竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第三十六話 妖精の依頼

 

幻想郷が梅雨入りしたとかで、此処最近は連日連夜の様に雨が降り続いている。

こんなにも雨が降り続いているのを見るのは初めてだが、それ以上にこんなにも暇を持て余しているのは初めてだ。

外は雨が降ってるから境内の掃除をする必要はないし、こんな天気じゃ道具拾いにも行く気にはなれない。

最初は長々と続く雨を面白いと思っていたけど、こうも毎日降り続くと流石に飽きてくる。

何か良い暇潰しはないかと考えるものの、そう簡単に暇潰しの方法が思いつくわけがない。

そう言った状況がずっと続いているものだから、此処最近の俺は暇すぎて死にそうに為っていた。

 

「……霊夢、暇」

「そんな事私に言われてもどうしようもないわよ」

「だよな……」

 

やる事のない俺は、霊夢とお茶を飲みながら居間でだらけていた。

こんなにもする事がないなら、雨の中釣りにでも行けば良いんだけど……霊夢に〝風邪を引くから駄目〟って言われて、釣竿を取り上げられてるんだよな。

竜である俺が風邪を引くのか知らないけど、霊夢に釣竿を取り上げられてた以上、釣りに行くことも出来ない。

……本当にする事も無いし、少し早い気もするけど昼寝でもしようかな?

そんな事を考え始めた矢先、何かが母屋の雨戸を叩くような音が聞こえてきた。

 

「ん? 誰かが遊びに来たのか?」

「この雨の中来るわけないでしょ。どうせ風の音よ」

 

霊夢はそう言ってお茶を飲むけど、雨戸は誰かの存在を主張するように何度も叩かれた。

本当に風の音とするには、雨戸は規則的に叩かれている。

霊夢は完全に無視を決め込んでるが、俺は如何してもその音が気になってしょうがなかった。

如何しても我慢する出来なくなった俺は、席を立ち上がり、何度も叩かれる雨戸を開ける事にした。

 

「きゃッ?!」

 

雨戸を開けた先に居たのは一年くらい前に出会った、髪をサイドテールにした何時かの妖精。

なんで神社に来たのか分からないけど、傘を差さずに少し慌てた様子に見えた。

 

「……君は確か大ちゃんだったけ?」

 

俺はその場にしゃがみ込み、彼女が話しやすい様に試みる。

すると妖精は、必至の形相で俺にすがり付いてきた。

 

「お願いします! 私たちを助けてください!!」

「いや、ちょっと…?」

「このままじゃ私たち住む場所が無くなっちゃうんです! だから、お願いします!!」

「……話が見えねぇ~」

 

妖精は必至になって俺に訴えかけてくるが、何が如何なっているのかイマイチ分からず、彼女の勢いにおいてかれてしまった。

このままだと埒が明かないと判断し、俺はこの妖精を家の中に招き入れる事にした。

 

 

 

 

………

……

 

「はい、お茶」

「あ、ありがとうございます……」

 

家の中に招き入れた俺は、彼女を落ち着かせるためにお茶を一杯出してあげた。

霊夢は彼女を家の中に入れたときに、物凄く嫌そうな顔をしてたけど……今回は我慢して貰おう。

 

「それで? 妖精のアンタが神社に何の用よ? 只の悪戯なら今すぐ追い出すわよ」

「脅すなって」

 

俺は妖精を脅す霊夢にツッコミを入れつつ、彼女の対面の場所に座る。

妖精はお茶を飲んで少しは落ち着いたのか、一息ついて漸く何が遭ったのか俺達に話してくれた。

 

「あの…ですね…。私が住んでいる『霧の湖』周辺の森に大きなナメクジが現われて、それを退治して欲しいんです」

「大きなナメクジ? んなもん、この時期なら何処にでも居るじゃない」

「普通のじゃないんですよ!! 眼が四つもあって、何故か足も沢山生えてて、物凄く大きいんです!!」

 

妖精は身振り手振りで俺達にナメクジの事を伝えようとするけど、彼女の説明がイマイチピンッと来ない。

とりあえず分かっている事は、眼と足があってサイズが物凄く大きいって事だけだ。

……あれ? ナメクジに眼と足なんて生えてるっけ?

