竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第三十八話 剣戟

漸く長かった梅雨が明けた今日この頃。

俺は、梅雨の所為で鈍った勘を取り戻す為に、独り『無名の丘』で剣の鍛練をしていた。

鍛練と言っても、やっている事は素振りをしたり、仮想敵を想定しての戦闘だったりだけどな。

あの世界では世界中を旅をしていたから敵に事欠かなかったけど、幻想郷だと出会う敵の殆どが弾幕ごっこになるんだよ。

それがこの世界の決闘のルールだし、仕方が無いと言えばそれまでなんだけど……偶には普通の戦いをしないと腕が鈍る。

……とは言え、こうして独りで剣を振り回していても、あんまり効果は期待出来ないんだよな。

相手になってくれそうな奴を知ってるけど、ちょっと顔を会わせ辛いんだよ……。

 

「……ん? なんだありゃ?」

 

鍛練に物足りなさを感じながら丘の平原で剣を振っていると、人魂を追いかけている半人前の剣士の姿を見つけた。

幻想郷に人魂がいるのは別に珍しい事じゃないが、それを追いかける奴を見るのは初めてだ。

こんな誰も来ない様な丘の上で、あの半人前は一体なにをしているんだ?

あまりの珍しさに観察していると、半人前が持っている灯篭に人魂が吸い込まれていく光景が見れた。

……人魂を追いかけるのも変な話だが、灯篭の中に吸い込むってのも変な話だな。

 

「コレでよし……って、貴方はあの時の!?」

「……よう」

 

俺の存在に気がついた彼女は、こっちを向いて驚きを顕わにする。

個人的にあまり関わりたくなかったし、前の異変の事もあるからスルー出来れば一番だったんだけどな。

 

「……………」

「…なんだよ、何か用か」

「いえ、別に」

 

半人前は敵意むき出して俺の事を睨みつけてくる。

こうなる事は予想できてたけど、此処まで分かりやすいのも流石に如何かと思うがな。

正直者と言えばそれまでなんだが、もうちょい隠すようにした方が良いんじゃないのか?

 

「……………」

「あ~用がないならどっかに行ってくれないか? 正直気が散る」

「では、一つお聞きします。…貴方はこの様な場所で何をしているのですか」

「何って……見ての通り鍛練してただけだが?」

「そうですか。……では、私が稽古を付けてあげましょうか(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「あん?」

 

半人前はそう言うと、手に持っていた灯篭を地面に置いて、左肩に差している長刀を抜いた。

別に敵意むき出しなのも、刀を抜くのも文句は言わないが……稽古をつけてあげるなんて上から目線なのが気にイラねぇ。

確かにコイツの使う剣術は凄いと思うが、それでも上から目線で物を言われる筋合いはない。

 

「この間、俺にボコボコにされたくせに随分な言い様だな」

「アレは貴方の能力に驚いただけです。純粋に剣の勝負でなら貴方に負ける心算はありません」

「……上等。なら変身しないでアンタに勝ってやるよ」

「良いですよ。私もこの間の借りを返させて貰いますから」

 

半人前の言葉にいい加減頭に来た俺は、手に持っている剣を握り締め、何時でも戦える様に構える。

向こうも俺が剣を構えたのを見て、剣を握り締めて何時でも踏み込めるように体勢を整えた。

お互いに剣を構えたまま呼吸を整え、気を十分に練り……お互いほぼ同時に駆け出した。

 

「ハァッ!」

 

踏み込んでくる速度では彼女の方が上らしく、いち早く自分の間合いに詰めて斬り掛かって来た。

刻一刻と彼女の剣が迫ってくるが、俺は強引に間合いを一歩詰めて、剣を振り上げる。

剣と剣がぶつかり合うが、力では男の俺の方が上らしく、剣を振り抜いて彼女を後ろへと吹き飛ばした。

 

