竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は霊夢視点でお送りします。


第三十話 人と竜の絆

 

「ちょっと魔理沙、リュウを見かけなかった?」

「あん? わたしは見てないぜ」

「……そう」

 

部屋で呆けていた筈のリュウが忽然と姿を消したため、私はアイツを探して神社を歩き回っていた。

もしかしたら、境内の花見に参加したのかと思って魔理沙に聞いてみたけど、如何やら此処も外れみたい。

既に家の中は隈なく探したし、此処に居ないと為ると……もう当てがないわね。

 

「なんだ、あの歳で迷子にでもなったのか?」

「それならまだ良いんだけどね」

 

魔理沙は私を茶化すように言うけど、本当に迷子になっただけならまだ良い。

けど、昼間の紫の言動を考えると、リュウの姿が見えないと如何しても不安になって来る。

アイツの姿が見えなくなって、私は直ぐに紫を疑ったけど……普段から何処に居るのか分からない奴を捜せる訳がない。

だから私は、リュウが一人で何処かに行ったと信じて捜していたのに……。

 

「リュウ……本当に何処行ったのよ」

「……そんなに心配なら、わたしも捜すの手伝おうか?」

「悪いけどお願いするわ」

「おう、任せとけ」

 

魔理沙に宴会場での聞きこみを頼み、私はまだ捜していない森周辺を捜す事にした。

騒がしくなった神社から離れたって可能性もあるし、このまま神社で探しているよりもずっと良い。

何処で何をして居ても良いから、お願いだから無事でいてよリュウ。

 

 

 

………

……

 

宴会から抜け出した私は、神社の周囲に広がっている森の中を探し始めた。

夜の森は昼間と違い、フクロウの声と夜の暗さが相まって、なんとも不気味な雰囲気になっていた。

月の光が薄暗い森を薄っすらと照らしてくれるが、やはり人影は何処にも見当たらない。

森の中を捜して見付かるのは、幻想入りしたよく分からない物と、そこら辺をうろついている妖怪くらいだ。

リュウが妖怪にやられるとは思えないし、此処も外れなのかと思い始めたその時、頭に鹿の角が生えた深緑色の髪の少女が突然現われた。

 

「…アンタ誰? 人間……じゃないわよね」

 

突然現われた少女に、私は警戒をしつつも声を掛けた。

見た目からして人じゃない事は確定しているけど、気配は妖怪のそれとは何かが違う。

今のところは敵意は感じないけど、何者なのか分からない以上警戒するしかない。

私が警戒を強めていると角が生えた少女は、何を考えているのか私の事を品定めするように見てきた。

なんの心算か分からないけど、そんな風に見られるのは結構気分が悪いくなってくる。

一頻り私の事を見た後、少女は漸く納得がいったのか一つ頷いてから口を開いた。

 

「お主、あの竜に会いたくないか?」

「ッ!? アンタ、リュウの事知ってるの!?」

「本当に会いたくばついて来るが良い」

「あ、ちょっと!?」

 

言いたい事だけ言った少女は、私の質問を無視して森の奥へと消えていった。

私はリュウに会いたい一心で、あの少女の後を追いかけて森の奥へと進む。

森の中が暗くて、少女が何処に行ったのか分からなくなるけど、私は持ち前に勘を頼りに奥へと突き進んだ。

途中で妖怪に喧嘩を売られたりするけど、今はそんな事に構っている暇は無い。

私は道を塞ぐ妖怪を軽く蹴り飛ばし、怯んだところで少女を追いかけて更に奥へと進んだ。

 

……暫くの間暗い森の中を進んでいると、目の前が急に明るくなり、開けた場所に辿り着いた。

其処は森の一角の筈なのに、大きな燈篭が二つも置いてあり、その燈篭の間には何故か扉が存在していた。

さっきの少女は、目の前の扉の脇に立ち、私が来るのを待っていたかの様だった。

 

「来たか。……では、この扉を潜るが良い」

 

少女がそう言うと、目の前の扉は私を誘うように独りでに開いた。

扉の奥に続いていたのは森ではなく、なんとも形容し難い異様な空間が広がっている。

その空間の雰囲気に飲み込まれそうになったけど、私は意を決してその扉を潜っていった。

 

