竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十三話 知識と歴史の半獣

リュウSide

 

スキマ妖怪に月を元に戻せと言われて夜の神社を飛び出した俺と霊夢。

夜空に浮んでいる偽の月を出現させた奴が、この幻想郷の何処かに居るらしいが……一体何処に居るのか皆目見当もつかない。

まぁ、何時も通り霊夢の勘を頼りに適当に進んでいればその内見付かるだろうし、俺は俺で気楽な夜の散歩でも楽しむとしようかな。

 

「コレで50匹目っと。……やっぱり妖精ごときじゃ歯ごたえが無いわね」

「霊夢、暴れすぎ」

 

気楽に夜空を飛んでいる隣で、霊夢は俺達に襲いかかってくる妖精達を一匹残らず退治している。

無謀にも俺達を襲って来る妖精も妖精だが、それを律儀に全部薙ぎ払っている霊夢も霊夢だ。

……やっぱり、神社でのあのやり取りを相当根に持っているのか。

ずっとストレスを堪めたままってのよりもマシだけど、羽虫の様に落とされる妖精達がちょっと哀れだ。

 

「暴れすぎって、妖精は自然が消えない限り死ぬ事はないから、この程度は如何ってことないわよ」

「確かにそうなんだけどな」

「大体、殺気立ってる私に喧嘩を売りに来るほうが悪いのよ」

「……それを言われると何も言い返せないんだが」

「なら良いじゃないの」

「そうか?」

「そうよ」

 

なんだが上手く丸め込まれた気もするけど、とりあえず今は気にしないでおこう。

頭を切り替えて散歩の続きを楽しもうかと前を見てみると、暗がりの中に白い上着に黒の半ズボンを穿いて、黒いマントを付けた、頭に虫の触覚がある緑の髪の〝男の子〟が飛んでいた。

触覚が生えている時点で妖怪なのは間違いないが、女性の妖怪ではなく男性の妖怪をこの眼で見るのは初めてだ。

出会う妖怪みんな女性だから、男の妖怪は存在していないと思っていたんだが……探せば居るモノなんだな。

 

「見ろよ霊夢。あそこに男の子の妖怪が居るぞ」

「あらホント。こんな所で何をしているのかしら」

「俺、男の妖怪とか初めてみたんだがちゃんと居るもんなんだな」

「そりゃ居るわよ。紫みたいな単一妖怪は兎も角、種族として繁栄してる妖怪もいるんだから、ちゃんと性別が無いと困るじゃない」

「なるほど。確かにそのとおりだな」

 

霊夢の言い分に思わず納得してしまう俺だが、彼女も男の妖怪を見るのは珍しいみたいだ。

他人に興味がないと断言している霊夢が、物珍しいものを見たような視線であの子の事を観察してるのがその証拠。

妖怪も一応種族として確立しているんだし、男の妖怪がいても不思議じゃないんだが……なんで出会う妖怪みんな女性ばっかりなんだ?

何かしらの思惑でも働いているんじゃないのかって、考えたくなる位に女性率が異様に高いんだよな。

 

「それにしてもリュウが男の妖怪を見るの初めてって何か意外ね。色んな所に行っているんだから一度くらいは見てると思ってた」

「どう言う訳か知らないけど、知り合いになる妖怪はみんな女性ばっかりで、男の妖怪に出会った例が無い」

「それはそれで凄い様な気もするけど、どんな確立ならそんな風になるのかしらね」

「もともと幻想郷は女性の比率が高いのか、天文学的数字なのか分からないが、珍しいモノが見れたからよしとしよう」

「男の妖怪を珍しいって言うなんて、アンタも相当変わってるわよね」

「実際に珍しかったんだから仕方が無いだろ」

 

俺と霊夢が男の子を無視してそんな会話をしていると―――

 

「…さっきから好き放題言ってくれちゃって。私はコレでも女だーッ!!」

 

―――突然声を大きく張り上げて、俺達に向かっていきなりとび蹴りを叩き込もうと飛び掛ってきた。

彼の突然の行動を見た俺は咄嗟に霊夢の前に立ち、飛んでくる彼の脚を徐に鷲掴みする。

俺は脚を掴んだまま、彼を振り回すように何度も大きく回転して―――

 

「でりゃあッ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!」

 

