此処は人間の里から見て『妖怪の山』とは正反対に位置する『迷いの竹林』。
深い霧と成長の早い竹の影響で目印もなく、妖精ですらこの竹林では迷うといわれている中、私はリュウと一緒に駆け抜けていた。
慧音の話だと、この場所の何処かに今回の異変の犯人らしき人物が居るみたいだけど、こんな迷いやすい場所を当ても無く探すのも大変なのよね。
せめて分かりやすい場所にあれば良いんだけど、迷うって言われている竹林で〝分かりやすい場所〟なんて在る訳無いか。
「見ろよ霊夢! 物凄く長い竹が生えてるぞ! …一体何mあるんだこれ?」
「さぁね。竹なんてのは、普通の植物よりも成長が速いって聞くし、今現在の長さを計っても明日には変わってるわよ」
「へぇ~……。凄いんだな竹って」
「て言うか、前に居た世界で見た事無いの?」
「多分在ったと思うけど、あんまり記憶に無いな」
「……過去の大半を失ってる奴が言っても説得力に欠けるわね」
「ごもっとも」
隣を飛んでいるリュウは、私の言葉に聞いて面白おかしそうに笑いながら返事をした。
その様子を見て、なんだか子供みたいと呆れつつも、ちょっとだけ可愛いと思ってしまう。
こんな事を思ってしまう時点で相当重症なんだろうけど、治したいって思わないから相当性質が悪い。
「にしても、竹の葉は見るのに花は全然見かけないな。夜には咲かないのか?」
「竹の開花は60年周期と120年周期があるわ。此処の竹の周期は分からないけど、人間からしたら一生に一度見られるか如何かよ」
「一生に一度か……。なら、俺は何回見る事になるんだろうな」
「アンタが見たいと思うなら、何回だって見られるんじゃないの」
「……それもそうだな」
「……………」
ついさっきまで私の隣りで笑っていたリュウだけど、今は何かを思い詰めているように暗い顔をしている。
沈んでいるリュウはあまり見たくないけど、彼が何を考えているのかは何となく分かった。
だけど、その事を考えたくはないし、こうして二人で居られる時間を満喫していたいと私は思う。
何時かその日が来るのだとしても、最後の最後で悔やむだなんてそんなの絶対にいや。
叶う事なら最後まで二人笑顔のままで同じ道を歩んで行きたい……。
そんな私の想いなど露知らず、リュウは暗がりの中で何かを発見したらしく、私の服を引っ張ってきた。
「霊夢、あそこに筍が生えてるぞ。持って帰って明日は筍料理でも作るか?」
「それも良いかもしれないけど、それは異変が解決した後ね。……筍を抱えたまま戦うなんて見っとも無いじゃない」
「確かにそうだな」
思い詰めて暗い顔をしていたリュウだけど、今は少しだけ明るくなった。
表情がコロコロ変わると言うか、喜怒哀楽の感情が激しいと言うか……本当に良く表情が変わるわね。
見ていて飽きないんだけど、あの『アンフィニ』の事を考えると〝本当のリュウ〟は一体どれなのか分からなくなる。
前に見たときの『アンフィニ』は、何処か感情のない人形か敵を滅ぼすだけの機械の様な印象を受けた。
あの竜が彼の本質なんだとしたら、今私の目の前で笑っているのは本当のリュウなのか疑問を覚えてしまう。
「……何を考えているんだか。どの顔が本当のリュウだとしても、私をコイツと居るって決めたんだ。なら迷う事なんて無いじゃない」
「ん? 何いきなり恥かしい事を言ってるんだ?」
「普段から私に向かって言っているアンタに言われたくない」
「そんな事言った覚えはないんだが」
「この……天然ッ!!」
「なんで怒鳴られなきゃいけないんだ!?」
自覚症状のないコイツに呆れを通り越して怒りを感じ、私は真夜中だと言うのに声を荒げてしまう。
此処には私とリュウしか居ないから、別に聞かれても問題はないんだけど……コイツの天然はどうにか為らないのかしら。
そりゃ、計算されて言ってくるよりはまだマシだけど、此処まで自覚がないと本当に如何して良いのか分からないわね。
誰彼構わず言うような女誑しとは違うから良いけど、突発的に言ってくるのもそれはそれで困りものよ。
「大体アンタは―――」
「ちょっと待った。……誰かがコッチに来るな」
「―――えっ?」
突如周囲の警戒をし始めたリュウに釣られて、私も周辺を警戒し始めた。
霧が濃くて視界が利かないから、耳を澄ませて周りの音を聞いてみると……確かに何かが風を切る音が聞こえてくる。
風を切る程の速度で移動する物体となると、鴉天狗か魔理沙辺りかしらね。……ん? 魔理沙?