「アヤツの事、頼んだぞ……霊夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

扉を潜り抜けた先で私が眼にしたのは、紫と金毛九尾を持つ女性がカイザーに似た白い竜と戦っている光景だった。

……いや、戦っていると言うよりも、二人が白い竜に嬲りものにされていると言った方が正しい。

二人が放つ弾幕は白い竜に通用していないのか、無傷の状態で暴れまわっている。

白い竜も、紫のスキマ移動で攻撃を躱されている様に見えるけど、あの竜はその回避を読み切り、紫達が現われた所に別の攻撃を叩き込んでいる。

まさに一方的な戦い。二人がどれだけ白い竜に攻撃しても、あの竜の身体に傷一つ付けれないでいる。

その所為か、紫と金毛九尾の女性の服がボロボロで、身体の所々から出血している様だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーッ!!!!」

 

天に向かって発した耳を劈くような白い竜の咆哮。

その余りにも大きな声量に私は思わず耳を塞ぐと、上の方から何かが降ってくる様な気配を感じた。

何事かと上を見上げてみると、空間を割って巨大な隕石が二人に向かって落ちようとしていた。

 

「紫、上!!」

「霊夢…………ッ!?」

 

思わず叫んだ私の声に反応した紫は、直ぐに自分達の周りに結界を張り、あの隕石を防いだ。

一方白い竜はと言うと、隕石を止められたのを見て、何を思ったのか一旦距離を離した。

その間に私は、空間の引き裂いて伸びてきた紫の腕に引っ張られ、空間の裂け目を抜けて二人の下に辿り着いていた。

 

「ちょっと霊夢、如何して貴女が此処に居るのよ」

「そんな事は如何でも良いでしょ。それよりも、紫! アンタ等、アイツに何をしたのよ!!」

「……別に大したことはしてないわ。ただ、彼の力を封印しようと」

「封印って……何勝手な事をしてるのよ! リュウは何もしてないじゃない!!」

「そうだとしても、彼の力は幻想郷を滅ぼしかねない! なら、そうなる前に封印しようとするのは管理者として当然の判断よ!!」

「だからって、私に断りも無く勝手なことするんじゃないわよ!!」

「貴女に説明しても了承するわけ無いじゃない!!」

「そんなの当たり前よ!!」

 

私と紫は結界の中で状況も考えずに、二人して見っとも無く大声を出して口論し始める。

紫の判断を理解出来ないわけじゃないけど、こんなの余りにも勝手が過ぎる。

確かにあの白い竜の力は強大だけど、その力を使って如何にかしようとする奴じゃない。

リュウとは一年近く一緒に暮らしてきたんだ、アイツがそんな事する様な奴じゃないって私が誰よりも知ってる。

だからこそ、今回の紫の決断には怒りしか感じる事が出来ない。

 

「アイツの事を何も知らないくせに、勝手に封印なんてしようとしないで!!」

「……貴女、幻想郷のバランサーである博麗の巫女でしょ? それなのに彼を庇うの?」

「巫女だから何。私は巫女で在る前に一人の人間よ」

「……その言葉、先代たちが聞いたらなんて言うか」

「そんな事知ったことじゃないわ」

「紫様! 何か来ます!」

 

九尾の女がそう叫ぶと、竜が消えた方から光の波動が放たれた。

波動は一度だけではなく、間を於かずに立て続けで何度もコッチに迫って来る。

放たれる波動は、紫が張った結界に阻まれるけど……少しずつ結界が壊されていく。

あの光が強いのか、紫が弱っているのか、或いはその両方か分からないけど、どの道長くは持ちそうに無い。

 

「夢符『二重結界』!」

 

私は万が一の為に持ってきたスペカを使い、紫の結界の上に重ね掛けする。

壊れかけていた結界は、私の結界で更に強固に為るものの……光の波動の威力は抑える事は出来ない。

私と紫の結界が合わさったものでも抑えられないなんて、そんな力がこの世に存在しているなんて思いもしなかった。

全てを薙ぎ払ってしまうような光の奔流、そんなイメージの通りに光の波動は私達の結界を破壊していく。

先代から学び、幾多の攻撃を防いできたこの結界だけど……それが通用しないなんてね。

結局、先に張っていた紫の結界は壊れてしまい、私の結界も一枚目は壊され、二枚目も崩壊寸前にまで追い詰められる。

あと一撃でも喰らえば壊れると思った矢先、光の波動は勢いを無くし、漸く収まってくれた。

 

