竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十話 色鮮やかな門番

 

残暑厳しい八月の終わりごろ、今日はフランドールと遊ぶために紅魔館にやってきた。

夏場は晴れの日が多かったから、向こうが神社に遊びに来る事は殆どなく、俺が遊びに行く事の方が多かった気がする。

フランドールは吸血鬼だし、真夜中にやって来ても不思議じゃないんだが……確実に寝れないので止めてもらってる。

深夜遅くにアイツと弾幕ごっことか、別に出来ない訳じゃないけど可能な限りやりたくない。

 

そんな事を考えながら紅魔館の門の前に辿り着くと、屋敷の門番がなにやら奇妙な踊りをしていた。

いや踊りと言うには少々奇妙で、穏やかでゆったりと流れて動く拳法のように見えなくもない。

前に見た霊夢の舞いの様な流麗さはないけど、アレも何らかの舞踏の一種なのかもしれないな。……でも、奇妙な動きだ。

 

「門番、そんなところで何をしてるんだ?」

「あ、リュウ。こんにちわ」

 

俺が声を掛けると門番は動きを止めて、礼儀正しく挨拶をしてくる。

さっきまで奇妙な踊りをしていた割には、門番の額に汗一つ無く、呼吸も全く乱れていない。

それほど長い時間動いていないのかと思ったが、彼女の足元の草は何度も踏み締められた様に力なく倒れていた。

少し踏んだ程度で此処までなるとも思えないし、少なくとも二・三時間はさっきの動きをしていたと思う。

 

「…? 私の足元に何か在るんですか?」

「踏み締められて倒れてる草が」

「三時間近く眠気覚ましの太極拳をしてましたからね。この位は仕方が無いですよ」

「太極拳って、さっきの変な踊りの事か?」

 

俺が何の気なしに尋ねてみると、何故か知らないけどいきなり門番が怒り出した。

 

「変な踊りってなんですか! アレでも立派な武術の一つなんですよ!!」

「んな事言われても知らないし」

「知らないってなんですか! あなたは中国武術を舐めてるんですか?!」

「……お前の怒りのポイントが分からない」

 

なんで思ったことを口にしただけなのに、此処まで怒られないといけないんだ?

太極拳なんて見るのも聞くのも初めてだと言うのに、一目見ただけでアレが武術の一つなんて理解出来る訳無いだろ。

もっとも、この事を門番に伝えたとして彼女の怒りが収まるとは思えないがな。

 

「良いでしょう。リュウがその様な態度を取るのなら、中国武術の力を思う存分に思い知らせてあげます!!」

「なんでそうなるんだよ?!」

「問答無用……いざッ!!」

 

言いたい事だけ言うと、門番は素早く構え拳を突き出してきた。

俺は咄嗟に愛刀を抜き、剣を盾代わりにして彼女の拳を防ぎつつ、後ろに跳んで距離を取る。

物凄く今更な事なんだけど、幻想郷の住人って人の話を聞かない奴が多いよな。

何時も良く分からない理由で襲い掛かってきたりするし、もう少し人の話を聞いてくれても良いだろ。特に妖夢とか妖夢とか妖夢とか。

なんど倒しても立ち向かってくる根性は凄いと思うが、もうちょっと来る回数を減らしてくれても良いだろ。

 

「……って、今はそんな事を考えてる暇は無かった」

 

頭を切り替えた俺が急いで剣を構え直すと、門番はダッシュでコッチに向かって突っ込んでくる。

俺は門番の動きに合わせるように剣を振るい、彼女を俺の懐に潜り込ませない様にする。

リーチで言えば剣を使う俺の方に分があるものの、完全に密着されてしまうと一気に俺の方が不利になってしまう。

これは得物の特性と言うか、懐に潜られると思うように剣を振れない上に、俺が振り下ろすよりも彼女が繰り出す拳の方が速い。

門番の攻撃力がどの程度か分からないが、密着されると一気に体力を削られる可能性がある以上、彼女を懐に潜り込ませる訳には行かない。

そう思いながら、俺は剣を縦横無尽に振るい、門番の接近を拒み続ける。

 

