宴会から一夜明け、私は何時の様に眼を覚まし、布団から身体を起こした。
何時の間に布団に入ったのか覚えてないけど、多分飲みすぎて倒れたところを、リュウが部屋まで運んでくれたんだと思う。
その証拠に酷い二日酔いになっていて、さっきから酷い頭痛と吐き気に襲われている。
なんでこんなになるまで飲んでたのかと思い、頭痛を堪えながらも昨日の事を思い返す事にした。
「たしか………あの鬼にまけて、その後に始まった宴会でひとりヤケ酒をしていたら、いきなりやって来た紫とたっちゃんにからかわれて……どうなったんだっけ?」
自棄酒を飲んでいる時から、相当量のお酒を飲んでいたのか記憶が酷く曖昧だ。
二日酔いの所為で頭痛もするけど、少しづつではあるけどなんとか昨日の事を思い出せそう。
「あの二人に〝私とリュウが恋人らしくない〟とか言われて、それに便乗して魔理沙もからかってきて……私がムキになったのよね」
口に出して昨日の事を思い出していくと、その時の様子がぼんやりと浮かび上がってくる。
あの時の時点で出来上がっていたのか、普段なら聞き流す様な事にも過剰に反応していたような気がする。
「それで気がついたら、レミリアや幽々子にもからかわれていて……それに腹が立った私は、皆に私たちの関係を見せびらかせよう…と……」
其処まで口にした途端、私は気を失う前の事を全て思い出してしまった。
……どうせなら全て忘れてしまえれば良かったと、本気で思ってしまう様な事だけどね。
と言うか、イチャイチャでラブラブな関係ってなに? リュウの膝に座って抱き付くなんて、何をしてるのよ私!?
いくら酔っていたとはいえ、幾らなんでもアレは無いわよ。……本当にその場のノリって恐いわ。
「……そういえば、私が覚えている限りだとアイツ、殆ど酔ってなかったわよね。と言う事は、昨日の醜態を全部知られてるって事!?」
とてつもなく嫌な予感がして、寝起きにも関わらず大きな声を出してしまった。
二日酔いになっていると言うのも忘れて大声を出した所為で、自分の声が頭に響いて痛みがさっきよりも酷くなってしまう。
自業自得とはこの事かと反省していると、いきなり部屋の障子が開いてリュウが顔を覗かせてきた。
「なんか馬鹿でかい声が聞こえたけど、何か遭ったのか?」
リュウは普段となんら変わらない様子だけど、アイツの顔を見た途端私の頭の中が真っ白になった。
昨日の事を聞きたいけど考えが上手く纏まらず、どんどん自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。
普段と様子が違う事に気がついたのか、私の事を見ながらリュウは不思議そうに首を傾げる。
私は段々とリュウの顔を直視する事が出来ず、何処に眼を向ければ良いのか分からず、わたわたと視線をアチコチに彷徨わせてしまう。
「…落ち着きがないが、本当に大丈夫か?」
私の様子を不審に思ったのか、リュウは部屋の中に入りコッチに近付いてきた。
コッチに近付いてくるにつれて、周りの状況も分からなくなり、パニックに陥りそうになる。
自分で鏡を見なくても、今の私は顔から湯気が出そうなくらいに真っ赤になっている自覚がある。
何もかも分からなくなった私は、近くにある枕を鷲掴みにし―――
「……い、いきなり部屋に入ってくるな!!!」
―――なんとも的外れな事を言って、リュウに枕を全力で投げ付けた。
「ぬがぁ?!」
けして軟らかいとは言えない枕を顔で受けたリュウは、鼻の辺りを押さえてその場で蹲る。
そんなリュウを余所目に、私は布団から起き上がり、彼から逃げるように部屋から出て行った。
………
……
…
少し遅めの朝食を取った私は、部屋に戻って床に寝そべり、さっきの事を猛省している。
幾ら混乱していたとは言え、心配してくれたリュウに枕を投げつけるのは流石にやりすぎた。
……でも、あのまま顔を近付けられてたら、思いっきり彼の顔を殴ってそうだったし、それに比べればまだマシ……よね?
