リュウSide
霊夢が仕事道具を買いに行っている頃、俺は暇を持て余していた。
今日の雑用は大体終わっているし、食料の買出しはまだ行かなくても大丈夫。
暇潰しに剣の素振りをしようにも、手元に剣がない。釣りに行こうにも釣竿がない。
……何か他の趣味でも見つけないと、暇で死にそうになるな。
「お~い、霊夢。居るか~」
特にする事も無く縁側で呆けていると、空から黒いとんがり帽子に黒系の服に白いエプロンを付けた、ウェーブのかかった金髪ロングの少女がやって来た。
一週間ほどこの神社で暮らしているが、人が尋ねて来たのはこれで二度目だな。
……いや、あの女性は人じゃないから違うか。
「霊夢、居ないのか~……って、お前誰?」
「俺の名前はリュウ。そう言うアンタは泥棒か?」
「いや、わたしは『普通の魔法使い』の霧雨 魔理沙だ」
普通の魔法使いって……。魔法使いに普通とか関係あるのか?
それに俺の記憶の中にある魔法使いは……少なくとも人じゃなかったな。
アレを人と認めたら、俺の中にある何かが崩れる気がするし。
「それで霧雨さん―――」
「魔理沙で良いぜ。霧雨さんなんて言われたら、背中がむず痒く為っちまう」
「―――それじゃ魔理沙。一体なんの用で此処に来たんだ? 参拝ならちゃんと正面から来てくれないと」
「違う違う。参拝じゃなくて、霊夢に用事があって来たんだ」
「霊夢は買出しに行ってるから居ないぞ」
「如何やらそうみたいだな」
俺は魔理沙に霊夢の外出を告げたが、彼女は帰らず縁側に座り込んだ。
突然の訪問者だけど、特別追い返す理由も無いし此処はほっといても良いか。
そう考えた俺は、魔理沙を持て成す事も追い返す事もせず、ただボーっとする事にした。
「リュウ…って言ったか。お前は霊夢ん家で何してんだ?」
「俺は博麗神社(ここ)に居候していてね。だから留守番してるんだ」
「……居候ってマジでか?」
「そうだけど、驚く様な事か?」
「いや、普通驚くだろ」
如何やら魔理沙の中では、霊夢が居候を許可するイメージが無いらしく、かなり驚いた様子だ。
魔理沙と霊夢がどの位の付き合いなのか知らないけど、そんなに驚く事か?
俺は此処で暮らす様になってまだ一週間しか経ってないし、霊夢について魔理沙ほど知っている訳じゃないからイマイチ分からないな。
「お前、一体どんな手を使ったんだ?」
「どんなって……別に何もしてないけど」
「何もしてない訳無いだろ。あのめんどくさがりな霊夢の所に居候なんて…………いや、めんどくさがり屋だからこそ許可を出したのか?」
「……魔理沙の中にある霊夢のイメージってどんなんだよ」
「めんどくさがり屋、怠け者、働かない博麗の巫女」
「酷い……」
怠け者って、確かに霊夢は俺に仕事を任せて一人お茶を飲んでる事が多いけど、ちゃんと仕事はしているぞ。
大体、俺にこの神社の仕事を全部任せられる訳ないんだし、『働かない博麗の巫女』は言い過ぎだ。
……まぁ、めんどくさがり屋なのは否定しないけどね。
「ところで、魔理沙はなにしに来たんだ?」
「わたしか? わたしは新作のスペカが出来たから霊夢で試し撃ちをしようと思ってな」
「……スペカってなに?」
「お前、スペカを知らないのか?」
「うん。初めて聞いた」
「そうか。……ならば、このわたしが特別にスペカに付いて教えてやるぜ!」
「はい?」
魔理沙は立ち上がってそう言って来たけど、只単にさっき言っていた新作とやらの試し撃ちがしたいだけなんじゃないのか?
………
……
…
スペカに付いて教えると言われたが、俺は自身は特に興味は無かった。
だと言うのに魔理沙は強引に俺を境内に連れ出し、スペカに付いて説明し始めた。
スペカについて色々と説明してくれたが、極端に言って仕舞えばこれは決闘紛いの遊びらしい。
魔理沙も『この世でもっとも無駄なゲーム』だと言ってるし。
……それを聞くと、尚更興味が無くなって来るな。
「それでスペルカードにも色々な種類があって……って、ちゃんと話しを聞いてるか?」
「まあ一応。とりあえず、相手に自分のスペカが全て攻略される前に撃ち落とせば勝ちって事だろ」
「撃ち落とすって言うか、相手の体力が尽きればこっちの勝ちだ」
「似た様なモノじゃないのか?」
「違うぜ。精神的な勝負と言う面もあるから、自分のガッツが切れても負けになるんだ」
「へぇ~」
ガッツが切れたら負けになるってのはなんとなく理解出来るけど、精神的な勝負って如何言う事だ?