俺は肩を斬り捨てるように袈裟斬りを放ち、其処から胴を薙ぐように剣を横に振るう。

門番に袈裟斬りと胴薙ぎは躱され、間合いの侵入を許してしまうが、俺は直ぐに刃を反し、彼女の脇腹から肩に向かって一気に切り上げる。

その斬撃も後ろに跳ばれて避けられるが、俺は間合いを更に詰めて彼女の頭上から股下にかけて真っ直ぐ振り下ろし、追撃として胸部に向かって鋭い突きを叩き込む。

門番は最後の一撃をギリギリの所で防いだものの、突きの勢いに負けて後ろに押し飛ばされる。

 

「むぅ、流石に妹様の遊び相手を務めるだけの事はありますね」

「そらどうも」

 

俺は剣を構え直しつつ、褒められてるのか怪しい言葉を軽く聞き流す。

ふと空を見上げると、箒に乗った黒い影が屋敷の方に突撃して行く姿が眼に入った。

箒に乗って空を飛ぶやつなんて俺は一人しかいないが、門番としてアイツを止めなくて良いか?

 

「中々接近できませんし、此処は戦い方と変えましょう」

「おい、中国武術は如何した」

「そんな細かい事を気にしてはいけない!!」

「細かくは無いからな!」

 

突拍子も無い言葉についツッコミをいれてしまうが、門番はそんな事お構い無しに虹色に光る針の様な弾幕を飛ばしてくる。

俺は剣でその弾幕を切り裂いていると、いきなり門番が自身の地面を力一杯蹴り上げた。

彼女が蹴り上げた地面から虹色の渦が発生し、真っ直ぐ俺に向かって襲いかかって来る……がそれ自体は大した脅威にはならない。

向かってきた渦も難なく切り払い、次は何が飛んでくるのかと警戒していると―――

 

「虹符『烈虹真拳』!」

 

―――門番はスペカを宣言し、俺に向かって虹色の光を放つ突きを扇状に乱打してくる。

俺は力を込めた斬撃の弾を飛ばし、彼女の突きを相殺しようとしたが、放った斬撃は無数に繰り出される突きの前に掻き消されてしまう。

斬撃を掻き消してなお止まる事無い突きを前に、俺は自分に当たりそうな突きだけを捌いていき、それ以外の突きは最小限の動きで回避していく。

一見狙いを付けて拳を繰り出してるように見えるが、実際に受けてみると全くのデタラメに繰り出している拳が多い。

恐らくは扇状に繰り出す事で、低い命中力を補っているんだろ。

だから自分に当たる奴だけを捌いていければ、それ以外の拳は無視しても直接当たる事はほぼ無くなる。

そうやって突き出してくる拳を捌いていると、門番は拳を繰り出すのをやめた。

この隙に一気に攻め込もうと剣を振り下ろそうとしたが―――

 

「気符『星脈弾』!」

 

―――門番は直ぐさま二枚目のスペカを宣言し、俺に向かって青白く光る大型の弾を放って来た。

彼女に向かって振り下ろす筈の剣だったが、目の前に現われた弾に邪魔をされて直撃させることは出来ず、代わりに放たれた弾を斬り裂いた。

剣で弾を斬り捨て、直ぐにでも彼女に追撃をしようとしたが、ソレよりも早く門番に間合いを詰められ、鳩尾の辺りに肘を叩き込まれてしまう。

 

「かはっ」

 

鳩尾に肘を喰らい、肺に貯まっていた酸素を吐き出してしまい体勢が崩れる。

其処に追撃として掌底を叩き込まれ、更に身体を回転させて勢いの乗った裏拳を顔で受け、オマケに腹に膝を叩き込まれた。

これだけで今朝食べた物を戻しそうに為るが、彼女の攻撃はコレだけでは終わらないようだ。

 

「気符『地龍天龍脚』!」

 

スペカを宣言した門番は、力強く踏み込み無理矢理俺の身体を宙に浮かせ、其処に力を込めた跳び蹴りを叩き込んでくる。

宙に浮んでいた俺は、その跳び蹴りで身体ごと更に上へと運ばれ、そのまま蹴り飛ばされてしまう。

口の中に胃酸か何かが上って来たが、それを無理矢理飲み込んで空中で体勢を立て直し、なんとか地面に着地した。

門番も今地面に降りて来た所で、今すぐ追撃をしてくると言う事は無いだろう。

俺はポケットからスペカを取り出し、門番に聞こえるように宣言する。

 

「人符『現世斬』!」

 