「あ~もう、なにやってんだろ私」
十数年生きてきたけど、此処まで自己嫌悪に陥ったのは生まれて初めてかもしれない。
昨日の醜態の含めて一体何をしているのかと、自分自身に子一時間くらい問い詰めたくなる。
それにご飯を食べてるときだって、結局リュウにさっきの事を謝れなかったし……。
でも、謝ろうとしてアイツを見ようとすると、昨日の事を思い出して顔が真っ赤になって考えが纏まらなくなる。
お陰でちゃんと誤る事も出来ず、こうして部屋で自己嫌悪に陥ってるなんて……ホントに悪循環ね。
「はぁ~……。どうせなら昨日の記憶が飛んでくれてたら良かったのに……」
物凄く都合の良い事を言ってるけど、本当にそう思ってしまうのだから仕方が無い。
……でも、普段はリュウに抱き付く機会なんてないんだし、アレはアレでおいしかったわね。
抱き付いてみて分かったけど、アイツの身体って見た目の割りにガッシリとしていて、思っていたよりも逞しかったわね。
それに抱き心地も悪くなかったし、偶にで良いから抱き付かせてくれないかな……って、今はそんな事考えている場合じゃないでしょう私。
「はぁ……。自分で自分にツッコムのって空しいわね……」
考えが思いっきり脱線してしまい、余計な事ばかり考えてしまう自分に呆れて思わず溜息を吐く。
さっきから考えが二転三転して、上手く考えが纏まりそうにない。
部屋でうだうだと悩むくらいなら、このまま不貞寝してしまった方が良いのかも。
そんな事を考えていたら、部屋の障子が数回叩かれたあとリュウが顔を覗かせてきた。
「霊夢、いま大丈夫か?」
「…なによ」
私は未だにリュウの顔を直視する事が出来ず、不機嫌な声を出しながらそっぽを向いてしまう。
別に怒っているわけでも無いのに、朝の事を引き摺っているせいで如何してもこんな態度に為ってしまう。
本当は全部自分の所為なのに、なんでこんな態度しか出来ないんだろう。
これじゃ、何もしていないリュウを責めているみたいじゃない。
「え~っとな、そろそろ調味料がヤバそうだから買い物に行ってくるな」
「そう、いってらっしゃい」
「……………」
私の素っ気無い態度と言葉に、リュウは如何したものかと困ったような顔をする。
本当はこんな事を言いたい訳じゃないのに、口を開くと出てくるのは全然的外れな言葉ばかり。
ちゃんと昨日の事や今朝の件を謝っておきたいのに、どうして〝ゴメン〟の一言が出てこないんだろう……。
「それじゃ行ってくるけど……何か欲しいモノはあるか?」
「お茶」
「相変わらずお茶が好きだな」
「うっさいわね、さっさと買いに行きなさいよ」
「はいはいっと」
本心とは全く違う態度しか出来ないまま、リュウは苦笑いを浮かべて部屋を出て行く。
私は手を伸ばして彼を引きとめようとしたけど、やっぱり掛ける言葉が出て来てくれなかった。
たった一言〝待って〟と言う事の出来ない自分が本当に嫌に為ってくる。
本当に言わないといけない事があるのに、なんで私はリュウにお茶なんか頼んでるのよ……。
「……あ、霊夢」
「なによ、まだ何かあるの」
「今朝は勝手に部屋に入って悪かったな。今後からは気をつけるよ」
「…ッ」
「それじゃ買い出しに行ってくるな」
最後のそう言ってきたリュウは、そのまま私の部屋から離れていこうとする。
私は勢いよく立ち上がり、後を追いかけて、リュウを引きとめようと手を握り締めていた。
「…? どうかしたのか?」
「あ…その……」
「…?」
「……お茶請けも無いから、一緒に買ってきて……」
「了解……と言っても、そんなに金も無いから高いモノは無理だぞ」
「分かってる……」
「んじゃ、留守番よろしくな」
そう言って私の頭を撫でたリュウは、私の手を振り解き、そのまま買い出しに出かけて行った。
彼が居なくなってから私は、素直になれない自分に嫌気が差して、自己嫌悪から泣きそうになる。
リュウは何も悪くても謝ったのに、どうして私はちゃんと謝る事が出来ないんだろう……。
……こんなにも惨めな気持ちになったのも、自分が嫌に為ったのも生まれて初めてよ。
そんな風に自分に嫌気が差しながら、私は誰も居なくなった母屋で立ち尽くすことしか出来なかった。
………
……
…
リュウが買い物に出掛けてから既に数時間は経った。
私は何もする気力が湧かず、縁側で腰掛けて何かをする訳でもなくただ裏庭を眺めていた。
……今の私の姿を見たら、リュウは一体なんて言うんだろう。
何もしていない私を呆れるのかな? それとも普段とは違う何かを感じて心配するのかな?