 

「…なぁ霊夢。俺の記憶違いでなかったら、ナメクジに眼も足もないよな」

「えぇ。それに大きいと言っても、どうせ数cmとかでしょ」

「違います! この神社と同じ位に大きなナメクジです!!」

「「……流石にそれはないでしょ」」

「本当なんですって!!」

 

妖精は必至になって俺達に訴えてくるけど、流石にそのサイズのナメクジは信じられない。

確かに人と同じ位のサイズのゴキブリなら見た事あるけど、この神社と同じサイズのナメクジは見た事が無いな。

……でも、彼女の必至さを見ると、この子が言っている事全てが嘘だとは思えない。

それに、態々そんな事を言う為にこの神社に足を運ぶって言うのも可笑しな話だ。

 

「まぁ、そのナメクジが居るにしろ居ないにしろ、暇潰しにはなるかな」

 

俺はそう言って席を立ち上がり、自分の部屋から色々と道具を取りに行く事にした。

 

「ちょっとリュウ、何処に行くのよ」

「ナメクジ退治の準備をしに部屋へ」

「……アンタも物好きね」

「暇だったからね。家の中でジッとしてるよりは良いさ」

「はぁ~、仕方が無いわね。私も付き合ってあげるわよ」

 

霊夢は俺の言動に呆れたのか、大きな溜息を吐いてから席を立ち上がった。

 

「霊夢も物好きだな」

「うっさい」

 

俺が嫌味を言うと、霊夢は軽く頭を小突いてきた。

別に小突く必要はないと思うけど、もはや何時もの事だから気にしないでおこう。

 

「あ、あの……」

「ちょっと準備をしてくるから、其処で大人しく待っててくれ」

「あまり変なところ弄るんじゃないわよ」

 

妖精を居間に置き去りにして、俺と霊夢は自分の部屋に戻って準備を始めた。

この前貰った剣も当然持って行くんだが……この剣の初陣がナメクジ退治ってのも泣ける話だな。

 

 

 

 

 

………

……

 

準備を終えた俺と霊夢は、妖精の案内の元『霧の湖』周辺の森へとやって来た。

この辺りも雨が降り続いていて、森の中は湿度が高いのか物凄くジメジメとしている。

暇潰しで来たものの、あまりこう言う場所には長時間居たく無いものだな。

 

「それで、アンタが言っていたナメクジって何処よ?」

「えっと…………あ、居ました! あそこです!!」

 

妖精が指差したほうを見てみると、其処には確かに神社で聞いた通りのナメクジが森の植物を食い漁っていた。

……いや、本当に聞いた通りの見た目とサイズをしていて、予想以上に気持ち悪い。

何を如何成長すればあんなにデカくなるのか、誰かに説明してもらいたいくらいだ。

 

「そ、それじゃ後はお願いしますね!」

 

妖精はそれだけ言うと、一目散にこの場から離れ何処かへと行ってしまった。

戦いの邪魔に為らないだけマシだけど、あのナメクジの見た目は如何にかならないもんかね?

俺も色んなモンスターと戦ってきたが、あんなに気色悪いモンスターは見た事が無いぞ。

 

「……やるか霊夢」

「そうね。あんなのが里の畑に入ったら大変な事になるし、此処で駆除しちゃいましょう」

 

そう言うと霊夢は懐から針を取り出し、それ等をナメクジに向かって投げ付けた。

針は木々の間を縫う様に通りぬけ、なんの問題もなく当たったかに見えたが……針が直接ナメクジの身体に触れた途端、針は奴の身体を滑り周りの木々に突き刺さった。

その光景を見た俺は、直ぐに鞘から剣を抜き、直接ナメクジに斬り掛かる。

だが、さっきの針と同様に俺の剣も奴の身体に触れた途端、粘液か何かに滑り直接斬り捨てる事は出来なかった。

俺は一旦ナメクジから距離を取り、体勢を立て直す事にした。

 