まさか、相手のトラウマを思い出させる……なんて事はないか。
そんな事をされたら、俺の力が暴走しかねないから止めて欲しいな。
「まぁ、口であれこれ言っても分からないだろうし、手っ取り早く見せるか」
「そうしてくれ」
「今回は説明だから、私は三枚のスペカを使うぜ」
「なら俺は、その三枚全てを回避しきれば良いのか」
「回避以外の手段で攻略出来るなら、それでも構わないがな」
「了解」
「それじゃ一枚目。…魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙が箒に跨って空へ飛び、カードを手にそう宣言すると、彼女の周囲に大量の星屑が出現し一斉に降り注ぎ始めた。
一個の星屑の大きさは大した事無いが、降り注ぐ星の数が多い。
俺は魔理沙との距離を離して回避を試みるが、この姿では無傷の回避は無理みたいだ。
現に今も幾つかの星屑が俺の頬や服を掠めている。
「ほらほら。そんな避け方じゃいずれ当たっちまうぜ」
「それくらい、分かってる…って!」
一応あの星屑の軌道を把握してるんだけど、身体がその反応に追いついてくれない。
俺の敗北条件が、体力切れかガッツ切れだけだから多少当たっても大丈夫だけど、どうせなら一回も被弾しないで勝ちたい。
さっきの説明だと、掠めたりするのは被弾にはならないみたいだし、かすり傷は気にせずに避け続けるか。
多少のかすり傷は出来るものの、俺は必至になって魔理沙の星屑を避け続けた。
俺が避け続けていると星屑の勢いは段々と弱まっていき、少しすると星屑は完全に降り止んだ。
「……むぅ。意外と粘るな」
「そらどうも」
「なら、次のスペカだ!」
もう次のスペカを使うのか。何が来るのか分からないが、用心はしておかないとな。
魔理沙はさっき、スペカにも色々な種類があるって言ってたけど、今度のは如何言うタイプなんだ?
あの星屑みたいなのは、回避が面倒だから出来れば遠慮したいな。
「光符『アースライトレイ』!」
二枚目のカードを取り出し、そう宣言した魔理沙は何処からとも無く大量の小瓶を取り出し、上空からばら撒いて来た。
一体何がしたいのか分からず、その場で様子を窺っていると……地面に落ちたビンが割れ、其処から眩い光が一斉に立ち上って来た。
「な、なんだこれ?!」
俺は突然の出来事に驚いたものの、光は上に立ち上るだけで、星屑よりは軌道がはっきりしている。
はっきりしてはいるが……魔理沙が投げる小瓶の数が多く、ちょっと油断していると直ぐ隣りで光が出現するから心臓に悪い。
……それでもまだ、さっきの星屑よりは避けやすいかな?