なんだか嫌な予感が脳裏を過ぎると、風を切っていたモノが私たちの所にまでやって来た。
「よう、ご両人! やっと見つけたぜ!」
「「……なんだ、魔理沙か」」
「なんだとはなんだ!!」
「魔理沙、今のは駄洒落か?」
「んな訳あるかーッ!!」
天狗でもやって来たのかと思ったら、私たちの元にやって来たのは魔理沙だった。
一体何しにこんな竹林の奥深くにまで来たのか知らないけど、今までの経験から言って絶対碌な事に為らないでしょうね。
「全く、この夫婦はホントに友人の扱いがずさんだよな」
「だ、誰が夫婦なのよ! 誰が!!」
「魔理沙は悪友だと思ってるから、こんな扱いで良いだろ」
「アンタは反応するところが可笑しい!!」
「て言うか、悪友って思われたのかよ……ちょっと泣きそう」
リュウの一言を聞いて本当に泣きそうになるけど、魔理沙の場合自業自得な気がする。
いきなりウチに来たと思ったら、変なトラブルを持って来たりするんだし、本気で嫌われて無いだけまだマシじゃない。
「それで何しにきたのよ魔理沙」
「いや、今回の異変を解決しに夜遅くにも関わらず出張ってきたんだぜ」
「……只単に面白がってるだけじゃないのか?」
「それは否定しない」
「アンタねぇ……」
少しくらいは否定して貰いたいけど、魔理沙は気楽そうに笑いながら肯定してきた。
私はそんな魔理沙を見て軽く頭痛を覚えるが、コレが彼女の性分なんだと思うと妙に納得出来る。
まぁ、幻想郷で暮らしていくのなら、この程度の事を楽しめないとやっていけないわね。
「にしても驚いたぜ。まさか、博麗の巫女である霊夢が異変を起こしてるなんてな」
「……何言ってるのよアンタ」
「誤魔化そうとしても無駄だぜ。何時までも夜が明けない異変の中、お前達だけが何らかの目的を持って行動してるんだからな」
「読みは間違ってないけど、コッチにも色々と事情があってだな」
「言い訳なら倒された後で聞かせてもらう。……それじゃ、楽しい弾幕ごっこを始めようぜ!」
それだけ言うと魔理沙は、私たちに向かって青白い光の光弾を幾つも放ってくる。
リュウは直ぐに私の前に立って、コッチに向かって来る弾を何時もの剣で全て斬り裂いていく。
魔理沙の弾幕が一通り消えたところで、私は周辺に大量の札を展開し、それ等を魔理沙に向けて一斉に撃ち放つ。
「おっと」
魔理沙は乗っていた箒で素早く移動し、私の弾幕を回避して、追尾していた奴を自分の弾幕を撃ち落とした。
その後に魔理沙は、四色の丸い宝玉の様な物を出して、高出力のレーザーを放ってくる。
私はリュウを立ち位置を交換して、彼が前衛となり魔理沙のレーザーを回避しながら、彼女との間合いを詰めていく。
魔理沙は、レーザーの間を抜けてくるリュウに向かって幾つもの弾幕を放つけど、彼は剣一本で迫り来る弾幕を斬り裂いて前へと突き進む。
間合いを十分に詰めたリュウは、そのまま斬り掛かろうと剣を振るう。
魔理沙は剣が当たる直前に上半身を逸らし、リュウの一撃を躱しただけではなく、至近距離で大きめの光弾を発射して来た。
あの距離で回避は無理だと判断した私は、札を使って彼の前に壁を作ってそのまま立ち位置を交代する。
壁が魔理沙の光弾を防いでいる間に、一旦アイツとの距離を離し、懐から一枚のスペカを取り出す。
「霊符『夢想妙珠』!」
私がスペカを宣言すると、周囲に複数の光弾が出現し、一斉に魔理沙へと向かって放たれる。
一つは壁に阻まれていた彼女の光弾を打ち消し、残りは阻まれるモノもなく真っ直ぐに突き進んでいくけど、このタイミングで魔理沙もスペカを宣言してきた。
「星符『メテオニックシャワー』!」
魔理沙がスペカを宣言すると、私の『夢想妙珠』に向かって星型の弾幕を幾つも放ち相殺する。
星型の弾幕は私のを相殺もまだ残っているけど、追尾性は皆無らしく、射線からずれるだけで簡単に回避することが出来た。
「一対一でも面倒な相手なのに、二対一ともなると更に面倒だぜ」
「リュウの斬撃と私のスペカを防いでおいてよく言うわ」
「あの位の事も出来ないでお前達に喧嘩を売ったりしないって」
「まぁ、そうでしょうけどね」
