この回以降から色んな独自設定が追加されていくのでご注意下さい。
第三十一話 幻想郷の最高神
あの花見から一夜明けた朝。神社の境内は呑み潰れた妖怪たちで溢れていた。
神を祭るこの場所に、こんなにも妖怪が居て良いのかと真剣に考えてしまうが、コイツ等全員を追い出すのも骨が折れるし、とりあえずは放置の方向で。
「ふ、ふあぁ~……。あ~ねみぃ~」
俺は大きな欠伸を一つ掻いて、この眠気を覚ます為に水汲み場の水で顔を洗う事にした。
そこら辺に転がっている妖怪を踏まない様に気をつけつつ、俺はなんとか水汲み場に辿り着く事が出来た。
暦は既に五月がって言うのに、水汲み場から湧き出す水は三月を思わせるほどに冷たかった。
眠気を覚ますのには丁度良いが、何時までも冷たいままと言うのも困る。
……まぁ、こんなに水が冷たいのは、長く続いたあの冬の所為だろうけどな。
「……さっさと顔を洗うか」
俺は水汲み場の水に両手を入れて、水を掬い上げて顔を洗う。
顔に当たる水の冷たさで眼は覚めたが、やっぱり冷え過ぎているのも考えものだな。
そんな事を思いつつ、顔を洗っているとタオルを持ってくるのを忘れている事に気がつく。
服で顔を拭こうかとも思ったが、昨日は一日中着ていた上に、夜に戦闘をしていた。
流石にそんな服で顔を拭くのは気が引ける。そう思った俺は、神社に戻り拭く物を取りに行く事にした。
俺は濡れた顔のまま玄関を開けようとすると、中から物音が聞こえてくる。
最初は泥棒かとも思ったが、聞こえて来る音をよく聴いてみると、誰かが調理をしているみたいだ。
この神社でそんな事をするのは一人しかいない。
俺は安堵の溜息を一つ吐いてから、玄関の戸を開けて中に入った。
「ん? あぁ、お早うリュウ」
「お早う、霊夢」
玄関を入って直ぐの台所では、霊夢が何時もの様に朝早くから朝食を作っている。
昨日は無茶をしたんだし、今日くらいは休めば良いものを……。
お節介かも知れないが、昨夜の戦いを思い返すと如何してもそんな事を思ってしまう。
「……ちょっとリュウ。アンタ、顔が濡れてるわよ」
「あぁ。さっき眠気覚ましに顔を洗ったんだが、拭くものを持って行くのを忘れてな。それでだ」
「全く、変なところで抜けてるんだから。…ほら、拭いてあげるからジッとして」
そう言って霊夢は俺に近付き、持っていた手拭いで俺の濡れた顔を拭いてくれる。
こうして見ると世話好きの母親みたいだなとか思っていると、普段の霊夢と比べて動きに若干の違和感を感じた。
なんて言うか……動きが硬いと言うか、何処か無理をしているような感じがする。
「……はい、コレで終わりっと」
「ん、ありがと」
「どう致しまして」
はにかみながら霊夢はそう言い、また調理を再開しようとした。
霊夢は普段と変わりなく調理しているが、その後姿はやっぱり無理しているように見える。
なんとなくそう思ってしまった気俺は、気付かれないようにそっと霊夢の背後に近付き軽く肩に触れてみた。
「…ッ」
俺が肩に軽く触れただけなのに、やっぱり何処か痛むのか霊夢は辛そうに顔を歪める。
「霊夢、やっぱり昨日の無茶で何処かを痛めたのか」
「べ、別にこの程度大した事無いわよ」
「大した無いって、お前なぁ……」
「本当に大した事ないわ。それよりも、さっさと朝食を作っちゃうわね」
そう言って霊夢は、俺の手を振り払り、また朝食を作り始めた。
本当なら俺が代わりに朝食を作ってやりたいが、こうしている頑張っている霊夢に無理矢理代わって貰うのは本意じゃない。
