竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第四十五話 小さな百鬼夜行

 

「……それじゃ、行くよリュウ!」

「嗚呼、全力で来い!」

 

俺達はそう叫んでほぼ同時に駆け出し、お互いの拳と剣をぶつけ合い始める。

萃香の拳はコッチの予想以上に強く、俺の剣はぶつかっただけで簡単に弾かれてしまう。

弾かれて出来た隙を付いて、萃香は左拳で俺の腹めがけて殴りかかって来るが、その場で一回転する要領で拳を避け、回転の勢いを利用して彼女の首を斬りかかろうとする。

吸い込まれるように彼女の首へと剣が走るが、直撃する前に萃香の腕に阻まれしまいそのまま剣ごと吹き飛ばされてしまった。

 

空中で体勢を立て直し、直ぐに彼女の元へと向かおうとすると、萃香は俺目掛けて一つの黒い球体を投げつけて来た。

それが何なのか分からない以上、真正面から突っ込むのはやめ、斬撃をあの黒い球体に向けて飛ばして相殺を試みる。

飛ばした俺の斬撃が火球に当たる直前、目の前の火球が花火の様に破裂し、複数の小さな火球に分裂した。

破裂した事には驚いたが、分裂した火球の飛距離は大したことはなく、俺の斬撃を止めるほどの物ではなかった。

飛び散った火球を切り裂き、真っ直ぐ萃香へと飛んでいくが、斬撃は彼女の拳一つで呆気なく壊されてしまう。

 

避けられるのは今までにも何度かあったが、拳だけで壊されるのは初めての経験だ。

斬撃に込める力の練り具合が悪かったのか、それとも只単に萃香の攻撃力が高いのか……。

どちらにせよ、飛び道具に頼った戦い方じゃ少々分が悪そうだな。

此処は多少の怪我を覚悟で、無理にでも接近して彼女を斬り伏せるだけだ。

そう決断した俺は、ポケットから一枚のカードを取り出し、彼女にも聞こえる様に声高々に宣言する。

 

「人符『現世斬』!」

 

スペカを宣言した俺は、脇腹の辺りで剣を構え、萃香との間合いを一気に詰める。

そのまま彼女の横を通り過ぎるように斬り抜けた後、俺は直ぐに反転して体勢を整えから更に追撃していく。

左肩から袈裟斬りを叩き込み、右胴から斬り払い、彼女の胸部を剣で突き刺す。

更に右肩を切り裂き、頭から股下まで真っ直ぐに斬り付け、渾身の力を込めて萃香の胴を薙ぎ払う。

防がれる事なく叩き込んだ七連撃だったが、萃香は多少よろける程度で、膝を付かせるまでには至らなかった。

 

「ツゥ~~。でも、まだまだァッ!」

 

俺の蓮撃に耐えた萃香は、お返しと言わんばかりに殴り掛かってくる。

動作自体は遅いものの、彼女が繰り出す一撃はとてつもなく重いものばかり。

剣を盾にして初撃を防ぐ事が出来たが、剣を伝ってきた衝撃で握っていた手が痺れてしまう。

その時に出来た若干の隙をつかれ、腹に強烈な一撃を貰ってしまう。

一撃を貰っただけで視界が霞んだが、なんとか意識を飛ばさずに耐える事が出来た。

 

俺は直ぐに反撃しようとしたが、それよりも早く萃香は持っていた瓢箪を投げつけて来た。

投げてきた瓢箪を避けようと後ろに跳ぶと、萃香はすぐさま瓢箪を手元に引き寄せ、中身を一口飲んだと思いきや、俺に向かって口からを炎を噴き掛けて来る。

あまりにも突然の出来事に驚くものの、俺はその炎を切り払い、再度間合いを詰め寄り、今度は十字に斬り抜けようと試みた。

剣が萃香に当たろうとした瞬間、彼女は自分の身体を霧状に変化させ、俺の攻撃を回避してみせる。

俺は直ぐに体勢を立て直し、間合いが開く前に追撃しようとしたが―――

 

「萃符『戸陰山投げ』~!」

 

―――萃香は能力を使って石や岩で集め、大きな岩を自分の掌の上に作り上げた。

その巨石を遠慮なく振り回し、思いっきり勢いを付けて俺に投げ付けてくる。

今から回避しても間に合わないと判断した俺は、剣で迫り来る巨石を斬り裂くことにした。

 

「ハアァッ!!」

 

