竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十二話 永夜異変

紫Side

 

木々が紅葉を始め虫たちが合唱を奏でて、季節の移り変わりを知らせる九月の下旬。

今宵は一月ぶりの満月だと言うのに、幻想郷の空がどうも可笑しい。

もう満月が天高く昇っても良い頃だと言うのに、何時まで待っても満月ではない欠けた月が空に昇る。

この程度の事は人間達には何の影響も無いが、妖怪たちに取っては夜が明けても太陽が昇らないのに等しい。

恐らくは、誰かが偽の夜空をとすり替えてあの偽の月を昇らせているのでしょう。

妖怪たちはこんな莫迦な事はしないし、人間達にこんな事をする意味がない。

なら犯人は……竹林に隠れ住んでいる異邦人たちって所かしら。

 

「……紫様」

「何かしら、藍。……まぁ、言わなくても分かるけど」

「でしたら紫様自ら赴かれますか?」

「何を言ってるのよ、幻想郷の異変を解決するのは巫女の仕事……そうでしょ?」

「それはそうなのですが……」

「貴女の心配も分かるけど大丈夫よ。今回は喧嘩を売りに行く訳でもないのだし、彼もいきなり斬りかかったりしないわ」

「……紫様が其処まで仰られるのでしたら」

「良い子ね。……それじゃ、留守番は任せたわよ」

 

私は目の前の空間に指でなぞり、此処と博麗神社を繋ぐ隙間を作り中に入る。

あの子達に会うのは二月ぶりだけど、今回はしっかり働いて貰うわよ霊夢……そして、異世界の竜神さん。

 

紫Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウSide

 

風呂も上がり、そろそろ寝ようかと考え始めた夜更け頃。

最近は虫たちの音も五月蝿くなってきて、本格的に秋が始まったんだな~っと思うようになった。

鈴虫たちの音色を聞きながら、眠る前にお月見でもするのも良いかもしれない。

そんな事を考えつつ空を見上げてみると、夜空にはいびつに歪んだ月が空に昇っていた。

 

「……なんだありゃ?」

「ん? 如何したのよリュウ」

「あ、霊夢。…ちょっと月の様子がおかしくてな」

「月が?」

 

何時もの白い寝巻きに着替えていた霊夢は、俺の隣りにやってきて一緒に月を見上げる。

 

「ホントだ。なんか妙に歪んでるわね」

「この世界の月はあんな風に歪むものなのか?」

「そんな訳無いでしょ。……アレが何を意味してるのか知らないけど、別にほっといても大丈夫よ。月が歪んで見えるだけなんだし」

「それもそうだな」

 

俺と霊夢はあの月をほっておく事に決めて、それぞれの部屋に戻り今日はもう休む事にした。

明日は一体何をしようかと考えていると、俺の背後に突然誰かの気配を感じとる。

誰にも察知されずに突然背後に出現できる奴なんて、幻想郷と言えど神出鬼没なアイツくらいしか居ない。

俺は迷わず愛刀を手の中に呼び出し、後ろに居る奴に向けて後先考えず剣を振るった。

 

「お久し振り……って危ない?!」

「…チッ。外したか」

 

振るった剣は当たる前にスキマに潜られてしまい、首を刎ねる事が出来なかった。

実際に殺すと人妖のバランスが崩れるそうだし、本当に当てる心算もなかったんだけどな。

運が良ければ喉を痛めるくらいの事にはなったろうけど……実に惜しい。

 

「全く、久し振りに会った相手の首を刎ねにいく普通?」

「アンタには会いたくなかった。今すぐ帰れ」

「……酷い嫌われようね」

「アレだけの事をされて好きに為るわけねぇだろ」

「それもそうね」

 

スキマ妖怪は可笑しそうにクスクスと笑いながら、潜っていたスキマ空間から抜け出てくる。

空間から抜け出た妖怪は、何時もの紫色のドレスではなく、白を基調にした別の服を着て長い髪をまとめていた。

何時もと服装が違うだけで大分印象が変わってくるが、俺に取ってコイツは敵である事に代わりは無い。

一体どう言う用件でウチに来たのか知らないけど、時間帯も考えずにやって来るなんて良い度胸してるな。

 

「…ちょっと竜神さん、その殺気を納めて欲しいのだけど?」

「お前が帰れば直ぐに納める」

「ちょっと霊夢、私の事を変な風に説明したんじゃないでしょうね」

「そんな事するわけ無いじゃない。それよりも一体何しにきたのよ。コッチはもう寝る心算だったのに」

「寝るって……二人同じ布団に入って、あんな事やこんな事を―――」

「するかーッ!!」

 

妖怪の一言に顔を真っ赤にさせた霊夢が、アイツを全力でぶん殴ろうと拳を繰り出す。

だが、拳が当たる前にスキマ空間に潜られてしまい、霊夢の拳は空しくも空を切った。

 

「うわっ?!」

 

殴りかかった時の勢いが良すぎた所為か、拳を避けられた霊夢はバランスを崩して転びそうになる。

俺は霊夢が本当に転ぶ前に、彼女の身体を抱き締めるように受け止めてあげた。

 

「大丈夫か?」

「…………うん」

「あらあら、本当に仲が良いわね~」

「う、うっさい! さっさと用件だけ言え!!」

「はいはい、分かったわよ」

 

再びスキマから顔を出した妖怪が、漸く此処に来た用件を語り始める。

 

「貴女達、あの歪んだ月は見たでしょ?」

「えぇ見たわよ。それが如何かした?」

「実はあの月を元に戻して欲しいのよ」

「……随分と無茶な事を言う妖怪だな」

 

