竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十六話 月の頭脳

屋敷の母屋にあたる部分を粗方探し終えた俺と霊夢。

今は長い渡り廊下を通って離れと思われる建物へと向かって進んでいた。

探してる途中で幾つかトラップに引っ掛かったけど、二人共大した怪我も無く今の所は順調に進んでいる。

 

それにしても、この屋敷は色々と不可思議な感じのする場所だな。

これが築何年なのか知らないけど、全くと言って良いほど建物に古めかしさを感じさせない。

つい最近建て終えたばかりかと思えるほどに建物全体が真新しく感じる。

そう言う作りの建て方なのかもしれないけど、この屋敷の刻が止まっている様な感じだ。

移ろい変わる事の無い永遠の建物……そんな物を作る事が本当に可能なのか?

 

この屋敷に違和感を覚えながら渡り廊下を進んでいると、目の前から矢の様な物が五本ほどコッチに向かって飛んで来た。

矢の存在に気が付いた俺は、直ぐに愛刀を抜いてコッチに飛んでくる五本の矢全て叩き斬った。

五本の矢全てを叩き斬った俺は直ぐに体勢を立て直し、安全の為に霊夢を後ろに下げる。

 

「……誰だ」

 

剣を構えたまま渡り廊下の先を睨みつけると、廊下の先に縦に赤と青の二色に分かれた上着とスカートを穿き、紅い十字が入った帽子を被った銀髪の女性が立っていた。

手には弓と矢が握られている所から、さっきの矢を撃ったのは彼女なのは間違いないな。

五本の矢をほぼ同時に放ってくるなんて、一体何者だあの人。

 

「悪いけれど、此処から先には進ませないわ」

「なら、その先に居るのが今回の黒幕って訳ね」

「黒幕?」

「空にある月が偽物に変わった件のだ。……アンタも関係者なのか?」

「その件なら私が犯人よ」

「「……………」」

 

女性の突然の自白に、俺も霊夢も思わず言葉を失って呆気に取られてしまう。

今までの経験だと、こう言う異変の犯人は一番最後に見付かるものだったんだが、まさかこんな形で犯人と出会う思いもしなかったな。

でも、あの人が犯人だとすると……彼女は一体何を守ろうとしているんだ?

 

「……まさかこんな所に犯人が居るなんてね。それじゃなに? アンタを倒せば月は元に戻るの?」

「今はまだ元に戻す心算もないわ」

「そう。……だったら、無理矢理にでも元に戻させてやる!!」

「今はまだ時期じゃない……。悪いけど此処でお引き取り願うわ」

 

その会話を火蓋に霊夢は大量の札を女性に向けて一斉に放ち、女性は札を迎撃するためか何本もの矢を連続で撃ち放つ。

霊力が込められた札は女性に向けて真っ直ぐ飛んでいくが、彼女の矢は飛んでくる札を撃ち落とし俺達に襲いかかってくる。

俺は霊夢の前に立ち、飛んでくる矢を叩き落して斬撃の形をした弾を彼女に放つが、呆気なく躱されてしまい反撃に更に矢を放たれた。

その矢も俺が斬り捨て、霊夢が次々に札を放っていくものの、彼女には掠り傷一つ付ける事が出来ないでいた。

女性の矢も俺達に当たりはしないものの、コッチの攻撃が当たる気配も無い。

このまま時間だけが無為に流れるかと思いきや、女性がスカートのポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「天丸『壺中の天地』」

 

彼女がスペカを宣言すると、複数の発光物体が出現しソレが俺達を中心に円を描くように展開する。

その数瞬後には、外側は大量の弾幕が、内側にも少々の弾が放たれ始めた。

俺達は内側に居るから外側の弾幕を気にしなくても良いが、発光物体が作った円は二人で逃げ続けるには少々狭い。

外側に出れば動くには十分なスペースがあるものの、あの弾幕を避け続けるのは至難の業だ。

安全に避けるのなら内側に居るのが一番良いんだが、この狭いスペースで二人して避けるのは事故になる確率が上げるだけ。

避けるには厄介なこの状況を抜け出すには……周囲にある発光物体を叩き斬るのが一番か。

そう判断した俺は、左側のポケットのスペカを取り出し右手に持たせ―――

 

