竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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サブタイでは『四十四話』となってますが、実際には二分割になっていて、コレはその前編に当たります。
一話に纏めても良かったのですが、そうなると物凄く長くなるので二つに分ける事にしました。ご了承ください。


第四十四話 宴会当日

 

宴会当日の今日、俺と霊夢は朝から宴会の為の準備で追われていた。

二日前に片付けた灯篭を引っ張り出したり、地面に引く敷物を捜したり、今回集る連中の食事を買い出しに行ったりと様々だ。

魔理沙の奴が一体何人に声を掛けたのかしらないけど、今までの規模を考えるとそれなりに多いんだろうな。

その事を考えると気が滅入ってくるが、今回は参加する気なんて無いんだし、多少は気楽ではあるか。

今夜も騒がしくなりそうだなと思いながら、境内の方に顔を出してみると……何故か夕方と夜が同時に存在している不可思議な空間になっていた。

 

「……なんだこりゃ?」

「あら、来ちゃったの」

 

この不可思議な状況に驚いていると、何時もの服とは別の服を着た八雲紫に声を掛けれる。

正直、何時の間に神社にきたのか問い詰めたかったが、霊夢曰く神出鬼没らしいからここはグッと我慢しよう。

出来る事なら出遭いたくはなかったんだが、人の気持ちも分からん妖怪にそんな事を言っても無駄か

 

「今、へんな事を考えなかった?」

「気のせいだ。……それより、この状況は如何なってんだ?」

「如何って、私が境界を弄っただけよ」

「そんな事は分かってる」

 

夕方と夜が同じ時間に存在するなんて事、境界を操る事が出来るコイツ位しかいないだろう。

 

「俺が聞きたいのは、なんで境内がこんな状況になっているのかって事だ」

「ちょっとした演出よ。折角の宴会だもの、この位の遊び心があっても良いでしょ?」

「演出って……相変わらず良く分からない奴だな」

「この世には明確な答えが存在しない問もあるわ。中には全ての問に答えがあると言う者もいるでしょうが、私としては混沌としていた方が好きよ」

「俺が言いたいのはアンタの事だ」

「あら、そうなの」

 

俺がいぶかしむ様に彼女を見るが、向こうがそんな視線に構う事無く楽しげに微笑むだけ。

彼女のそんな様子を見ていると、本当に意味もなく腹が立ってくる。

五月の一件以来、俺の中では彼女の事を幻想郷での最大の敵って認識があるから、出来る事ならこうして話をしていたくもない。

正直なところ、今すぐにでも帰って貰いたいんだが……なんとかして追い出せないか?

 

「……そんな親の仇を見るような目で、私を見ないで欲しいんだけど?」

「俺に親なんていないぞ」

「そう言う事じゃないわよ」

 

手元に鏡がないから、今どんな目付きなのか分からないが、相当厳しい眼になっている様だ。

親の仇を見る眼がどんなのか知らないけど、俺からしたら彼女は敵そのものだから、多少は厳しくなっても仕方が無いだろう。

もしかしたら、無意識の内に殺気を出してるのかも知れないが……別に問題はないか。

むしろ、今の内に叩きのめして、此処に顔出しできないようにした方が良いのかも知れないな。

本格的に倒す算段を考え始めたその時、何もない空間にスキマが出来、其処から服がボロボロになった霊夢が放り出された。

 

「いった~。…あのちびっ子、何時か痛い目に遭わせてやる!!」

「……なにしてんだ霊夢?」

 

突然の霊夢の出現に、さっきまで考えていたことが一気に消し飛んだ俺は、驚き半分呆れ半分と言った感じで彼女に声を掛けた。

すると、霊夢は俺が此処に居るのとは思って居なかったのか、コッチを見ると眼を丸くして驚き、ボロボロになった服の露出を隠すように身体を小さくした。

 

「り、リュウ!? アンタ、なんで此処に居るのよ!?」

「なんでって、此処は博麗神社だし、俺が居ても不思議じゃないだろ?」

「いや、まぁそうなんだけど……って、頼んでた事は終わったの?!」

「嗚呼。買い物も済ませたし、食器も出した。後は料理を作って、灯篭に火を燈すくらいだ」

「そ、そう。なら、直ぐに着替えて料理を作るわね!」

 