「フハハハッ! ビンはまだまだあるんだぞ!」
「手加減なしかよ!!」
「勝負は常に非情なものだぜ!!」
「ぬわ~!!」
どうやら魔理沙は手加減を知らない……と言うか、する気が無いらしい。
今も両手で抱えられるだけの小瓶を一斉に地面に落としてる。
そう言えば、地面に落ちた小瓶ってどうなるんだろう? もし破片が残ってたら……後で掃除確定だな。
「隙あり!」
「あぶなッ?!」
俺の隙を付いて投げられた小瓶は、俺の足元近くで炸裂した。
直ぐに後ろに跳ぶことで、掠りながらもなんとか回避出来たけど……あと少しでも遅かったら被弾してたな。
全く、戦闘中になに変な事を考えているのやら。そう言うのは後で考えるべきだろ。
「惜しい! あと少しだったのに」
「いや、本当にな。アレは危なかった」
「さっきので『アースライトレイ』も切れたし、次で最後だな」
「やっとか……。この遊びって結構集中力使うんだな」
「わたしのはまだ回避し易い方だと思うぞ」
「……アレでか?」
「アレでだ」
スペカに初めて触れたからイマイチ信じられないんだが、コレ以上に回避し辛い弾幕ってなんだよ。
今でも精一杯なのに、コレ以上のは無傷で攻略出来る気がしないな。
「さて、次のカードで最後な訳だが……これはさっきの二枚とは一味違うぜ」
「あの二つも大分差があると思うけどな」
「それとも違うって事だ。……それにコイツは回避出来ないと思うしな」
「…? 如何言う事だ?」
「ソイツは喰らってからのお楽しみってな。…それじゃ行くぜ!!」
そう言うと魔理沙は今まで乗っていた箒から降り、帽子の中から八角形の道具を取り出した。
そして、道具の反対の手からスペカを持ち―――、
「恋符『マスタースパーク』!!」
―――さっきの二枚と同様に宣言した。
宣言した魔理沙は、八角形の道具を俺に向けて超極太のレーザーを放ってきた。
放たれたレーザーの速度は、今の俺の速度の遥か上を行く。
今から回避出来るはずも無く、このままだと間違いなく直撃する。
それにしても、このレーザーって生身で受けても平気なのか? なんか危ない気がするんだけど。
……仕方が無い。アレを使うか。
「…でぇあぁぁぁぁぁぁッ!!」
回避出来ないと悟った俺は、力を解放してあのレーザーを受け止める事に決めた。
リュウSide out
魔理沙Side
わたしが放った『マスタースパーク』は、間違いなくリュウの奴に命中した。
命中した筈なんだけど、レーザーが当たる前に立ち上った赤い光が気に為る。
アイツが何らかの能力を使って、わたしの『マスタースパーク』を防いだって可能性もあるけど、生半可な能力じゃあれは防ぎきれない。
勝敗をはっきりさせる為にも、リュウがどうなってるのか確認したいんだが……土煙が邪魔でよく見ないな。
「あ~もう! 土煙が邪魔だな!」
視界の悪さに苛立ちを募らせていると、徐々に土煙が晴れていく。
少しづつ煙が晴れていく中、わたしは煙の中に白髪の人の様な何かを見つけた。
別に白髪が珍しい訳じゃない。ただ、ソイツの背中に赤い羽の様なモノが付いていたんだ。
普通の人間には羽なんて付いてないし、居るとしたらソイツはきっと妖怪に違いない。
わたしは何かの見間違いかと思い、眼を擦り再度確認をすると……其処にはリュウの奴がいた。
「あれ? リュウ?」
「そうだけど……どうかしたか?」
「えっ? あ~……いや、なんでもない」
「…?」
……そうだよな。よく考えてみれば、今この神社に居るのはわたしとリュウだけなんだし、新種の妖怪があの土煙の中に居るわけないよな。
それにしても、『マスタースパーク』を直撃した筈なのに無傷って如何言う事だ?
本当に直撃したのなら、もっと服がボロボロになっても良いと思うんだけど……。
「…なぁ、リュウ」
「今度はなんだ?」
「お前、アレを回避出来たのか?」
「いや、直撃したよ。あの速度で放たれるレーザーの回避なんて出来ないって」
「そう…だよな……」
リュウは直撃したって言うけど、イマイチ腑に落ちないな。
と言うか、直撃していてもリュウがピンピンしてるから、この勝負わたしの負けか?
……初心者に負けたって、物凄く腹が立つな。
「それにしても、あのレーザーとんでもない威力だな。まさかオーラが倒されるなんて思わなかった」
「ん? リュウ、オーラって何の事だ?」
「あ~……俺の力とでも思ってくれ。説明すると長いし、今は境内の掃除が先だしな」
「掃除?」
「……周りを見れば分かるよ」
リュウに言われて境内を見渡してみると、割れたビンの破片が辺りに散らばっていたり、爆風の影響か木の枝が散乱していて境内が滅茶苦茶になっていた。
スペカを使ったのはわたしだけど、此処まで滅茶苦茶になるとは思わなかったな。
いや、自分の魔法の威力に驚かされるぜ。
「このままにしてたら霊夢に怒られるし、さっさと掃除を始めるか」
「それって、わたしもしないと駄目なのか?」
「当然だろ。元凶なんだし」
「……あ、わたし急用を思い出したから帰るな」
「へっ?」
「じゃあなリュウ! 掃除頑張れよ!」
「ちょっ?! 魔理沙!?」
わたしは箒に跨り、リュウを置いて急ぎの用を片付けに向かうのだった。
決して掃除が面倒だから逃げ出した訳じゃないぜ。勘違いしないようにな。
魔理沙Side out
最初は弾幕ごっこを書いていたのに、段々と弾幕アクションになっていく不思議。