竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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ちょっと思うところがあってサブタイを変えてみた。
以前のタイトルは『使いの落し物』です。サブタイで分かると思いますが、漸く彼女の登場です。


第四十七話 美しき緋の衣

 

幻想郷は夏真っ盛りと言うに相応しく、連日のように猛暑日が続いている。

蝉の音が五月蝿いほどの鳴り響き、太陽からは憎らしくなるくらい燦々と光が降り注ぐ。

暑いのは平気な俺だが、こう毎日の様に猛暑日が続くと流石に嫌気が差してくる。

それに魚も暑さにやられて直ぐに痛むから、釣ったやつの持ち運びがかなり不便になった。

魚を凍らせて持ち運んでも良いんだが、それをすると今度は解凍に手間取るからあまりやりたく無いと言うのが本音だ。

 

「あ~ぁ。何か持ち運びに便利は入れ物があれば良いんだけどな~」

 

俺は木陰の下で川に釣り糸を垂らしながら、空を見上げながらぼやいた。

木陰から見える太陽は、葉っぱに大半の光を遮られているが、隙間から見える光はキラキラと輝いているように見える。

これはこれで綺麗だなと思いながら見上げていると、何者かの影が木の上を通りすぎ、一瞬だけ光が完全に遮られる。

一体何が通り過ぎたのかと気になり、視線を元に戻すと……川を挟んだ反対側に、薄ピンク色の服に黒のロングスカート、大きな赤いリボンの付いた黒い帽子に緋色の羽衣を身に纏う、青紫色の髪の女性が立っていた。

地面に降りた女性は、俺になど目もくれず茂みの中を掻き分け、キョロキョロと何かを探し始める。

落し物か何かを探しているのは明白だが、その様子があまりにも必至だったから、俺はなんとなく彼女に声を掛けて見る事にした。

 

「あの~…そこで何してるんですか?」

「……えっ?」

 

俺が声を掛けると、女性は驚いたようにコッチを振り向いてきた。

どうやら捜す事に集中していたのか、声を掛けるまで俺の存在に気が付いていなかった様だ。

俺も息を潜めて静かに釣りをしていたから、彼女が気が付かなくても仕方が無いか。

 

「えっと……貴方は?」

「俺はリュウ。博麗神社に住んでいる居候だ」

「貴方様がリュウ様でしたか。まさかこの様な所でお会い出来るとは……」

「リュウ…様?」

「はい」

 

女性は上品な笑顔でコッチに笑い掛けてくるが、俺としてはちょっとだけ困惑していた。

彼女が今までに居ないタイプの人だって言うのもあるけど、初対面に奴にいきなり〝様〟で呼ばれるとは思ってもみなかった。

礼儀正しいと言えばそうなのかもしれないけど、物凄く背中がむず痒くなるな……。

 

「ちょっと聞きたい事があるんだけど、え~っと……」

「これは申し送れました。わたくしの名前は『永江 衣玖』と申します」

「それじゃ、永江さん」

「衣玖で構いませんよ、リュウ様」

「……なら衣玖さんで」

「わたくしは呼び捨てでも構いませんが?」

「これで良いです」

「そうですか?」

 

彼女はイマイチ納得がいってないのか、不思議そうに小首を傾げてくる。

衣玖さんは呼び捨てでも構わないと言うが、彼女の雰囲気的に〝さん〟付けの方がしっくり来ると思うんだが……。

まぁ、そんな事は兎も角、ちゃんと聞きたい事を聞いておかないとな。

 

「それで衣玖さんに質問なんだけど、なんで俺の事を〝リュウ様〟なんて呼ぶんだ?」

「それは、わたくしが〝竜宮の使い〟と言う種族だからです」

「つまり?」

「簡単に言ってしまうと、わたくしは龍神様のお世話役などをしております。ですので、異世界の竜神である貴方様にも敬意を表すのは当然の事かと」

「……………」

 

彼女の言いたい事は理解出来たが、俺を神様あつかいするのは止めて貰いたいな。

衣玖さんの種族柄なのか、それとも龍神にそう言われたのか知らないが、元々この世界の住人じゃない俺に敬意を表す必要はないだろ。

 