だからと言って、無理をさせて霊夢の具合を悪化させては本末転倒も良い所だ。
色々と考えた結果、俺は霊夢の隣りに立って調理を手伝うことにした。
「……なにしてるの」
「霊夢の手伝い」
「別にそんな事しなくても良いわよ。アンタは何時もの様に待ってて」
「身体の調子が悪いって分かってるのに、一人で待てる訳無いだろ。それに二人で作った方が絶対に早い」
「……アンタ、何が作れるのよ」
「霊夢みたいに料理らしいものは無理だが、食材を切るのは得意だぞ」
「あのねぇ……」
身も蓋も無い言葉に霊夢は呆れ果てるが、俺は隣りから動く気はなかった。
此処であっさりと引くくらいなら、最初から一緒に作ろうなんて考えやしない。
霊夢は呆れた様な少し困った様な顔をするけど、俺はそんな霊夢に構わず手伝いを続ける。
「言っとくけど、俺は下がる気はないぞ。此処で口喧嘩をするくらいなら、さっさと作っちまおう」
「……好きにしなさい」
「ああ、そうさせて貰うさ」
やっと折れた霊夢は、素っ気無くそう言ってから調理を再開した。
……だけど、素っ気無く言う割りには、何処となく嬉しそうに顔が綻んでいるのを俺は見逃さなかった。
………
……
…
昨日宴会でお酒を飲んだと言う事もあって、今日の朝食はキノコの梅和えと落とし卵の野菜雑炊。
お酒を飲んで荒れた胃を気遣ってか、なんとも胃に優しそうな献立となった。
俺は種族的にそんな事を気にする必要も無いんだが、霊夢は昨日の宴会でかなり飲まされていたから、余り重いものを食べたくないんだろう
出来た雑炊と和え物を器に盛り、朝食を食べようと居間に行くと、何故か頭に鹿の角が生えた深緑色の髪の少女が座っていた。
「お、漸く飯が出来たのか」
「アンタは昨日の……」
「……誰?」
霊夢はあの少女の事を知っているみたいだが、俺は完全に初対面……のはずだ。
少なくとも、俺の記憶の中では初めて会った筈なんだが……どうも初めてな気がしない。
前にも何処かで会った……そんな気がするんだが、全然思い出せないんだよな……。
「昨日はリュウを助けるのに協力してくれてありがと。……それで、アンタどっから入ったのよ」
「まぁ待て。そう言うのは朝食を食べてからでも遅くなかろう」
「それは……確かにそうだけど」
「分かっておるのならまずは食事じゃ。妾の分はあるかの?」
「食べる気かよ」
「当然じゃろ」
「「……ハァ」」
当たり前だと言わんばかりに胸を張る幼女を見て、俺と霊夢は顔を見合わせて同時に溜息を吐いた。
確かに少し余分に作っておいたから、この子に食事を出すのは問題はないんだけど……何故か釈然としない。
こんなに偉そうなのはレミリア以来だが、アイツよりも相手にするのが面倒そうな気がするのは何でだろう。
………
……
…
珍しく三人での朝食も食べ終わり、食器を下げた俺達は、早速この少女に色々と尋ねることにした。
突然ウチの居間に現われたと言うのも気に為るが、俺もこの子が何者なのか気になっていたしな。
霊夢は前に会った事があるそうだが、その時は碌に会話もせずに別れたらしい。
その時は丁度俺が隙間に放り込まれていた時だから、霊夢に彼女と話をする余裕が無かったのかもしれない。
「さて…まずは自己紹介からかの。
「……冗談でしょ」
「当代の巫女は疑り深いのぉ……。妾から溢れ出る威厳を感じれば納得できるじゃろ」
「そんな子供の姿で龍神だなんて言われて、信じろって方が無理よ」
「むむ……竜よ、お主なら妾の言っている事を信じてくれるじゃろ?」
「いきなりそんな事言われてもな……」