顔を若干赤くした霊夢は、手で服の破れた部分を隠しながら、慌てた様子で神社へと駆け込んでいく。

俺は何を慌てているのか分からないまま、走り去っていく霊夢の様子を見ている事しか出来なかった。

 

「…あいつ、何をそんなに慌ててるんだ?」

「乙女心よ、察しなさいな」

「……分からん」

「あらあら。あの子も本当に面倒なのに惚れたのね」

「五月蝿い」

 

八雲紫が何を言いたいのか理解出来なかったが、なんとなくバカにされている事は分かった。

俺は彼女を睨みつけた後、叩きのめして追い出そうとも考えたが……何となく気がそがれてしまう。

気が付いたら境内の境界も元に戻っていたので、今回は彼女を見逃す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

夕方の件から大分時間が経ち、神社の境内は魔理沙が集めた妖怪たちで賑わっていた。

集った連中は各々が持ち寄った酒を飲み交わしたり、作っておいた料理に舌鼓を打ちつつ、それぞれが好き勝手に宴会を楽しんでいる。

俺はそんな連中とは別に、宴会に参加せず独り母屋の自室でだらけていた。

境内から宴会の賑やかな喧騒が聞こえてくるが、今の俺にとってはそんなのは如何でも良い事だ。

むしろ、良くこんな短期間で続けてるのに、よく騒げるなと呆れつつも感心するくらいだ。

 

「お~い竜~、居るか~」

「ん? その声は龍神か?」

「だから、たっちゃんと呼ばんか!」

 

いきなり部屋にやって来た龍神は、呼び方一つ間違えたくらいで、持って来た酒瓶を俺に向かって投げつけてきた。

今度は前みたいに顔面に喰らう事はなかったが、投げられた瓶の中には結構な量の酒が入っていて、それなりの重さがある。

正直、こんなのを顔面で受けていたらきっと鼻の骨が折れていたと思う……。

 

「危ねぇな、少しは考えて投げろよ」

「喧しい。……それよりも、霊夢が自棄酒しておったぞ」

「自棄酒って……」

 

龍神の話を聞いて、なんとなく霊夢が独り荒々しく酒を飲んでいる姿を幻視した。

夕方に誰かと戦って負けたのが原因だと思うが、珍しく無茶な飲み方をしてるなアイツ。

どの位のペースで飲んでるのか分からないけど、きっと明日は二日酔いで倒れてそうだな。

 

「全く、お主が宴会に参加しておれば、あの様な飲み方はせんだろうに」

「えっ? 霊夢の自棄酒は俺の所為なのか?」

「七割方はな」

 

全く持って身に覚えが無いが、龍神が言う以上は嘘と言う事はないと思う。

だとすると……霊夢はなんで自棄酒をしてるんだ? 理由が全く分からないんだが?

 

「……その様子だと理解出来ておらんな」

「嗚呼」

「はぁ。……まぁ、お主らしいと言えばらしいか」

「なんで其処で呆れられないといけないんだよ」

「自分の胸に手を当てて、良く考えてみるんじゃな」

「…?」

 

俺は首を傾げつつ、龍神に言われた通り自分の胸に手を当てて、彼女に呆れられる理由を考えてみる。

幾つか考えが浮んでくるものの、呆れられる理由としてはイマイチなものばかり……と言うか、根本的に的外れな気がして為らない。

もっと別の見た方をするべきなんだろうけど、幾ら考えても答えらしい答えが思い浮かばない。

 

「う~む……」

「お主の頭で幾ら考えても答えは浮かんでこんよ。それよりも頼みがある」

「何か酷い事を言われた気がするが……一体なんだ?」

「ちょっと呼んで来て欲しい奴がおってな、お主に呼びに行ってもらいたいんじゃ」

「別に構わないが……何処に居るんだ?」

「なに、直ぐに其処に居るわ。……では、頼んだぞ八雲の」

「分かりました」

 