「……一つ頼みがあるんだが」

「はい、なんでしょう」

「俺の事を様付けで呼ぶのを止めてくれないか? 神様扱いされるの嫌いなんだよ」

「そうでしたか。……では、なんてお呼びすれば宜しいですか?」

「様付けじゃなかったら好きに呼んでくれて良いけど」

「でしたら……リュウさんと呼ばせて頂きます」

「出来る事なら喋り方も変えて欲しいんだが」

「元々こう言う口調ですので、それは無理かと……」

 

むぅ、そう言われてしまうとコッチからは何も言えなくなるな。

畏まられるのは苦手なんだが喋り方なんて人それぞれなんだし、この位は俺が我慢すれば良いだけの事か。

それにしても、龍神の世話役をしている彼女がこんな辺鄙な場所に何の用だ? さっきは何かを探しているようだったけど……。

 

「ところで衣玖さん。茂みで何かを探していたけど、何を探していたんだ?」

「それは…その……」

「…?」

 

俺がちょっと質問してみると、衣玖さんは視線を逸らし眼を泳がせ始めた。

何か聞いてはいけない事なのかと思ったが、彼女の雰囲気からしてそういった感じではない。

どちらかと言うと、何か隠し事をしていると言った感じだ。

他人に言えない様な事となると、龍神から極秘に何かを頼まれたと言った所だろうか。

もしそうだとしたら、あまり踏み込んで聞くわけにも行かないか。

 

「言えない様な事なら無理に言わなくて良いけど?」

「いえ、そう言う訳でもないのですが……」

「…??」

 

そうでないと言う割には、彼女の返事はどうにもはっきりとしない。

他人には言える様な事だが、俺には言い辛い様なモノを探しているのだろうか?

でも、そんな物なんてこの幻想郷に………幾つも有るか。男の俺には言えない物なんて、探せば幾らでも出てくるし。

 

「すまない、衣玖さん。何か野暮な質問をしてたみたいだな」

「……はい?」

「俺がもうちょっと気が利けば、こんな事を尋ねなくて済んだのに……。本当にすまない」

「あの……さっきから何を言っているんです?」

「無理に恍けなくても良いよ。……それじゃ俺はもう帰るから、後は心行くまで探してくれ」

 

俺は衣玖さんに謝罪をして、荷物を簡単に纏めたら直ぐにこの場を後にする。

今回は大して釣れなかったが、また別の場所で釣れば良いだろうと考えていると……いきなり首に羽衣の様なものが巻き付いてきた。

 

「変な勘違いをして、勝手に帰ろうとしないで下さい!」

「ぐぇッ」

 

首に巻きついたものの正体は、衣玖さんが身に着けていた緋色の羽衣のようだ。

引き止めるために使ったのか知らないが、既に歩き出していたと言う事もあってか、俺の首は巻きついた羽衣に思いっきり締め付けられた。

 

「全く、わたくしが探してるのはですね……」

 

衣玖さんが何かを言っているような気もするが、首に巻きついた羽衣が中々緩まない所為で、酸欠に陥り徐々に意識が遠のいていく。

説明をしてくれるのは良いが、ちょっとは加減をしてくれ。これは本当にキツイって……。

心の中でそう呟いたのを最後に、目の前が真っ暗になり俺は意識を失った……。

 

 

 

 

 

………

……

 

「ま、マジで死ぬかと思った……」

「本当に申し訳御座いませんでした……」

 

気絶から漸く目を覚ました俺は、近くにある木を背にして休んでいた。

直ぐ隣りには衣玖さんが申し訳無さそうに座っているが、今回の件はちゃんと反省してもらいたい。

幾ら俺が死ぬのか分からないとは言え、首を絞められるのは本当に辛いんだよ……。

 

「頼むから、相手の首を絞めて引き止めるのは止めてくれ。相手によっては死ぬからアレ」

「はい……」

 

