竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十五話 狂気の月の兎

魔理沙の襲撃をなんなく退けた俺と霊夢は、この竹林に隠れ住んでいる連中を探して奔走していた。

竹林に入ってからそれなりの時間は経っているし、そろそろ目的地に着いても良いと思うんだが……名前の通りかなり迷い易くて、本当に前に進んでいるのかも怪しいものだ。

 

「全く、時間も無いってのにまだ着かないのかしら」

「俺達が同じところをグルグル回ってるって可能性もあるけどな」

「そんな訳ないでしょ。ちゃんと前に進んでるわよ」

「その根拠は?」

「私の勘!」

「……………」

 

自信あり気に言う霊夢を見て、俺は思わず言葉を失ってしまう。

実際に霊夢の勘は良く当たるから、彼女の勘を信じて進んでいればその内辿り着けるだろうけど、此処まではっきりと言われたらなんて返せば良いのか分からなくなるぞ。

適当に返事をするべきだったか、それとも流石と言って褒めるべきだったか悩んでいると、薄暗い竹林の奥の方から何かの灯りが見えてくる。

俺達は一目散でその灯りの方へと飛んでいくと、急に開けた場所に辿り着き、目の前に大きな日本家屋が姿を現した。

 

「でっけー家だな。此処までデカイのは人里でも見た事無いぞ」

「隠れ住んでいると言う割りには、随分と立派な武家屋敷ね」

「……武家屋敷ってなんだ?」

「かなり昔の貴族の屋敷とでも覚えておけば良いわ。一から説明するにはちょっと長いし、私も其処まで詳しくは無いのよ」

「そうか」

 

そう言って俺は一つ頷き、霊夢の簡単な説明で納得することにした。

詳しくないのなら無理に聞くわけにも行かないし、日の出までそんなに時間もないのに此処で長々と語って貰う訳にもいかない。

 

「それじゃ、早速なかに入って犯人をとっちめるわよ」

「おう」

 

俺達は固く閉ざされている門は無視して、高い塀を飛び越えて屋敷の中に侵入した。

屋敷の庭はかなり手入れが行き届いているらしく、綺麗な庭園が広がっているが……何故か大量のうさぎが放し飼いの状態で暮らしている。

あまりにも大量のうさぎ達を前に呆気に取られてしまうが、此処の主人がうさぎ好きなんだろうと考えてムリヤリ納得する事にした。

……それにしても数が多いな、これだけ大量のうさぎが居れば当分はうさぎ肉で食べていけるな。

 

「ん? 如何したのよリュウ。なんか眼がギラついてるけど?」

「いや、これだけのうさぎが居れば当分は肉に困らないなって思って」

「……うさぎって食べられるの?」

「嗚呼。牛と違うから、美味さは味付け次第」

「へぇ~……」

 

俺の話を聞いた霊夢は、無言で札を取り出し結界を張ろうと準備をし始める。

かく言う俺も既に剣を抜いていて、何時でもうさぎ狩りが出来る様に構えていた。

 

「うさぎは俺が狩るから、霊夢は逃げられないように結界を頼む」

「分かってるわ。……その代わり、ちゃんと仕留めなさいよ」

「狩りは前の世界でもやってるから大丈夫だ」

 

霊夢にそう言って早速うさぎ狩りを始めようとした時―――

 

「人の屋敷に侵入して何をしようとしてるのさ」

 

―――頭に小さなウサギ耳が生えた、ピンク色の服を着た小さな女の子に呼び止められた。

侵入した時にあの子の姿は見えなかったから、俺達が這入った後に此処に来たって事はこの子はこの屋敷の住人か。

……本当にうさぎを狩る前に見付るとはな、どうせなら狩った後に来てくれれば良かったのに。

 

「それで此処に何の用で来たのさ?」

「……そう言えば何しに来たんだっけ?」

「確か本物の月を取り戻せとか言われてなかった様な気がするわ」

「月の事ならお師匠様にでも尋ねてよ。全く、真夜中に起こされたから眠くて仕方が無い」

「なら、月を取り戻してさっさと帰るから、その〝お師匠様〟とやらの場所を教えなさいよ」

「あのお方なら屋敷の奥に居る筈だよ。……あ、入るときは玄関からね」

「急ぐなら何処から入っても同じよ。行くわよリュウ」

「嗚呼」

 

