竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第四十一話 宴会二日前

 

「それじゃ、私は聞き込みに行ってくるから後片付け宜しくね」

「あいよ~」

 

昨日の宴会から一夜明け、霊夢は昨晩言っていた通り一人で異変解決に出かけた。

出かける前に二人で行った方が楽だとか、一緒の方が仕事が早く片付くとか色々と愚痴っていたが、今回のは異変と呼んで良いのか怪しいものだし、今回くらいは一人で頑張ってもらいたい。

霊夢が出掛けるのを見送った後、俺は後ろを振り返り今の境内の状態を確認する。

神社の境内は宴会に集った妖怪たちが飲んだ酒の空瓶や、勝手に食べ物の残りなどが辺りに散乱していた。

誰も宴会するなとは言わないが、少しくらい片付けてから帰れよとこの惨状を見るたびに思う。

 

「…………はぁ」

 

昨日の宴会は殆ど気絶していたから、正直あんまり記憶にないけど……今回も酷い荒れようだな。

幻想郷は酒飲みが多いから、散乱している物は食べ物の残りよりも空瓶の方が多いような気がする。

これを一人で片付けると為ると…………二・三時間は掛かりそうだな。

何時もの掃除も一緒にやるから、時間はもうちょっと掛かるかもしれないか。

 

「まぁ、頭でゴチャゴチャ考えていても仕方が無い。さっさと取り掛かるか」

 

独りそう呟いた俺は、まずは辺りに転がっている空瓶の回収から始める事にした。

空瓶の回収が終わったら残り物の処分なんだが、こういう残り物の処分は何時も如何するかで頭を悩ませるんだよな。

そこら辺の地面に埋めると為ると、山にいる野犬なんかが掘り返したりするだろうし、なんかの方法で肥料にしようにもウチには畑がない。

となると…………やっぱり滅却処分にするのが一番良いのかな? 正直な所、こんな事に能力を使いたくないんだが……仕方が無いか。

頭の中で色々と愚痴りながらも、早く終わらせようとテキパキと境内の片付けを進めていった。

 

 

 

 

 

………

……

 

境内があらかた片付いた頃には、何時の間にか日も大分高くなっていた。

霊夢が朝食を食べ終わった後に出かけた事を考えると、やっぱり三時間くらいは掛かってるか。

独りで効率よくってのにも結構限界があるし、今回は何時もよりも荒れ方が酷かったからな。

全く、どれだけ騒げばこんなにも汚く出来るんだか……。

 

「さって、これで終わり…っと」

 

俺は照明として出していた灯篭を倉庫に片付け、境内の掃除をやっと終わらせる事が出来た。

あらされ放題だった境内も、漸く何時もの綺麗な状態に戻り、いつ参拝客が来ても問題ない様な状態になる。

……まぁ、参拝客なんて殆ど来ないから多少汚くても問題ない気がするけどな。

でも、そう言って掃除に手を抜くと、どっかのバカが汚しても良いと勘違いするからな、掃除の手を抜くわけにも行かないんだよ。

 

「さて、この後は何をしようかな?」

 

境内の掃除を終えた途端、今日の仕事がなくなってしまった。

何時もならこの後、霊夢と昼食を取って、食休みを挿んでから二人でお茶を飲んだりするんだけど……今日は無理だな。

香霖堂に卸すための道具を拾いに行くってのも良いけど、常に道具が落ちてる訳じゃないし、ほんの二日前にも拾いに行ったから今行っても良いのはないか。

 

「……となると、本当にすることが無いな」

 

俺は神社の縁側に腰を下ろし、空を見上げて小さくぼやいた。

見上げた空は快晴で、時期的にはもう夏に為るから段々と気温が高くなり始めた気がする。

そろそろ本格的に暑くなってくるから、何か熱さ対策を考えたほうが良いのか?