俺に釘を刺された衣玖さんは、本当に申し訳無さそうに縮こまってしまう。

……流石にやり過ぎたと反省しているみたいだし、コレ以上グチグチ言うのは止めておこう。なんだか可哀相になって来た。

 

「それで、衣玖さんは何を探しているって?」

「龍神様より貴方様へ剣を渡すように頼まれていたのですが……」

「ですが?」

「お届けする前に、ちょっとした事情で落としてしまいまして」

「落としたって……もしかして、無くしてからずっと探してるのか?」

「……お恥ずかしながら」

 

剣を俺に届ける前に落とした事を恥じているのか、衣玖さんはさっきよりも更に小さく縮こまってしまった。

俺としてはその事を責める心算はないけど、彼女からしたら今回の事は相当の失態と捉えているらしい。

別に剣の一つや二つ、失くしたとしても大した影響はないと思うんだけどな。

……とは言え、このまま見付かるまでずっと捜索させるのも可哀相だし、ちょっと手を貸してあげるか。

 

「衣玖さん、俺もその剣探し手伝おうよ」

「いえ! リュウさんに手を貸して貰うほどの事では!!」

「その剣は俺に届けられる物なんだろ? なら俺が探しても問題ないだろ」

「それは……そうですが……」

「なら決まりだ。日が暮れないうちに捜しに行こう」

「……有り難う御座います、リュウさん」

 

さっきまで申し訳無さそうにしていた衣玖さんだが、今は嬉しそうに微笑んでくれた。

俺は照れ隠しに地面から立ち上がって、大きく背伸びをして体を解した。

 

「それで? 剣はどこら辺で落としたんだ?」

「いえ、落とした地点は既に隈なく探しました。今は別の場所を探し回っているところです」

「となると、捜索範囲は幻想郷全土か……。一日二日じゃ終わらないぞ」

「わたくしなんて、もう一月以上家に帰れてませんよ……」

「そ、それは大変だな」

 

衣玖さんは今までの苦労と疲労からか、物凄く悲壮感溢れる溜息を付いた。

俺はその様子に苦笑いを零すしかなかったが、それ以上に一月探しても見付からない現状に疑問を持った。

幾ら何処に在るのか分からないとは言え、手掛かりすら無いと言うのは流石に変だ。

衣玖さんが誰にも尋ねないで探していた可能性もあるが、剣の落し物なんてかなり眼を引く筈だぞ。

それでも見付からないとなると……既に誰かの手元に渡っている可能性が高いな。

香霖堂に新しく剣が入荷したなんて聞いてないし、人里には落ちている物を売り物にしている店は存在してないから、どっかの物好きに拾われてコレクションの一つになってそうだな。

もし誰かの手元に渡っているとしたら、ソイツから取り返すのはかなり面倒だぞ。

あまり事を荒立てたくないし、もっと簡単に物を探せれないものだろうか……?

 

「…………あ、そうだ。アイツの力を借りれば良いんだ」

「なにか良い方法が思いついたのですか?」

「ちょっとした賭けみたいなモノだけどね。それに来てくれるのかも分からないし」

「このさい方法は構いません。早速試してみてください」

「それじゃ、ちょっと耳を塞いでいてくれ」

「…?」

 

衣玖さんは不思議そうに首を傾げながらも、ちゃんと自分の耳を塞いでくれた。

それを確認した俺は、一度深呼吸してから大きく空気を吸い込んで―――、

 

「萃香~ッ!! 出てこ~いッ!!!!」

 

―――雄叫びにも似た大声を出して、最近知り合った鬼に呼びかけてみた。

今の声に驚いた野鳥たちは、一斉にこの場から逃げ出していくが、お目当ての鬼は姿を現しそうにない。

もう数分待ってみたが、やはり気配はなく、萃香の妖霧も何処にも見受けられない。

コレ以上待っても進展はないと判断した俺は、今度は呼び出し方を変えてみる事にした。

 

「……あ、此処に最高級の日本酒がある。誰も飲まないなら、こんなもん川に捨てるか」

「そんな勿体無い事をするなら、私がその酒を飲む!!」

 

