竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第三十三話 薬で変身

 

満開だった桜の花は既に散り行き、植物たちが春の装いから夏へと向けて葉を伸ばし始めた頃。

澄み切った空の中、俺と霊夢は何時ものように、母屋の縁側に座りお茶を飲んでいた。

そろそろ夏が近付いてきたからか、時折り吹き抜ける風は暖かくなりつつある。

今はまだ大丈夫だが、夏が本格的に始まる前に暑さ対策を考えておくか。……いや、俺は暑いの平気だから大丈夫か。

 

「よう、二人共。遊びに来たぜ」

「つ…つかれた……」

 

俺達が縁側でノンビリしていると、何時のも様に魔理沙と…珍しい事にパチュリーがやって来た。

普段は紅魔館の図書室から動かないくせに、今回は如何言う風の吹き回しだ?

……あと、なんでパチュリーはそんなにも疲れ果てているんだ? 紅魔館から神社まで歩いて来た訳じゃないだろ。

 

「いらっしゃい二人共。魔理沙は兎も角、パチュリーは珍しいな」

「ちょっとした野暮用よ…」

「どうせ魔理沙に〝本を返して欲しかったら協力しろ〟とか言われたんでしょ」

「あ、酷いぜ霊夢! お前はわたしの事をなんだと思ってるんだ!」

「「ただの本泥棒」」

「……確かに間違ってないわね」

「お前等な……」

 

俺達の発言に軽く落ち込む魔理沙だが、本当に本を盗んで行くのだからそう言われても仕方が無い。

そう思いつつ落ち込んでいる魔理沙を余所目に、俺は二人の分のお茶を入れに急須を持って台所に向かった。

釜戸に火をくべてお湯を沸かし、四人分と言う事で多少多めにお湯を急須に注ぐ。

後は来客用の湯飲みと、茶菓子で食べていた煎餅の追加分を出して、縁側に居る三人の下に戻った。

 

「はい、二人共お茶」

「さんきゅー」

「……紅茶はないの?」

「私は緑茶派よ。紅茶なんて有る訳無いわ」

「そう。なら仕方が無いわね」

 

二人にお茶の入った湯飲みを渡し、霊夢の隣りに煎餅を置いて、俺はその反対側に座る。

魔理沙は煎餅を挟んだ形で霊夢の隣りに座り、パチュリーは魔理沙の隣りに座る。

全員にお茶が行き届いたのを見て、俺は自分の湯飲みに入ったお茶を飲み始めた。

 

「それで、今日は何の用で来たのよ」

「ちょっとリュウに試して貰いたい物があってな」

「……俺に試して貰いたい物?」

「そうだぜ」

 

そう言って魔理沙が渡して来たのは、エメラルドグリーン色の液体の入ったビン。

液体の色からして何らかの薬だと思うが、一体なんの薬なんだ? 前の世界でもこんな色の薬は見た事が無いぞ。

色だけを見るなら綺麗だと思うけど、どう考えても普通の薬なわけが無いよな。

とりあえず渡された俺は、この怪しさ満点の薬を色んな角度から見てみる事にした。

 

「おいおい、そんなに見回さなくても只の薬だって」

「アンタ等魔法使いが作る薬が只の薬な訳ないでしょ。リュウ、そんな薬さっさと捨てなさいよ」

「……もっともな意見ね」

 

確かに霊夢の意見も分かるんだが……こう言う怪しさ満点の物って興味がそそられるんだよな。

前に居た世界でも、興味本位で『アケロン』を使った事もあるし。……後で皆に滅茶苦茶怒られたけど。

あの魚は見た目も変わっているが、使ったときの効果も敵味方ともに毒状態にするって言う変わったモノだった。

怒られて以来色々と自重してたけど、居間はアイツ等もいないし、使って周りに迷惑を掛ける事も無いだろう。

 

「……………」

 

色んな角度から薬を見た俺は、興味本位にビンの蓋を開けて薬を一気飲みする事にした。

エメラルドグリーンの薬の味は……美味くも無く不味くもない中途半端な味。

この手の薬は、極端に不味いか味が無いかの二択だと思ってんだが……違うみたいだな。

薬を飲み干した俺は、ビンを口から離し、自分の身体に異常が無いか確認する。

 