俺と霊夢は、ウサ耳少女が教えてくれた玄関ではなく、直ぐ傍の縁側から屋敷に上がりこんだ。

少女が俺達を止めたりはしなかったのがちょっと気になるが……此処で気にしていても仕方が無い。

頭を切り替えて、この広い屋敷の奥に居ると言う〝お師匠様〟の元へ向かう事にした。

……それにしても、あのうさぎ肉はちょっと惜しかったな。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

屋敷の中は日本家屋らしく木で作られていて、長い廊下を歩くとギシギシと音が鳴る。

古くから作られているから老朽化してるのかと思ったが、霊夢の話だと昔の屋敷と言うのはこう言う作りをしていたらしい。

紅魔館との違いに内心驚きつつ進んでいたら、霊夢が踏んだ床がスイッチの様に下に沈んだ。

今の仕掛けも昔の屋敷特有の物かと考えていると、背後から何かが迫ってくるような感じがする。

 

「霊夢!」

「えっ? ……キャアッ?!」

 

俺は咄嗟に霊夢を抱き寄せ、そのまま廊下に倒れ込むと……木槌の様なものが物凄い勢いで頭上を通り過ぎた。

あと少し反応が遅れていたら、間違いなく後頭部を強打していただろうな……。

 

「あっぶねぇ~……。大丈夫か霊夢」

「うん…平気……」

「そりゃ良かった。…にしても、今のも屋敷の作りか何かか?」

「多分違う。きっと侵入者対策の一つね」

「侵入者対策にしてもやりすぎな気もするけどな」

「……ところでさ、リュウ」

「ん?」

「いい加減離して欲しいんだけど……」

「あ、悪い」

 

俺は抱き寄せていた霊夢を離して、彼女の手を取って一緒に立ち上がり周りの安全を確認する。

さっきみたいなトラップが他にもあるのかと考えると、ノンビリ廊下を歩いている余裕は無いだろうな。

前に居た世界に村中にトラップが仕掛けてある村が在ったけど、流石に家の中にまでこんなのは設置していなかったぞ。

 

「全く、このトラップを設置した奴、かなり性格悪いだろ」

「性格が悪くなかったらこんな事しないわよ」

 

霊夢はそう言いながら先に進もうとして前を歩いていると、またスイッチを踏んでしまい、今度は下から竹やりが飛び出てきた。

 

「だ、大丈夫か?」

「な、なんとか……」

 

槍は運よく霊夢の手前で飛び出してきたが、あと少し前に進んでいたら突き刺さっていたかもしれないな。

俺は床に注意しながら霊夢の傍に近寄ろうとすると、今度は俺がスイッチを踏み抜いてしまった。

一体何が来るのかと辺りを警戒すると、左右の襖を突き破って太めの丸太が同時に迫って来る。

 

「冗談だろッ?!」

 

俺は慌てて前転して丸太を回避すると、更に別のトラップのスイッチを押してしまった。

トラップが稼動すると、真下の床が開いて深い穴に落とされそうになったが、それは淵を掴んでギリギリの所で難を逃れる。

なんとか落とし穴から脱出して一息吐こうとしたら、誰かが廊下を歩く音が聞こえてきた。

音は段々と近付いてくるが、時折りトラップに引っ掛かり物音を立てている。

 

「……自分の家のトラップに引っ掛かるなんて、随分とマヌケな奴もいるのね」

「て言うか、どれだけ仕掛けて在るんだよこの家」

 

俺達はそんな事を言いながら誰が来るのかと警戒していると、廊下の曲がり角から現われたのは紺の上着とスカートを穿いた、紅い眼のウサ耳少女二号だった。

屋敷の庭にも大量のウサギが居たけど、ウサ耳が生えているなんて……此処は野馳(のばせ)り族が住んでいるのか? ……いや、幾ら幻想郷でもそれは無いか。

 