あまり聞きたくない奴の声が聞こえたと思うと、俺の足元にスキマが出来、そのまま下へと落とされてしまう。

咄嗟に上に飛んで逃げようとしたが、真上から俺の愛剣が落ちてきて、それを顔面で受け止めてしまう。

その時の衝撃で力のコントロールが乱れ、俺は真っ逆さまに下に向かって落ちていくのだった……。

 

「……行ったな」

「えぇ、間違いなく行きましたわ」

「よっし! 今の内に霊夢をからかっておくか!!」

「彼が帰って来た時に、あの子がどんな反応をするのか楽しみですわね」

「全くじゃな」

 

 

 

 

 

 

………

……

 

顔面の痛みを堪えながらスキマを抜けると、眼下には今まで見た事無い空間が広がっていた。

いやにデカイ月に、夜の闇に包まれた山脈、地面は鏡面のように俺の姿を映し出している。

恐らく幻想郷の何処かだとは思うんだが、こんな場所があるなんて霊夢から聞いた覚えは無い。

あのスキマ妖怪が作った空間って訳でも無さそうだし、俺は一体何処に落とされたんだ?

 

「あっれ~? なんでこんな所に人がいるのよ?」

「ん? 誰か居るのか?」

 

この空間で声が聞こえた方を見てみると、白いノースリーブの服と青いスカートを穿き、頭の二本の角の生え、後頭部に大きな赤いリボンを着けた、金の長髪の少女が居た。

アクセサリーの心算なのか、少女の両腕と髪には【○】・【△】・【□】の分銅が付いていて、何かの液体が入った紫色の瓢箪を持っている。

あの角からしてあの子が妖怪なのは、理解出来るんだけど一体なんの妖怪だ?

角なら龍神の化身体にも生えてるから、あの子も何かの化身……って訳でも無さそうだな。

 

「それで如何かしたの? もう宴会は始まってるわよ?」

「俺は宴会に参加してないよ。此処にきたのは只のお使い……で良いのか?」

「えぇ~ッ! なんで参加してないのよ! リュウが居たほうが絶対に面白くなるのに!!」

「なんでって、面倒だからに決まってるだろ……って、俺、君に名乗ったっけ?」

「うんにゃ、私が一方的に知ってるだけ。なにしろ、幻想郷中を眺めてたからね」

「幻想郷中を?」

「そだよ~」

 

俺の目の前に居る少女は、小さな胸を張ってなんとも不可思議な事を言って来た。

最初は千里眼かなにかでも持ってるのかと思ったが、それだと見る事は出来ても聞くことは出来ない筈。

飽く迄もアレは、遠くまで見る事の出来る眼であって、遠くに居る相手の声までは無理な筈だ。

読唇術でも身に付けているのなら、唇の動きから言葉を読み取れるだろうが、そんな感じでも無い様な気がする。

あーだこーだと考えていたら、何時の間にか宴会の時に出る妖霧が綺麗さっぱり消え去っている事に気が付いた。

 

「……霧が消えてる?」

「そりゃそうだよ。だって、あの霧は私だからね」

「如何言う事だ?」

「私の能力は『密と疎を操る程度の能力』なんだ。だから、自分自身の密度を操り、霧状に変化して幻想郷中に霧散してたって訳」

「……それで幻想郷中を眺めてたって訳か。なら、此処最近の宴会騒ぎも君の仕業か」

「正解。私が皆を集めるように仕向けたのよ」

 

自分の密度を操って霧になったり、無意識の内に人を集めて宴会を開かせたのは凄いと思うが……正直傍迷惑だ。

どうせ宴会を開くのなら、神社以外の場所にして欲しかったもんだな。

妖怪たちが神社に集るもんだから、人里の方で『妖怪神社』とか呼ばれ始めてるってのに……。

 

「ったく、なんでそんな事をしたんだ? 何か考えがあって……ってわけでも無さそうだな」

「酷いな~。私にだってちゃんと考えくらいあるよ」

「へぇ、どんな考えだ?」

「今年の冬が長かった所為で花見の期間が短かっただろ? 毎年楽しみにしてるのに、あんな少ししか出来なかったのが寂しくて寂しくて……。だから、私の能力を使って皆を集めて宴会をしようと思ったわけ」