「な、なんとか凌ぎ切れたか……」

「見たでしょ霊夢、これがあの竜の力。……それでも貴女は彼の事が好きなの?」

「……突然なにを言い出すのよ。今はそんな事関係ないでしょ」

「良いから答えなさい霊夢。貴女は彼の事を如何思っているの」

「……………」

 

紫にリュウの事が好きかと言われて、私は思わず言葉を失った。

去年の夏の終わりにアイツに告白されてから、ずっとリュウにその返事を返せないでいる。

リュウもその事に何も言ってこなかったし、私自身も答えが出せずにいたから、今までずっと保留にしてた。

 

アイツと出会う前の私は、他人の事なんて如何でも良いと思って生きていた。

周りからは誰にでも平等な奴って思われてたけど、本当はただ他人に興味を持てなかっただけ。

私からすれば人も妖怪も同じで、誰が何をしていようと感心なんて持てなかった。

 

でも、私の前に現われたアイツは他とは少し違っていた。

今までの連中は、私の事を〝博麗の巫女〟としてみていたけど、リュウだけは霊夢(わたし)と言う一個人を見ていてくれた。

その事が煩わしく思うときもあったけど、霊夢(わたし)の事を見てくれて嬉しかったのを覚えてる。

少々心配しすぎたりもするけど、あんなに心配してくれたのも嬉しかった。

私の料理を美味しいって言ってくれたのも嬉しかったし、私に見せてくれる何気ない笑顔も嬉しかった。

だから私は、アイツの前では巫女じゃない霊夢(わたし)で居られる様にしてた気がする。

 

……もしかして、誰かを好きに為るってこう言う事なのかな?

もしそうなら、きっと私はリュウの事が……好き……なんだと思う。

今までずっと答えが出せなかったけど、この想いは嘘なんかじゃない、私の中にある確かな気持ちなんだ。

 

「……霊夢?」

「紫、私はアイツが……リュウが好き。この気持ちに嘘偽りはないわ」

「相手は竜。人ではない……それでも?」

「人か如何かなんて関係ない、私はアイツが好き。この気持ちに気付いた以上、私は自分を偽る気はないわ」

「そう。……だったら後は好きにしなさい」

 

紫はどこか諦めた様に肩の力を抜いて、私にそう言った。

その言葉に誰よりも驚いていたのは、彼女の式の九尾の女だった。

 

「宜しいのですか、紫様?!」

「良いも何も、今のこの子に何を言っても無駄よ無駄」

「ですが……」

 

納得がいかないのか九尾の女は紫に食い下がる。

紫は彼女を適当にあしらうけど、私にはそんなの如何でも良い事だ。

私は発動していた結界を解除して、白い竜の捕縛の為の準備を始める。

もっとも準備と言っても、今の手持ちを確認する程度の事。

紫に攫われたと考えて戦える準備はしていたけど……この手持ちじゃ、あの竜を捕縛するには力不足も良い所だ。

白い竜に弾幕ごっこなんて通じる訳ないし、捕縛を前提にするなら使えるのは結界系のスペルのみ。

『封魔陣』なんて聞く訳が無いだろうし、使うとしたら『八方鬼縛陣』クラス。

多少傷付けるかも知れないけど、無傷のまま捕らえれる訳ないし、そこら辺は大目に見てよね。

 

「……それじゃ、私行くから邪魔すんじゃないわよ」

「分かってるわよ。……頑張りなさいね」

「アンタに励まされたくない」

「これは手厳しい」

 

私は紫達をこの場所に置き去りにして、目の前から姿を消したリュウを追いかけた。

何処までも続ているんじゃないかって思えるような虚構の空間。

一体何処まで飛べば良いのか検討も付かないけど、今はただリュウに会いたい一心で飛び続けるしかない。

明るくも無く、暗くも無い不思議な空間を飛び続けていると、前方に雄々しい白い竜の姿が見えてきた。

あの光の波動にそれなりの力を使ったのか、白い竜は何をする訳でもなくただ静かに佇んでいる。

私はリュウに声を掛けようとしたけど、その前にアイツは眼を覚まして私を敵と認識したのか臨戦態勢を整えた。

 

「リュウ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーッ!!!」

 

私の声が届いていないのか、リュウは耳を劈くような雄叫びを挙げる。

その雄叫びに呼応するかの様に、周囲には何の前触れもなく幾つもの竜巻が発生し始めた。

私は咄嗟に能力を使って万物から浮き上がり無敵状態になって、周りに発生した竜巻を突っ切りリュウの元へと向かう。

 