裂帛の気合を込めて剣を振り下ろすが、投げ込まれた巨石は見た目以上に硬く、中々斬り裂く事が出来ない。

巨石の重さと、投げられた勢いに押されて、徐々に後ろへと押され始める。

俺は剣を両手で握り締め、足腰に力を入れて踏ん張るものの、巨石を斬り裂くどころか、勢いを止める事すら出来ないでいる。

スペカの性質だけを見れば、コレは弾幕と言うよりも単純な力押しだ。

俺のスペカも似たような奴が幾つかあるが、此処まで単純なのは数える程度しかない。

だからこそ、純粋に力押しで負けているのが悔しくて、半ば意地になってこの巨石を斬り裂こうとしている。

 

「……ダアァァァァァァァァァッ!!」

 

一呼吸おいて気合を入れた俺は、柄を力一杯握り締め、渾身の力で巨石に斬り掛かる。

俺が込めた力に共鳴したのか、以前の時みたいに刀身から鈍い光を放つ。

剣が突然輝きだすと、刀身の刃が少しずつではあるが巨石に食い込み始めた。

俺はこの気を逃すまいと、全身の力を振り絞り……目の前から迫る巨石を真っ二つに斬り裂いた。

二つに割れた巨石は、投げられた勢いのまま俺の横を通り過ぎ、後ろの地面とぶつかり、大きな物音を立てて崩れ去った。

 

「ゼェ…ゼェ…。どんなもんだ!!」

「うへぇ~。かなりの密度で投げたのに、人の姿のまま斬られるとは思わなかったなぁ」

「……まぁ、この剣じゃなかったら無理だったろうけどな」

 

俺は荒い呼吸を整えつつ、剣を握り直して萃香との間合いを目算で計る。

霧状に変化して離された距離は、今いる地点から大よそ10mと言った所だろうか。

この程度の距離なら簡単に詰める事が出来るけど、さっきみたいに霧になって回避されるのはちょっと面倒だな。

確実に霧になって逃げるってなら、元の状態に戻るところを狙えば問題はないんだが……絶対に霧になって逃げる訳じゃ無いから、一度の読み間違いでまた後手に回る事になるか。

 

「それじゃ、続きいっくよ~」

 

その掛け声と共に、萃香が足元の地面を思いっきり殴ると、殴られた地点からコッチに向かって地面が割れ、飛び出した岩が波の様になり襲いかかって来た。

岩は次々と向かって来るが、左右に岩が広がるわけでもなく、ひび割れに沿って飛び出してくるだけ。

俺はひび割れの射線上からずれ、飛び出している岩の横を通り、萃香に向かって一気に駆け出す。

岩を避けて間合いを詰めた俺は、彼女の首を取る心算で迷う事無く剣を振るう。

 

「デリャアッ!!」

「どっせ~い!」

 

俺が剣を振るうと同時に、萃香も拳を繰り出し、また剣と拳がぶつかり合う。

結果としてはまた負けてしまったが、そんな事は気にも留めず、直ぐに次ぎの一刀を放つ。

萃香も繰り出したのとは反対の拳を出し、再度お互いの剣と拳をぶつけ合った。

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

「まだまだ~ッ!!」

 

俺は拳に何度弾かれても、諦める事無く萃香に向かって剣を振るい続ける。

そんな俺に付き合ってくれるのか、萃香も剣の刃に臆する事無く拳を繰り出す。

一撃でもまともに喰らえば只では済まない様な攻撃だが、怪我をするリスクなど顧みずにお互いの攻撃を相殺し合う。

戦いの方法は弾幕ごっこの筈なのに、俺も萃香もそんな事忘れたかのように攻撃し続ける。

こうして戦っていると、あの世界で皆と必至になってモンスターと戦っていた事を思い出す。

萃香も萃香で思うところがあるのか、まともに喰らえば死にかねない攻撃を繰り出しのに、その表情はどこか楽しそうに見えた。

 

「萃鬼『天手力男投げ』~!」

 

萃香の楽しげな表情に見ていた俺は、彼女がスペカを宣言した事に反応が若干遅れてしまう。

何が来るのか分からず、一旦距離を離そうとしたその瞬間、萃香に胸倉を掴まれて一緒に上に跳びあがった。

そのまま片手でグルグルと振り回されながら、周辺から集って来た岩や石に押し固められる。

集った岩や石の所為で身動きが取れないまま、俺は萃香に地面に向かって力いっぱい投げられた。

地面に激突した瞬間、身の周りを固めていた岩が飛散したが、ぶつかった時の衝撃と砕けた破片で大分ダメージを負ってしまう。

俺は痛む身体に無理をさせて、剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がり、萃香を見据える。

 