……対策と言っても魔法で作った氷を小さく砕いて、口に含むぐらいの事しか思い付かないけどな。

 

「あーそういや、去年の夏はレミリアの所為で涼しかったんだよなぁ」

 

夏と言う単語から、去年の異変の事を思い出し、誰に言う訳でもなくそう口に出した。

去年はあの霧の所為で涼しかったから、ある意味では初めて幻想郷の夏を過ごす事に為るのか。

……まぁ、だから如何したって話に為るんだけどな。

話す相手が居ないからか、どんなに話題を思い浮かんでも直ぐに自己完結してしまう。

あーだこーだ考えても、独りだと浮んできた話題を広げていく事なんて出来るわけがない。

何時もなら霊夢が話を聞いてくれたから、こんなにも暇を持て余す事なんてなかったのに……。

 

「……………」

 

独り言を言うのも飽きた俺は、青い空を見上げて暇を持て余していた。

何かする事はないかと考えるものの、境内の掃除は既に終わらせているし、今から洗濯をするってのもなんか気が引ける。

……てか、洗濯は霊夢がする事になってるから、俺が勝手にするとアイツに怒られるか。

神社本殿の掃除は……前にしたから今はまだしなくても良いか。

母屋の方も目立ったゴミはないし、今日しなくても明日すれば問題はないだろう。

そうなると……本当に今日はすることが無いな。

誰かが遊びに来てくれれば良いんだけど、知り合いは軒並み昨日の宴会に参加してたから今日来ることは無いかな。

 

「……あ~暇だ~」

 

こんなにも暇になるのなら、やっぱり霊夢と一緒に行動すれば良かった。

物凄く今更な後悔が頭を過ぎるが、そんな事を考えてもこの暇が解消される訳じゃない。

そんなを考えるよりも、午後を如何過ごすか考えたほうが良いだろ。

 

「…………することも無いし、境内で剣の鍛練でもしてるかな」

 

神社に居ながら暇を潰せる方法を思いついた俺は、先に昼食を取る事にした。

霊夢は弁当を持って出かけたから、お昼を食べに神社に帰ってくることはない。

そうなると、自分で飯を作らないといけないのか……。まぁ、残っている材料で適当に作るから良いかな。

確か、夏野菜や昨日の宴会で使わなかった食材が幾つか残ってたよな。

傷む前に使わないと勿体無いし、今日の昼食と晩飯の時に使い切ってしまうか。

そんな事を考えつつ、俺は母屋にある台所へと向かった。

 

 

 

 

 

………

……

 

昼食を食べ終わり、使った食器も洗い片付けた俺は、自室に置いてある剣を取り出し、神社の境内で鍛練を始めた。

人の来ない事で有名な神社だが、敷地の面積はそれなりに広いほうだろう。

コレだけの広さが有れば、魔法の試し撃ちは無理だが、剣を思いっきり振り回すには十分だ。

普段から此処で鍛練できれば良いんだけど、あんまり派手な事をすると掃除が大変な事に為るし、霊夢にもどやされるんだよな。

流石に怒られるのは好きじゃないし、片付けをするのは間違いなく俺だから、あまり境内で鍛練をする事は無い。

……まぁ、妖夢が来た時は確実に境内が滅茶苦茶になる上に、霊夢にも怒られるんだけどな。

 

「さって……始めるかな」

 

手を上に伸ばし軽く背伸びした俺は、まず始めに素振り千本からはじめる事にした。

朝早くから始めるのなら二千本くらいは行けたが、既に昼を過ぎているし、ついさっき食事を取ったからまずはこの位から。

 

「……………」

 

剣を振り上げた時に一歩下がり、振り下ろすと同時に一歩前に出る。

ただそれだけの動作を、俺は夏の暑さなど気にも掛けず、無心になってこなしていく。

剣を振り下ろした時の風を切る音が耳に残るが、回数が30を越えたあたりからは気に為らなくなる。

時折り生ぬるい風が吹き抜ける中、俺は時間を忘れて黙々と剣を振るい続けていた。

 

