竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第二十七話 幽人の庭師

空の上に在った結界を飛び越え、冥界へと足を踏み入れた俺と霊夢。

辿り着いたその場所は、名前の印象とは違い暖かく、周囲には満開の桜が咲き誇り、風の乗って花びらが舞い踊っているなんとも不思議な場所。

もっと恐ろしい世界が広がっていると思っていたけど、実際に辿り着いてみたら意外と綺麗な場所で驚いた。

此処は本当に冥界なのかと怪しみ、辺りを警戒しながら見渡していると、遥か上に続いている階段の存在に気付いた。

一体上に何が待っているのか分からないが、俺達は自然と階段の先を目指し飛び立った。

 

ただ上を目指し飛んでいると、階段の先に長刀と左肩から右腰に背負い、短刀と左腰に備え、緑の服を着た、霊魂を連れた白いおかっぱ頭の少女の姿が眼に入った。

俺達以外にも人が居るのかと驚いていると、少女は一瞬にして階段の上から姿を消し、背負っていた長刀を抜いて霊夢に斬り掛かろうとしている。

ギリギリの所で反応出来た俺は、ボロボロの刀を抜いて霊夢を後ろに追いやり、直後に振り下ろされた少女の斬撃を刀で受け止めた。

辺りにはガキーンと言う甲高い金属音が響き渡り、少女の刀と俺の刀が接触する部分では火花が上がる。

受け止める事は出来たが……俺の刀は既にボロボロ、コレ以上酷使すれば確実に折れる。

そう判断した俺は、刀を逸らし、少女の刀を滑らせるようにして、鍔迫り合いを終わらせた。

 

「ちょっと! 行き成り何するのよ!!」

 

後ろに下がらせた霊夢は、行き成り襲ってきた少女を指差し、声を荒げて問い質す。

問われた少女は、一旦俺との間合いを離し、刀を構え直して姿勢を整えた。

 

「何と言われても、侵入者を排除しようとしただけですけど?」

「だからって、行き成り斬り掛かるのは如何かと思うぞ」

 

少女は当たり前の事をしただけだと言いたげに言うが、俺はそれにツッコミを入れた。

だが、少女は考えを改める気は無いらしく、平然とした態度を貫く。

 

「侵入者と語らう舌は持ち合わせていない」

「少しは人の言葉に耳を傾けた方が良いぞ」

「……侵入者ぶぜいが偉そうに」

 

少女はコレ以上語り合う気は無いらしく、呼吸を整え、間合いを詰めるタイミングを計り始める。

俺は深い溜息を一つ吐いてから、刀を構え、彼女の攻撃に備える。

 

「…霊夢。あの子は俺が抑えるから、先に行ってくれ」

 

俺は少女を見据えたまま、霊夢に先に行くように頼む。

 

「………そんな奴さっさと倒して、早く後を追って来なさいよ」

「善処するよ」

 

背中越しで言われた言葉に、俺は顔を見る事無く答える。

霊夢は俺の返事を聞くと、そのまま横を通りすぎ、階段の上を目指して飛んでいく。

 

「ッ! コレ以上先には行かせない!」

 

少女は当然の様に斬り掛かり、霊夢の行く手を遮ろうとするが、俺が二人の間に割り込み、少女の攻撃を阻止する。

再度、刀同士がぶつかり合い、再び鍔迫り合いが始まった。

その間に霊夢は、俺達の事を見る事なく突き進み、階段の先へと消えていった。

 

「悪いな、アイツをやらせる訳にはいかないんだ」

「ならば、貴方を斬ってから彼女を斬りに行くだけです」

「それもさせる訳にはいかないな!」

 

言葉を言い終えるのと同時に俺は彼女の刀を弾き、刃を返して彼女の左胴を薙ぎに行く。

刀は吸い込まれるように彼女の胴へと向かうが、少女は左腰に備えてあった短刀を抜き、俺の刀を受け止めてみせた。

少女は短刀で俺の刀で受け止めた後、刃の上を滑られて俺の刀をいなし、短刀で俺の首を取りに来る。

俺は直ぐ後ろに跳び、短刀からの斬撃を躱した後、刀から斬撃型の弾丸を飛ばす。

少女は右手に持った長刀で、俺と似た様な弾丸を飛ばし、俺の攻撃を相殺した。

 

戦いは俺が間合いを離したと言う事で、一旦仕切りなおしに。

少女は両手に持つ二刀を構え直し、俺も刀を構え直しつつ、刀の状態を確認する。

刀身には細かい疵が多く、場所によっては小さな亀裂が見付かる。

フランドールとの戦いでボロボロになって、新しいのが見付かるまではと思い使い続けて来たが……コレ以上は無理の様だな。

前から刀の耐久度は風前の灯の様なもので、彼女の刀とぶつけ合っていれば早々に限界が来る。……まともにぶつけ合えるのは、良くて後数合と言ったところか。

もうちょい持てばと思っていたが、この戦いの中で確実に折れるだろうな。

 