俺は妖怪の言葉を聞いて、呆れて思わず一言吐き捨てるように呟いた。

真夜中に突然何を言い出すかと思えば、歪んだ月を元に戻してくれなんて……そう言うのは万物の境界を操るどっかの誰かさんの方が適任だと思うがな。

 

「元に戻すと言うのは少し語弊があるわね」

「じゃあ如何言う事よ」

「実は、今見えている月は本物ではなく偽物の月なの。だから、あの偽の月を如何にかしてもらいたいのよ」

「偽物の月って……そんなのが空に浮んでても、何の影響も無いんじゃないの?」

「何を言ってるの霊夢。月の光は妖怪にとってかなり重要なモノよ、それが偽物にすり替えられたとあっては、妖怪たちにどんな影響を及ぼすか分かったもんじゃないわ」

「そうはいってもねぇ~」

「……仕方が無いわね。それなら貴女が喜ぶようなとびっきりの報酬を用意してあげる」

「どんな報酬よ」

「ちょっと待ちなさい」

 

スキマ妖怪は新たに別のスキマ空間を作り出し、その中に自分の手を突っ込んで何かを探し始めた。

アレでもないコレでもないと言いながら探していると、何かを掴んだらしく急に動きを止める。

俺と霊夢は一体何が出てくるのかと思いながら様子を見ていると―――

 

「コレが今回の貴女の報酬よ。受け取りなさい!」

 

―――妖怪がスキマから取り出して来たのは、純白の女性用の着物だった。

所々細かな意匠が施されていて、素人の俺が見ても相当の値段がするのは容易に想像が出来る。

……にしても、なんで白い着物が報酬になるんだ? それを香霖堂に売れというのか?

 

「それってもしかして……」

「えぇ、白無垢よ」

「要らないわよそんなの!!」

「なによ~。折角龍神が貴女の為に創ってくれたのよ、快く受け取るのが筋ってものでしょ」

「そう言う問題じゃないわよ!!」

「…霊夢、白無垢ってなんだ?」

「アンタは知らなくて良い!!」

「…??」

 

霊夢が何に怒ってるのか分からないが、あの〝白無垢〟とやらについて俺は知らなく良いそうだ。

たかが着物一つで其処まで怒る必要もないと思うが、そんなに気に入らなかったのか?

白い着物を着た霊夢って言うのも、結構似合うと思うんだけどな……勿体無い。

 

「白無垢が駄目なら、純白のウェディングドレスを用意するしかないわね」

「そう言う服は要らないから、もっとマシな報酬を出しなさいよ!!」

「なら、貴女達が異変を解決するまでに用意するから頑張りなさい。空は私が止めるからソレまでに解決するのよ」

 

そう言うとスキマ妖怪は、取り出した白い着物と一緒にスキマ空間に消えて行った。

 

「紫に言われなくたって分かってるわよ!!」

 

すっかり頭に血が上っている霊夢は、誰も居ない空間に向かって声を荒げた後、そのまま自室へと向かって行く。

俺は怒り心頭気味の霊夢に呆れて溜息を一つ吐き、自分の部屋に戻って色々と準備をする事にした。

完全にあの妖怪に乗せられた形になったけど、月夜の散歩も案外良いのかもしれないな。

 

 

 

 

………

……

 

着替えやら装備を整えた俺と霊夢は、直ぐに神社を飛び出し夜の幻想郷の空を駆け抜ける。

幻想郷の空に昇る月は、神社で見たモノとは違い少し欠けているモノだったが、あの月は偽物とのことだったな。

確かに良く見てみると普段の月と違って欠けている上に、紅く輝いているようにも見える。

紅い月って言えばレミリアを思い出すけど、アイツは今回の異変とは何の関係も無いんだよな?

 

「全く、紫の奴は一体何を考えてるのよ。報酬が白無垢とか聞いた事も無いわ」

♪~♪~♪~

「俺は着物一つであそこまで怒る奴を初めてみたぞ」

♪~♪~♪~

「あんな物を出されて怒らない方が如何かしてるわよ」

♪~♪~♪~

「……そんな事もないと思うけどな」

♪~♪~♪~

「あ~ムシャクシャする。……そしてさっきから五月蝿いのよアンタ!!」

 

さっきから俺達の近くで歌を歌っている妖怪に一喝し、霊夢は懐から一枚のスペカを行き成り取り出した。

 

「ちょっと待て霊夢!?」

「神霊『夢想封印』!!」

 

俺が止める間もなく霊夢はスペカを宣言し、近くで歌いながら飛んでいた鳥っぽい妖怪に『夢想封印』と叩き込んだ。

避ける間もなく全ての光弾が命中した妖怪は、そのまま力なく地面に向かって墜落していく。

その様子を眼にした俺は、心の中で名も知らぬ彼女に手を合わせるくらいしか出来なかった。

 

「……この程度じゃ全然すっきりしないわね。こうなったら片っ端からぶっ飛ばすわよ!!」

「お、おう……」

 

俺は霊夢の気迫に負け、今の事に注意する事も出来ずに彼女の後を付いて行く。

……彼女の後を追う中で、これから出会う妖怪たちを哀れむ事しか出来なかった。

何らかの方法で、周りに居る妖怪たちに注意を呼び掛けたほうが良いんじゃないのかコレ。

 

リュウSide out

 




永夜異変に登場する妖怪の順番がちょっと違いますが、あまり気にしないで下さい。書いたときの軽いミスって奴です。
直すほどの事でも無いのでこのまま行きます。
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