吹き荒ぶ竜巻を難なく越えると、今度は何も無いところから劫火が発生した。

今は無敵状態だから大したことないけど、地上でこんなモノを使われたら幻想郷が焼け野原になるわね。

心の中でそう判断していると、今度は劫火を突き破って巨岩が幾つも出現し、コッチに迫って来る。

万物から浮き上がった今の私に物理攻撃なんて無意味だけど、流石に何も無いはずの空間から巨岩が現われたのは予想外だった。

岩の隙間を縫ってなんとか越えると、次は視界を覆い隠すような吹雪が発生し、飲み込まれた物を問答無用で氷付けにしてくる。

 

今まで放たれた攻撃はどれも、この無敵が無かったら突破出来ないような猛攻。

今回ほど自分の能力が『空を飛ぶ程度の能力』で良かったと思った事はないわ。

私は能力を駆使して、リュウの猛攻を突破し、漸くアイツの元に辿り着く事が出来た。

 

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してよね。……神技『八方鬼縛陣』!」

 

私はリュウの足元にスペカを投げ、鬼を縛る八角形の結界を展開する。

あとは、結界に閉じ込めたリュウを正気に戻せば良い……そう思っていたけど、如何やら簡単にはいかないらしい。

 

「■■■■■■ーッ!!」

 

リュウを結界の中に閉じ込めるのは成功したけど、展開した結界を雄叫びを挙げて発した力だけで、あの鬼縛陣を破壊されてしまった。

あの結界に閉じ込めている間にリュウにダメージが入った様子もない。

アイツを傷付けなかったのが嬉しい反面、力だけであの結界を破壊された事にショックを隠せない。

 

「■■■■ーッ!!!」

「うわっと?!」

 

結界を破壊したリュウは、そのまま私に殴り掛かって来た。

私は何時もの癖で回避したけど、今の私は殴られて怪我をする心配は無い。

それよりも問題なのは、アイツを大人しくさせる手段を如何するかと言う事だ。

鬼縛陣で駄目だったとなると、残りは『八方龍殺陣』か『二重大結界』くらいしか手持ちに持って来ていない。

龍殺陣は名前からして使いたくないし、あとは大結界に賭けるしかない!

 

「お願いだから大人しくして! 夢境『二重大結界』!!」

 

私はリュウの足元にスペカを投げ、今度は二重に構成された結界を発動させた。

結界に閉じ込められたリュウは、直ぐに結界に殴り掛かり壊そうとするけど、今度の結界はさっきよりも強固な仕上がりになっている。

リュウは何度も結界を殴るけど、皹の入った箇所から私が霊力を注いで修復していく。

出来た皹を修復して行くのは良いんだけど、直すのにそこそこの霊力を使うから、このまま殴り続けられると私の方が先に力尽きてしまう。

でも、此処で気を抜いてしまえば一撃で破壊されかねないし、今はただ意識を集中させてこの局面を乗り切るしかない。

私が必至の思いで結界を修復し続けていると、リュウは漸く観念したのか結界の中で大人しくなってくれた。

 

「よし。後はなんとかして、リュウを正気に戻す方法を考えないと」

 

私は結果を持続させつつ、如何するか考え始めると……結界の中に居るリュウが不可思議な行動を取り始めた。

突如として背中の突起から出る空色の光を広げ、両手の間に黒い何かを集束させ始めた。

リュウの両手の間に集る黒い光。それが1mくらいの球体になると、リュウはそれを徐に上に向かって放った。

 

放たれた球体は更に小さく圧縮されて行くと、今度は黒い光となって突然大きく拡大し始める。

一度拡大を始めたソレは、一枚目の結界を簡単に押し潰し、二枚目も同様に破壊する。

結界を破壊しても拡大は収まる事を知らず、黒い光はこの辺り一体を飲み込んでいった。

 

最初私は、能力を使っているから大丈夫だと高を括っていたけど、黒い光に飲み込まれた途端、身体に異変が起こった。

能力を使って無敵状態にも関わらず、私の身体が強力な何かに押し潰されていく。

……いや、押し潰されるというよりも無理矢理に小さく圧縮されていく感じだ。

何らかの力を使い、この黒い光に飲み込んだ存在を小さく圧縮する……多分これはそう言う力が働いているんだと思う。

現に、私と一緒に飲み込まれた氷付けの岩は既に圧縮されて消滅している。

このまま手を拱いていると、私もあの岩と同じ末路を辿る事に……。

 

