竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第三十七話 梅雨の一日

リュウSide

 

未だに梅雨が明けない六月の中ごろ、幻想郷はずっと雨が降り続いている。

こうも雨が続くと、湿気でじめじめするは、洗濯物が溜まるわであまり良い事が無い。

俺としても、そろそろ晴れてもらわないと気楽に釣りに行く事も出来ないから、早いところ晴れてもらいたいものだ。

 

「全く、この雨は何時まで続くのやら」

 

そんな事をボヤキながら、俺はお粥の入った土鍋と茶碗とレンゲに、里で貰った薬に水をお盆に乗せて、霊夢の部屋へと向かった。

なんでこんな物を持って霊夢の部屋に向かうのかと言うと、アイツの身にちょっと面倒な事が起こってな。

 

「入るぞ霊夢」

「ど~ぞ~……」

 

俺が襖を開けて部屋に入ると、頬を赤らめ気だるそうにしている霊夢が、額の上に濡れたタオルを当てて、布団の中で寝込んでいる。

この状況を見れば分かると思うが……霊夢は風邪を引いてしまったんだ。

恐らく原因はこの間のナメクジ退治の時に、長々と雨に打たれていたからだと思う。

神社に帰って直ぐに風呂にでも入れば良かったんだろうけど、風呂一つ沸かすのにもそれなりに時間が掛かる。

だから、風呂が沸くまでに濡れた服を着替えたり、温かいものを飲んだりしたんだが……それでも風邪を引いてしまったみたいだ。

 

「お粥を作ってきたが、食欲はあるか?」

「あんまり……」

「まあ、そうだろうけど……ちゃんと食っておかないと治らないぞ?」

「そのくらい分かってるわよ……」

 

そう言って霊夢は、布団から上半身を起こし、俺はその傍に座った。

持って来たお盆を隣りに置いて、土鍋の蓋を開け、中に入っているお粥を茶碗によそい、霊夢に手渡したが……何故か受け取ろうとしてくれなかった。

 

「ん? 如何した霊夢?」

「…リュウ、私いま風邪を引いてるんだけど」

「嗚呼、そうだな」

「…………はぁ、もう良いわよ」

「…?」

 

何故か溜息を吐いて落胆した霊夢は、やっと茶碗を受け取ってお粥を食べ始めた。

俺としては、なんで溜息を吐かれたのかよく分からないんだが……。

その後霊夢は、半ばやけ食い気味に俺が作ったお粥を全て食べて、持って来た薬を飲んでまた眠ってしまった。

俺は彼女の額のタオルを水で冷やし、もう一度額の上に乗せた後、お盆を持って霊夢の部屋を後にした。

 

 

 

………

……

 

台所で使った食器などを洗いつつ、俺は今晩の献立を考え始める。

霊夢の食事は、やっぱり消化の良い物にした方が良いだろうけど……ずっとお粥なのも飽きるよな。

だからと言って、俺の料理のレパートリーもそんなに多い訳じゃないから、如何しても同じ料理に為ってしまうんだよ。

理想としては、同じお粥だけど違う味を楽しめる……そんな感じのお粥か。

今神社にある備蓄でそんな事が出来る食材なんて残ってたかな?

そんな事を考えながら、傍に置いてある食材とにらめっこしていると、誰かが玄関の戸を叩いてきた。

 

「ん? 誰だ?」

 

こんな雨の中、一体誰が来たんだと思いながら、俺は玄関の戸を開けた。

扉の向こうに居たのは、この間ナメクジ退治を依頼してきた妖精。

この子以外の人影はなく、どうやらまた一人でこの神社にやって来たみたいだ。

 

「こ、こんにちわ」

「こんにちわ。……それで何か用か? またナメクジが出たとか」

「いえ、今回来たのはこの間のお礼を渡しに来ただけです」

 

そう言って渡して来たのは、翡翠色の石がはめ込まれた指輪だった。

見た感じ、さほど高価なものには見えないが……妖精がくれる道具って偶にとんでもない物が紛れ込んでるから、見た目だけで判断は出来ないんだよな。

 

「あ、あの! こんな事を言うのは勝手かも知れませんが、チルノちゃんの事を許してはくれませんか!?」

「……許す?」

 

指輪を渡されて色々と見ていると、妖精が大きな声を出して許しを請うてきた。

だけど俺からしたら、なんでそんな事を頼んでくるのかイマイチ良く分からない。

妖精は真剣な眼差してコッチを見てくるが、理由が分からないのにどんな反応をすれば良いんだ?

 

「駄目…ですか?」

「……駄目と言うか、なんでこんな事を頼まれるのかも分からないんだが」

「え、だってこの間、チルノちゃんが邪魔しちゃったから……」

「……あぁ、報酬が貰えなかった件か。アレだったら気にしてないぞ」

 

彼女の話しを聞いて、漸く何を謝っているのか理解出来た。

確かに邪魔をされたが、俺は元々怒ってなかったし、こうして報酬さえ貰えれば霊夢も文句は言わないだろ。

そもそも霊夢は、妖精のする事を一々気にする様な奴でもないしな。

 

「ほ、本当に気にしてないんですか?」

「嗚呼。元々気にしてなかったし、こうして報酬も貰えたからな。霊夢には俺から言っておくよ」

「あ、ありがとう御座います! ……それじゃ、私はこれで失礼させて貰いますね」

「おう、気をつけてな」

「はい!」

 

