竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は珍しくリュウ及び霊夢以外のキャラの視点があります。


第三十四話 人形遣いの来訪

 

リュウSide

 

魔女二人の薬を飲んで『パンク』に変身してから、今日で三日が経った。

俺も霊夢も、翌日には治ると思っていたが……結果はこの通りで未だに変身が解けないでいる。

なんで変身が解けない原因は不明だが、今はあの二人に解毒薬を作らせている最中だ。

その解毒薬が出来るまでの間は、ずっとこの姿のままな訳だが……何時に為った完成するんだろうか?

正直、この姿のまま一日過ごすのはかなり不便なんだよな。

 

何が不便かと言うと、まず人型じゃないから今まで通りの生活が出来ない。

境内の掃除や道具拾いは愚か、毎日の食事だってままならなくなった。

手なんかないから、そこ等の動物みたいにご飯にガッツクしかない訳だが、そんな食べ方をしたら口回りが汚れる。

今までだったら、口が汚れても紙か何かで拭けば済むのに、この姿だとそんな事も出来ない。

お陰で今じゃ、霊夢に食事の後に幼子みたいに口を拭いてもらう破目に……。

 

他にも、霊夢に身体を洗ってもらったり、寝床の準備をしてもらっている始末。

湯に浸かるぐらいなら問題ないけど、自分で洗うとなると中々出来なくて。背中とかまず無理。

布団を出そうとしたら、まともに取り出すことも出来ないし、無理に出そうとしたら布団の重さで潰されるんだよ。

 

……ホントに此処最近は泣きたくなるような毎日だよ。て言うか、実際に泣いた。

何も出来ない自分と、霊夢に頼りっぱなしなのが、情けないやら申し訳ないやら……。

出来るだけ早く薬が完成して欲しいけど、余り急かすと薬が失敗しそうで恐いんだよな。

……こんな生活、あと何日続くんだろうか……。

 

《……ハァ。憂鬱だ》

 

俺は誰も居ない縁側で一人深い溜息を吐いた。

霊夢は香霖堂に買い物に行ったし、魔理沙はパチュリーと一緒に薬の精製中。

この身体じゃ、神社の掃除なんて出来ないから、縁側で一人暇を持て余すしかない。

暇潰しに釣りに行く事も出来ないし、里に遊びに行こうにもこの姿じゃ色々と不味い。

そんなこんなでやる事を失った俺は、暇を持て余してしまったため縁側で昼寝をすることにした。

……何もすることが無くなったから昼寝だなんて、なんか霊夢みたいな生活だな。

 

リュウSide out

 

 

 

 

 

 

アリスSide

 

今日私は、自動人形(オートマタ)の制作でリュウに尋ねたい事があり、久し振りに博麗神社へとやって来た。

境内に相変わらず人気はなかったけど、それは何時もの事なので余り気にしないでおこう。

此処に二人の姿は見当たらないとなると、きっと縁側でお茶を飲んでいるのんでしょ。

なんだか二人の邪魔をするようで気が引けるけど、此方も切羽詰まっているから深く考えないようにする。

そう考えた私は、神社の境内を横切り、そのまま母屋の縁側へと向かった。

 

「……………」

《くきゅぅ…くきゅぅ……》

「……なにかしらアレ?」

 

母屋の縁側に二人の姿は無かったけど、代わりに白い小さな翼が生えた薄紅色の珍妙な生物が気持ち良さそうに眠っていた。

最初に見たときは、珍種の蛇かと思ったけど……蛇にしては寸胴な上、サイズが小さすぎるわね。

大きさ的には私の上海と同じか、それよりも小さい位からしら。

色々と変わった妖怪が住んでいるこの幻想郷だけど、あの生物以上に変わった妖怪は見た事がない。

 

「……………」

《くきゅぅ…くきゅぅ……》

 

リュウも居ないし、他にすることの無くなった私は、あの生物の測定をする事にした。

流石に定規なんて持って来てないし、神社から勝手に拝借する訳にも行かないので、今回は手持ちの糸を代用して長さを計測する事に。

糸なら常に持ち歩いているし、年がら年中使ってるから大体の長さを測定出来る。

私は寝ている生物を起こさない様にそっと糸を使って、この生物の色々な箇所を調べて、分かった事を持って来たメモ帳に書き記していく。

 