「……やっぱり何も考えてないじゃないか」

「ちゃんと考えてたじゃんか~」

「宴会したいだけなんて、考えて無いのと大して変わらないって」

 

とりあえず、この少女の理由は置いておくとしてだ。

結局の所、今回の宴会騒ぎの最大の原因は、あの亡霊姫が幻想郷中の春を集めたからって事だよな。

あの異変を解決してから数ヶ月くらい経つけど、今頃になってそのツケが回ってくるとは思わなかった。

 

「ところでさ、リュウは何をしに此処にきたの?」

「あ~っと確か、龍神の頼みで誰かを宴会に連れて来いって頼まれたんだったか」

「誰かって……誰の事?」

「さぁな。俺が了承した途端、スキマで此処に放り込まれたからな」

「此処には私くらいしか居ない筈だけど?」

「なら、君を連れて来いって事なんだろ」

「……回りくどい事するねぇ」

 

少女は龍神のやり方に呆れたのか、俺に同情したのか分からないが、吐き捨てるように一言呟いた。

妙なところで同情された気もするが、少女の意見には大いに同意する。

何も考えずに了承した俺も俺なんだが、この程度なら自分で言いに行けば良いと素直に思う。

……放り込まれてから思っても、既に後の祭りではあるんだがな。

 

「俺もさっさと帰りたいから、一緒に来てくれると助かるんだが?」

「う~ん……折角の誘いだけど断らせてもらおうかな」

「如何してだ? 独りで居るよりも皆で騒いだ方が楽しいだろ」

「その意見には同意するけど、此処で大人しくついて行ったら面白くないし、鬼は勝負事が大好きなんだよ」

 

そう言うと少女は、持っていた瓢箪を仕舞いこみ、急に戦意を漲らせ始める。

彼女の戦意に反応してか、無意識の内に剣を抜こうと柄に手を掛けている事に気が付く。

流石に抜き切ると言う事はなかったが、今の戦意と一緒に殺気も出されてたら間違いなく剣を抜いていた。

 

「ん~? 臆せずに剣を抜いても良いんだよ」

「臆した心算はないが、此処で戦う理由もない」

「そんな面倒なもの必要ないさ。言っただろ、私ら鬼は勝負事が大好きだってね」

「……持って来た酒をやるから今日は止めない?」

「お酒は貰うけど、勝負は止めない」

「……はぁ、仕方が無いな」

 

俺は彼女に言っても無駄だと言う事を悟り、鞘から剣を抜くのと同時に頭を切り替える。

本音を言えば、面倒だから戦いたくないが……向こうがやる気な以上、コッチも全力で迎え撃つしかない。

少女は、俺が戦う気に為ってくれたのが嬉しいのか、心底嬉しそうな表情をする。

 

「鬼がこの地から居なくなって久しいけど、またリュウみたいな強者(つわもの)に出逢えるは思わなかった。……だけど、幻想郷最強の種族は我ら鬼だって事を教えてやるよ!!」

「最強の座とかには興味が無いな。…俺はただ俺の信じた道を行くだけだ」

 

お互いに言いたい事を言い、俺は剣を握り締め、少女は徒手空拳のまま身構える。

少女の腕は、見た目通りかなり細く、大した力はないように見えるが……最強と謳う以上は、あの体格の見た目はあてに為らないか。

世界を旅して色んなモンスターと戦ってきたが、鬼と名乗る相手と戦うのはコレが初めて……だと思う。

記憶を失う前はどうだったか知らないけど、俺が記憶している内だとコレが初めての筈。

だからこそ手は抜かない、真正面から斬り捨てるだけだ!

 

「そういえば、まだちゃんと名乗ってなかったね。…私の名前は【伊吹 萃香】。かつて【妖怪の山】を支配していた鬼たちの四天王の一人さ」

「(名乗られたら返すのが礼儀か…)…知っていると思うが、俺の名前はリュウ。博麗神社に住むただの居候だ」

「……ちょっとツッコミたい所があるけど、些細な事だから別に良いか」

「そうしろ。一々文句を言っていたら身が持たないぞ」

「なはははッ、確かにそうかもね~。……それじゃ、行くよリュウ!」

「嗚呼、全力で来い!」

 

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