―――幻想郷の彼方へ飛ばすぐらいの勢いで、彼を明後日の方向に向かって思いっきり投げ飛ばす。

彼は悲鳴を挙げながら物凄い勢いで飛んで行き、直ぐに夜の闇の中に消えていき姿が見えなくなる。

ちょっとばかり勢いを付け過ぎたと反省しながら、妖怪だしアレくらい平気だろと勝手にそう思う事にした。

 

「大丈夫か霊夢」

「えぇ、私は平気だけど……随分と遠くにまで飛んで行ったわね」

「……やっぱり不味かったか?」

「あんなんでも妖怪みたいだし、きっと大丈夫よ。それよりも先を急ぐわよ」

「…そうだな、さっさと解決して寝たいし」

「それに付いては同感ね」

 

俺達はあの妖怪の事を放置したまま、本当の月を取り戻すために先を急ぐことにした。

その道中で襲って来る妖精達は、霊夢のストレス発散がてらドンドン倒されて行く。

悪戯に命を賭けられる辺り、妖精ってのも意外と侮れない様なそうでもない様な……微妙なところだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

霊夢の勘を頼りに夜の幻想郷を飛んでいた俺達は、気が付くと人里付近にまでやって来ていた。

時刻は既に深夜遅くだから、里にある家々の明かりは消えて暗くなっているかと思いきや、如何やら何時もとは様子が違うみたいだ。

 

「里が何処にも見当たらないわね」

「……集団失踪か」

「そんな訳ないでしょ」

 

本当なら里がある筈の場所に辿り着いたが、何故か最初から存在していた無かったように里は影も形もなくなっていた。

流石に集団失踪はただのボケだけど、人どころか建物も姿を消しているのは如何考えても異常だ。

ただでさえ異変が起こっているってのに、如何してこうも立て続けてに別の異変が起こるんだよ。

 

「如何する霊夢。あの妖怪の依頼を無視して、消えた人達を探すか?」

「う~ん……如何しようかしらね」

 

俺達が妖怪の依頼を続行するか、人々の行方を探すかで悩んでいると、消えた里の方から誰かがコッチにやって来る。

消えた里の生き残りかと考えていると、俺達の方にやって来たのは何処か難しい顔をしている上白沢さんだった。

 

「あ、慧音。丁度良かった、アンタに色々と聞きたい事があるんだけど」

「……それは此方の台詞だ。まさかとは思うが、この異変はお前達の仕業ではないだろうな」

「はぁ? いきなり何を言ってるのよ」

「恍けるな。満月にも関わらず欠けたままの月と、止まったままの夜空……この二つはお前達の仕業ではないかと聞いている」

「そんな訳ないでしょ。どっちも私たちは無関係だし、空に浮んでる偽の月をなんとかする為に動いてるのよ。犯人扱いされたら堪ったもんじゃないわ」

 

如何やら上白沢さんは、俺達が偽物の月を浮かべたと思っているらしいが、霊夢が言った通り俺達は無関係だ。

あ~でも、夜空がずっと止まったままなのはあのスキマ妖怪の所為だし、完全に無関係とも言いがたいのかもな。

確かあの妖怪が〝空は私が止めておく〟とか何とか言っていたような気がするし。

 

「……もしかしたら、止まったままの夜空は俺達にも責任あるかもな」

「なんでそうなるのよ。私たちにそんな事出来るわけないじゃない」

「あのスキマ妖怪が一枚噛んでるとしたら、俺達も無関係とは言いがたいぞ」

「むぅ……」

「つまり如何言う事だ? 分かりやすく簡略的に説明してくれ」

「分かり易く言うとですね、欠けた月を元にも戻せと依頼してきた妖怪が夜空を止めてるんです」

「ならば、お前達を倒したとしても空は―――」

「元には戻らないと思います。多分、月はそのままですし、明日にはまた止められるかと」

「そうか」

 

俺の説明を聞いて納得してくれたのか、難しい顔をしていた上白沢さんは肩の力を抜いた。

あんな適当な説明で理解してくれたのは有り難いけど、よく今の説明で納得してくれたな。

今までにあった妖怪とかだと、人の話を聞かないで襲ってきたりする奴が多かったから新鮮な感じがする。

 

「ところで、お前達はコレから如何する心算だ?」

「……今は月を取り戻しに行くか、消えた人々を探すかで迷ってます」

「消えた人間達の事なら問題ない。それは私が仕出かした事だからな」

「へっ?」

「夜空に異変が起こっているのを察してな、万が一に備えて里を隠したんだ」

「だったら、アンタをやっつければ元に戻るわけね」

「ちょっ、霊夢落ち着けって」

 