「圧…縮されて…消滅なんて、そんなの……ごめんよ! 夢境…『二重大結界』!」

 

私は無理矢理体を動かして、自分の周りに二重の結界を張り圧縮に耐える。

黒い光は問答無用で結界を押し潰してくるけど、私は完全に押し潰されるよりも先に結界を修復し続ける。

結界を修復していても、リュウの力の方が強く……徐々に結界が崩壊していく。

結局、外側に張られている一枚目は壊され、二枚目も崩壊ギリギリまで押し潰されたけど、それでもなんとか黒い光を耐え切る事が出来た。

 

「ハァ…ハァ…」

 

なんとか耐えられたのは良いけど、コッチもそろそろヤバイかもしれない。

少しの間とは言え、あの黒い光で身体を圧縮されたし、あの中で無理矢理身体を動かしたから、全身に痛みが走ってる。

それに、大結界を二回連続で使ったから霊力の回復が追いついてこない。

こんな事に為るなら『夢想転生』を持って来れば良かった、そんな事を考えてしまう。

 

「■■■■■■■■■■■■ーッ!!!」

 

リュウがまた大きく吼えると、張った結界を突破し、その大きな手で私を握り潰そうとしてくる。

無敵状態に為っているにも関らず、リュウはそんな事関係ないと言わんばかりに掴んで離さない。

ギリギリと私の身体を締め上げる握力が強く為り、身体の内側から何かが折れるような嫌な音が聞こえた。

 

私はまだ無敵状態を持続出来ていたから助かったけど、このままじゃ不味い。

霊力は回復しない上に、全身から痛みが走ってて、コレ以上はまともに戦う事が出来ない。

なんとしてもリュウを止めたいけど、結界がまともに効かない以上、もう打つ手が思いつかない。

集中力もそろそろ切れ始め、私は無敵を持続させる事が出来なくなって来た。

 

「…ゴメンね、リュウ」

 

私が戦うのを諦めたの同時に、集中力も途切れ、無敵状態が途切れてしまう。

このままリュウに握り潰されるのかと思ったその時だった―――

 

「………あ、あれ?」

 

―――突如としてリュウは私を握り締めていた拳の力を弱め、いきなり臨戦体勢を解除していた。

戦いを止めた白い竜は何をする訳でもなく、その場に佇み、眠っているかのように大人しくしている。

最初はなんで攻撃をやめたのか分からなかったけど、私は痛む体に無理をさせて新しい札を取り出そうとしたら、大人しくしていた竜が鋭い眼光で睨みつけてきた。

 

「ッ!?」

 

驚いた私は、懐にしまっていた札を取り出すのをやめると、白い竜は暫くの間睨みを利かせた後、何事もなかったかのように大人しくなった。

この時の竜の様子を見て、私はなんとなくコイツが何に反応しているのか察しが付いた。

恐らく今のリュウは、周りの敵意とか戦意みたいなのに敏感に反応して襲って来るんだと思う。

私が此処に辿り着いた時は、紫たちと戦っていたのに、私が紫と喧嘩を始めたら何もして来なくなった。

今のだって私が戦うのを諦めたら、リュウが攻撃を止めて大人しくなった。

 

「……なんだ。竜を大人しくさせるなんて、結構簡単じゃない」

 

私はそう呟き、痛む身体を引き摺って白い竜の傍に近付いた。

リュウは私が近付いても襲って来る事はなく、本当に眠っているんじゃないかと言う位に大人しくしている。

私はそんなリュウにもっと近付き、そっと彼の頭を優しく撫でてあげる。

 

「全く、無茶ばかりするんだから。私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

 

私は出来るだけ優しい声音で大人しくしているリュウに話しかける。

当然返事なんて無いけど、私はそれでも構わなかった。

 

「でも、もう大丈夫。リュウの敵はもう何処にも居ないわ。……だから、もう戦わなくて良いの」

「■■■■■……」

 

私が掛けた言葉にリュウは小さく唸ると、何時もの様に一度消滅して、普段の姿に戻った。

元の姿に戻ったリュウは、気を失っているのか力なく下へと落下していく。

それを見て私は慌てて彼を抱き抱え、なんとか落下しないように支えてあげる。

リュウを支えた時に、全身に痛みが走ったけど……今はそんな事は気にしていられない。

今はただ、リュウが元に戻ってくれた事を素直に喜んでいたい……。

私はそう思い彼を優しく抱き締めていると、リュウの身体がピクリと反応した。

 