「どったの? 大分ふらふらだけど、まだ戦える?」

「……さっきからフラフラのお前に心配されたくないな」

「なははははッ。私は数百年間ずっと酒飲みしてるからね、そこらの奴とは年季が違うのだよ」

「そんなお前にはこの言葉を送る。……禁酒しろ禁酒」

「なら、お返しに私も送るよ。……酒は百薬の長ってね」

 

色々とツッコミどころがあるが、そう言うのは一先ず置いておくことにする。

今の状況としては、さっきのスペカをまともに喰らった俺が不利ってところだな。

最初に叩き込んだ七連撃で、多少ダメージも入っているだろうが……それ以上に俺のダメージの方が多い。

コレ以上人の姿で戦うのも不利になるし、此処は変身して一気に攻勢に出るか。

そう決断した俺は、ポケットから茶色いカードを取り出し、迷う事無く宣言する。

 

「…地竜『バンダスナッチ』!」

 

カードを宣言すると、俺は足元から立ち上った赤いオーラに包まれ、中で竜人形態に変身する。

包み込んでいたオーラを吹き飛ばし、竜人の姿になった俺を見た萃香は、嬉しそうに顔を綻ばせて身震いをした。

 

「なんだ? 俺がこの姿になったのがそんなに嬉しいのか?」

「ああ! 今まで色んな妖怪や人間と戦ったけど、アンタみたいなのと戦うのはコレが初めてだからね! これを喜ばずに何を喜べってんだ!」

「……酒を飲んだり、宴会で大騒ぎする時だろ」

「まぁ、その通りなんだけどね」

 

最初から隠す気がないのか、萃香は屈託のない笑顔で言い切ってきた。

その様子に呆れて溜息を吐くが、変な駆け引きがない分かなり気楽ではある。

俺は一旦眼を閉じて気持ちを切り替え、深呼吸して何時でも突撃出来る様に身構えた。

向こうも何時でも迎え撃てるように、体勢を整えるが……顔だけは嬉しそうに笑っていた。

 

「…どれだけ俺と戦えるのが嬉しいんだよ」

「こんなに嬉しいのが何時ぶりか分からないくらいかな」

「そうか。……だったら、その笑顔を直ぐに引っ込めてやる」

「上等。なら、鬼と竜の喧嘩・第二幕を始めようじゃないか!」

「第二幕じゃなくて、終幕の間違いだろ」

 

萃香に向かってそう言った俺は、何も考えず無策のまま彼女に向かって突撃する。

今変身している竜の特性上、速度は人の時の半分にまで落ちるが……そんな事はどうだって良い。

相手がどんなに硬かろうとも、どんなスペカを持っていようとも、真正面からぶっ飛ばすだけだ。

 

真っ直ぐ突き進み、萃香との間合いを詰めたところで、力いっぱい踏み込み拳を繰り出す。

萃香もそれに答えるように拳を繰り出し、お互いの拳を思いっきりぶつけ合う。

今度のぶつかり合いは弾かれる事なく、拳を繰り出したまま俺も萃香も其処から動けなくなる。

このまま拳で力比べに発展しそうになったが、俺は繰り出した拳を無理矢理に逸らし、その勢いのまま後ろ回し蹴りを放つ。

萃香は、身体を後ろに仰け反る事で蹴りを躱すが、そんな事に構わず今度は回し蹴りを叩き込む。

今度の蹴りは、仰け反って躱す事が出来ないと判断したのか、萃香は自分の身体を霧に変えて俺の蹴りを避けた。

 

霧になった萃香は、少し離れたところで元に戻るが、俺は直ぐに間合いを詰めて殴りに行く。

実体に戻ってから直ぐに霧に変化出来ないのか、萃香は迫る拳を避ける様子もない。

このまま顔面を殴れると思った矢先、萃香は避けずに頭突きをするように額で俺の拳を受けた。

攻撃を止められたのは俺の筈なのに、萃香の額とぶつかった拳からは鈍い痛みが走る。

 

「お前、どんだけ石頭なんだよ…」

「別に無茶苦茶硬いわけじゃないよ。ほら、ちょっとだけ涙が出て来た」

 

萃香の言う通り、彼女の眼には少しだけ涙が溢れていた。

確かに効いていない訳じゃないみたいだが、これはこれで堪えるものがある。

俺は奥歯を噛み締め、繰り出した拳を引きながら膝を彼女の顔に叩き込もうとした。

だが萃香は、俺の蹴りが当たる前に自分の懐から新たなスペカを取り出して、すぐにそれを宣言する。

 