俺の声に反応して門番が距離を取ろうとするが、俺はソレよりも速く彼女に斬り込んだ。

目視出来ないほどの速度で剣を叩き込まれた門番は、今の一撃の威力に押されて上へと吹き飛ばされていく。

吹き飛んで地面に戻ってきた所を、俺は追撃として上段から剣を振り下ろし、彼女の身体を穿つ位の勢いで突き刺し、肩口から脇腹に掛けて斬り裂く。

更に剣を脇腹の辺りで構えて、さっきの『現世斬』の要領で彼女の身体を今度は十字に斬り裂いた。

 

此処で相手からの反撃を警戒した俺は、一度距離を取り門番の出方を窺う。

本当ならもうちょっと追撃を叩き込みたいところだが、あの技は如何しても後が続かない。

やっぱり、一瞬にして十字に斬り裂くのが無茶なんだろうか? でも、あの技は結構気に入ってるんだよな。

 

「うぐぐ……。まさか、此処まで反撃を食らうとは思いもしなかった」

「そう言うアンタは、見た目以上に丈夫だな」

「この位でないと此処の門番は務まりませんから」

「(……ちゃんと門番の役目を果たせてるのか物凄く疑問だけどな)」

 

俺は彼女の普段の勤務態度を思い返し、つい心の中でツッコミを入れる。

だが、何度も魔理沙に屋敷へ侵入されているところを考えると、如何してもそうツッコンでしまう。

そんな事とは露知らず、門番は拳を握り締めて戦闘続行の意思を示してくる。

この後フランドールと遊ぶ事を考えると、ここら辺で終わりにしたいが……此処でそんな事を言い出したらきっと怒るだろうな。

俺は疲れた様な溜息を吐きながら、剣を構え直し彼女の意思に応える為に新たなスペカを取り出す。

 

「剣技『桜花閃々』」

 

スペカを宣言した俺は、先ほどの技と同じ様に脇腹で剣を構え、地面に斬撃を叩き込みながら目視出来ない速度で彼女に向かっていく。

門番には直接攻撃しないものの、俺が駆け抜けた道の上から桜色の剣気が立ち上り、その一部が彼女に襲い掛かる。

桜色の剣気は彼女の気に防がれてしまうが、その背後には致命的な隙が生じた。

俺は直ぐに反転し、門番の背中に向かって剣を振り払い、更に下段から斬り上げる。

 

背後から攻撃を受けた彼女は直ぐに振り返るが、それよりも先に俺が肩口に向かって剣を振り下ろす。

剣は門番の右肩に入ろうとしたが、彼女は剣の動きに合わせるように動き、俺の背後へと周りこんだ。

その状態から背中に強烈な一撃を貰い、勢いのあまり前方へと押し出されてしまう。

痛む背中を無視して俺は直ぐに振り返り、そのまま斬撃の形をした弾を門番に向けて飛ばす。

 

阻むモノもなく、斬撃は真っ直ぐ門番へと向かっていくが、彼女はこともあろうに拳一つで俺の斬撃を叩き壊した。

あまりにも突然の出来事に驚いていると、門番がコッチに向かって跳ね上がり、踵落としみたいな蹴りを叩き込んでくる。

俺は咄嗟に剣を振り上げ、今の一撃を捌くものの、彼女の接近を許してしまう。

 

間合いを詰めた彼女は、俺に素早く掌底を叩き込み、その場で回転しながら自身の肩を叩き付け、オマケに脚払いをして俺の体勢を崩してきた。

俺は仰け反るように後ろに倒れそうになるが、ムリヤリ空中で回転して倒れこむのを回避しながら、なんとか彼女との距離を取る。

此処から反撃しようと素早く体勢を立て直したその時―――

 

「華符『彩光蓮華掌』!」

 

彼女が懐から取り出した新たなスペカを宣言し、真っ直ぐ俺に向かって突撃して来る。

咄嗟にこの技はヤバイと判断し、なんとか回避しようとしたが……間に合わず、彼女の掌底を叩き込まれた。

受けた一撃自体は大した事ないんだが、俺の体内に何らかの力を流し込まれたらしく、その力が段々と虹色に輝き出す。

光は俺の視界を覆うくらいにまで膨れ上がり、限界にまで膨れ上がったところで一気に弾け、体内から途轍もない衝撃が全身を駆け巡った。

 