許してもらえたのが嬉しかったのか、あの妖精は満面の笑みで神社を後にする。

その様子を見届けた俺は、渡された指輪をポケットに仕舞い、人間の里へ向かう事にした。

今ある備蓄を考えると、さっきのお粥と大差ないものしか作れそうにないし、買い物を兼ねて色々と聞いてみるか。

俺は玄関の傍に置いてある傘を手に取り、玄関の戸を閉めて、眠っている霊夢に何も告げずに里へ向かった。

 

リュウSide out

 

 

 

 

霊夢Side

 

薬を飲んで眠っていた私は、急にトイレに行きたくなり目を覚ました。

風邪の影響で気だるい身体を起こし、自分の部屋から出ると……家の中は物音一つ無く、外で降り続いている雨の音だけが響いていた。

家の静けさが少し気に為ったけど、今は先にトイレを済ませることにした。

トイレで用を済ませた後、この静けさが気に為った私は部屋に戻らず、リュウが居るであろう居間へと向かった。

 

「……リュウ、居ないの?」

 

居間の襖を開けて尋ねてみたけど、返事は返ってこず、アイツの姿も何処にもなかった。

ちゃぶ台に置手紙もないし、台所には洗い終わった後の食器がキチンと置かれている。

食器にはまだ水気が残っているから、リュウが居なくなってからそんなに経っていない気がする。

私が風邪を引いたって言うのに、置手紙も残さないで何処に行ったのやら。

 

「……帰ってきたら文句を言ってやる」

 

私がそう声に出して決めた後、戸棚のコップを取り出し、水を一杯入れて喉を潤す。

使ったコップを洗い場に置いて、私が自室に戻ろうと廊下に出たとき、ふと家の中が広いように感じた。

長年この神社に住んでいるけど、家の中がこんなにも広いなんて感じたのは初めて。

一年くらい前まではこの広さが当たり前だったのに、アイツがウチで暮らすようになってからは、少しだけ家の中が手狭になっていた気がする。

ただ他の誰かが居る……本当にそれだけの違いで、こんなにも自分の家の広さが変わってみえる。

 

「……………」

 

私はこの広さに寂しさを感じながら、若干急ぎ足で自分の部屋に戻る事にした。

部屋に戻り、布団を被った私はもう一眠りしようとしたけど、胸に芽生えた寂しさは消える事はなかった。

早く風邪を治さないといけないし、さっさと寝ようと瞼を閉じるけど、地面や家を打つ雨の音が異様に耳に残ってしまう。

今は梅雨で家の中に誰も居ないのだから、雨の音しか聞こえてこないのは当然の事だ。

私は聞こえてくる音に耳を傾けながら眠ろうとするけど、雨音を聞いていると何故か寂しさがこみ上げてくる。

 

病気は人を気弱にするのか、家に一人しかいないと言う状況に心細くなってしまう。

独りで暮らしている期間の方が長かったのに、二人で暮らす事に慣れた途端コレか……。

自分自身に呆れてしまうけど、今更独りで暮らすことなんて考えられそうにない。

 

「早く帰ってきて、リュウ……」

 

私は自分でも知らないうちに小さな声でそっと呟く。

眼から何かが流れるのを感じつつ、私は寂しさを堪えながら静かに眠りについていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

……自分でもどのくらい眠っていたのかは覚えていない位に、私は何時の間にか眠ってしまっていた。

ただ、気がつくと私の額の所に冷たい何かが置かれている様な感じがしていた。

その感触と冷たさに導かれるように眼を覚ますと、何時の間にかリュウが私の布団の脇に座って何かを読んでいた。

 

「……リュウ?」

「ん? 起きたのか霊夢。まだ飯の時間じゃないから、もうちょっと寝てても良いぞ」

 

そう言うとリュウは、私の額にあるタオルを取って、自分の近くに置いてある水の入った桶に浸し、タオルをキツメに絞ってまた私の額に乗せた。

新しく絞ったタオルの冷たさが気持ちよくて、私は眼を細めてその感触を甘受した。

 

「ねぇリュウ。さっき家に居なかったみたいだけど、何処に行ってたの?」

「ちょっと食材の調達に人里まで行ってた。……もしかして何か用があったのか?」

「用って言うか……」

「…?」

 

歯切れの悪い私の言葉に、リュウは不思議そうな顔でコッチを見てくる。

そんなリュウの視線に気恥ずかしさを覚えて、顔半分を布団で隠しながらも言葉を紡いだ。

 

「……寂しかった」

「はい?」

「だから、リュウが居なくて寂しかったの」

 

言い終わった後で、風邪を引いて熱くなった顔が更に熱くなるのを感じた。

最初は文句を言ってやる心算だったのに、私は一体何を言っているんだろう……。

こんな事になるなら言わなければ良かったとか思っていると、リュウは優しい手付きで私の髪をそっと撫でてくれた。

 

「悪いな、何も言わないで出掛けちまって」

「……ホントよ」

「でも、俺は霊夢を独りにさせたりしない。コレからもちゃんと傍に居るから安心してくれ」

「……うん」

 

リュウはそう言って私に微笑んでくれた。

その笑顔を見ていると、眠る前にあった寂しさが何処かに行ってしまう様な気がする。

リュウが傍に居てくれる……ただそれだけの事で、こんなにも心から安らげるとは思わなかった。

でも、彼が傍に居てくれるだけじゃ物足りなくて、私はそっと彼に手を伸ばした。

 

「……ねぇ、手を繋いでくれない?」

「温かくしてないと治るものも治らんぞ」

「この位平気よ。……だからお願い」

「ったく、仕方が無いな」

 

少し困った顔をするけれど、リュウは私の手を確りと握ってくれた。

私はその手を握り返して、もう一眠りする事にした。

最近、リュウへの依存度が高くなってる気がするけど……特に困らないし、別に良いかな。

 

霊夢Side out

 

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