「リュウ、何か分かった?」

 

剣を構え直し、体勢を整えていると、霊夢が俺の後ろにやって来た。

俺は後ろを振り返る事無く前だけを見据え、さっきの攻撃で分かった事を簡単に伝える。

 

「アイツの身体の表面に粘液か何かで覆われているようだ。それの所為でコッチの攻撃が効いてない」

「粘液?」

「多分な。そう言う相手なら炎を当たれば良いんだが、この雨じゃ完全に焼き尽くすのは無理だろ」

「……確かにこの雨じゃ、アレに塩を掛けても意味がないでしょうね」

「その程度で倒せるなら俺達に頼んだりしないだろうしな」

「それもそうね」

 

俺は霊夢と軽口を叩きつつも、目の前にいる化物ナメクジを倒す方法を考えていた。

物理系の技が効かないと為ると、俺の魔法や霊夢の術を主軸に戦った方が良いだろうな。

問題があるとすれば、あのナメクジがどんな攻撃をしてくるのかって所か。

普通のナメクジなら只の害虫駆除で済むんだが、見た目通りの化物なら何もしてこない訳がない。

仮定の事を幾ら考えても仕方が無いが、何も考えないで突っ込むよりはマシか。

 

「…霊夢、俺が先に仕掛けるから支援を頼む」

「分かったわ。……気をつけてね」

 

霊夢の言葉に小さく頷いた俺は、剣に炎を纏わせてナメクジとの間合いを一気に詰める。

雨にも負けないように強い炎を纏わせ、ナメクジの背後から斬り掛かった。

剣に纏った炎が、ナメクジの粘液ごと奴の身体を焼き斬る。

 

「■■■■■■■ーッ!」

 

身体を斬られた事で、激痛からかナメクジが言語にならない雄叫びを挙げる。

だが、踏み込みが浅かったのか、今の一刀でナメクジの身体を両断する事は出来なかった。

もう少し踏み込めば良かったと後悔していると、ナメクジが此方を振り向き、口から粘液の様なものを吐き出してきた。

口から粘液が出てくるのを見た俺は、すぐさま後ろに跳び、奴から吐き出された粘液を躱す。

俺が後ろに後退するのと同時に、背後から複数の光弾がナメクジへと放たれる。

 

「霊符『夢想妙珠』」

 

霊夢から放たれた光弾は、ナメクジの粘液など物ともせず全弾命中した。

光弾がナメクジに命中した事で、雨が降り薄暗い森の中が光で満たされる。

森を満たしていた光が収まると、ナメクジは大分弱っているがまだ健在だった。

俺は剣を握り直し、ナメクジにトドメを差そうと駆け出したその時―――

 

「どっせーいッ!!」

 

―――上空から物凄く場違いな子供の声が聞こえ、その直後に謎の氷塊がナメクジを押し潰した。

余りにも突然の出来事に呆気に取られていると、上から氷の羽を持つ青い髪の妖精が降りてきた。

 

「へっへ~ん! あたいに掛かれば、こんな奴イチコロよ!」

 

氷精は潰されたナメクジを見て勝ち誇ったように胸を張る。

俺としては見せ場を持っていかれた形だから、今一つ面白くない展開ではある。

 

「ち、チルノちゃん。危ないから早く戻ってきてよ~」

「何言ってるの大ちゃん。アイツはあたいがやっつけたからもう大丈夫よ」

 

俺達に依頼をしてきた妖精は、心配そうに木陰から氷精に声を掛ける。

だが氷精は、あの子の心配など一切気にもせず、自分の勝利を確信していた。

確かに普通のナメクジなら、氷塊に潰されれば一貫の終わりだろうが……この程度で終わるとは思えない。

俺は何があっても良いように辺りを警戒していると、氷塊が何かに滑るようにずれ落ち、下からほぼ無傷のナメクジが姿を現した。

 

「う、うそ?!」

 