素振りの回数が大体500を越えた当たりから、突然誰かの視線を感じた。

別に視線なんて無視ても良かったんだけど、万が一にも客だったら、このまま素振りをする訳にもいかない。

そう考えた俺は、素振りの途中ではあるけれど、手を止めて視線の方を振り向く事にした。

 

「あら、もう止めるの? あと何回続けられるのか興味あったのに」

 

俺が振り向いた先に居たのは、紅魔館のメイド長こと『十六夜 咲夜』その人だった。

何の用で来たのか知らないけど、とりあえず客じゃない事だけは分かる。

 

「……なんだ、咲夜か」

「なんだとは随分なご挨拶ね」

 

俺の明らかに落胆した返事に、咲夜は笑いながら青筋を浮かべる。

流石に言い方が悪い様な気もするけど、相手が咲夜なら態々素振りの手を止めなくても良かった気がするな。

 

「まぁ良いわ。ところで、霊夢の姿が見えないけど外出してるのかしら?」

「嗚呼。アイツは異変の聞き込みに行ってるから、今日は帰って来ないと思うぞ」

「……貴方達が一緒に行動しないなんて、珍しい事もあるのね」

「俺達だって常に一緒って訳でもないぞ」

 

咲夜が言って来た一言に、俺は眼を細めながら反論する。

彼女の中で俺達のことを如何思ってるのか知らないけど、少なくとも四六時中一緒に居ると思われてるみたいだな。

確かに一緒にいる時間の方が長い気もするが、俺にも霊夢にもプライベートな時間はあるぞ。

……まぁ俺の場合は釣りをするか、剣の鍛練をするか、道具を集めるかぐらいだけどな。

 

「そんな事より、さっき異変の聞き込みに言ったって言ってたわね」

「嗚呼」

「それってもしかして、此処最近の宴会の事を言ってるの?」

「そうだけど……気が付いてたのか?」

「いいえ。ただ回数が多いな~って思っていただけよ」

「……随分と暢気だな」

 

咲夜の一言を聞いて、俺は呆れて苦笑いしか出てこなかった。

 

「あの宴会が異変だったなんて、全然気が付かなかったわ」

「まぁ、特に害がある訳でも無いからな。気が付かないのも仕方が無いか」

「でも、霊夢が動いたと為ると今度の宴会は中止かしら」

「……まだやる気だったのかよ」

「もう習慣にみたいになってるからね。魔理沙がまた声を掛けそうな気がするけど」

「いや、魔理沙じゃなくて別の奴に言ってんだよ」

「…?」

 

俺の言っている事が理解出来ないのか、咲夜は不思議そうに小首を傾げた。

まぁ、あの宴会が異変だと理解出来なかったみたいだし、俺の言っている事が理解出来ないのも無理ないな。

多分レミリアとかなら気が付いてると思うけど、動く気配もないし霊夢に頑張ってもらうか。

 

「ところで、咲夜は何の用で此処に来たんだ?」

「お嬢様から霊夢に言伝を預かってたのよ。でも居ないんじゃ、日を改めるしかないわね」

「ちなみになんて内容だ?」

「〝何時までも彼に甘えてないで、早く何とかしなさい〟」

「……あ~つまり、早く宴会を止めろって言いたいのか」

「貴方の話を聞く限りだと、そうなるのかしらね」

 

レミリアのなんとも分かり辛い伝言に、もう少し言い方があっただろとツッコミを入れたくなった。

妖怪退治は確かに霊夢の仕事だけど、その言い方はないだろ……。

 

「霊夢も此処に居ないし、私はもう帰るわね」

「もう帰るのか? お茶くらい出すぞ」

「私も暇じゃないの。それじゃあね」

「またな」

 

言いたい事を言った咲夜は、ノンビリする暇もなくそそくさと帰って行った。

彼女が帰ったのを見届けた俺は、中途半端のままで止めていた素振りを再開する。

500から数え始めるのもアレだし、此処は0から始める事にするかな。

 

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