「ちょっとリュウ!? そんなの飲んで大丈夫なの?!」

「今の所は…………ッ?!」

 

身体に異常はないと思った瞬間、自分の心臓が大きく脈打ち始めた。

最初は前に境界を弄られたみたいに、中に居る竜が暴れだしたのかと思ったが、どうやら少しばかし違うようだ。

心臓が大きく脈打つものの、前みたいな鼓動が早くなったり、視界が白く霞みもしない。

これは……中で暴れていると言うよりも、何かが強制的に表に出てこようとしてる感じだ。

 

「リュウ!?」

 

霊夢が俺を呼ぶ声が聞こえたのと同時に、俺の身体を赤いオーラが包み込んだ。

俺は表に出てこようとする奴を抑え込もうとしたが、下手に我慢すると頭痛がしてきて押さえ込むのも難しくなる。

このまま我慢するのも無理だし、此処は出て来ようとしてる奴を表に出すしかない。

そう判断した俺は、押さえ込むのを止め、竜人形態の過程を飛ばし何かの竜へと変身をした。

竜に変身すると、何時もの様に赤いオーラが弾け飛び、視界が元に戻って来る。

俺は隣りを見てみると、オーラが弾けた時の衝撃の所為でか、霊夢が二人を押し潰していた。

 

《おい、大丈夫か?》

「え、えぇ。私は平…気……」

「おい霊夢、早く退け…って……」

「如何したのよ魔理…沙……」

 

起き上がった三人は、俺の方を見るや否や、珍妙な生物を見る様に眼を丸くして見下ろしてきた。

なんでそんな眼でコッチを見てくるか分からないが、それ以上に気に為るのが……如何して俺は三人に見下ろされなければ為らないんだ?

身長で言えば、この四人の中で俺が一番高い筈なんだが…………ま、まさか……。

物凄く嫌な予感がした俺は、急いで鏡のある霊夢の部屋に向かい、今の自分の姿を見てみた。

霊夢の部屋にある鏡に映し出されたのは、頭に薄紫色の小さな角を生やし、腕の部分にこれまた小さな白い翼を持つ、お腹に浅緑色と飴色のラインが入った、薄紅色の足のない小さな竜の姿だった。

……よりにもよって、変身したのが『パンク』かよ。いや、家を壊さなかっただけマシか。

 

《ハァ……》

 

 

 

 

………

……

 

鏡で確認をしてきた俺は、あの二人に話を聞くために縁側に戻って来た。

あの二人がなんの心算でこんな事をしたのか知らないが、場合によってはこの姿のままアイツ等をボコる。……勝てるかは知らないけど。

 

《それで? アレはなんの薬だ?》

「んな恐い顔するなよ~。折角可愛くなったんだから」

《……霊夢、人間が喰えるってホントか?》

「美味しいかは知らないけど、食べられるらしいわよ」

「……二人して恐い事言うなよ」

《「ならさっさと話せ/しなさい」》

「へいへい」

 

魔理沙が言うには、アレは飲んだ相手を何らかの状態にすると言う、物凄くアバウトな魔法薬との事。

そもそも何故そんな薬を俺に渡したのかと言うと、竜である俺に魔法薬が効くのか試してみたくなっただけらしい。

よく魔理沙は何かを思い立って薬を作るそうだが、ソッチ方面の薬を精製するのは苦手らしい。

今までも何度か作ろうとした事はあるらいしが、よく失敗して家の中を滅茶苦茶にする事が多いらしい。

其処でパチュリーに相談を持ちかけたところ、意外にもこの話に乗って来たらしく、二人の共同作業で今回の薬が完成したとの事だ。

パチュリーがついて来たのは、薬を飲んだ後にどんな反応が起きるのかその眼で見たかったからだと。

 

「いや~、まさかこんな事になるとは思わなかったぜ」

「リュウ、実験協力ありがとう。それと、貴方の羽を一枚くれない? 何かの魔法薬に使えそうだし」

「あ、ズリィ! リュウ、わたしにも一枚くれ!」

「《……………》」

 

非礼をわびて謝罪するのかと思ったら、二人は厚かましくも羽を強請ってきた。

俺はその様子に言葉を失ってしまい、霊夢なんか頭痛がするのか、片手で頭を押さえ項垂れてしまっている。

あんまり怒る事の無い俺でも、流石にこの二人の態度にはいい加減怒りを覚えるぞ。

 