「……れい…む」

「ッ! リュウ、気がついたの!?」

 

私は気がついたリュウの顔を見てみると、リュウは涙を流し泣いていた。

一年近く一緒に暮らしていたけど、コイツが泣いているを見るのはこれが始めて。

だからこそ、私には如何してリュウが泣いているのか分からなかった。

 

「ちょ、ちょっと。なんで泣いてるのよ」

「……ゴメン霊夢。俺、お前を殺そうとしてた」

「アレは只暴走してたから……」

「それでも力を振るっていたのは俺だ。……謝って許される事じゃないのは分かってるけど、ホントにゴメン……」

「……………」

 

珍しく泣いているから如何したのかと思ったら、別に大したことじゃないみたい。

ただ私を殺そうとしていたのが辛かっただけ。ただそれだけの事でリュウは泣いているんだ。

確かに何度か死に目に遭ったけど、こうして生きているから気にしてない……って言っても、きっとリュウは謝り続けるでしょうね。

全く、変なところを気にするんだから。アンタがその心算なら、私にも考えがあるわよ。

 

「……確かに、アンタの攻撃で何度か危ない目にあったわ」

「……………」

「だから、私の条件を聞いてくれるなら許してあげる」

「…条件?」

「えぇ。…〝これからもずっと私の傍に居る〟…それが条件よ」

「……………」

 

私が条件を提示すると、リュウは眼を丸くして驚きを顕わにした。

 

「そ、そんなんで良いのか?」

「えぇ」

「もっと違う条件じゃないのか? 私の傍に近寄るなとか、幻想郷から出て行けとか」

「はぁ? なんでそんな事を言わなくちゃいけないのよ」

「いや、だって…!」

「だってもなにもない! 兎に角、アンタはこれからも私の傍に居る! 良いわね!?」

 

私は少し強めに言うと、リュウは何かを言おうと口をパクパク動かす。

それでも言葉が見付からなかったのか、リュウは次第に大人しくなり俯いてしまった。

そのまま暫く考え込んでたリュウは、漸く口を開いて返事を聞かせてくれる。

 

「…居ても良いのか? コレからも霊夢の傍に居て、本当に良いのか?」

「えぇ。私がそれを望んでいるんだから……」

「……なら、その条件を呑むよ。俺はコレからも霊夢の傍に居続ける」

「うん」

 

私は条件を呑んでくれたリュウにもう一度抱き付こうとすると、足元の空間が裂けて、誰かに足を無理矢理引っ張られた。

突然の出来事に私もリュウも反応出来る筈も無く、引っ張られるままに私たちはスキマ空間から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

抜け出た先は、博麗神社の境内……と言うか宴会場の上空。

私たちの足元では、魔理沙たちが誰かを探して奔走しているのが見えた。

 

「お~い、霊夢~、リュウ~。何処に行った~」

「魔理沙、コッチには居なかったわよ」

「むむ、アリスの人形を使った人海戦術でも見付からないか」

「咲夜。ソッチは見付かったかしら?」

「いえ、神社の中を隈なく捜しましたが何処にも」

「……そう」

 

珍しくレミリアが捜索に協力してると思っていると、私たちは地面に向かって落下し始めていた。

私は直ぐに能力を使って浮き上がろうとしたけど、如何言うわけか能力が上手く発動出来ない。

只でさえ、リュウの攻撃を喰らって身体がボロボロなのに、このまま地面に激突したら確実に身体中の骨が折れる。

そんな心配をしていると、リュウが私の体を両腕で抱きかかえ……その状態のまま地面に着地してくれた。

 

「ッ~~~! あしがしびれる……」

「ちょっと大丈夫?!」

「な、なんとか……」

 

私は痛そうにするリュウの心配をすると、何故か周りから生暖かい視線を感じる。

なんとなく周囲を見てみると、宴会に来ていた連中が私たちの事を見ていた。

上から降ってきて驚いたのなら分かるけど、なんでそんな視線を送られなくちゃいけないのよ。

 

「……ちょっと魔理沙。その変な眼を止めなさいよ」

「いや、だって……なぁ?」

「そうね…とりあえずオメデトウと言っておくわ」

「霊夢、挙式の形式はやっぱり和風かしら? その体勢なら洋風の方が合ってると思うけど?」

「洋風でするのなら、紅魔館の広場を貸すわ。……宜しいですね、お嬢様」

「えぇ。何の問題も無いわ」

 

