夏らしい青空が広がる今朝、今日も霊夢は長々と続く宴会を終わらせる為に朝早くから出かけて行った。
俺は何時もの様に神社の境内を掃除しつつ、この後の予定なんかを考えている。
昨日は剣の鍛練をしていたけど、今日は天気が良いし、何処かに釣りをしに出かけるかな。
俺が居ない間に客が来たら困るし、賽銭箱の所に紙でも張っておくか。
……まぁ、客が来るとは思えないけどな。人が来ない事で有名な神社だし。
居候の身分で随分と酷い事を思いつつ、境内の掃除をしていると朝早くから妖夢の奴が神社にやって来た。
「お早う御座います、リュウさん。では、早速始めましょう」
妖夢は挨拶をするなり、俺の返答を待たずにいきなり背中の長刀を抜いて構えてきた。
何も知らない者からみたら、朝早くから物騒な光景だと思うかもしれないが、俺からしたら既に見慣れた光景だったりする。
「やれやれ、またか……」
昨日はやって来なかったから、恐らく今日は来ると思っていたが……まさか本当に来るとはな。
俺は溜息を一つ吐いて、神社の本殿前に行き、賽銭箱の上に置いておいた剣を手に取る。
掃除に使っていた箒を邪魔に為らない所に置き、境内に戻り、妖夢の正面に立ち鞘を抜いた。
「今日こそ貴方に勝ってみせる」
「……毎度の事だけど、よく飽きないよな」
「剣の道に飽きるなどと言う事はありません」
「……あっそう」
妖夢は真剣そのものではあるものの、俺は今一つやる気が出てこないでいた。
別に戦うのが嫌いと言う訳じゃないが、戦闘狂と言う訳でもない。
戦えば彼女の技を盗めるんだけど、流石に週に4・5回も戦っていれば嫌気だって差してくる。
せめて週一のペースで挑みに来て欲しいんだが、向こうは俺の都合などお構い無しに来るんだよな。
「はぁ……」
「なんですか? そのやる気のない態度は。もっとシャキッとして下さい」
俺のやる気のない態度に、彼女はしかめっ面になり不快感を顕わにする。
確かにこれから戦おうというのに、相手がやる気なしでは不快になっても仕方が無い。
……でも、少しはこっちの身にもなって欲しいものだ。
「まぁ、口で言って分かる相手なら苦労しないか」
俺は小声で愚痴を零すものの、一旦瞼を閉じ、深呼吸をして気持ちを入れ替える。
深呼吸をすると、さっきまで影も形もなかったやる気が少しずつ湧き上がってきた。
やる気が十分に漲ったところで、俺は瞼を開き抜いておいた剣を握り締める。
「……行くぞ、妖夢」
「はいッ!」
俺達は同時に体勢を整え、何時でも相手に向かって駆け出せるように構える。
お互いに相手の出方を窺いつつ、攻め込むタイミングを見計らう。
境内には小鳥の囀りすらも消え去り、静寂だけがこの場を包み込んだ。
「「……………」」
「お~っす、遊びに来たぜ~」
突如聞こえてきた、割りと聞き覚えのある暢気な第三者の声。
「「…ッ!」」
その声を合図に、俺と妖夢は目の前に居る相手目掛けて同時に駆け出した。
俺達は同時に駆け出した筈なのに、やはりと言うか間合いを詰めるのは妖夢の方が速かった。
相変わらず速さでは彼女の方が上だが、こう何度も剣を交えていれば振り下ろすタイミングを覚えてくる。
「ハアッ!」
「オラァッ!」
俺は妖夢が剣を振り下ろすのに合わせて、剣で彼女の胴を薙ぐように振り払った。
同時に振られた剣は、お互いが交差する地点でぶつかり合うが、一撃の威力では俺の方が上。
元々妖夢の体重が軽めなのか、こう言うぶつかり合いで彼女に競り負けた事は一度もない。
案の定、今回も力負けした妖夢が剣の勢いに押されて、後ろの方に吹き飛ばされる。
彼女が後ろに吹き飛ばされたのに合わせて、俺は直ぐに剣を脇腹の辺りで構え、一気に間合いを詰める。
俺が攻め込むのを見て、妖夢も直ぐに体勢を整えて、俺の上を飛び越えるようにして回避しようとする。
だが、吹き飛ばされるのとほぼ同時に動いた俺の方が速く、妖夢に完全に回避される前に斬り上げ、走り抜ける事が出来た。
「…ッ」
俺が斬り抜けると、妖夢は今後は上へと吹き飛ばされる。