「こい、叢雲!」

 

―――この間手に入れた天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を左手の中に呼び出し、それを逆手に持って剣を構える。

 

「霊夢、俺が宣言したら直ぐに上に飛んでくれ!」

「分かったわ!」

「行くぞ……真円『円舞陣』!」

 

俺がスペカを宣言すると、霊夢は直ぐに真上に飛び上がる。

その隙に俺は両手に剣を構えたまま一回転し、円形の斬撃を周囲に飛ばし発光物体と弾幕を薙ぎ払った。

円形の斬撃は発光物体を薙ぎ払っただけでは飽き足らず、渡り廊下の屋根を支える柱も斬り、更に斬撃の一部が女性にも襲い掛かる。

一部は女性の所にまで届いたものの、霊夢と同じ様に上に飛んで斬撃を躱されてしまうが、周囲に展開されていた物体は全て斬り捨てる事が出来た。

これで状況は仕切りなおしとなったけど、まだ戦いは始まったばかりだ。この後で如何とでも転ぶさ。

そう考えて両手の剣を握り直し、体勢を整えていると……女性が物珍しい物を見る様な眼で俺の事を見てきた。

……いや、正確に言えば俺の叢雲の事を見ているって言えば良いのか。

 

「刀身に纏う雲の様なオーラ……もしかしてそれは天叢雲剣かしら」

「ん? この剣のこと知ってるのか?」

「えぇ、随分と前に一度だけ見た事があるわ。……まさかこの時代に使える者が現われるなんて思いもしなかったけど」

「……………」

 

女性は何処か懐かしむような物言いで話すけど、何処かその言い方に引っ掛かりを覚える。

見た事があるって言うのはまだ良いが〝この時代に使える者が〟って如何言う事だ?

その言い方だと、この剣を見たのが遥か昔の出来事みたいに聞こえるぞ。

 

「ちょっと待って、叢雲を見たってなんの冗談」

「……霊夢?」

「この剣が出現したのは神代の頃よ。確かに幾神、幾人の手に渡り歩いたって聞くけど……それは遥か昔の事。なのに、この剣を見て生きて此処に居るなんて不自然すぎる」

「……………」

「アンタ、本当に何者なのよ」

 

霊夢は女性をいぶかしむ様な眼差しを向けて問い詰めて行く。

彼女は口を閉ざしたまま沈黙を貫くのかと思ったが、肩の力を抜くように大きく息を吐いてコッチを向き直してきた。

 

「貴女、中々に良い勘してるのね」

「普通の奴ならさっきの言葉に引っ掛かりを覚える程度でしょうが、私はそうはいかないわよ」

「……………」

 

その理由だと俺が普通の奴みたいになるんだけど……コッチの歴史を知らないんだし、仕方が無いよな。……てか、そう思っておこう。

 

「さて、私が何者かって話だけど……そうね。貴女達からみたら宇宙人って所かしら」

「「……はっ?」」

 

俺と霊夢は彼女のあまりにも突拍子も無い言葉に、驚きのあまり二人して口を開けて同じ言葉を発した。

しかし女性は、呆気に取られている俺達など気にも留めずに話を続ける。

 

「夜空に浮ぶ月に隠れ住む月の人……それが私の正体」

「……つまり妖怪でも人間でもないって事?」

「失礼ね、これでも私は一応人間よ」

「それなら如何して自分の故郷とも言える月を隠すのよ」

「……月人が此処に来られたら困るから……とでも言っておこうかしら」

「はっきりしない物言いね」

「貴女達に言う事でもないし、関係のない事だから」

 

言いたい事を言い終えたのか、女性は弓矢を俺達に向け、何時でも放てるように構える。

彼女の表情から〝コレ以上話すことはない〟と言う意志が伝わり、俺は何も言わずに両手の剣を構え、霊夢も空中に大量の札を展開した。

俺達の居る渡り廊下には静寂と張り詰めた空気に包まれ、ソレを撃ち破るように彼女が幾つもの矢をコッチに向けて放った。

 