「鬼符『ミッシングパワー』!」

 

カードを宣言した瞬間、萃香の身体は突如巨大化し、俺を含めて周囲にあるものを吹き飛ばした。

吹き飛ばした後、直ぐに萃香はもとのサイズに戻るが、今ので距離を離されてしまう。

俺は空中で体勢を立て直し、直ぐにでも攻め込もうとしたが……別の事を思いついた。

萃香とは離れた地点で着地した俺は、何処からともなく新しいスペカを取り出し、直ぐに宣言する。

 

「地壊『波土破(ハドハー)』!!」

 

スペカを宣言すると、萃香の足元に大きな地割れが発生し、彼女を飲み込もうとする。

突然の出来事に回避が遅れた萃香は、重力に従って割れた地面の奥深くへと沈んでいく。

萃香を飲み込んだ地割れは直ぐに直り、何事も無かったかのように元の大地に戻っていた。

これで終わりな訳がないと身構えていると、萃香を飲み込んだ地面から声が聞こえてくる。

 

「どりゃあ~ッ!」

 

気の抜ける掛け声と共に、萃香を飲み込んだ箇所が吹き飛び、地面から萃香が這い出してきた。

地面を吹き飛ばして出てくるのは予想外だったが、萃香の姿を確認した俺は、飛んでくる岩を腕で弾き飛ばしながら彼女の元へと向かう。

間合いを詰められた萃香は、這い出てきて直ぐの所為か反応が若干遅れている。

それを好機と見た俺は、渾身の力を込めて迷う事無く萃香を殴り飛ばす。

防御する事も、霧に変化する事も出来ず、このまま殴り飛ばされると思ったが……意外にも萃香は俺の拳を掴み、そのまま反撃してきた。

 

萃香が繰り出してきた拳は、綺麗に俺の腹に命中するが、そんなものは無視してこっちも殴り返す。

元々『バンダスナッチ』は、防御力と体力の高さが特徴の竜。

多少のダメージなど気にする事無く、全力で目の前の戦いに挑む事が出来る。

 

「オラァッ!」

「なんの!」

 

俺が萃香に殴りかかると、彼女は掴んでいた腕を放し、そのまま距離を取ろうとする。

俺は逃がすまいと体勢を無理矢理に変えて、萃香に跳び蹴りを叩き込もうとしたが、彼女に今度は足を掴まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。

空中で体勢を立て直し、直ぐにでも突撃しようとしたが、萃香の手には既に新しいカードが握られていた。

新たなスペカを取り出してきた事で、俺は一旦突撃する事を止め、萃香の出方を窺う。

 

「いや~、楽しいねリュウ。こんなに楽しいのは久々だよ」

「俺は戦いを楽しむ趣味はない」

「そうなの? その割りには随分と楽しそうに戦ってたけど」

「……知らん」

「自覚なしかい」

 

突然話しかけてきた萃香は、俺の返答に呆れた様で何処か楽しそう顔で笑いかけてくる。

今までの攻防で楽しいと感じた覚えは無いが、彼女からしたら俺も楽しそうに戦っていたのか。

そんな趣味を持った心算はないんだが、この幻想郷に来て変わったのかな?

 

「…リュウとこうして喧嘩してるのも良いけど、ちゃんとケリは着けておかないとね」

「そうだな。何時までも此処で喧嘩していると、いい加減アイツが心配し始める」

「帰りを待ってる人がいると、何かと大変なんだねぇ~」

「そんな風に感じた事はないがな」

「そっか。……さてと、いい加減終わらせますか!」

「嗚呼!」

「ラストスペル『百万鬼夜行』!」

 

声高々にカードを宣言すると、萃香はその場で跳び上がり、自分を中心にして黒い渦を作り、周囲の物を吸い寄せ始めた。

黒い渦が物を集める傍ら、円を描くように渦から弾幕が周囲に向かって展開され始める。

俺はあの渦に近付き過ぎないようにしながら、俺達が戦っていたるのが弾幕ごっこなんだと今頃になって思い出す。

二人してずっと殴り合いばかりしてたから、何時の間にか戦いのルールなどすっかり忘れていた。

……もっとも、俺は美しさを競うと言うのは苦手だからな、何時も通り俺の持てる力を使って叩き潰すだけだ。

 