朝からずっと自己嫌悪に苛まれていたからか、何時もの私らしくない事ばかり考えてしまう。
一言謝るだけで全てが解決するのに、素直に為れない所為か昼間からずっとこんな調子だ。
リュウが帰ってきたら謝ろうとは思うのだけど、ちゃんと言葉に出来る自信が全然湧いてこない。
たった一言の言葉を自信が無いだなんて自分でも笑ってしまいそうになる。
何時もなら好き勝手な言葉をリュウにぶつけているのに、如何してこう言う時に限って伝えたい言葉を伝えられないんだろう。
そんな事を思いながら裏庭を眺めて呆けていると、誰かが玄関の戸を開ける音が聞こえてきた。
「ただいま~。霊夢、買ってきたぞ~」
玄関の方から普段と変わらないリュウの暢気な声が聞こえてくる。
何時もと変わらないこの声を聞くと、胸の中に在るモヤモヤが何処かに飛んで行ってしまいそう。
本当に吹き飛んでしまえば何時もの私に戻れるのに、如何してこのモヤモヤは無くならないんだろう。
「お~い……って、そんな所で何してんだ?」
「別に何もしてないわよ」
「ふ~ん」
居間に顔を出したリュウは、縁側に居る私を見て呆れたりしなければ、特に心配をしてくれもしなかった。
出かける前と何も変わらない様子で、居間に上がって里で買ってきた物の整理を始める。
そんなリュウの様子を残念に思いながら、そっと彼の方を覗いてみると……ちゃぶ台の上には珍しい事に饅頭が幾つも置かれていた。
普段なら値段が高いと言う事で余裕のある時しか買わないのに、今日は珍しく沢山の饅頭が茶請けの皿に盛られている。
皿に置かれている沢山の饅頭に驚いた私は、縁側から身を乗り出してリュウに尋ねた。
「ちょっとリュウ、その饅頭は如何したのよ」
「里で安売りしてた」
「安売りって……幾らなんでもその量は買いすぎよ」
「そうかもな。でも、霊夢好きだろ饅頭」
「それは……そうだけど……」
リュウは安売りしてたって言うけど、饅頭の安売りなんてあるとは思えない。
恐らくはリュウが店の人に無理を言って安く買ってきたんだと思う。
そんな事するくらいなら煎餅にすればよかったのに、如何してこんなに買ってきたんだか……。
……いや、そんなの考えるまでもなく普段とは違う私に気を遣ったからに決まってるじゃない。
普段通りに生活してるかと思ったけど、ちゃんと私の事を気に掛けてくれていたんだ
その事が嬉しくて、同じ位に申し訳なく感じた私は、縁側からそっと立ち上がり何も言わずにリュウの背中に抱き付いた。
「霊夢?」
「…お願いだからコッチを見ないで。今アンタに見られたら、きっと何も言えなくなる」
「……………」
リュウにそうお願いすると、彼は作業していた手を止めて、何も言わず受け止めてくれた。
私は抱き付いているだけでも顔が赤くなって、胸の鼓動がドンドン速くなって行くのを感じる。
ずっとこうしていたいけど、何時までも抱き付いてないでちゃんとを伝えないと……。
「リュウ、昨日の夜と今朝はゴメン。なんか迷惑を掛けちゃったね」
「別に気にしてないけど……もしかして、ずっとソレを考えてたのか?」
「そうよ、悪い」
「悪くはないが……昨日のは、アレはアレで可愛かったぞ」
「かわッ?!」
突拍子も無いリュウの言葉に軽く混乱した私は、思わず彼の背中に頭突きを叩き込んでしまう。
「イダッ?! 何するんだよ霊夢!!」
「うっさい! いきなり変な事を言うアンタが悪い!!」
「なんだそりゃ?!」
リュウはまだ何か言いたそうだけど、私は彼の背中に顔を
直視されたまま言われなかったから良いけど、それでも今朝の時よりも顔が真っ赤になっている自覚はある。
私は素直に謝るだけでも気恥ずかしいのに、どうしてコイツは平然と恥かしい事が言えるのよ。
これじゃ、上手く素直に為れない私がバカみたいじゃないの。
「なんでアンタは、そんな事を平気に言えるのよ」
「相手が霊夢だからだろ。他の奴にはこんな事を言う心算はないし」
「……ッ! …アンタ、もう一回頭突きするわよ」
「なんでだよ」
「うっさい、バカ! 自分の胸に聞け!!」
やっぱり私は恥かしくて、リュウが言ってくれた言葉に声を荒げる事しか出来なかった。
本音を言えば物凄く嬉しいのだけど、どうしても恥かしさが前に出てきて素直になれない。
昨日くらいに酔っていたら、もっと素直に受け止められる筈なのに……如何して素の私はこうなんだろ。
普段は素直になれないのなら、せめて今くらいは自分の気持ちを正直に打ち明けたい……。
「ところで、霊夢。そろそろ動きたいんだけど、良いか?」
「……なら、最後に一つ言わせて」
「ん? なんだ?」
「……ありがとう」
私は顔を背中に埋めたまま、本当に小さな声でリュウにお礼を言った。
リュウに今の言葉が聞こえたか解らないけど、これが今の私の精一杯の言葉だった。
「へっ?」
「はい言ったわよ! それじゃ私は部屋に居るから、後は宜しく!」
「あ、おい!?」
私はリュウの背中から離れ、彼と顔を合わせる事無く逃げるように居間を後にした。
今の〝ありがとう〟が一体何に対してなのか解らないけど、今の私にはリュウに告げる言葉としては一番良い様な気がする。
……今はこれで精一杯だったけど、何時かはリュウにちゃんと〝好き〟と伝えたい……。