「グアッ!!」

 

駆け抜けた衝撃に意識を失いそうになるが、なんとか歯を食いしばり踏み止まる。

直ぐに門番の方を振り向くと、彼女の拳が俺の直ぐ目の前に迫り、当たる直前で止まった。

口には出さないものの、門番の眼は〝降伏して下さい〟と訴えているようにも見える。

確かに今の俺は、後もう一撃でも喰らえば倒れる程に弱っているが……自分から降参する心算は微塵も無い。

俺は戦い続ける意思表示に彼女を睨み返し、握り締めている剣にありったけの力を込め、刀身は今までに見た事のない位に鈍く輝く。

その様子を見た門番は、眼を瞑り一呼吸置いてから……寸前で止めていた拳を突き出してきた。

普通なら回避出来ない様な攻撃だが、俺は頬をざっくりと切られながらもなんとか回避する。

そして握っている剣を逆手に持ち直して地面に突き刺し、溜めていた力を一気に解放して……巨大な剣気を門番の足元に発生させ、彼女の身体を天高く吹き飛ばした。

 

「……ッ!?」

 

カウンター気味に繰り出した一撃がトドメとなり、門番は空中で気を失いそのまま地面に落下して来た。

なんとか立ち上がった俺は、彼女が地面に激突する前に受け止めた後、無造作に放り投げる。

彼女を放り投げた時点で限界に来ていた俺は、そのまま地面に仰向けで倒れ込み、大の字になって意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

戦いで気を失っていた俺は、誰かに頬を突かれる感覚で眼を覚ました。

眼を覚まして最初に飛び込んできたのは、暇そうに俺の頬を突くフランドールの顔と、何故か一緒に居る魔理沙の姿だった。

 

「……何してんだ、フランドール」

「あ、眼を覚ました」

「おそようだぜ、リュウ」

「其処は〝こんにちわ〟で良くないか?」

 

魔理沙にツッコミを入れつつ、俺は身体を起こして軽く腕を伸ばす。

結構寝ていたのか軽く頭がボーっとするが、この位なら大したことはないだろう。

俺は状況を確認する為に今居る場所を軽く見渡してみた。

壁は紅魔館特有の紅で統一されているが、この部屋には窓がなくランプの灯りだけが部屋を照らしている。

部屋のアチコチに壊れた人形が散乱している所からみて、恐らく此処は地下にあるフランドールの部屋だろ。

前に何度かお邪魔した事があるが、なんで俺はこんな所で寝ているんだ?

 

「…? 如何したのリュウ?」

「いや、なんで俺は此処で寝てるのかな~って」

「それなら咲夜の奴が此処まで運んできてたぞ。なんでも〝門の所で倒れてた〟とか言ってたな」

「……そっか」

 

咲夜の手を煩わせたみたいで申し訳なく思いつつ、態々運んでくれた事に心の中で感謝する。

門番はどうなったのか分からないけど、彼女の扱いを考えるにきっと外で放置されるんだろうな。

 

「リュウも起きたし、早速遊ぼう!」

「寝起きなんで弾幕ごっこは勘弁な」

「えぇ~!!」

「何して遊ぶのか分からないが、折角なんでわたしも混ぜろ!!」

「……なら序でにパチュリーと小悪魔も巻き込むか」

「それは面白そうだな。早速アイツ等の所に行くぜ!!」

 

俺の提案に乗ってきた魔理沙が、独り先走って部屋から物凄い勢いで出て行った。

魔理沙の行動力に呆れつつも、寝起きであのテンションについていけるか物凄く不安だ。

 

「あの二人と遊ぶのって初めてかも……」

「二人共顔見知りなんだから、変に緊張する必要も無いって。……ほら、行くぞ」

「うん!」

 

俺はフランドールの手を引いて、この子の歩調に合わせながら魔理沙の後を追いかける。

戦った後だからか、それとも寝起きだからか分からないけど、まだ身体も気だるいし、あんまりテンションの上がる遊びはしたくないな~。

 




格闘戦だとレミリアや咲夜とも戦える門番。なので今回はそこそこ苦戦したけど、リュウが竜変身(トランス)してたら瞬殺確定です。
通常時と変身時では結構力に差がありますからね。カイザー辺りに変身した場合、勝てる奴なんて幻想郷でも数える程度しかいませんよ。
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