竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二十六話 騒霊三姉妹

 

幻想郷の奪われた春を捜して、彼方此方を飛びまわっている俺と霊夢。

今までは桜の花びらを追い求めて飛んでいたが、今は空の彼方を目指して飛んでいる。

霊夢が言うには、博麗神社の風上に位置する孔を越えて、その先にある結界の向こうに今回の犯人が居る可能性が高いとの事だ。

其処に行くためには、空を飛び、黒い孔を越え、二つを分ける結界を超える必要がある。

霊夢が面倒だとぼやいていたのは、どうもそこら辺に関係しているみたいだ。

 

「……にしても、こんな場所に結界なんてあるのかね?」

「なによ、私の言う事が信じられないって言うの」

 

俺が訝しげに呟くと、隣りを飛んでいる霊夢は、若干怒った風なそう口調で言って来た。

 

「だって、空を眺めていても結界なんて見た事無いぞ」

「それはアンタの見方が悪いのよ」

 

俺は思ったことを素直に言ったが、あっさりと切り捨てられた。

見方が悪いと言われてしまうと、それまでなんだが……空の上の結界と言うのが今一つ理解出来ない。

俺の中にあるイメージでの結界と言うのが、札を四方に張って発動させるタイプのものばかりだ。

札を貼る枚数や、それを補助する術式なんかでより強固なモノに為る……そう言うイメージ。

何も無い空中に札を貼るとは思えないし、どうやって空の上に結界を張ってるんだ?

そんな疑問を抱えながら空を飛んでいると、漸く薄暗い孔を抜け出す事が出来た。

一寸先も見えないほどに暗い闇……って訳でもないが、夜の様に薄暗く先の方が良く見えない。

とりあえず霊夢を見失わないように飛んでいると、前方から光が差し込み、漸く出口が見えてきた。

 

薄暗い孔を抜けた先には広大な雲の海が広がっていて、不思議な事に地上部分よりも空の上の方が暖かかった。

普通この位の高度なら、もっと気温が低くても良いはずなんだが、此処は春を思わせる位に穏やかだった。

俺は久々に雲海の上に出たと言う事もあって、周りをキョロキョロ見渡していると、白を基調にした長袖のワンピース状の服を着た、金の長髪の妖精と思われる少女を見つけた。

その妖精は何かを大声で訴えながら、雲海の上を飛び回っているみたいだ。

なんとなく彼女が何を言っているのか気になった俺は、霊夢の手を引いてあの妖精に近付いてみる事にした

 

「春ですよー。春なんですよー」

「「……………」」

 

暢気な声で訴える妖精を見つけて、俺と霊夢は思わず呆然としてしまった。

妖精が何を訴えているのかと思えば、誰に言う訳でもなく春が来た事を訴えていた。

俺も色々な妖精を見てきたけど、こんな事を言う妖精は初めてみるな。

……こんな事言うのもアレだけど、彼女自身の頭が春な様な気がするぞ。

 

「あれー? こんな所に人なんて珍しいー」

「こんにちわ」

「……アンタ、なに?」

「わたしは『リリーホワイト』。春を告げる妖精ですよー」

「リリーホワイト?」

 

俺は自己紹介してくれた彼女の名前を、前にどこかで聞いたような気がする。

彼女の名前を聞いたのは、確か…………レティとか言う雪の妖怪と戦った後だったか。

なんでも、彼女が居ないと幻想郷に春がやって来ないとかなんとか……。

 

「……それじゃ、君が春の大本なのか?」

「大本かは知りませんが、春を告げる役割を持つ妖精ですー」

 

俺が確認の為に聞くと、彼女は肯定はしなかったが春に関わる事を否定もしなかった。

 

「春を告げるって、具体的には何をするのよ」

「そこら辺を飛んでー、春が来た事を告げるんですよー」

「「…はあ」」

 

俺と霊夢は、彼女の独特の間合いを今一つ掴みきれないでいる。

彼女は独特のテンポと満面の笑みで喋るから、少し会話がし辛い感じがするな。

 

「まぁ、なんでも良いわ。それよりも、早く幻想郷に戻って春を告げてきてよ」

「幻想郷は春じゃないんすかー?」

「今、雪が降ってるぞ」

「そうなんですかー!? それは急がないとー!」

 

今まで笑顔で話していたリリーホワイトは、俺の言葉を聞いて驚きを顕わにし、急いで何処かへと飛んでいった。

……急いで飛んでいったのだが、彼女が向かった方角は俺達が通って来た孔とは、全く関係の無い方角だった。

彼女に出入り口を教えようと思ったのだが、声を掛ける前に彼女の姿を見失ってしまう。

俺と霊夢は、彼女が飛んでいった方角をただ呆然と見ている事しか出来なかった……。

 