《う、うぅ~ん……》

「ッ?!」

 

頭から尾までの長さを測り、今度は胴回りを調べようとした所、この生物が急に動き出した。

私は眼が覚めたのかと思って一瞬硬直したけど、どうやら只の寝返りをしただけみたい。

起きる気配も無く、スヤスヤと眠っているのを確認した私は、ホッと胸を撫で下ろす。

……あ、お腹には浅緑色と飴色のラインが入ってるのね。コレはメモしておかないと。

私は測定した記録を書いたページの脇に、重要項目としてお腹のラインの事を書き記した。

必要な事は大体書き記したし、後はこの生物の肌触りは感触を知っておきたい所ね。

 

「……………」

《くきゅぅ…くきゅぅ……》

「……少しくらいなら良いわね?」

 

探究心と言う名の欲望に負けた私は、呼吸で小さく上下するお腹を優しく触れて見る事にした。

この生物の体温は人肌と同じく位に温かく、お腹の感触はぷにぷにしていて少し弾力がある。

白い翼の方は鳥の羽に似ていて、見た目通りフサフサしていた。

あとは背中の感触と、この生物の眼の色なんかも知っておきたいわね。

こんなにも気持ち良さそうに眠っているのに、ムリヤリ瞼を抉じ開けて調べるのは流石に可哀相。

背中の感触はもう一度寝返りをうった時に調べるとして、どうやって眼の色を調べようかしら?

 

「…何か良い方法はないからしら?」

 

眼の色を調べる良い方法がないかと考えていると、今まで眠っていた生物が突然起き出した。

私は余りにも突然の出来事に驚くと、謎の生物は大きな欠伸を掻いた後、私の方を見てきた。

 

《ふあ……。なんだアリスか。何か用か?》

「……貴方、如何して私の事を知ってるの?」

《そういや変身したままだったけか。……信じられないと思うが、俺はリュウだ》

「……えっ?」

 

珍獣は自分の事をリュウだと名乗るけど、姿形が私の知っている彼と違いすぎて、流石にその言葉を信じる事は出来ない。

だけど、こんな珍妙な生物が神社に居座っていたら霊夢が何かするでしょうし、無傷のまま神社に居る事を考えるとそれ相応の理由が有る様な気もする。

何処までが真実なのか分からないけど、とりあえずこの珍獣の話を聞いてみるのも良いかもしれないわね。

 

 

 

 

 

………

……

 

私は眼を覚ました珍妙な生物……もとい、リュウに三日前の話を聞いた。

下らない事考える魔理沙も魔理沙だけど、ろくに疑いもせずに薬を飲んだリュウもリュウね。

話を聞いてそんな感想を持った私は、薬を作った二人とリュウに心底あきれ返るしかなかった。

 

「それで未だに変身が解けずに、そんな珍妙な姿のままな訳ね」

《……珍妙って言うなよ》

 

私が本当の事を言うと、今の姿を気にしているのかリュウは頭を垂れて落ち込んでしまった。

普段の姿なら大して気にはしないけど、今の姿で落ち込まれるとコッチが悪い事をした様な気分になってくる。

……如何してだろう、ただ本当の事を言っただけなのに物凄く罪悪感が湧いてくる。

 

「げ、解毒薬がもう直ぐ出来るんでしょ? なら、その姿も直ぐに解ける様になるわよ」

《……本当にそうだと良いな》

 

リュウは顔を上げるけども、何処か疲れたように遠い目をしている。

あの二人の事が信用出来ないのか、只単に諦め始めているのか……一体ドッチなんだろう。

リュウの真意は分からないけど、何時までもこの話題を続けるのは止めた方が良いわね。

そう判断した私は、この雰囲気を変えるために違う話題の話をする事にした。

 

「あ、あのさリュウ。貴方にちょっと相談があるのだけど」

《ん? こんな姿の俺に相談?》

「この間の人形に付いてよ。あの話を聞いて私なりに色々と試したけど、如何も上手くいかなくて」

《あぁ、その相談か。別に良いが……ちょっと長くなりそうだし、お茶でも入れるか》

「別に気を使わなくても良いわよ」

《気にするな》

 

