくれ。後は俺が何とかする」

「どんな方法でも? そんなんで良いならお安い御用だけど……一体何を考えてるのよ」

「なぁに、奴の鬱陶しい口を奪ってやるだけだよ」

「その言い方なんか嫌だなぁ~……」

「そんな事は如何でも良いだろ。さっさとやるぞ」

「分かってるわよ」

 

霊夢は結界を解いて空に浮かび上がると、デスエバンに向かって八枚の札を投げて、邪神を四角い霊力の結界の中に閉じ込める。

そして自身も同じ様に作った四角い霊力の結界の中に入る。

 

「……大結界『博麗弾幕結界』」

 

告げられた言葉の後に放たれた光の弾幕が結界に触れると空間を飛び越え、デスエバンを閉じ込めた結界の内側から出現する。

結界により閉じ込められたデスエバンに逃げ場は無く、闇色の弾幕を展開して相殺しようにも全方位から至近距離で現れる弾幕を相殺しても衝撃は受ける事になる。

結界を破壊しようとその巨大な腕を振るうも、霊夢が放つ弾幕の量を増やす事で腕を押し留め、結界には触れさせない。

結界を破壊する事が出来ず、如何する事も出来なくなったデスエバンは腹の口から小さな口を伸ばし、霊夢の弾幕を吸収しようと外に露出させる。

伸びた口が霊夢の弾幕を吸収しようとした瞬間、リュウが結界を打ち破ってデスエバンが伸ばした口を鷲掴みにした。

 

「ぎ、ぎざま、いっだいなんのまねだッ!」

「なに、この鬱陶しい口を引き抜いてやろうと思ってな。お前の吸収はこの口で行われる。ドラゴンブレードの刃が触れたときに吸収を中断したのがその証拠だ。……それならこの口が無くなったらどうなるだろうな」

「や、やめろッ!!」

 

デスエバンは抵抗するかのように、伸ばした小さな口から闇色の砲撃を放つ。

リュウはその砲撃をまともに受けるが掴んだ手を決して離す事は無く、闇色の砲撃を耐え切ってみせた。

砲撃をまともに受けてボロボロになりながらも、リュウは伸ばされた口を引き抜こうと腕に力を込める。

口を引っ張られた事でデスエバンの身体も前に引き寄せられ、霊夢が張った結界と激突する。

リュウが結界に孔を空けたのと、デスエバンが結界に激突した事で障壁に無数の皹が入り、結界の崩壊を加速度的に早まる。

何時崩壊してもおかしくない位に結界は綻び、デスエバンの身体から何かが引き千切れるような音が聞こえてくる。

 

「……でりゃあァッ!!」

 

力一杯腕を引くのと同時に、リュウはデスエバンの身体を蹴り飛ばして邪神の身体から口を引き抜く。

引き抜かれたことで腹から黒い液体が噴出すが、デスエバンは今までの様に二人の力を吸収して傷を再生しようとはしない。

リュウの読み通り、デスエバンは相手の力を腹から伸ばした口から行っていたため、その口を引き抜かれた今デスエバンに相手の力を吸収する事も、傷を再生させる事も出来なくなっていた。

デスエバンの傷が再生しないのを見た霊夢は、即座に結界を張り直して光の弾幕をデスエバンに放つ。

再生能力を失ったデスエバンは闇色の弾幕を作り、霊夢の弾幕に抵抗しようとするが、霊夢はそれ以上の量の弾幕をデスエバン側の結界に送り込む。

自身が作り出せる以上の数の弾幕を放たれ、デスエバンは抵抗する事ができずに光の弾幕の中に飲み込まれる。

デスエバンを閉じ込めた結界は光で溢れ、弾幕の許容量を超えた結界は耐え切れずに自壊し、消滅した。

過密なまでの弾幕を受けてもデスエバンはまだ滅びる事は無く、口を引き抜いたリュウ目掛けて腕を振り下ろす。

自分に向かって振り下ろされる腕をリュウは叢雲で払い、体勢が崩れて隙だらけとなったデスエバンに向かって斬り込んでいく。

 

「人鬼―――」

 

リュウはデスエバンに斬り込んだだけでは終わらず、そのまま二撃三撃と攻撃を続けていき斬撃の結界を描く。

目にも映せぬ早業で斬り刻まれるデスエバンの身体は、手足から細かく斬り裂かれ、落ちていく肉片は結界に触れて消滅する。

リュウはデスエバンの全身を絶え間なく斬り刻み、最後に股下から斬り上げて結界ごと邪神の身体を両断した。

 

「―――未来永劫斬」

 

全身を斬り刻んだリュウは、足場である石橋の上に降り立つがその表情は浮かない物だった。

それもその筈、デスエバンはまだ滅んでおらず、全身を斬り刻まれたままリュウに向かって襲い掛かろうとしていた。

今のリュウが相手なら普通の相手は初撃を受けただけでも絶命しかねないのに、デスエバンは斬撃を無数に受けてもまだ滅ぼうとはしない。

それは生きようとする足掻きではなく、二人には歪んだ使命を果そうとする執着にしか見えなかった。

 