急に話を振られるとは思ってなかったが、俺は彼女の正体を突き止めるためにも気配を探ってみる事にした。
人と妖怪の違いってのは何となく分かるんだが、妖怪と竜の違いってのはあんまり分からないんだよな。
……確かに感じられる気配は竜のそれと似てるけど、人の姿をしているのがイマイチ分からない。
そんな事を言ったら、基本的な姿が人の俺も良く分からない存在になるんだが……。
「どうじゃ竜。信じてくれたか?」
「……もしかして君は龍神の化身体か?」
「おぉ、流石は同胞じゃ! 良く分かってくれた!!」
「化身体って?」
イマイチ話について来れてない霊夢は、俺が言った〝化身〟がなんなのか尋ねてくる。
まぁ、普通はお目に掛かる事なんてある訳無いし、霊夢が理解出来ないのも無理ないのかもしれないな。
「前に居た世界の竜たちが人と話すときになる姿の事だ。……まさか、コッチの龍も出来るとは思わなかったけど」
「竜が人と話すときになる姿って……それじゃあこの子本物なの?」
「多分な。俺の知ってる奴等とは大分感じが違うけど」
「……なんかイメージ出来ないわね」
「まぁ、化身の姿から本来の姿を想像するのは難しいだろ。……アイツ等も色々な姿になってたし」
俺はそう言って視線を遠くに向けて、あの世界で出会った竜たちの事を思い返してみる。
あの世界を見守っていた七人の古竜たち。どれもコレも奇抜……じゃなくて、個性的な姿をしてたっけか。
人間みたいな姿をする奴もいれば、竜の姿を意識した姿の奴もいたっけ。
アイツ等の事を思い返すと、この龍神の化身は中々の出来だよな。頭に角がある以外、殆ど人間と同じ姿をしてるし。
確か『
「……そう考えると『
「ん? なんの話?」
「ちょっと昔を思い返してただけ。……それで龍神はなんの用で来たんだ?」
「別に大した用ではない。お主の様子を見に来ただけじゃよ」
「リュウの様子って……私たちの仲に文句があって来た訳じゃないの?」
「なんで妾がそんな事を言いに来なければ為らんのじゃ。こう見えても妾も忙しいのじゃぞ」
「あっそう……良かった」
龍神の言葉を聞いて霊夢は心配事が解消されたのか、小さな声で一言呟きホッと胸を撫で下ろした。
まぁ俺としては、龍神が何を言ってこようとも霊夢の傍から離れる心算はなかったから、特に気にしてはなかったけど……文句を言われずに済んだのは良かったかな。
俺たちがそんな事を考えている一方で、龍神は様子を見に来たと言うとおり、探るようにジッと俺の事を見てくる。
その視線がどうにも気に為るが……あの力を使った後だし、此処はグッと我慢するとしよう。
「……ふむ、どうやら力は落ち着いておるな」
「見ただけで分かるのか?」
「当然じゃろ。あれだけ強大な力ならば、安定しているか如何かを視るのは容易い」
龍神は当たり前の事を聞くなっと言った顔をするが、俺は見ただけで相手の力が安定してるかなんて分からん。
自分の事なら察しは付くが、流石に相手の力が安定してるのかは無理だ。
其処まで調べられない……と言うか、只単に調べる気が無いだけなんだけどな。
「……龍神、一つ聞きたい事があるんだけど」
「なんじゃ霊夢?」
「あの白い竜って一体なんなの? 如何見ても普通の竜じゃないわよね」
「その事か……アレは別に知らなくても良い事じゃと思うぞ」
「良いか悪いかは私が判断するわ。だから話して」
霊夢の直球な質問に龍神は顔を顰めて言いたくなさそうに口を閉ざした。
俺としてもあの力の事は知っておきたいが、そんなにも言い辛い事なのだろうか?