俺は二つの剣を使い迫り来る矢を斬り裂き、矢が無くなったところで霊夢が展開していた札を一斉に放つ。

放たれた札はさっきと同じく撃ち落とされていくが、俺は矢を放って動けないで居るところを狙って、二つの剣を振るい八つの斬撃を彼女に向けて放った。

斬撃は何者にも阻まれる事なく突き進むが、彼女はすり抜ける様にして斬撃同士の隙間を潜り抜け、床を滑りながら更に矢を放ってくる。

 

俺は飛んでくる矢を躱して彼女との間合いをここぞとばかりに詰める。

女性が後ろに下がるよりも早く間合いを詰め、左の叢雲で彼女の胴を切り払い、右の愛刀で袈裟斬りを叩き込む。

その流れを使ってその場で一回転して、叢雲で脇腹から肩口に掛けて切り上げて、愛刀で彼女の胸を穿つように剣を突き刺す。

彼女は、剣を突き刺したときの勢いを使って後ろに跳び、そのまま俺に向かって幾つもの矢を放ってくる。

飛んでくる矢を悉く斬り捨て、お返しに叢雲に力を集中させて特大の斬撃を放ってやった。

 

今までにない位巨大な斬撃だが、何度も躱されて来たようにこの一撃も簡単に避けられてしまう。

彼女は避けながらも俺に向けて矢を放ち、俺が間合いを詰められないように牽制してくる。

俺は矢を斬り捨ていくが、飛んでくる矢の対応に追われて彼女との間合いを詰められなくなった。

だがしかし、彼女も俺に矢を放ち続けているためか、着地した地点から一歩も動けずに居る。

その間に霊夢が懐からスペカを取り出し、声高々にカードを宣言した。

 

「霊符『夢想妙珠』!!」

 

霊夢から放たれた複数の光弾は、彼女の放つ矢など物ともせず突き進み、全弾命中する。

光弾が炸裂した時に起こった光で視界が利かなくなるが、女性がまだ健在なのがなんとなく理解出来た。

俺がもう一度間合いを詰めようと駆け出した瞬間―――

 

「神符『天人の系譜』」

 

―――静かに囁くような声でカードを宣言され、渡り廊下に幾つもの光弾が出現した。

廊下のアチコチに展開した光弾は、それぞれの点を繋ぐように線が一斉に走り、俺達の動きを制限してくる。

咄嗟の判断で光弾と光線を回避できたが、点と線は直ぐに消えてなくなり、今度は別のパターンで出現して襲い掛かってきた。

一つ一つの点を消していけば、出来上がる線を消す事が出来るんだが……二つが消える速度が速くて、イチイチ消していても仕方が無い。

そんな事を考えていると、光弾と光線の間を掻い潜って霊夢が俺の傍にまでやってきた。

 

「私のスペカでこのスペカを撃ち破るから、アンタは二つが消えたら直ぐに突っ込んで!」

「嗚呼、任せとけ!」

「行くわよ。……神技『八方鬼縛陣』!!」

 

霊夢は自分の足元に宣言したスペカを設置し、其処を基点に発動したオレンジ色の結界を広い範囲に拡大させていく。

結界とぶつかった光弾と光線は、次々に消滅して行き……霊夢の結界が消える頃には、周囲にあった全ての光弾が消滅していた。

俺は叢雲を一旦仕舞い、ポケットから一枚のスペカを取り出し宣言する。

 

「人符『現世斬』!」

 

スペカを宣言した俺は、愛刀を脇腹の辺りに構えて女性へと斬り込んで行く。

女性は直ぐに矢を放とうとするが、ソレよりも速く間合いを詰めた俺が彼女の横を斬り抜ける。

斬り込まれて体勢が崩れた所で、俺はもう一度手の中に叢雲を出現させ、振り向き様に斬り付けて更に愛刀でもう一撃叩き込む。

俺は直ぐに愛刀の刃を返してもう一度斬り払い、叢雲で袈裟斬りを叩き込み……コンボのシメに今度は十字に斬り抜けた。

 