「チッ! いい加減しつこいんだよ。大人しく滅びろ!」

「わだじはごんなどごろでおわれないッ! ずべでのいのぢをごろずまではッ!!」

「大した執着ね。でも、アンタの歪んだ使命なんて果させる訳にはいかないのよ!」

 

霊夢は自分の周りに七つの光玉を展開するが、その光玉は普段の物とは明らかに違っていた。

小さい形に形成されているにも拘らず、光玉に込められている力は霊夢が作り出した小さな太陽に相当する。

膨大な力が練りこまれた小さな光玉は霊夢の周りを回転し、その力を増して力強く光り輝く。

 

「……『夢想転生』」

 

その言葉と共に光玉は弾け、膨大な量の弾幕となってデスエバンに襲いかかる。

一つ一つに途方も無い力を込められて放たれる弾幕。その弾幕は霊夢が相手の事を視認していなくても自動で追尾し、七つの光玉が力尽きるまで止むことは無い。

防ぎようの無い光を前にデスエバンも為す統べがなく、押し寄せて来る弾幕を喰らい続けた。……しかし、これだけの弾幕を浴びせてもデスエバンを滅ぼすには未だ足りない。

霊夢もそれは初めから分かっていた。自分では天照の力を借りても邪神を滅ぼす事はできないと。

それが分かっているからこそ、霊夢はこの弾幕で邪神を弱らせる事に終始する。そうすれば後の事は任せられるから。リュウが決着を着けてくれると信じているから。

 

「それじゃ後は任せたわよ、リュウ!」

「あぁ、これで終わらせる。……でぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

空に向かって吼えた雄叫びと共に解放された力はリュウの身体を包み込み、黒い球体となって空に浮かび上がる。

空に浮ぶ黒い球体に陣が描かれると、黒い球体を割って中から純白の鱗を持つ竜が姿を現す。

その姿を見てデスエバンは初めて逃走を試みるが、霊夢の弾幕によって弱りきった身体では如何する事も出来ない。

白い竜は背中にある二つの突起から空色に輝く光の翼を広げ、その両翼の間に金色の輪を展開する。

その輪の中心に光が集い、開いた竜の口に全てを掻き消すような白い光が集束していく。

竜は集めた光を一旦飲み込み、空を見上げて溜めた後、息を吐き出すようにデスエバンに向けて白い光を解き放った。

全てを掻き消すような白い光は拡散する事無く真っ直ぐ突き進み、デスエバンの身体を貫いても直止まることなく伸びていく。

闇の中を何処までも突き進み、月に大きな風穴を空けても途切れる事無く白い光は伸びていった。

竜が白い光を放ち終えると、デスエバンの身体には大きな孔が空いており、月に出来た孔から太陽の光が差し込んできた。

 

「……わだじは、おわるのでずが?」

《あぁ、その通りだ》

「どうじでわだじがおわるのでずが。わだじはだだ、いのぢをずぐおうど……」

「さっきも言ったでしょ。アンタは命を救おうとしてるんじゃない、命を否定しているだけだって。そんな奴に命を救えるわけないじゃない」

「あ…あぁ……。わだじはまだリュウにまげでじまっだ。わだじはまだぼろびのゆめ…を……」

《いや、今度は夢も見れない。これがお前の終焉だ》

 

竜がそういうと、デスエバンの身体が急に白に染まり、全身に皹が入り砕け散る。

白い竜が放ったブレスは肉体だけではなく、デスエバンの魂すらも貫き消滅させた。

肉体だけを倒してもデスエバンは本当の意味で滅びる事は無い。……だが、その根源にある魂を消滅させてしまえば、肉体がどれだけ残っていようとも滅びを逃れる事はできない。

竜が放ったブレスは全てのものを掻き消し、はるか昔から続く邪神との因縁に終止符を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「……終わったのね」

《ああ。全く無駄にしつこい奴だったな》

「この戦いの感想がそれだけってのも凄い話よね~」

 

二人が一息つくのも束の間、月の内側に出来ていた闇の空間が急に縮小し始めた。

空間が徐々に小さくなっていくのを肌で感じ、流石の霊夢も慌てふためく。

 

「こ、今度は一体何よ!?」

《恐らくデスエバンが滅んだ事に連動してこの空間も消滅し始めたんだろ。アイツの力でこの空間を維持していたのなら納得がいく》

「冷静に言ってる場合じゃないでしょうが! このままじゃ私らも闇に呑まれて消えちゃうじゃないの!」

《落ち着け。出口ならちゃんと有るだろ》

 

落ち着いた様子の竜が示した先には、デスエバンが見せていた幻想郷の風景だった。

大本であるデスエバンが消滅した事で幻想郷に現れた化け物たちも消滅し、幻想郷で繰り広げられていた戦いも終わりを迎えようとしているの見えた。

しかしこれは闇に幻想郷の風景を映しているだけで、空間同士が繋がっているわけではない。

 