そう言うとリュウは、翼を動かす事無く浮き上がり、台所の方へと飛んでいった。

なんとなく気に為った私は、彼が行った方を振り向き、様子を観察する事にした。

リュウはあの小さな体を使って、なんとか引き出しを開けて茶葉が入った缶を取り出そうとする。

引き出しを開ける事は出来たけど、取り出した缶の蓋が開けられずに苦労している。

なんとか口を使って蓋を開けられたけど、その拍子に缶そのものをひっくり返してしまう。

中蓋のお陰で、茶葉が飛び散る事はなかったものの、リュウからは悲愴感が漂っている。

 

「……て、手伝いましょうか?」

《いや、大丈夫……のはず》

 

私は手伝いを申し出たが、リュウに自信なさ気に断られてしまった。

出来るのか不安なら素直に言えば良いのに。そう思うのだけど、彼の頑張りを見てると口に出して言えそうにない。

缶の中蓋を取ったリュウは、次に棚においてある急須を取り出そうとする。

棚から取り出すだけなら大丈夫だと思っていたけど、今のリュウには手が存在していない。

だから、棚に置いてある急須を口でくわえて取り出すしかなく、見ているほうが不安に為ってくる。

なんとも不安定に急須を運ぶリュウを見て、私は居ても立っても居られずに縁側から立ち上がり、リュウから急須を取り上げてしまった。

 

《あ! 何すんだよ!》

「お茶の用意は私がするから、貴方は座っていて」

《けど、アリスはお客だし……》

「お願いだから座ってて」

《……分かった》

 

私の説得に応じたリュウは、ションボリ肩……と言うか、翼を落とし縁側に戻っていった。

彼には悪い事をしたと思うけど、コレ以上黙って見ているのは耐えられそうにない。

普段のリュウを知っているのに、あの姿のリュウに普段通りの事をさせてると、なんだか幼子に無茶をさせているような気分になってきて、見ているコッチが落ち着かない。

如何して変身が解除されないのか知らないけど、魔理沙とパチュリーには出来るだけ早く薬を開発してもらいましょう。……そうでないと色々と危険だわ。

私は帰りに紅魔館に寄る事を心に決めつつ、お茶の準備を進めていった。

 

 

 

………

……

 

お茶を出し終わった私は、早速リュウに色々と質問しようとした。

だけど、今のリュウに持って来た資料を手渡しても、上手く読むことが出来ない。

何せ手が使えない以上、次のページを捲ると言う動作が出来るはずも無い。

其処で私は、不本意だけどリュウを膝の上に座らせて、代わりに資料を捲ってあげる事にした。

 

「それで此処の術式なんだけど」

《ん~っと……これは術式に使う呪文を変えたら如何だ?》

「それは既に試したわ」

《そうなると……う~む》

 

リュウは私の資料とにらめっこしながら、何かを考えるように唸りだす。

その姿を見た私は、何故か小さな子供が背伸びするような微笑ましさを覚えた。

霊夢に見付かったら間違いなく怒られるでしょうけど、今のリュウを見ていると不思議と心が和むのよね。

 

「ただいま~……って、其処で何してんのよリュウ!?」

 

私が今のリュウの姿に和んでいると、丁度霊夢が神社に帰ってきた。

神社は霊夢の家なんだから、帰ってくるのは不思議じゃないけど……やっぱり怒りだしたわね。

 

《なにって……アリスの手伝い?》

「だからって、何で膝の上に座ってるのよ!?」

《この方が資料を見るときに楽なんだよ》

「資料を見るだけなら他の方法もあったでしょ!!」

《そう言うけどよ……。てか、なんでそんなに怒ってるんだ?》

「怒ってないわよ!!」

 

霊夢は声を荒げながらそう言うけど、誰が如何見ても怒ってる様にしか見えないわ。

……それにしても困ったな。リュウにはまだ他にも相談したい事が残ってるのに、この調子じゃ出来そうにないわね。

なんとかして霊夢の怒りを静めたいけど、下手な事をするのは火に油を注ぐ様なものね。

何か手はないかと考えた私は、あまり使いたくないけど一つのアイディアを思いついた。

恐らくコレならば霊夢の怒りを静められると思うけど、こう言うのはあんまりしたくないわね。

心の中で溜息を吐きつつ、私はリュウを自分の膝の上から降ろし、メモ帳を持って霊夢の傍に向かった。

 