「……如何する霊夢?」

「とりあえず、あの妖精を捕まえた犯人をまだ取っちめて無いから、そいつを退治しに行くわよ」

「了解。それじゃ、此処に在る結界を探せば良いんだな」

「そう言う事」

 

今後の方針を決めた俺達は、リリーホワイトが飛んでいったのとは反対の方に向かった。

この雲海の中に、どんな結界があるのか知らないが、捜していれば見付かるだろう。

そんな事を思いながら、俺は霊夢の手を引いて雲の海を飛んで行く事にした。

 

 

 

………

……

 

暫くの間、何も無い雲海を飛んでいると、俺達は何時の間にか巨大な門の様なモノの前にまで辿り着いた。

門の扉は魔法陣の様なモノで封印されていて、とてもじゃないが開けられそうにない。

俺が竜に変身して力付くで抉じ開けるのも考えたが、後々の事を考えると流石にそれはやらない方が良いだろう。

残った方法は、霊夢にこの封印を解いてもらう方法だが……そんな面倒な事を彼女がやるとは思えないな。

 

「さて、如何したもんか」

「さぁね」

 

俺と霊夢は、コレを突破する良い方法が思い付かず、門の前で立ち往生するしかなかった。

何か良い方法はないかと考えていると、後方からなにやら騒がしい音が聞こえて来る。

なんの音かと耳を済ませてみると……後ろから聞こえてきたのは、何らかの楽器の演奏だった。

違う音が三つほど聞こえて来たから、少なくとも三人ほどコッチに向かってきているのが分かる。

なんとなく気に為った俺達は後ろを振り向いてみると、三人くらいの集団がコッチに来ているのが見えた。

 

「おや、こんな所に人とは珍しいね」

「そうね。……もしかして、デートかしら?」

「え~。こんな辺鄙な場所でそれは無いでしょ」

 

俺達の所にまで来たのは、余り見慣れない楽器を持った三人の少女だった。

一人は金髪に黒服を着ていて、もう一人は銀髪に白い服を着て、最後の一人は栗色の髪に赤い服を着ている。

そして三人の周りには、何故か弦楽器と官金楽器と鍵盤が浮んでいる。

なんで楽器が浮んでいるのか知らないが、こんな所に来る以上人じゃないのは確定しているな。

 

「ちょっとアンタ達! あまり変な事言わないでよ! リュウが勘違いするじゃないの!」

「……勘違いってなにが?」

「コイツは……ッ」

 

理由は良く分からないが、俺の発言を聞いて、霊夢が自分の拳を力いっぱい握り締め始めた。

握り締め過ぎて、拳から血が出るんじゃないのかって心配になるほど力強く握ってる。

なんでこんなに怒っているのか分からないけど、そんなに握り締めて痛くないのか?

 

「確かにデートじゃないみたいだけど、色々と苦労してそうね」

「彼は強敵っぽいね~」

「……まぁ、頑張って」

「うっさい!!」

 

なにやら良く分からないが、霊夢はあの三人に励まされてた。

励まされたのだが、霊夢にはそれが気に入らないのか、三人に向かって声を荒げてる。

今の会話の何処に励ます要素があるのか分からないけど、とりあえず俺も励ませば良いのか?

……いや、そんな事をしたら火に油を放り込むだけな気がするから止めよう。

 

「それで、アンタ等は一体なんなの?」

「私たちは只の騒霊音楽団。冥界で行われる花見で演奏する為にきたの」

「……冥界って、この門を越えた先にあるのか?」

「ああ」

「どうやって門を越えるんだ? 封印されていて開きそうにもないぞ」

「開けるんじゃなくて、門の上を飛び越せば良い。そうすれば冥界にいける」

「ちょっと姉さん!」

「ふ~ん……」

 

黒い服の子が喋ってくれたお陰で、この門の先に進み方法が漸く分かった。

如何やら、この門の上部分には、侵入を防ぐタイプの結界は張れていないらしく、門を飛び越えていくことが可能の様だ。

恐らく幻想郷から春を奪った犯人も、門の上を飛び越えてコッチにやって来たのだろう。

……それにしても、冥界ってあんまり良い響きの名前じゃないな。空の上にあるなら天界になるんじゃないのか?