「貴方達ね! 真夜中にも関わらず屋敷で騒いでいるのは!!」

「こんなにトラップが仕掛けてあったら、騒ぎたくなくても騒ぐわよ」

「言い訳無用! 貴方達は侵入者みたいだし、此処で倒させてもらうわ!!」

「……まぁそうなるか」

「短視『超短脳波(エックスウェイブ)』!」

 

ウサ耳少女はスペカを宣言したが、コレと言って弾幕は飛んでくることは無かった。

不思議に思いながら、俺は斬撃を飛ばそうと剣を振り下ろそうとするが、彼女の紅い眼が視界に入った途端、目の前の空間が歪んで見え始めた。

いや、目の前の空間だけじゃなく、あの少女が何人にも増えているように見えてしまう。

俺は自分の眼を擦り、もう一度確認するが……やっぱり空間は歪んでいるし、彼女も増えているように見える。

どれが本体なのか見当もつかないが、俺は感覚だけを頼りに目の前の少女に向かって斬撃を飛ばす。

飛んでいく斬撃も歪んで見えるが、変な方向に飛んでいく事も無く真っ直ぐ飛んで行き……数人のウサ耳少女を掻き消した。

……だが、俺が掻き消したのは偽物らしく、空間の歪みは今も続いているし、少女も健在のままだった。

 

「無駄よ、この狂気の眼で狂わされた貴方じゃ、私の攻撃を当てる事は出来ない」

「……それはやってみないと分からないだろ」

 

強がってみるものの、彼女の言う通り今のままだと攻撃を当てられる気がしないな。

本当にこの屋敷が歪んでいるとは思えないし、彼女も本当に分身してるとは思わないが……どれが本体かわからないと攻撃のしようがない。

当てずっぽうで斬撃を飛ばそうにも、今の姿だと連射が出来ないからかなり効率が悪いだろうな。

そんな事を考えていると、霊夢がいきなり俺の耳を引っ張ってきた。

 

「ちょっ、痛いって霊夢」

「少しは我慢しなさい。…私に考えがあるから耳を貸して」

「…?」

 

俺は大人しく霊夢の作戦に耳を貸すが……彼女の作戦は物凄く単純なものだった。

こんな作戦で本当に上手く行くのか不安になるくらいにだ。

 

「それで大丈夫なのか?」

「平気よ。アイツの能力はなんとなく理解出来たし、あの程度の能力なら如何とでもなるわ」

「なにコソコソを話してるのか知らないけど、私の能力を甘く見ないでよね!」

 

そう言うとウサ耳少女は、俺達に指を向けて其処から大量の弾を放ってくる。

数えるのも馬鹿らしくなる位の数が迫ってくるが、俺は懐から一枚のスペカを取り出して宣言した。

 

「暴風『羅風(ラフ)』!」

 

カードを宣言すると、屋敷の廊下内で強烈な風が発生し、ウサ耳少女が放った弾幕を掻き消す。

風はそのまま少女へと進んで行き、目の前にいた沢山の分身を一蹴して、本体に攻撃を当てる事が出来た。

 

「キャアッ?!」

 

俺の風に飲み込まれた少女は、吹き抜ける風の勢いに負けて壁にまで吹き飛ばされた。

 

「おぉ、本当に当たった」

「だから言ったでしょ、大丈夫だって」

 

俺が成功するのか疑っていたからか、霊夢は胸を張ってドヤ顔をしてくる。

確かに疑ったのは悪いと思うが、あんな作戦を聞いたら本当に成功するのか疑うと思うぞ。

……ちなみに、霊夢が俺に言ってきた作戦と言うのがこうだ。

 

〝広域に作用するスペカで纏めて吹き飛ばしちゃえ〟

 

確かにどれが本体なのか分からないなら、この方法が一番効果的なのかもしれないけど……本体があの中に居ないって可能性を考えなかったのかな?