吹き飛ばされた半人前は空中で体勢を整えるが、俺は彼女の着地地点に向かって駆け出す。

風の如く駆け抜ける俺を見て、半人前は信じられないと言わんばかりに驚きを顕わにする。

このまま行けば斬り抜けられるが、彼女は当たる直前で飛び越えるように空を飛び、ギリギリのタイミングで俺の攻撃を回避した。

回避された俺は直ぐに反転して体勢を立て直し、逃がさないとばかりに彼女に向かって斬撃形の弾を飛ばす。

空を跳び越しえて地面に降りた彼女は、俺と同じ様な弾を飛ばし、コッチの弾を相殺してきた。

 

お互いに弾が相殺され距離が開けたことで、此処で仕切りなおしとなった。

俺は相手を見据えて剣を握り直しつつ、あの半人前の力を分析する。

速さでは向こうの方が上みたいだが、純粋に力比べなら俺の方に分があるか。

多分、一撃必殺の戦法よりも手数の多い技で相手を押し切るタイプなんだろ。

 

「……さっきの踏み込みからの斬り抜けは…まさか『現世斬』? 貴方、何時の間にあの技を」

 

彼女の戦い方を分析していると、半人前が驚いた口調でさっきの技の事を尋ねてきた。

 

「何時も何も、前の戦いの時に覚えただけだ」

 

俺としては特に隠す様な事でもないし、あっさりと白状する事にした。

俺が正直に話すと、彼女は信じられないと言わんばかりに驚いた顔をする。

 

「戦いの最中に覚えたって……アレはそう簡単に覚えられる技では」

「別にそんな事もなかったぞ。はっきり言って仕舞えば、アレはただの踏み込み斬だからな。タイミングやら間合いの取り方なんかさえ分かれば、後は簡単だった」

「……私があの技を覚えるのにどれだけ苦労したと」

 

俺があの技を簡単に覚えれたのが相当腹が立つのか、彼女は剣を握り締めて怒りを顕わにした。

自分の技術を盗まれて怒るなと言える立場じゃないが、俺からすれば相手の技をラーニングするのは普通の事だったからな。

出来る事なら、今回も何らかの技を盗ませてもらいたいものだが……。

 

「コレ以上技を盗まれる前に、早々にケリを付けさせて貰います!」

 

そう言った半人前は、長刀を鞘に仕舞い『現世斬』と同じ構えを取る。

同じ構えのままコッチに突っ込んでくるが、さっき自分でもやった通り、あの技は相手の頭上に入れば当たらない。

その事に気が付いてない訳ないだろうが……何か別の事を狙っているのか?

 

彼女の行動を不審に思いつつ、俺は念のために半人前の頭上を飛び越えた。

上から見てみると、アイツの剣は俺に向かって放ったと言うよりも、地面に向かって放ったように見える。

一体何が目的なのか分からないまま地面に降りると、アイツの軌道に沿って下から桜色の剣閃が走った。

俺は咄嗟に剣で防ごうとするが、剣閃に飲み込まれ服のアチコチに切れ込みが入る。

 

「まだまだ!」

 

半人前は俺が体勢を立て直す前に近付き、手に持っている長刀で下から掬い上げる様に何度も斬りかかって来る。

下から円を描く要領で何度も斬られ、最後のシメに勢いを利用しての横薙ぎで払い抜けられた。

ずっと防御したままだったから、大したダメージは入っていないものの、こうも一方的にやられるのは気分が悪い。

其処で俺は、空中で剣を握り直しながら一回転し、その勢いに乗って彼女の頭部に剣を叩き込んだ。

 

剣は勢いに乗って頭部へと振り下ろされたが、半人前は自分の剣で俺の一撃を受け止めて様とする。

……だが、単純な力比べなら俺の方に分があり、剣の硬さもコッチの方だ上の様だ。

俺の剣を受け止めようとした時に、剣がぶつかった箇所が欠けるのが見えた。

このまま力押しで行けば、半人前の剣を破壊する事が出来るが……それじゃちと面白くない。

そう思った俺は、攻撃をわざと外して地面に着地し、その勢いのまま刃を反し……彼女を十字に斬り抜いた。

 

「グッ」

 

彼女を十字に斬り抜く事が出来たが、この技は後の攻撃が続かない。

何せ相手を高速で十字に斬り抜く技だから、斬り抜いた後は如何しても距離が離れ、致命的な隙が出来てしまう。

これは技の性質上、仕方がない事なのかもしれないが……あまり多用出来る技じゃないな。

 