 

「ところでさぁ。貴女達は何しに此処に来たの?」

 

赤い服の子は、俺達が此処に居るのが不思議なのか、首を傾げながら質問してきた。

 

「俺達は幻想郷の春を取り戻しに来ただけだ」

「そう言う訳だから、アンタ等の言う花見は中止よ中止。怪我する前にさっさと帰りなさい」

 

俺は赤い服の子の質問に答え、霊夢は一応は彼女達に忠告をする。

忠告したとは言え、彼女達がこのまま大人しく帰るとは俺も霊夢も思ってはいない。

案の定、彼女達は自分の楽器を傍に引き寄せて、この場で演奏の準備を始めた。

 

「……やっぱり、帰る気はないか」

「怪我はしたくないけど、今回の相手は上客のお得様。流石にこのまま帰るのもちょっとね」

「そう言う訳だから、雑音は排除させてもらうよ」

「お姉ちゃん達頑張れ~」

「「リリカも手伝って」」

 

彼女達の意思は強いらしく、どう遭っても引かない構えのようだ。

俺は無言で剣を取り出し、霊夢は懐から札を指に挟んで取り出した。

コッチの準備が終わるのと同時に、黒服の子の弦楽器が一人でに音を奏で始める。

弦楽器から出た音は、無数の弾幕へと変わり、辺りに一斉に散らばった。

放たれた弾幕は、俺達を直接狙ってくる事は無いが、放ってくる数が多い。

俺は霊夢の前に出て、迫って来る弾を斬り裂き、霊夢はホーミングする札を放って、黒服の子に攻撃していく。

 

俺達が黒服の子に攻撃していると、残りの白服の子と赤服の子も攻撃に参加してきた。

白服の子は官金楽器の演奏を、赤服の子は鍵盤楽器の演奏を弾幕の変えて攻撃してくる。

弾幕の数は単純に三倍になるが、俺はただ霊夢に迫る弾幕を斬り裂き、打ち消して行く。

その間に霊夢がドンドン札を放って、弦楽器を操る黒服の子を攻撃し続ける。

暫くの間、三対二の攻防を続けていると、黒服の子がポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「大合葬『霊車コンチェルトグロッソ改』」

 

黒服の子がカードを宣言すると、残りの二人も演奏を中断し、彼女の傍に寄った。

そして、それぞれ自分の楽器を手に持ち……一曲演奏をし始める。

さっきまでバラバラに奏でられていた音が纏まり、一つの楽曲として完成した。

それと同時に、彼女達の演奏で奏でられた旋律が弾幕に為り、俺達に一斉に襲い掛かってくる。

 

「あ~うっとしい! リュウ、何とか出来ない!?」

 

霊夢は、この演奏で出現する弾幕が嫌なのか、俺に無茶な頼みをしてきた。

まぁ、俺としても聞いていて気分が暗くなって来るから、あんまり長い事聞いていたくはない。

 

「……別に手がない事も無いけど」

「何でも良いから、やっちゃって!」

「成功するかは知らんぞ」

 

俺は霊夢に一言告げてから、ポケットに入っているカードを取り出す。

 

「…暴風『羅風(ラフ)』!」

 

俺がカードを宣言すると、彼女達の周りに突如発生した旋風に包まれる。

轟音を立てて吹き荒れる風は、彼女達の演奏を掻き消し、音で発生した弾幕を消滅させる。

そして、発生した旋風の中ではカマイタチが起こり、包み込んだ彼女達を切り刻んで行く。

……少しして風が収まると、旋風の中から衣服がボロボロになった彼女達が出て来た。

俺も霊夢もまだやるのかと思い、自分の得物を構えるが……意外な事に黒服の子が両手を挙げて、降参の意を示してきた。

 

「……如何言うつもり?」

「如何もこうも、この勝負は私達の負けだ。……さっきの風で、ヴァイオリンの弦が切れてしまったからね」

 

黒服の子は、そう言って弦の切れたと言う楽器を俺達に見える様に掲げて来る。

糸が細くて少々見辛いものの、彼女の言う通り楽器の弦が切れているようだ。

 

「妹達の楽器はまだ無事だが、コレ以上戦うと二人のも駄目になりそうだ。だから降参するよ」

「……あっそ。なら、私たちは先に行かせて貰うわよ」

「どうぞご自由に」

 

疲れた様に吐き捨てた黒服の子を尻目に、俺は霊夢と一緒に門の上へと向かう。

門の上へと辿り着くと、彼女達が言っていた通り上部には結界は張り巡らされておらず、飛び込めば門の向こう側に行く事が出来そうだ。

とは言え、この先に広がっているのは死者たちが集う冥界。

飛び込んでちゃんと帰って来れるのか不安ではあるが、此処まで来て引き返すわけにも行かないか。

俺は観念したように小さな溜息を吐くと、霊夢が俺の背中を軽く叩いてきた。

 

「溜息なんて吐いてるんじゃないわよ、リュウ。此処からが本番なんだから」

「わーってるよ。……それじゃ、行くとしますか」

「えぇ!」

 

俺と霊夢はお互いの顔を見て軽く笑い合った後、意を決して門の向こう側へと飛び込んでいった。

門の先に何が待ち構えているか分からないが、霊夢と一緒なら何が来ようとも如何にかなるさ。

 

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