「ちょっと良いかしら?」

「…なによ」

「少しだけこのページを見て欲しいんだけど」

「…? 何かの測定記録?」

「この数値は、今のリュウを測定した出た数値よ。……これと資料になる絵が有れば、あの姿の人形が作れるわ」

「なっ?!」

 

私の話を聞いた霊夢は、眼を大きく見開いて驚きを顕わにした。

その後、疑うような眼差しでコッチを見てくるけど……そんな視線に臆する事無く、私は強気に出る。

 

「コレと使って貴女の分の人形を作ってあげても良いわ。その代わり……」

「リュウを少し貸してって言うんでしょ」

「その通りよ」

 

私が出した交換条件を聞いて、霊夢は胸の辺りで腕を組み悩み始めた。

少しの間悩んでいた霊夢は、組んでいた腕を解き、渋るような声で返事をしてきた。

 

「お、お願いだから膝に座らせるのは止めて。私もまだ座らせた事無いの」

「それは構わないけど……なんか意外ね。貴女ならとっくに座らせてると思ったのに」

「……それが出来なかったから、あんなに声を荒げたんじゃない」

 

そう言って気を落とした霊夢は、私の肩に手を置いて深い溜息を吐いた。

この様子からすると、この三日の間に何度か自分の膝に座らせようとして失敗したみたい。

リュウにやんわりと断られたのか、彼女の羞恥心が前に出た所為で、空回りしたのか……微妙なところね。

 

「とりあえず、彼を膝に座らせなければ良いのね」

「えぇ。ソレを守ってくれればとやかく言う心算はないわ」

「了解したわ。あと序でに、今のリュウのスケッチも描いたんだけど良い?」

「なんでそんな事するのよ」

「人形を作るための資料よ。データが有っても姿が分からなければ作れないわ」

「……仕方が無いわね。今回だけよ」

「それで十分よ」

 

私は霊夢と固い握手を交わし、早速リュウをスケッチする為の準備を始めた。

正直、此処まで霊夢が乗り気に成るとは思わなかったけど、コレはこれで色々と作業がし易くなるし、私にとっては都合が良いのかも知れないわね。

 

アリスSide out

 




オマケ

アリスが遊びに来た翌日、漸く薬が完成したらしく、魔理沙とパチュリーがウチにやって来た。
ウチに来た二人は何故か疲れ果てた様子だったけど、深く気にしないでおこう。
霊夢に解毒薬の蓋を開けてもらい、俺は中の液体を一気に飲み干す。
すると、身体が一瞬だけ消滅し、次の瞬間には元の姿に戻る事が出来た。

「……………」
「ん? 如何したのリュウ?」
「いや、何処か異常はないかとな」
「大丈夫よ、何時ものアンタに戻ってるわよ」
「そっか。……やれやれ、やっと元に戻れたのか」

俺は霊夢の言葉を聞いて、漸く元に戻れた実感が湧いてきた。
元に戻るまでに、何度か余りの不甲斐無さに死にたくなったからな。コレでへんな事を気にせず生活が出来そうだな。

「ちゃんと効いてくれたみたいだな、良かったよかった」
「……ねぇ、もう眠っても良い?」
「その前に少しだけ手伝ってくれ」

俺は自分の指をバキバキ鳴らしながら、極上の笑顔で疲れている二人に手伝いを頼む。

「……手伝いってなんだよ」
「なに只の肩慣らしだ」
「「全力で遠慮させて貰います」」
「問答無用。……覚悟しろよお前等!!」
「逃げるぞパチュリー!」
「言われなくても分かってるわ!」
「逃がすか!!」

俺は全速力に逃げ出す二人に対して、『カイザー』の力を解放した状態の竜人になって、あの二人を追い掛け始めた。
とりあえず、変な薬を作ってくれた礼と、今までの鬱憤をまとめてあいつ等にぶつけてやる!!

                          終わり
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