《…とりあえずお前等。ちょっと表に出ろ》

「お、やる気か? そんなヘンテコな姿のリュウに負けるわたしじゃないぜ」

「……竜の特性を知る良い機会ね」

《人を実験動物にするんじゃねぇ!!》

 

パチュリーの一言を聞いて遂に切れた俺は、彼女のお腹目掛けて突進していった。

突然の出来事にパチュリーは動く事が出来ず、俺の突進をまともに受けるが……大した威力は出せなかった。

この攻撃では駄目だと思い、今度は腕に思いっきり噛み付いてみる。

歯を立て、力いっぱい噛み付いてみるものの……パチュリーが痛がっている様子は無い。

 

「……痛くない?」

「そんなまさか」

 

魔理沙に首根っこを無造作に掴み上げられた俺は、彼女の手を振り解こうと必至になって暴れる。

……だが、どんなに暴れても魔理沙の手を振り解く事は出来ず、俺は彼女に首根っこをで掴み上げられたままだった。

この状況になって俺は『パンク』に付いてのある事を思い出した。

それは……この竜に変身すると、体力と力が通常時の半分にまで下がると言う事だ。

だから、大事な局面ではまず使う事が無い上に、使える技も大したものがないから、戦闘ではまずこの竜に変身しない。

滅多な事で変身なんてしないものだから、普通にこの竜の特性を忘れていた。……マジで如何しよう。

 

「なんかよく分からないけど、これってチャンスだよな」

「そうだけど……先に後ろ振り向いた方が良いわよ」

「……へっ?」

 

パチュリーに言われた魔理沙が後ろを振り返ると、其処には怒り心頭気味の霊夢が立っていた。

此処まで怒っている霊夢を見るのは……初めてだな。前に喧嘩した時だって、此処まで怒ってなかったし。

 

「え~っと霊夢…さん?」

「……………」

「お~い」

「あんた等、私のリュウに……なにしてんのよ!!!」

「ぬがッ!?」

 

魔理沙は切れた霊夢のサマーソルトを顎に叩き込まれ、そのまま気絶し、俺は霊夢に回収された。

それを見ていたパチュリーは、気絶した魔理沙を肩に担ぎ、そのまま帰る為に空を飛んで行こうとするが……直ぐに落下した。

この場合、単純に魔理沙が重いのか、パチュリーが体力不足なのか分からないな。

地面に激突したパチュリーは、地面に伏したまま懇願する様な眼で霊夢の方を見て来る。

 

「れ、霊夢。少しだけ休ませて欲しいんだけど……」

「さっさと帰れ」

「……はい」

 

霊夢にあっさりと断られたパチュリーは、再び魔理沙の肩を担いで空を飛んでいった。

……その途中で、何度も落下しそうになったのは言うまでも無い。

 

「全く。冗談にしても性質が悪いわ」

《ありがとな霊夢。助かったよ》

「アンタはもっと反省しなさい」

《……はい》

 

流石に今回は自分でも軽率すぎたと思うし、此処は素直に反省する事にする。

とは言え、何時までもこの姿で居るわけにも行かないので、さっさと変身を解除する事にした。

俺は瞼を閉じて、何時もの様に力を押さえ込んで、変身を解除しようとしたが……どうも調子が可笑しい。

どれだけ力を押さえ込んでも、何故か変身が解ける気配が無い。

何度も試してみたが……結果は全て同じで解除出来ずに終わった。

 

《……マジかよ》

「…? 如何したの」

《パンクの変身が解けない……》

「……嘘でしょ?」

 

霊夢は信じられないと言った顔をするけど、信じたくないのは俺も一緒だよ。

なにが悲しくて『パンク』の姿のままで居ないといけないんだよ。……なんだか泣けて来た。

 

《俺が何をしたってんだよ……》

「だ、大丈夫よリュウ! きっと明日には治るから!」

《……そうだよな。こんなのが何日も続くわけ無いよな》

「きっとそうよ。だから、そんなに落ち込まないの」

 

霊夢はこんな珍妙な姿になった俺を慰めてくれた。

此処最近は不幸続きだったから、霊夢の優しさが心に沁みてくるな……。

 

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