「その隙…貰ったッ!!」

「チッ!」

 

彼女の声に反応して、俺が体勢を整えると……目の前に巨大な青い刀が迫って来ている。

俺は直ぐに剣を振るい、直ぐ其処にまで迫っている青い刀を受け止めた。

刀の込められている力と、今の俺の体勢が悪いのもあって、少しずつ青い刀に押され始める。

徐々に青い刀が俺を斬ろうと迫ってくるが、足腰に力を入れてなんとか受け止め続けた。

なんとか踏ん張り耐え続けていると、半人前の霊力が尽きたのか急に青い刀が消滅し、身動きが取れるようになった。

 

俺は直ぐに体勢を立て直し、半人前に向かって踏み込んで行く。

そのまま真っ直ぐに突き進むと、彼女はもう一本の短刀を抜いて、腕を交差させる様に構えていた。

俺はそれに構う事無く間合いを詰めていくと、半人前は二本の剣を振り抜き、上空への剣気の柱を作り出した。

その柱とぶつかり、後ろに吹き飛ばされそうになるが……俺は強引に間合いを詰める。

そして、剣を持つ手に力を込めて……目の前にある柱ごと、彼女を薙ぎ払った。

 

「カハ……」

 

俺の剣に薙ぎ払われた半人前は、後方に吹き飛ばされて仰向けに倒れた。

だが、まだ戦う気力が残っているのか、痛む身体を奮い立たせて立ち上がろうとする。

半人前は、自分の剣を支えにして立ち上がったが、俺は彼女の喉元に剣を突き立てた。

 

「まだやるか?」

「……………参りました」

 

俺の降伏勧告に彼女は、悔しそうな顔で言葉を搾り出し負けを認めた。

それを聞いた俺は、彼女の喉元から剣を退かし、後ろに振り返ってから剣を鞘に納めた。

一方半人前は、俺に負けたのが相当悔しいのか、奥歯を噛み締めたまま動こうとはしなかった。

俺は何か言葉を掛けようかと思ったが、今の彼女に何を言っても怒らせるだけだ。

そう判断した俺は、彼女の方を振り向く事無くこの場を後にすることにした。

 

「……次ぎは」

「ん?」

「次ぎは絶対に負けない。必ず貴方を倒してみせる!」

 

半人前は自分に言い聞かせるように、声を張り上げて俺を倒すと宣言した。

俺はそれを聞いても振り返らず、前を見たまま彼女に言葉を掛けた。

 

「だったら何時でも掛かって来いよ。何度でも受けてやる」

「……その言葉、忘れないで下さい」

「俺は其処まで忘れっぽくねぇよ」

 

それだけ言い残すした俺は、最後まで振り返る事無くこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

半人前と戦った翌日の早朝。

今日も梅雨が明けて、良い天気になったのだが……朝早くから神社に嫌な客が来た。

 

「お早う御座います。今日は勝たせて貰いますよ」

 

朝食を食べ終えて、コレから掃除をしようと境内に向かったら……何故か半人前が出待ちしていた。

確かに昨日の帰りに〝何時でも掛かって来い〟とは言ったが、負かされた翌日に来るか普通。

 

「何をしてるんですか、早く剣を構えてください」

「……いや、これから境内の掃除しないといけないから、戦うのは後にしてくれ」

「それは駄目です! 私にだって色々と仕事があるんですから、体力が十分ある時に戦って貰わないと!」

 

彼女の一方的な言い分に、俺は怒れば良いのか呆れれば良いのか分からなくなった。

向こうの言い分が分からない訳じゃないけど、それなら休日に勝負しにくれば良いだろう。

年中無休で働いている訳でもないだろうに、なんでこんなにもせっかちなんだ?

 

「俺にだって仕事があるんだけどなぁ~」

「何時でも来いといったのは貴方じゃないですか」

「誰もこんな事に為るなんて思わねぇよ」

 

俺はなんとかして彼女を説得しようとするが、中々聞き入れてくれない。

自分でもなんてこうなったのか聞きたいけど、なんだか物凄く面倒な事になった気がする。

 

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