ナメクジはさっきの攻撃が頭に来たのか、かなり眼を強張らせて氷精を睨んでいる。

その眼に臆したのか、氷精が少しだけ後ずさりをした瞬間、ナメクジはその巨体を地面に叩きつけ大きな地震を発生させた。

あの巨体から発生した地震は、一気に周囲に広がり地面に幾つもの亀裂を入れていく。

俺は咄嗟に剣を握っていないほうの手に力を込めて、その拳で地面を思いっきり殴り力を解放する。

 

地破土(ジハード)ッ!!」

 

解放した力で地面を操り、ナメクジが起こした地震をムリヤリ鎮静化させていく。

だが、コレは本来の使い方とは違う上に、ナメクジが起こした地震が大きすぎるのか、完全に沈静化させる事は出来なかった。

結果としては最小限の被害で押し止めれたが、周りの木々は傾き、地面には地割れの様なものが出来てしまった。

ナメクジはもう一度巨体を地面にぶつけようとするが、ソレよりも先に霊夢が奴の近くに札を投げ付ける。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

札から発生した光に閉じ込められたナメクジは、まともに動く事が出来ずに中でもがき出す。

結界から出ようと暴れだすが、アレはナメクジ程度が壊せるような生半可な結界じゃない。

 

「リュウ!」

「嗚呼!」

 

俺は霊夢の呼びかけに応え、結界の中でもがいているナメクジへと向かって駆け出す。

頭に描くのはあの半人前が使っていた突撃して斬り抜けるあの技。

あの時に彼女の動きを見切る事が出来たんだ……なら俺にも出来る筈だ。

俺の握る手に自然と力を籠もると、剣が籠めた力に共鳴するように刀身から鈍い光を放つ。

その光に気を取られる事なく結界の中にいるナメクジへと近付き―――、

 

「…ッ!」

 

―――ナメクジを包み込んでいる結界ごと十字に斬り抜けた。

結界は俺に斬られた事で消滅し、ナメクジの身体は四つに両断され……絶命した。

俺は剣に付いたナメクジの体液を振り払い、刀身の具合を確かめる。

刀身にはコレと言った刃毀れは歪みは見付からないが、さっきの鈍い光も消え去っている。

今更になってあの光が気になるが……何か害に為る訳でもなさそうだし、今は気にしないでおこう。

あの光の事をそう結論付けた俺は、剣を鞘に仕舞い、霊夢の元に向かった。

 

「お疲れ様、リュウ。怪我は……特に無さそうね」

「霊夢もお疲れ。あと、毎回怪我なんかしないっての」

「……それもそうね」

 

俺と霊夢はお互いの労をねぎらっていると、二人の妖精が俺達の傍にやって来た。

……だけど、氷精の方はなんだが不機嫌なようにも見えるな。一体如何したんだ?

 

「えっと…ナメクジを倒してくれて、ありがとうございます」

「礼なんて良いわよ。……それよりも報酬は?」

「あ、はい」

 

俺達に依頼を出した妖精が今回の報酬を出そうとした時、氷精が彼女の手を掴んで何処かへと向かって飛び始めた。

突然の出来事に俺と霊夢だけではなく、あの妖精も目を丸くして驚いた。

 

「行こう、大ちゃん」

「え、チルノちゃん?!」

「ちょっと待ちなさい! 行くならせめて報酬を払ってからにしなさいよ!!」

「べーッだ」

 

氷精は霊夢を無視して、そのまま何処かへと飛び去ってしまった。

森には報酬を貰いそびれた俺と霊夢だけが残り、その場で呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「やれやれ、今回はタダ働き確定か」

「……妖精の分際で舐めた事してくるじゃない」

「あ~霊夢?」

 

俺が何処か様子の可笑しい霊夢に声を掛けると、霊夢は全身で怒りを顕わにして怒り出した。

 

「アイツ等、今度会ったら只じゃ置かないわ! 覚悟しなさいよ!!」

「……せめて大ちゃんは見逃してやれよ」

 

怒りの対象が二人である事にツッコミを入れるも、霊夢の耳には届いていないようだった。

雨に打たれ続けていることも忘れて怒る霊夢に呆れつつ、俺は彼女を連れて風邪を引かないうちに神社に帰ることにした。

 

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