「妾も聞いた程度じゃが……それでも構わぬか?」
「問題ないわ」
「俺もだ」
如何しても知りたい俺と霊夢が頷くと、龍神は小さな溜息を吐いてからあの力の事を話してくれた。
「……アレは神殺しの力を持った竜。妾はそう聞いておる」
「神殺しの力を持った竜……」
「正確には、とある邪神を滅ぼす為に生まれたそうじゃが、実際にあの竜にはそれだけの力が有る」
「……………」
今の龍神の話を聞いて、俺は思わず言葉を失ってしまった。
アレが強大な力を持つ竜だって事は自覚していたけど、まさか神殺しなんて言われるとは思いもしなかった。
記憶の大半を失っているとは言え、邪神を滅ぼす為に生まれただなんて想像すらしていなかったよ。
……これなら八雲の奴に封印されるか、幻想郷に辿り着かないほうが良かったのかもな。
「…ちょっとリュウ。今変な事考えたでしょ」
「別にそんな事は……」
「嘘言わない。アンタは顔に出易いんだから、直ぐに分かるわよ」
「た、たはははは……」
痛いところをつかれてしまい、なんとか誤魔化そうとしたけど、霊夢は若干怒った様な顔で追及してきた。
なんとか誤魔化そうと苦笑いを浮かべる一方で、顔に出易いと言われて物凄く納得した自分がいる。
もう一人の自分は表情を崩す事は殆ど無かったけど、俺は喜怒哀楽の感情は普通に出ていたからな。
あんまり嘘も吐いた事無いし、きっと俺は隠し事が出来ないタイプだろう。
「どうせアンタの事だから、紫に封印されるか此処に来なければ良かったとかって所ね」
「……正解」
「はぁ。あのね、そんな事を今更気にしても仕方が無いじゃない」
「仕方が無いって……軽く済ませられる様な事じゃないだろ」
「軽く済ませるわよ、リュウが何度暴走しても私がちゃんと止めてあげるから。だから、アンタはそんな事気にしないの」
霊夢が止めてくれると言って、思わず面食らってしまったけど……少しだけ気が楽になった様な気がした。
「……ありがとな、霊夢」
「ば、バカ。礼を言う様な事じゃないわよ」
俺が嬉しくて霊夢にお礼を言うと、彼女は顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。
それが照れ隠しなんだと分かっているから、こうしてそっぽ向く霊夢の仕草が可愛いと思ってしまう。
……多分、魔理沙辺りが聞いたら“惚気るな!”って言って怒り出すんだろうな。
「……この様子ならば、アヤツ等に教えても問題ないか」
「アヤツ等って誰のことよ」
「それはコッチの事じゃから気にせんでよい。……では、妾はそろそろお暇するとしよう」
何処と無く楽しげにそう言うと、龍神の身体が座った状態のまま少しずつ薄れていった。
その様子に霊夢は眼を丸くして驚くが、俺はあの世界で古竜たちが消えるのを見ているから驚く事は無い。
それに化身は本体とは別に存在するものだから、今此処に居る龍神が消えても何の影響も無いしな。
「あ、最後に一つ言わねば為らぬ事があった」
「なんだ?」
「子供を作るのは結婚してからじゃぞ? 怠けているとは言え、霊夢は巫女。そこら辺の貞操観念は確りせんとな」
「あ、アホかーッ!!!」
最後にトンでもない発言をすると、霊夢もさっきより顔を赤くして、自分が座っていた座布団を投げ付けた。
投げたと言っても、龍神は既に消えかかっていたから、投げられた座布団はそのまま素通りするだけだから意味無いんだがな。
「あっはっはっは! では、さらばじゃ~」
「二度と来るな!!」
消えていく龍神に霊夢は声を荒げるが、幻想郷の最高神にそんな口の聞き方で良いんだろうか?
そんな事を考えながら食後のお茶を飲むが、物凄く今更な気がしてきて考えるのも馬鹿らしくなって来た。
第一、俺達の話し方に文句があるのなら最初の方に言ってくる筈だし、何も言ってこないと言う事は本人も気にしていないって証拠だろう。
幻想郷の最高神としてそれで良いのかと思ってしまうが、本人が気にしていないのならそれで良いのか。
この作品の龍神様は友人思いで気さくな人です。
まぁぶっちゃけると、結構軽いノリの奴。