まぁ、ちゃんと成功したんだしコレ以上とやかく言う心算はないけど。

 

「いたた……。なんで私に攻撃を当てられたのよ……」

「アンタの能力はその眼を使って幻覚を見せるだけなんでしょ? なら、纏めて吹き飛ばせは必ず当たるわよ」

「そんな力押しで攻略されるなんて……」

「私からしたらこんなの児戯に等しいわ」

「……だったら、私も力押しで行くわよ! 幻爆『近眼花火(マインドスターマイン)』!」

 

霊夢の一言にキレた少女は、スペカを宣言して幾つもの弾丸を俺達に向けて放つ。

速度自体はそれほど早くは無いが、放たれた弾自体はかなり大きく数も多い。

……だけど、本体がどれかはっきりしているのならこの程度の弾幕恐れるほどじゃない。

 

「乱舞『せんぎり』!」

 

スペカを宣言した俺は、一瞬にして無数の斬撃を少女に向けて放つ。

放たれた斬撃は彼女の弾幕をぶつかるが、威力は俺の方が高いのか次々と彼女の弾を斬り捨て行った。

行く手を阻むものが無くなった斬撃は、少女へと襲い掛かり何発かは叩き込まれ、余りは彼女の後ろの壁を微塵に斬り裂く。

壁が斬り刻まれ小さな木片となって崩れる中、少女は立ち上がり戦いを続けようするが……完全に立ち上がる前に気を失い前のめりに倒れた。

 

「……思ったよりも根性ないな」

「アンタの一撃が強烈だったんじゃないの?」

「魔理沙が受けても平然としてられる位の力加減で放った心算だぞ」

「只単にアイツが丈夫なだけよ。…ほら、先を急ぐわよ」

「今度は罠を踏まないようにな」

「それはリュウもでしょ」

 

戦闘後にも関わらず、俺達は軽口を叩き合いながらも一緒に飛んで先へと進む。

あの少女が倒れた後は眼の調子も元に戻り、歪んだ廊下ではなく普通の廊下が前に広がっている。

霊夢の読みが当たっていたと思いながら、あの景色は気分が悪くなるからあまり見たくないな~っと思う俺であった。

 




オマケ

「鈴仙、何時まで寝てる心算?」
「う…う~ん……」
「あ、やっと起きた」
「てゐ? 私、なんでこんな所で寝てるんだっけ?」

眼が覚めると直ぐ傍にはてゐが居て、何故か私はボロボロになった廊下で眠っていた。
なんで此処で眠っていたのか覚えてないけど、それよりも全身のアチコチから来る痛みの方が不思議でしょうがない。

「鈴仙は、侵入者二人にボロ負けして廊下で気絶してたんだよ」
「……そっか」

てゐがそう言ってくれた事で、私はさっきまでの事を思い出すことが出来た。
油断していた心算はなかったけど、あの二人が予想以上に強くて驚いたな。
でも、あのくらいなら師匠には敵わないだろうし、直ぐに撃退される筈よね。

「……あの二人は師匠に任せておこうっと」
「お師匠様でも勝てるかねぇ~……」
「勝てるわよ絶対。それよりもてゐ! 貴女、廊下にもトラップ仕掛けないでって言ってるじゃない!!」

侵入者二人の事は一先ず置いておいて、私は悪戯好きのてゐに文句を言う事にした。
今までにも何度か仕掛けられたけど、なんで屋敷の中にトラップなんて仕掛けるのよ! 危うく死にそうになったじゃないの!!

「トラップ? 一体なんのこと?」
「恍けないの! ちゃんと証拠は挙がってるんだから!!」
「なら、その証拠とやらを見せてよ」
「良いわよ、ちょっとコッチに来なさい」

私がてゐの手を引っ張ってトラップの元に行こうとしたら―――

カチッ
「……えっ? キャーーーーーーーッ!?!?」

―――間違えてトラップのスイッチを踏んでしまい、そのまま落とし穴の中に落ちてしまった。

「て~ゐ! 後で覚えてなさいよ~!!」
「……勝手に落ちたのは鈴仙の方じゃないか」

終わり
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