私は軽口を叩きつつ、次に備えて周囲に新たに札を展開しながら、一部は周辺に生えている竹に貼り付けてく。
魔理沙に気取られないように広い範囲に札を貼っていると、彼女はコッチに向かって再び幾つモノ光弾を放ってくる。
札の貼り付けはまだ完了してないし、戦いながら準備させてくれるほどアイツも優しくはないっか。
「リュウ、ちょっと間任せた!」
「了解!」
私はリュウに前衛を任せて、その間に周辺の竹に札を貼って準備を進める。
前に出たリュウは、迫り来る光弾を邪魔になるモノだけを斬り裂き、魔理沙との間合いを詰めていく。
距離を詰められたくない魔理沙は、リュウから逃げ回りながら弾幕を放ち続けていた。
リュウは、逃げ回る魔理沙を追い詰めようと斬撃の形の弾を飛ばし、間合いを詰めるタイミングを見計らっている。
幾ら接近戦が得意と言っても、無闇に突っ込んで自滅するような戦い方をする筈が無い。
魔理沙もその事を分かっているのか、リュウに直接当てようとしないで、彼の移動を制限するように弾幕を放っている。
でも、リュウが弾幕を掻き消していくから、移動を阻害出来ても攻撃を当てるまでには至っていない。
まさにイタチゴッコの様な攻防を二人が続けている間に、私は周辺の竹に札を貼り終えて準備を完了させた。
「リュウ!!」
私の声に反応して彼が少しだけ動きを止めるのを見て、魔理沙は服のポケットからスペカと八卦炉を取り出した。
魔理沙はこの一撃でトドメを差す気らしく、なんの躊躇も無くスペカを宣言する。
「恋符『マスタースパーク』!!」
彼女の手に握り締められた八卦炉から放たれる特大の光線。
真夜中だと言うのに昼間と勘違いさせる位に輝きながらリュウに迫るが、彼は防ぐとも避けようともせず真っ直ぐに魔理沙へと向かっていく。
特大の光線にあと少しで飲み込まれそうになると、リュウは光線が当たる直前で上に飛び、そのまま突き進んでいった。
魔理沙は慌ててマスパを撃つのを止めて逃げようとするけど、ソレよりも早くリュウが彼女との間合いを詰める。
「気符『地龍天龍脚』!」
スペカを宣言したリュウは、逃げようとする魔理沙に膝蹴りを叩き込み体勢を崩した後、すぐさま飛び蹴りを叩き込んで彼女の身体を蹴り抜いた。
リュウに強力な蹴りを叩き込まれた魔理沙は、そのまま地面に落下しそうになるけど持ち直して体勢を整えてきた。
私は直ぐに周辺に貼った札を起動させて、簡易結界をこの場所に展開して魔法の力を無効化する。
結界で魔法を無効化された魔理沙は、空を飛ぶ事も出来なくなり重力に従って地面に落下していった。
「ぬがッ?! イッテ~……おい霊夢! 何すんだよ!!」
「うっさいわね、私たちはアンタに構ってるほど暇じゃないのよ」
「んだと!!」
「その結界は日の出には解除される筈だから、それまでは其処で大人しくしてる事ね」
それだけ言い残して先を急ごうとしたけど、何故かリュウが私のところに来てくれない。
一体何故だろうと不思議に思い、後ろを振り返ってみると……魔理沙と一緒に結界に閉じ込められているリュウの姿があった。
「……なにしてるの?」
「霊夢の結界に閉じ込められた」
「そんなの見れば分かるわよ! なんで一緒になって閉じ込められてるのよ!!」
「あ~結界の効果範囲外に出るのが遅れちゃって」
「……アンタねぇ」
「とりあえず外に出るから、この結界ぶっ壊して良いか?」
「お、それなら第二ランドを洒落込むか?」
リュウは結界を指差しながらいきなりとんでもない事を言い出してきた。
普通の相手なら破壊出来る訳ないけど、前に通常時のリュウに『封魔陣』を十字に両断された事があるから、この結界も簡単に破壊出来そうね。
「はぁ……コッチで結界の範囲を狭めるから、リュウは何も弄らないで」
「了解っと」
「うがーッ! わたしを此処から出せーッ!!」
魔理沙の訴えを軽く聞き流しつつ、私はリュウを救出する為に結界の設定を弄り始める。
アイツに気取られないように広範囲に札を貼ったのが、こんな形で災いするなんて思いもしなかったわ。
次にこう言った結界を使う時は、もっと効果範囲とリュウの動きを考えて発動させるようにしよう。