俺は素早く後ろに振り返り、彼女が地面に落ちてきたところに合わせて、背後から突き刺しに行く。
タイミング的に、今から回避するのはまず無理だと思っていたが、妖夢は腰に差している短刀を抜いて、無理やり体を一回転し、短刀で俺の突きを弾いた。
突きを弾かれ、体勢が崩れたところを狙って、空中で立て直し地面に降りた妖夢が、二つの剣を交差させて至近距離で十字の斬撃を飛ばしてきた。
飛んでくる斬撃を防御しようとも思ったが、今の状況から防御するにはタイミングが悪すぎる。
そう判断した俺は、多少のダメージを覚悟しながら後方に跳び、距離を取る事にした。
後ろに跳んで直撃は避けたものの、放たれた距離が近かったから多少のダメージを受けてしまった。
ダメージを受けたとは言え、直撃はしていないからこの程度なら許容範囲だろう。
自己分析を終えた俺は、剣を握り直し再び彼女と対峙する。
向こうも同じ様に剣を握り直し、何時でも攻め込めるように体勢を整えていた。
妖夢は攻め込むタイミングを見計らっているようだが、俺は彼女に向かって真っ直ぐに突っ込んで行く。
俺のこの動きは予想していなかったのか、妖夢の反応は若干遅れるものの、直ぐに持ち直して迎撃できる様に構える。
ある程度距離を詰めた俺は、自分の間合いの一歩手前でわざと上段から剣を振り下ろす。
妖夢は今の攻撃が当たると思い、長刀で防御しようとするが……間合いの外からの攻撃が当たる事はなかった。
剣を下まで振り下ろした俺は、間合いを更に一歩踏み込んで、上段を防御してがら空きに為っている妖夢の腹を下から突き上げた。
「グ…ッ」
下から掬い上げるように突き上げられた妖夢は、体をくの字に曲げながら後ろに吹き飛んだ。
俺は直ぐにでも追撃を掛けようとしたが、妖夢は空中で立て直し、長刀を鞘に仕舞いコッチに突っ込んできた。
俺が知る限りだと、あの状態から繰り出されるのは『現世斬』・『桜花閃々』・『未来永劫斬』の三つだけ。
出来る事なら『未来永劫斬』をラーニングしたいが、あの技は難しい上に、あの三つの初動が似てるから見極めがメンドイ。
弾幕ごっこなら、発動させる前に技の名前を言うから見極めが楽なんだが、今俺達がしているのは弾幕ごっこと言うよりもチャンバラだからな、初動だけで相手の技を見切るのも楽じゃない。
色々と考えた結果、俺は技のラーニングも兼ねて避けることはせず防御する事にした。
コッチに突っ込んできた妖夢は、直接斬り掛かることはせず、俺の横を通り過ぎる。
その直ぐ後、妖夢が通りぬけた軌跡の上から桜色の剣閃が立ち上った。
今回は防御していたし、立ち上った剣閃は直ぐに収まったが……妖夢の攻撃はこれで終わりではなかった。
剣閃が収まり俺は直ぐに後ろを振り返ると、妖夢はもう一度長刀を鞘に仕舞い斬り込んで来る。
俺は直ぐに防御しようとしたが、妖夢はそれよりも速く俺を上空へと斬り上げた。
空へと飛ばされた俺は、空中で彼方此方から連続追撃を受けて、その場に縫い付けられたみたいに動けなくなる。
幾度もなく斬り付けられ、全身から痛みが走る中、シメの一撃として真下から斬り上げられ、俺は更に上空へと吹き飛ばされた。
天高くまで吹き飛ばされた俺は、体勢を立て直せないまま自由落下で地面に向かって落ちて行く。
俺は痛む身体に無理をさせ、地面に激突する前になんとか体勢を整える事が出来た。
無事に地面に辿り着けた俺は、先に下りていた妖夢と距離を取り、彼女に向かって無数の斬撃を一気に叩き込んだ。
無数の斬撃を同時に喰らった妖夢は、その場に倒れ伏せるが直ぐに起き上がり剣を構え直した。
「……チッ。やっぱり『せんぎり』じゃ火力不足か」
俺は妖夢がすぐに起き上がったのを見て、舌打ちをし、悪態を付いた。
前々から分かっていた事だが、あの技は広範囲に攻撃ができる代わりに威力が低いと言う欠点がある。
複数の敵を同時に相手するなら良いんだが、一対一の戦闘じゃイマイチ決定力に欠けるな。
「アレだけの斬撃を同時に繰り出せながら、そんなにも不満ですか」
「不満かって聞かれれば……不満なんだろうな」