斬り抜けたまま硬直していると、背後から殺気の様なものを感じ、慌てて前に転げるようにその場から移動すると、さっきまで俺の頭があった所を一発の矢が通過した。

あと少し逃げ遅れていたら不味かったなと思いながら、俺は直ぐに体勢を立て直し二つの剣を同時に振るって斬撃を彼女に向けて飛ばす。

十字の形で飛んでいく斬撃は相変わらず当たらないが、戦いを仕切りなおすだけの距離を稼ぐ事はできた。

霊夢の所にまで戻った俺は、また攻め込むタイミングを見計らおうとすると、女性はスカートのポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「秘術『天文密葬法』」

 

彼女がスペカを宣言すると、俺達を取り囲む様に半透明の物体が大量に出現した。

その物体は取り囲むだけで何もしてこないが、彼女が矢を放ち周りの物体を刺激すると、矢と接触した物体から大量の弾がばら撒かれ始める。

俺は二つの剣を振るい、ばら撒かれた弾を次々に斬り裂いて行くが……一度に出現する弾の数が多過ぎる。

斬り裂いている間にも彼女は周囲の物体を刺激して、新しい弾を次から次へとばら撒いてくる。

コレもさっきみたいに周りの物体を掻き消せば良いんだけど、正直な話そんな事をしている余裕は今の俺には無い。

霊夢には何か手があるのか、今は精神統一をしていて回避している余裕はなさそうだ。

なら、今の俺に出来る事は霊夢の集中を乱さないように、アチコチにばら撒かれている弾を斬り裂いていく事だ。

 

「……はあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

覚悟を決めた俺は二つの剣を振るい続け、霊夢に向かって行こうとする弾を次々に斬り裂いて行く。

正面から大量の弾が迫って来る事もあるが、前から来る弾は大きく剣を振って一気に薙ぎ払う。

左右から来るのはギリギリまで引き付けてから、最も近い弾から順に斬り裂いて行く。

偶に予想外の方向から飛んでくる弾があるが、そう言うときは身体を無理矢理にでも捻ってその弾を斬り捨てる。

そうやって掠りながらも次々に斬り裂いていると、後ろに居る霊夢の準備が完了したのか声高々にスペカ名を宣言した。

 

「神霊『夢想封印』!!」

 

霊夢がカードを宣言すると、俺達の周囲にさっきよりも強大な光弾が複数出現し、周りにばら撒かれた弾を掻き消して行く。

ばら撒かれた弾を残さず掻き消した光弾は、不透明な物体を無視して真っ直ぐ彼女の元へと向かう。

女性は『夢想妙珠』の反省を活かして、霊夢の『夢想封印』を撃ち落とそうとはせず、なんとか回避しようとする。

一度は全ての光弾を回避する事は出来たが、その程度でこのスペカを攻略する事は出来ない。

霊夢の光弾は回避されて直ぐに向きを変えて、今度は女性の周りを取り囲み……一斉に襲い掛かり炸裂し、この渡り廊下には眩い光で満たされた。

 

「……ッ!!」

 

悲鳴を上げる間もなく光弾に飲み込まれた彼女は、満ちていた光が収まるとそのまま前のめりに倒れた。

俺達を取り囲んでいた物体は残らず消滅し、この渡り廊下にはさっきまでの戦闘の爪跡が残された。

彼女に動く気配がないと分かった俺は、大きく息を吐いて全身の力を抜いて霊夢の方を振り向く。

 

「お疲れ、霊夢」

「リュウこそお疲れさま。……それとありがとね、守ってくれて」

「気にすんなって」

 

俺は霊夢に笑いかけた後、なんとなく外を覗いてみると……外は丸い満月が地平線の向こうに沈み始めていた。

神社を飛び出してから結構な時間が経ってるのは分かってたけど、まさかもう直ぐ夜が明ける位までアチコチ動き回っているとは思わなかったな。

これは今から神社に帰ったとしても、布団に入るのは完全に夜が明けた後だな。

そんな時間に帰りでもしたら、妖夢がウチにやってきて〝リュウ、勝負です!〟とか言い出しそうだ。

本当にそんな事になったら、今日は貫徹確定だなっとゲンナリしながら考えていると―――

 

「ちょっと其処の二人、わたしの永琳に何をしてるのよ」

「「ん?」」

 

―――薄ピンクの上着に紅いロングスカートを穿いた黒髪の少女に声を掛けられた。

 

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