俺が聞こえない位に小さく呟くと、目の前の茂みから二本角の鬼がいきなり飛び出してきた。

 

「こんな簡単な嘘に釣られてんじゃねぇよ」

 

案の定出て来た萃香に冷淡なツッコミを入れつつ、彼女が逃げ出す前に首根っこを掴んでおく。

萃香はバツの悪そうな顔をするが、そんな事は気にせずさっさと頼み事でもするかな。

 

「それで私に何の用?」

「お前の力で〝龍の力を持った剣〟を此処に集めて欲しいんだ」

「そんな物集めて如何するの?」

「ちょっとした探し物だよ」

「……タダじゃ嫌だよ」

「博麗神社に奉納された日本酒でどうだ」

「乗った!!」

 

俺が条件を提示すると、萃香は直ぐに了承して意気揚々と能力を発動させる。

萃香が能力を発動させて五分くらいが経っただろうか、空の彼方から何かがコッチに向かって飛んでくるのが見えた。

鞘に収まっているが、形状からして鍔も柄もない相当古いタイプの直刀の様に見える。

他にも飛んでくる剣は無いものかと辺りの空を見渡すが、コッチに向かって飛んできているのはアレだけのようだ。

 

「ほい、集めたよ~」

「ありがとな」

「こ、こんな方法があったなんて……」

「まぁ、裏技みたいなモノだから深く考えない方が良いぞ」

 

俺は信じられないと言った表情の衣玖さんに、萃香が集めてくれた剣を手渡す。

剣を受け取った衣玖さんは、繁々とその剣を見てみるが……直ぐに首を横に振って俺に返してきた。

 

「……この剣じゃないです。龍神様からお預かりした剣は、もっと長かったですし」

「そうか。…萃香、本当にこれ以外は集らなかったんだな?」

「そうだよ。……もしかして、疑ってるの?」

「何かを集める事においては、お前の右に出る者はないと信じてるからこそ聞いてるんだよ」

「褒めても何も出ないけど、本当にそれ以外は萃らなかったよ」

「……そっか」

 

萃香の能力に疑いようが無い以上、この幻想郷に衣玖さんが探している剣は存在していない事に為る。

流石にそんな事があるとは思えないが、こうして集らなかった以上、そう結論付けるしかない。

衣玖さんも同じ考えに至ったのか、顔を青くして今にも泣きそうな表情をしている。

手伝ってやるなんて言っておきながら、大したことも出来ないとは……なんとも情けないな。

 

「「……………」」

「あのさ~リュウ。ちゃんと仕事したんだから、お酒頂戴」

「…この空気でソレを言うか?」

「空気を読んで黙ってても、お酒は手に入らないからね」

「ったく」

 

俺は悪態を付きながらも、心の中ではちょっとだけ萃香に感謝していた。

萃香の言い分は兎も角、何時までも此処にいても仕方が無いのも確かだ。

あの空気のままだと切り出し難いけど、お陰で衣玖さんに声を掛けやすくなった気がする。

 

「衣玖さん、俺達と一緒に神社に行かないか? 此処に居ても仕方が無いんだし」

「ですがわたくしは……」

「剣が届かなかった事に付いて文句を言う心算はないし、龍神には俺からもちゃんと言っておくからさ」

「そうそう。何時までもこんな所で立ってないで、神社で一緒に騒ごうじゃないか」

「騒ぐのは禁止だ」

「えぇ~」

「えぇ~じゃない。えぇ~っじゃ」

 

酒が飲めると聞いて、騒ぐ気満々だった萃香に諫めつつ、衣玖さんの様子を窺う。

こんな俺達のやり取りに呆れてるかと思ったが、衣玖さんは意外にも優しく微笑んでくれた。

 

「……そうですね。お二人の言う通り、何時までも此処に居ても仕方が有りませんし、御一緒させて頂きます」

「そうこなくっちゃ! よ~し、人数が少ないけど今日は騒ぐぞ~!」

「だから騒ぐなっての」

 