俺は萃香の弾幕を回避しつつ、掌の中に新しいカードを何処からとも無く取り出す。

カードを手にした俺は、黒い渦の吸い込みに逆らって、萃香との距離を離す。

ある程度距離をあけたら、吸い込みを堪えつつ、取り出したカードを宣言した。

 

「ラストスペル『メテオ=ダイブ』!」

 

カードを宣言すると、俺を包み込むように周りを黒い壁に覆われる。

その中で俺は、赤い鱗に四つの黄色い角が特徴の小山の様な巨体を持つ四足の竜へと変身した。

包み込んでいた黒い壁を破壊し、外に出た俺は、四つの角の間に大地の力を溜め込んだ球体を作り上げる。

その球体を空高く打ち上げると、遥か上空に巨大な岩の塊がコッチに向かって落ちてきた。

俺はその岩に向かって跳び上がり、落ちてくる岩を幾つかの大きな破片にして、その破片と共に萃香へと向かって落ちて行く。

落下して行く破片と俺は、彼女自らが作り出した渦に吸い込まれ、砕かれた破片は全て命中し、最後に『バンダスナッチ』の巨体で萃香を押し潰した。

 

「そ、そのスペルは酷すぎると思う……」

《周りの物を吸い込み始めたお前が悪い》

「……い、言い返せない」

 

腹の下でそう言った萃香は、押し潰されたまま気を失ってしまった。

俺は戦いで荒れた地面を直してから、普段の姿に戻り、萃香を連れて博麗神社に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

気絶した萃香を抱えたまま神社に戻ると、鳥居の下で八雲紫が出迎えてきた。

てっきり宴会に参加していると思っていたが、大きな輪には入らずに一人で待っていた様だ。

……もっとも、その手には確りと酒瓶が握られていて、能力を応用したのか隙間の上にツマミが盛り付けられた皿を乗っけてるがな。

 

「お帰りなさい。随分と遅かったわね」

「うるせぇ。んな事言うくらいなら、帰りの道くらい作れっての」

「それは嫌よ。……ほら、その子を預かるからコッチに渡して」

「ったく」

 

俺は気絶したままの萃香を渡すと、紫の顔を見る事無く境内に入っていく。

境内の中は宴会で盛り上がっているが、萃香を倒した事で連日の宴会も今日で最後の筈だ。

そう考えると若干の寂しさの様なものを感じるな……。

 

「リュウッ! やっと見つけた!!」

「ん? 霊夢?」

 

柄にもなく感傷に浸っていると、酒を飲んで酔っ払っている霊夢に呼ばれる。

大分飲んでいたのか、珍しい事に霊夢の顔は真っ赤になっていた。

正直な所、今日は疲れたから飯食ってもう寝たかったんだけど……仕方が無いか。

心の中で溜息を吐きつつ、俺は霊夢の傍へと向かった。

 

「全く、いままで何処にいたのよ!」

「あ~……龍神の使いでちょっと遠出を」

「まあ良いわ。とりあえず、そこに座りなさい」

 

下手に逆らって癇癪を起こされたくなかったので、俺は大人しく霊夢に指差された場所に座る。

すると、霊夢は何を考えているのか突如として俺の膝の上に座り、徐に抱きついてきた。

 

「何してんだ霊夢?」

「独りで居なくなったお仕置き」

「……(…お仕置きじゃねぇよなコレ)」

「あと皆が、私たち付き合っているのに全然恋人らしいくないって言って来たから」

「ちょっと待て、その理由はおかしいだろ」

「だから、今日は見せびらかすのよ! 私たちがいかにイチャイチャでラブラブな関係なのかを!!」

「ウチの霊夢に変な事吹き込んだ奴、ちょっと表に出ろ!!」

 

俺は大声で周りの連中に呼びかけると、殆どの連中が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

その状況を見て、俺は呆れ果てるどころか頭痛と目眩が同時に襲って来た。

なんでほぼ全員が霊夢をからかってんだよ、幾らなんでもコレは酷すぎるだろ。

 

「ちょっとリュウ。よそ見してないで私をみてよ」

「……あ~もう! なんで鬼退治から帰ってきたら、こんな事になるんだよ!!」

 

俺は半分ちかく泣きそうになりながら、満点の星が輝く夜空に向かって大きく吼えた。

疲れて帰ってきたんだから、家に居るときくらいはノンビリさせてくれよ……。

 




正直この作品の『萃夢想』のストーリーは、萃香とリュウの戦闘回だけ有れば良いと思っている。
何故ソレをやらなかったかと言うと、いきなり萃香との戦闘は早過ぎると思ったから。
この時の話は考えるのが本当に大変だった……。
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