如何言う訳か知らないけど、魔理沙たちからは祝辞みたいな言葉を送られた。

…確かにあの空間でリュウに告白したけど、コイツ等には聞かれてない筈だから、こんな事言われる筋合いはない。

だと言うのに、周りからは次々と私たちに向かってお祝いの言葉を送って来る。

 

「……アンタ等、何話を飛躍させてるのよ!!」

「そう言うのは自分の姿を見てから言おうぜ?」

「…?」

 

魔理沙に指摘されて、私はちゃんと自分の姿を確認してみる。

服に関しては特に問題はないし、髪型だって乱れていない。

他に気にするところと言ったらリュウに抱えられてるって事…くらい……。

 

私は一度眼を擦ってから、もう一度ちゃんと自分の姿を再確認する。

服や髪型には特に問題はない、それに関してはなんの疑いようもない。

それで今の私の体勢は、リュウに両腕で抱き上げられる……つまりはお姫様だっこの体勢。

 

「……………」

「ん? 如何した霊夢? 急に黙り込んで」

「降ろして」

「…はい?」

「今すぐ降ろして! て言うか、なんでコレで抱きかかえたのよ! 別の方法もあったでしょ?!」

「いや、あの状況ならコレが一番楽だから」

「だからってコレはないでしょ?! そしてさっさと降ろして!!」

「降ろしてって、霊夢は怪我人なんだし無理しない方が」

「そんな気遣いは良いから、さっさと降ろせーッ!!」

 

私は顔を真っ赤にしながらリュウの腕の中で恥じも外聞もなく暴れる。

怪我して上手く力が入らないから、中々リュウから離れる事が出来ない。

リュウはリュウで、私の怪我の事を知っているから一向に降ろしてくれる気配がない。

そのお陰で、今の私たちの関係が駄々っ子を抱きかかえる父親みたいになってる。

リュウは恥かしくないのか知らないけど、私は物凄く恥かしかった。

 

「早く離してよリュウ! そしてアンタ等はニヤニヤ笑うな!!」

「「「ニヤニヤニヤ」」」

「口で言うなーッ!!」

「少し落ち着けって霊夢!」

 

私が大声で叫ぶと、周りに居る連中は一気に笑い出した。

お陰で境内に私の叫ぶ声と、それを見て笑う妖怪たちの声が響き渡った。

 





オマケ

境内に霊夢の叫び声と妖怪たちの笑い声が響く中、神社の屋根に深緑色の髪の少女が座っていた。

「……久しいな、八雲」

少女は誰も居ないにも関わらず、懐かしむように誰かに声を掛けた。
すると、空間に裂け目が出来、其処からボロボロに為った紫色の服をきた女性が姿を現した。

「本当にお久し振りです。……霊夢を私のスキマ空間に招いたのは、貴女でしたか」
「なに、妾はアヤツを止めたかっただけじゃよ」
「……そうですか」

八雲紫はそう呟くと、境内の騒ぎに眼を向ける。
境内では漸く降ろしてもらえた霊夢が、リュウに色々と文句を言っていた。

「……一つ聞いても宜しいかしら?」
「なんじゃ?」
「私がしようとした事は間違いだったの?」
「……それはあの二人を見ていれば分かるじゃろ」

深緑色の少女がそう言うと、八雲紫は境内の真ん中で喧嘩している二人に眼を向けた。

「だ~か~ら! アンタはもうちょっと女心を理解しなさいよ!」
「男の俺にそれは無理だ!」
「それをなんとか理解するのが男でしょうが!!」

二人は周りの眼など気にせず、お互いに思っている事ぶつけあっている。
確かに喧嘩をしている筈なのに、あの二人を見ていると何故か微笑ましく思えてしまう。
少しの間二人を見ていた紫は、小さく笑うと後ろを振り向き空間の裂け目を創った。

「なんじゃ? もう行くのか?」
「えぇ。やられた傷も痛みますし、私の心配も無意味だったと知る事が出来ましたから」
「そうか。では、達者での」
「ご機嫌よう」

少女が紫に別れを告げると、紫は空間の裂け目を通り何処かへと姿を消した。
そして少女は、一人神社の屋根から二人の事を楽しそうに見続けるのだった……。

                     終わり
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