妖夢がなにやら不機嫌そうに聞いてくるが、俺はあの技の感じた通りの感想を述べる。
「私からすれば、其処まで自由自在に剣を操れる貴方が羨ましいですよ」
「そこは年季の違いだ」
「……リュウさんって一体お幾つなんですか?」
「さぁ? 俺も知らん」
俺はからかい半分でそう言いつつ、ちゃんとケリをつける為に剣を構える。
こっちの動作に反応して、妖夢も剣を構え何時でも踏み出せるように体勢を整えた。
タイミングを計っていた俺達は、ほぼ同時に駆け出し、最初の時みたいに同時に剣を繰り出す。
結果も同じ様に妖夢が吹き飛ばされたが、直ぐに体勢を立て直し、今度は向こうから踏み込んでくる。
妖夢は胴を薙ぐように剣を振りぬこうとするが、俺は渾身の力を込めて上段から剣を振り下ろす。
力では俺の方が上なのは既に分かっているから、妖夢もこのタイミングで剣を振り抜くことはせず、俺の横を通りすぎるだけに止まった。
俺としては、あのまま振り抜いてくれれば剣を破壊出来たんだが……惜しいな。
内心そんな事を思っていると、妖夢は後ろを振り返りながら長刀で胴を薙ぎにくる。
俺も同じ様に後ろを振り向きながら剣を振り上げ、迫って来る妖夢の長刀を弾く。
剣を振り上げた俺と、剣を弾かれた妖夢は、ほぼ同時に剣を両手で握り締め、一気に振り下ろした。
お互いの剣がぶつかり、鍔迫り合いの状態になるが、妖夢は力負けするまえに自ら後ろに跳んで距離を取った。
後ろに跳び距離を取った妖夢は、長刀を鞘に仕舞い、再び俺に向かって突撃して来る。
一方俺は躱すことも、防御することもせず、彼女と同じ様な構えを取り、逃げる事無く真正面からぶつかりに行く。
お互いに速度を上げて相手に向かっていくが、俺は走り抜ける事はせず、妖夢との間合い数歩手前で止まり、地面を力強く踏みしめる。
妖夢は俺が止まった事など気にせず斬り抜けようとするが、それよりも速く俺の剣が彼女の胴を薙ぎ払った。
「かは……」
渾身の力を込めて繰り出した一撃が見事に決まり、妖夢は剣を握り締めたまま気を失い、地面に倒れこんだ。
俺は全身の力を抜くように息を吐き出し、剣を鞘に仕舞い、臨戦態勢を解除した。
「お、おい! 大丈夫か妖夢?!」
いきなり聞こえてきた第三者の声に驚き、声がする方を見てみると、其処には倒れている妖夢を心配する魔理沙の姿があった。
………
……
…
気絶した妖夢を母屋に運んだ俺と魔理沙は、何時もの様に縁側でお茶を飲む事にした。
「ほれ、何時もの茶だ」
「ども」
魔理沙の淹れたてお茶を渡した俺は、湯のみに入っているお茶を飲んで、乾いた喉を潤した。
ついさっきまで本気で戦っていたから、知らず知らずの内に喉がカラカラに渇いていたみたいだ。
何時もと変わらないお茶なのに、物凄く美味しく感じる。
「それにしても、お前等って毎日あんな事をしてるのか?」
「毎日じゃない。ほぼ毎日だ」
「大して変わらねぇよ」
隣りでお茶を飲んでいる魔理沙から、もっともらしいツッコミが入る。
まぁ、確かにそうなんだけど……其処を認めたらいけない気がする。
「それで? 魔理沙は朝早くから何しに来たんだ?」
「遊びに来た序でに、ちょっとした連絡だ」
「連絡?」
「明日の夕方からまた宴会をするから、準備宜しく!」
「今すぐ帰れ」
魔理沙は物凄く良い笑顔で、俺にとって物凄く嫌な連絡をしてきた。
もう宴会に参加したくない俺は、つい面と向かって帰るように言ってしまった。
「来たばっかなのに、帰れはないだろ」
「それは悪かったな。でも、宴会は嫌だ」
「聞く耳持たないぜ」
「……このヤロウ」
「わたしは女だ!」
「そう言う事じゃねぇだろ!!」
俺と魔理沙は、宴会をするしないで口論になるが……最終的には、俺不参加と言う形で宴会をする事になった。
それで気を良くした魔理沙は、お茶を飲み終わったと同時に、他の連中に声を掛けに何処かへと飛び去って行く。
俺はその様子を遠めで見ながら、その内お酒の飲みすぎで死ぬんじゃないのかと、そんな事を考えてしまうのだった……。