どう足掻いても騒ぐ心算の萃香を、如何やって抑えようか考えつつ、俺は衣玖さんと萃香を連れて博麗神社に帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

神社の境内に下りた俺達は、その足で裏庭の方へと向かって歩き始めた。

本殿の横を通りすぎて裏庭に辿り着くと、霊夢が何時もの様に縁側で独りお茶を飲んでいた。

 

「霊夢、ただいま」

「お帰りなさいリュウ。…今回は見慣れない奴を連れてきたわね」

「色々とあってな」

「初めまして、わたくしは『永江 衣玖』と申します。以後お見知りおきを…」

「あ、これはご丁寧にどうも」

 

礼儀正しく挨拶してきた衣玖さんに呆気に取られたのか、珍しく霊夢が人に頭を下げているところを見た。

やっぱり霊夢も、衣玖さんみたいな礼儀正しい相手は苦手なのかと思っていると、萃香が俺の袖を引っ張り何かを訴えてくる。

最初は一体何事かと不思議に思ったけど、直ぐに何を訴えているのか理解出来た。

 

「霊夢、この間奉納されていた酒って何処に仕舞ってたっけ?」

「…? 前の奴で良いなら台所にあるけど?」

「悪いけど、その酒を萃香に渡してくれないか?」

「なんでよ」

「ちょっと借りがあるんだよ、頼む」

「……ったく、仕方が無いわね」

 

突然のお願いだったが、霊夢は溜息を一つ吐いて了承してくれた。

それを見ていた萃香は満面喜悦になり、喜び勇んでお酒がある台所へと突撃していった。

 

「やっほー! お酒だーッ!」

「あ、こら! 勝手に上がるな!!」

 

霊夢は勝手に上がった萃香を止めに行くが、酒を前にしたアイツが止まる訳が無い。

俺は二人の様子に苦笑いをしつつ、縁側で靴を脱いで家の中に入った。

 

「ほら、衣玖さんも突っ立ってないで上がってくれ」

「では、お邪魔させて頂きますね」

 

俺に促された衣玖さんは、縁側に腰かけて上品に靴を脱ぎ始めた。

……もしかして、俺が声を掛けるまでずっと外で立っている積もりだっただろうか?

彼女ならなんかありえそうな事を考えつつ、さっき拾った剣と釣竿と護身用に持ち歩いている剣を取り出し、居間の片隅に置こうとした。

すると、衣玖さんがなにやら変な視線を俺の剣に注がれているように感じた。

一体何事かと彼女の方を見てみると、まるで信じられない物を見る様な眼で俺の剣を見詰めていた。

 

「えっと……この剣が如何かしたか」

「その剣、一体何処で手に入れたんですか?」

「コレか? コレは前に霊夢がプレゼントしてくれたんだよ」

 

俺がこの剣を手にした経緯を簡単に教えると、衣玖さんは血相を変えて台所へと向かう。

何をそんなに慌てているのか分からないが、霊夢がくれたこの剣に何か思い入れでもあるんだろうか?

 

「れ、霊夢さん! リュウさんの剣を何処で手に入れたんですか?!」

「な、なによ。いきなり」

「良いから答えて下さい!!」

「…前に魔理沙が香霖堂に売り付けて来たのを、私が買い取ったのよ。アイツも何処かで拾ったとか行ってたから、詳しくは知らないと思うわよ」

 

霊夢から話を聞いた衣玖さんは、何故かその場に崩れ落ちて項垂れてしまった。

俺も霊夢も一体何事なのかと首を傾げると―――、

 

「こ、こんな所に在っただなんて……」

 

―――衣玖さんが搾り出すように一言呟いた。

霊夢はソレが何の事なのか分からない様だが、俺にはその一言で大体の事が把握できた。

詰まるところ、衣玖さんが落とした剣を魔理沙が偶然にも拾って、それを霊夢が香霖堂で購入し、俺にプレゼントしてきたんだろう。

それを知るよしもない衣玖さんは、ずっと俺の手元に在る剣を探し続けていた訳か。

……あれ、如何してだろう? なんでか知らないけど、物凄く申し訳ない事をした様な気持ちになってくるぞ。

 