「……どうせ折れるのなら、最後まで頑張って貰うか」

 

俺は誰に言う訳でもなく呟き、刀を握る手に力を込めた。

すると少女は、俺の気概を感じ取ったのか、服のポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「人符『現世斬』」

 

カードを宣言すると、両方の刀を鞘に仕舞い、長刀で居合いの構えを取った。

その状態から少女は一気に跳び掛かり、刀を抜いて斬り掛かって来たが、俺は一瞬早く上に飛ぶ事で今の攻撃を躱す。

しかし、少女は直ぐに同じ居合いの構えを取り、飛んでいる俺に斬り込んでくる。

だが、この斬撃はあくまでも直線的なもの。

跳び掛かって来るタイミングを見失わなければ、彼女の攻撃を回避する事は出来る。

俺は、彼女が踏み込んでくるタイミングに合わせて横に移動し、刀を振り抜いて隙が出来ているところに斬撃の弾を叩き込んだ。

斬撃を叩き込まれた少女は、そのまま前の方に吹き飛ばされるが直ぐに体勢を立て直した。

 

「くっ……。やりますね」

 

少女は躱されたのが悔しいのか、歯を噛み締め、怨めしそうに見てくる。

だが、俺は彼女の視線なんか気にもせずに刀を構え直し、何時でも迎え撃てるように相手を見据える。

 

「アイツとの約束もあるからな、そう簡単に落とされたりしないさ」

「……なら、コレは防ぎきれますか!」

 

少女はポケットから新しいカードを取り出した。

 

「魂符『冥明の苦輪』」

 

少女がカードを宣言すると、連れていた魂魄の姿が変わり、少女と瓜二つになる。

俺はその姿と、魂が姿を変えると言う事に驚き、呆気に取られてしまう。

 

「驚きましたか? この魂はもう一人の私。故に私と同じ姿を取る事も出来るんです」

「……呆気に取られて言葉も出ないな」

「そうですか。……では、もっと驚いて貰います!!」

 

そう言うと、二人の少女は微妙にタイミングをずらして斬り掛かって来た。

先に斬り掛かって来た実体の少女の攻撃を避けても、次に斬り掛かって来る少女の攻撃までは避けきれそうにない。

俺は仕方が無く刀で攻撃を受け止めるが、刀身からはピキッと言う嫌な音が聞こえ、刀の亀裂が広がって行く。

それでもなんとかして、彼女の攻撃を躱し続ける。

 

だが、攻撃のタイミングが微妙に違うと言うのはかなり厄介だ。

最初のが凌げても、次ぎの攻撃を凌ぐタイミングが、かなりギリギリに為ってくる。

完全に回避出来ないと言う訳じゃないけど、この距離で……しかも、刀で受け止める訳にはいかないとなると、コッチは避けるのも一苦労だ。

一度間合いを離して、仕切りなおしをしたいところではあるが……彼女がぴったり張り付いていて、中々引き剥がす事が出来ない。

出来るだけ刀身は使わずに、柄と鍔で受けていたが……それも限界が来た。

 

「貰ったッ!!」

「ッ?!」

 

一瞬の読み間違いで、彼女の攻撃を躱し損ねて仕舞い、受け止めようとした刀身は根元から折られ、左腕と腹部を斬られてしまった。

俺は直ぐに彼女との間合いを離し、今の自分の状態を確認する。

刀は根元から折られている以上、コレ以上使い物には為りそうにない。

腕の傷はさほど深くはないし、腹の方は刃先で少しなぞられた程度。

武器が無いから戦うのは少々キツイが、この程度なら戦うには何の問題はない。

 

「さぁ、貴方の武器は折れました。コレ以上戦うのであれば、今度は命を貰います」

 

俺が刀や怪我の状態を確認していると、少女は勝ち誇ったように言ってくる。

少女は最後勧告の心算なのか、霊体を元に戻し魂魄に戻し、刀を俺に向けて告げた。

 

「……言ってくれるじゃねぇか」

「事実、貴方にコレ以上戦う術は無い。……私は無益な殺生と弱い者いじめは好まない」

「弱い…だと……」

 

生意気にもそう言って来た少女の一言に、俺の中で何かが切れた。

俺は痛む左腕を使い、無言でポケットに入っている一枚のカードを取り出した。

 

「まだ戦う気ですか」

「……………」

「仕方が有りませんね……。ならば、貴方の命頂戴します!」

「…風竜『ナイト』」

 

俺は少女の言葉に耳を傾けず、手にしたカードを宣言する。

カードを宣言すると、俺は赤いオーラに包まれ……その中で竜人形態へと変身した。

そして、包み込んでいるオーラを吹き飛ばした俺は、少女との間合いを一瞬にして詰め、拳で彼女を殴り飛ばした。

 

「カハ……ッ」

 