「……ねぇリュウ、ちょっと聞きたいんだけど」

《なんだ》

「アンタが言う出口ってのはアレのことよね」

《その通りだ》

「どうやってあそこから幻想郷に戻るつもりなのかしら」

《無論、空間をぶち破ってだ。一度出来たのだからもう一度やるのも可能だろ》

「いや、アンタなら出来るかもしれないけど私はどうやって帰るのよ!?」

《安心しろ。お前もちゃんと連れて行く》

「……はい?」

 

言葉の意図を理解出来ずに首を傾げる霊夢を他所に、竜は霊夢の事を掴み上げ自身の頭に乗せる。

突然の出来事に困惑する霊夢だが、竜に掴まっていないと危険だと自分の勘が告げてきた。

 

《空間を破る。しっかりと掴まっていろ!》

 

霊夢の返事を待たず、竜は幻想郷を映し出していた空間に向かって突撃した。

普通ならその様な事をしても触れられる筈が無いのだが、竜の爪はその空間に触り拮抗する。

触れられるはずのない物に触れるという霊夢も驚愕するが、竜の爪は徐々に空間にめり込んでいき繋がっていないはずの物を繋げようとする。

爪が空間にめり込み、その部分に無数の皹が入っていくなか、闇の収縮も増していく。

闇が消えるのに連れて映し出されていた幻想郷の風景も揺らいでいき、鮮明さに欠けてぼんやりとした物になりつつある。

 

「不味い。リュウ、急いで!」

《分かっているッ!!》

 

裂帛の気合と共に押し込まれた爪が空間を抉り、二人は闇の世界を抜け出し幻想郷へと辿り着く。

繋がっていない空間を無理やり繋いだ事で幻想郷の空に大きな孔が開くが、闇の世界の消滅と共に孔が消滅し元通りの空に戻るが、二人が出て来た所の暗雲だけ孔と一緒に消滅した。

暗雲に空いた孔からは日の光が差し込み、後光となって二人の事を照らし出す。

 

《……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!》

 

幻想郷中に響き渡る竜の雄叫び。その雄叫びは幻想郷に住む者達に戦いの終わりと、二人の帰還を告げるものとなった。

竜は金色の輪を背負い、空色の翼をはためかせながら博麗神社近くの平原に降り立ち、人の姿へと変わる。

二人が戻ってきた幻想郷の風景は発つ前と大分変わってしまったが、手の施しようが無いくらいに壊滅的と言う訳でもなく、多少時間は掛かるがいずれ元通りになるだろう。

荒れた幻想郷を見ながら二人はそう確信していると、咆哮を聞きつけたのか、神社の方角から衣玖がやって来てリュウに抱き付いた。

 

「リュウ様!」

「うおっとッ?!」

「なッ?!」

「リュウ様、本当にご無事でよかった。わたくし、心配で心配で……」

「衣玖……」

 

戦いに赴いている間ずっと心配をしていたのか、衣玖の両目には大粒の涙が今にも零れそうな位溜まっていた。

そんな衣玖を見てリュウは、彼女の頭を優しく撫でるがそれも長続きする事はなかった。

 

「ちょっと衣玖、何私より先にリュウに抱きついてるのよ! 早くそこを代わりなさい!!」

「すみません、霊夢さん。……ですが、もう少しだけこのままで」

「駄目よそんなの! 良いから早く退きなさいって!!」

別に良いではないですか! わたくしにはこのような機会は滅多に無いのですよ。霊夢さんは日を改めてまた別の日と言う事に……」

「駄目ったら駄目! 衣玖は二番なんだから私より先だなんて絶対に駄目!!」

 

リュウに抱き付く衣玖を必至に引き離そうとする霊夢。端から見ても見苦しい光景では有るが、リュウはそれを笑って流した。

リュウに抱きつくのは自分だと口論を始める二人を眺めていると、今度はリュウの傍に龍神の化身体が姿を現す。

 

「ご苦労じゃったな、竜。これで幻想郷は……いや、世界は救われた」

「世界なんてもんを救った覚えはねぇよ。俺はただ幻想郷を守りたかっただけだ」

「お主らしい答えじゃな。……では、過去に決着を着ける事は出来たのか?」

「さてね。アイツを滅ぼした所で記憶が戻ってくるわけじゃない。……ただ―――」

「ただ?」

「肩の荷が下りたような気はするかな」

「……そうか」

 

リュウの曖昧な答えに龍神は笑顔で返した。

幻想郷を覆っていた暗雲も少しずつ晴れていき、幻想郷の空には綺麗な青空が戻ってくる。

二人が降りて来た場所に続々と人が集ってきており、暫くの間は騒ぎが収まることは無いだろう。

そんな予感にリュウは溜息を吐きそうになったが、今回ばかりは溜息を飲み込んで押し殺した。

幻想郷に戻ってきた青空は何処までも澄んでいてとても綺麗な空をしている。

そんな青空を見上げながら、リュウは明日へと続いていくであろう今を静かに喜んだ。

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