妙に好戦的な霊夢を宥めつつ、俺は上白沢さんが如何出るのか窺う事にした。

あの人の事だからずっとこのままって事はないだろうけど、もしも里を隠したままで居るようなら……俺は迷わず剣を抜く覚悟だ。

俺は出来る限り彼女への敵意を押さえ込みながら、向こうの出方を窺っていると……上白沢さんは呆れた様な溜息を一つ吐いた。

 

「お前達なぁ……。私は里の人間たちを愛しているんだぞ? 里が襲われないと分かれば直ぐに元に戻す」

「……まぁ、上白沢さんならそうしますよね」

「分かっているなら、敵意を込めた眼で睨むな。心臓に悪い」

「上白沢さんの事睨んでましたか?」

「嗚呼、思いっきりな」

 

意識していた心算はないんだが、上白沢さんから言わせると思いっきり睨んでいたらしい。

俺は自分の眉間に人差し指を軽く当てて、シワが寄ってないかちょっと調べてみる。

グニグニと軽く動かしてみるものの、もう目付きが直っているのかシワが寄っている様な感じはしなかった。

 

「里は私がキチンと元に戻すから、お前達は『迷いの竹林』に行くと良い」

「なんでよ」

「あの竹林には、昔に月からやって来たとか言う連中が隠れ住んでいる。もしかしたら、今回の異変に関係しているのかもしれんぞ」

「……もしかしたらも何も、ほぼ犯人確定したじゃないの」

「私もそう思うが……違うという可能性も否定出来んだろ?」

「まぁ良いわ。とりあえず、その『迷いの竹林』とやらに行ってみるかしらね。…行くわよ、リュウ」

「ん? 分かった」

 

霊夢に呼ばれた俺は、彼女の後を追うように『迷いの竹林』とやらに向かう。

竹自体は何度か見た事が在るんだが、竹林の中に入るのはコレが初めてかもしれないな。

なんで〝迷いの〟なんて呼ばれてるのか分からないけど、用心の為にも霊夢の手を握って離さないようにするか。

 

リュウSide out

 

 

 

 

慧音Side

 

竹林へと向かった二人を見送った私は、先刻言った通り消した里を元に戻す事にした。

発動していた能力を解除すると、広大な更地となっていた場所に無数の建物が出現する。

人々は既に眠りについているし、今回の異変を察知する者は誰も居ないだろう。

そう思い、私もいい加減眠ろうかと考えていると、何かが風を切る音を立てながら此方に近付いてくる。

私はもう一度能力を使い里を隠し、此方に近付いてくる輩を何時でも向かい討てる様に構える。

夜の暗闇の中、風を切って人里に近付いてきたのは、箒に跨った白黒の魔法使いだった。

 

「おっす、慧音先生。こんな夜中に何をしてるんだ?」

「……なんだ、霧雨か」

 

風を切る音から察して、私は鴉天狗あたりが近付いてきてるのかと思ったが違った様だ。

私は気が抜けて肩の力を抜き、取り出しておいたスペカを服のポケットに仕舞いこむ。

 

「ところで先生、この夜空の異変に付いて何か知らないか?」

「それに付いては霊夢とリュウが動いているから放っておけ。そんなことよりもだ、いい加減親父さんと仲直りを―――」

「あの二人が動いてるのか……こうしちゃ居られないぜ。またな、慧音先生!」

「あ、霧雨?!」

 

私の話しを聞く気が無いのか、霧雨の奴はかなりの速度を出して竹林の方へと飛んでいった。

随分と落ち着きの無い奴に育ったもんだと思いつつ、今回も説得出来なかったと肩を落とす。

 

「やれやれ、どうしようもないな」

 

私は一言呟いてから、能力で隠していた里を元に戻した。

今度アイツに会った時こそ説得しようと思いながら、今日はもう眠いので自宅に戻る事にする。

今月は仕事が出来なかったから、来月は二月分の仕事をしなければならないのか。……そう考えると物凄く憂鬱だ。

 

慧音Side out

 




永夜の戦闘描写は比較的少なめに為っている。
原作の弾幕を文字で表現するのが凄く大変なんだよ……。
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