殴り飛ばされた少女は、後ろに吹き飛び階段と激突する。

俺は追撃として、手刀から無数の斬撃を飛ばし、少女に叩き込んで行く。

少女は階段と激突したが、直ぐに体勢を立て直し、二つの剣を使い必至になって俺の攻撃を防ぐが、手数では今の俺の方が上。

大量に放たれる斬撃の前に、少女は徐々に押され始め……仕舞いには防ぎ切れず、大量の斬撃をまともに浴びる事になった。

 

階段と斬撃が激突し、巻き上げた砂煙で視界が悪くなるが、今の俺にはそんな事関係ない。

煙の中で微かに動く少女の動きを読み、彼女の動きを先読みして、特大の手刀斬撃弾を撃ち放つ。

少女は、咄嗟の判断で両方の刀を交差させて防ごうとするが、俺が放った斬撃は、その防御ごと彼女を押し潰ぶした。

俺は斬撃に押し潰され、倒れている少女を見下ろし、明確な怒りを込めて口を開いた。

 

「……俺の中にある力を理解出来ない半人前が、偉そうな口を叩くな」

「ッ?! 断迷剣『迷津慈航斬』!」

 

少女は恐怖に駆られたのか、半ば自棄になってスペルカードを宣言した。

カードを宣言すると、少女の長刀に何らかの力が集り、数mはあると思われる青い刀身の刀に変貌した。

少女はその刀を握り締めて、俺との間合いを詰めて一気に斬り掛かって来る。

刀身が伸びたと言う事もあって、少女の間合いはかなり広くなった……が、その分一撃の反しが先程よりも遅くなる。

俺は彼女の攻撃を避けてから、手刀で空を斬り、斬撃型の弾を無数に飛ばす。

向かって来る少女は、疾く真っ直ぐに飛ぶ弾を切り裂こうと刀を振るうが、最初の数発は防ぎ切れず、まともに喰らい体勢を崩した。

俺はその隙に新たなカードを取り出し、迷わずそれを宣言する。

 

「烈風『牙流風(ガルーフ)』!!」

 

カードを宣言すると、少女の足元から巨大な竜巻が発生し、彼女を飲み込んだ。

飲み込まれた少女は逃げ出そうとするが、全方位からカマイタチが発生し、彼女を切り刻んで行く。

少女は抵抗するが、竜巻の中で切り刻まれ、上空へと吹き飛ばされていく。

吹き飛ばされた後は、重力に従って地面へと落下していくだけだが、ボロボロに為った少女の右手には一枚のカードが握られていた。

 

「人…鬼『未来永劫斬』!」

 

少女は声も絶え絶えの状態で、気力だけでカードを宣言する。

そして、今まで見た最速の速度で斬り込まれ、俺は宙に斬り飛ばされてしまう。

宙にいる状態の俺に、四方から連続で追撃を繰り出し、宙に縫い付ける。

俺は連続で切り刻まれ、今変身している『ナイト』の体力をごっそり持って行かれてしまう。

そしてそのまま空中で斬られ続け、最後には下から上へと斬り飛ばされてしまった。

 

地面に落下している中、微かに見えた少女の顔は、やり切ったと言わんばかりの安堵の表情が浮んでいた。

恐らく彼女は、今の一撃で決着が着いたと思っているようだが……まだ『ナイト』の体力は尽きていない。

俺は空中で体勢を立て直し、一枚のカードを取り出し、少女に聞こえる様に宣言する。

 

「…起死回生『逆転撃』」

「ッ?!」

 

俺がカードを宣言する声が届いたのか、少女は慌てた様子で此方を振り向いた。

その僅かな隙に、俺は少女との間合いを詰め、手刀で彼女を切り裂いた。

回避する事も、受け切る事も出来なかった少女は、声を出す事無く気絶し、そのまま地面へと落下して行く。

俺は彼女が地面に激突する前に抱きとめ、無事な階段の上にそっと寝かせてやった。

 

「……半人前と言ったのを訂正する気は無いが、最後の攻撃は見事だった。あと数回ほど攻撃を喰らっていたら、倒れていたのは恐らく俺だろうな」

 

気を失い、俺の言葉は聞こえていないと思うが、その事だけはちゃんと伝えておきたかった。

防御力が低いとは言え、竜の一体である『ナイト』の体力を殆ど削り切ったのだ。聞こえていなくても、相手を称えるべきだろう。

それに、あの斬撃の結界とも言える剣技。アレは余程の修練を積んで体得したのだろうな。

他者の剣技が羨ましく思えたのは、サイアス以外では初めてだな。

 

「少々詰めが甘かったり、性格に難がありそうだが……また何時か剣で勝負をしたいものだ」

 

最後に彼女にそう言い残し、俺は霊夢が待つ階段の先へと急ぎ向かう。

その階段の先からは、嫌な感じのする色とりどりの蝶たちが空を飛び交っているのが見えた……。

 

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