「灯台下暗しとはこの事かね~」

「……なぁ、萃香。なんであの時に俺の剣が集らなかったんだ?」

「あの時集めたのは〝遠く離れた所にある龍の剣〟だけだよ。最初から傍にあった剣が集る訳ないじゃない」

「うわぁ~……」

 

今の萃香の説明に物凄く納得がいった俺は、申し訳なさから胸が締め付けられそうになる。

ただの不幸な巡り合わせと言って仕舞えばそれまでなんだけど、一月にも及ぶ彼女の頑張りを考えると……何故だか謝りたくなってくるな。

 

「わたくしの一月の努力は一体なんだったんでしょう……」

「アンタも大変だったんだね~。とりあえず、飲んで騒いで嫌な事は忘れよう!!」

「……そうですね、今はそれが一番な気がします」

「ちょっと前に宴会騒ぎが終わったのに、また騒ぐって言うの?!」

「すまん、霊夢。今日だけは騒がせてやってくれ」

「リュウまで何を言ってるのよ?!」

「さぁ! 今日は飲むぞ~!!」

 

なんとか霊夢を丸め込み、五人だけの宴会が博麗神社の母屋で行われる事になった。

霊夢は嫌そうな顔をしてるけど、今日だけは本当に我慢してもらおう……。

 




オマケ

〝衣玖さんを励ます会〟と言う宴会から数日が経ったある日。
何時もの様に霊夢と二人、縁側でお茶を飲んでいたら……何故か衣玖さんが空から舞い降りてきた。
何か忘れ物でもしたかと思ったが、憂鬱とした表情から察して、そう言う事ではないような気がする。

「ちょっと如何したのよ、衣玖。ものすんごく暗い顔をしてるわよ」
「……実はですね。この間の剣紛失騒ぎが龍神様にバレまして、本日より当分の間リュウさんと龍神様の橋渡し役を仰せ付かりまして……」
「あ~つまり、アイツの伝言を俺に伝えに来る係りって事か?」
「はい。あと、神社の雑用も手伝ってやれと……」
「あ、それは助かるわ」
「……其処は心の中で言おうよ」
「わたくし、こう見えても色々と仕事を抱えてるんです。それなのに更に仕事の追加とか……龍神様は鬼ですか」

今抱えている仕事も相当辛いのか、衣玖さんが本格的に愚痴り始めてきた。
龍神には龍神なりの考えがあるとは思うけど、タダ単に面白がってるだけな気がするのが恐いな。

「と、とりあえず、こう考えるんだ衣玖さん。神社に来れば幾らでも骨休めが出来るんだと」
「…骨休めですか?」
「そうそう。この神社の雑用なんて俺が午前の内に終わらせてるから、午後にくれば結構暇になるぞ」
「そうなんですか?」
「まぁね。リュウが来てから私の仕事も減って、かなり楽をさせてもらってるわ」
「だから霊夢も、俺が来た頃に比べてお腹周りがぷにぷにしてきて……ハッ?!」

調子に乗って物凄い失言を言った事に気が付き、そっと隣りを見てみると……其処には笑顔の霊夢がいた。
ただし、額には青筋を浮かべて、眼は全く笑っていない笑顔の霊夢だがな。

「リュウ~? 今の発言について、ちょっと説明して貰いたいんだけど~?」
「……サラバッ!!」
「逃げるなーッ!!」

霊夢の笑顔に気をされた俺は、一目散に神社から脱走した。
当然の様に、後ろからは霊夢が弾幕を放ちながら追って来ている
正直な所、弾幕ごっこで霊夢に勝てる気がしないので、今回は全力で逃げさせて貰う。

「待ちなさいリュウ!!」
「止まったら、殺されるから絶対にいやだーッ!!」

二人が出て行った博麗神社では、衣玖が独り残されていた。
弾幕を放ちながら追いかけっこをしている二人を見て―――、

「お二人は仲が良いですね」

―――そう呟き、心の底から天界よりも仕事が楽そうだと思うのだった。

                       終わり
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