竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十七話 永遠と須臾の罪人

突如として俺達の前に現われた黒髪の少女。身に着けている衣服は、この屋敷であった奴よりも上質な生地を使っているように見えるが、目の前に居る彼女は何処にでもいる少女と大差ないように見える。

……だって言うのに、なんなんだこの感じ。さっきの女性と似たような印象を受けるが、もしかしてコイツも宇宙人なのか?

 

「それで貴方たちは一体何者? わたしの屋敷で何をしてるのよ」

「……………」

「私たちは空に上った月を取り戻しに来ただけよ。もう用事は済んだから帰ろうかと思ってたところ」

「月? ……あ~ホントだ、何時の間にか元に戻ってる」

 

少女は地平線に沈もうとしている月を見て、今気が付いたような声を出す。

彼女の様子を見る限りだと、今回の異変に付いて知っていたけど特に感心が無かったのか?

この状況で俺達を騙す意味なんてないし、本当に感心がなかったのか、よほどの大物なのかのどっちかだろうな。

 

「コッチの用は済んでるからもう帰らせて貰うわ。…行くわよリュウ」

「ん? あぁ」

 

俺は二つの剣を仕舞い、屋敷から出て行こうとする霊夢の後に続く。

彼女達への妙な違和感を抱えたまま、俺は霊夢と一緒に屋敷の外に出て飛んで行こうとすると―――、

 

「ちょっと待ちなさい」

 

―――黒髪の少女も外に飛び出し、俺達を引き止めてきた。

呼び止められた俺達は、面倒だなと思いつつも彼女の方を振り向く事にした。

 

「なによ、私たちは眠いんだから手短にしてよね」

「……あのね、ウチの従者を倒しておいて只で帰れる訳ないでしょ」

 

少女は呆れて溜息を吐くように俺達に言ってくるが、俺達はただ降りかかる火の粉を払っただけだ。

まぁ、そんな事を言っても彼女が納得してくれるとは思わないけどな。

 

「俺達に如何しろと?」

「罰として貴方達に五つの難題を出すわ。それをクリア出来たら見逃してあげるけど、もし出来なかったら……もう一度月を隠すわ」

「……拒否権は?」

「そんなものはないし、逃げても月は隠させてもらうわ」

「それじゃ受けるしかないじゃないの……」

 

確かに彼女の従者を倒したとは言え、向こうの言い分を聞いて思わず溜息が出てしまう。

俺は呆れ果てながらも二つの剣を取り出し、霊夢の前に立って何が来ても良いように構える。

後ろに居る霊夢も札を取り出し、コッチの準備が完了すると……少女は五色の珠と一枚のスペカを取り出した。

 

「それじゃ最初の難題……神宝『ブブリアントドラゴンバレッタ』」

 

彼女がスペカを宣言すると、五色の珠は少女の手を離れ空中に浮かび上がる。

そして少女の周囲を飛び回りながら、俺達に向けて五色の光線と珠を無数にばら撒いてきた。

俺と霊夢は、襲い来る光線と珠を避けながらも、少女に向けて札と斬撃を叩き込んでいく。

少女は俺達の弾幕を左右に移動しながら躱し、周りに飛んでいる五色の珠の弾幕を貼り続ける。

 

ばら撒かれる珠はまだ掻き消せるからマシだけど、コッチに飛んでくる光線は少々厄介だ。

あの手の弾幕は俺の斬撃じゃ中々消せないし、一度に飛んでくる数が多いからイチイチ消していたらキリが無い。

こう言う時は元を断つのが一番なんだが、展開している弾幕が中々に厚いから前に出るのはちょっと危険だな。

俺はそんな事を考えながら、飛んでくる光線を避け、ばら撒かれる珠を斬り裂いていく。

有効な打開案が思いつかないまま時間だけが過ぎていくと、痺れを切らした霊夢が懐から一枚のスペカを取り出した。

 

「夢符『夢想妙珠』!」

 

スペカを宣言すると、霊夢の周りに複数の光弾が出現し、少女の周りを飛んでいる五色の珠へと向かって行く。

光弾は飛び交う光線と珠など物ともせず、五色の珠と激突し……五つ全てを封印した。

封印された珠は、空中に浮ぶ事も出来なくなりそのまま地面へと落下していった。

 

「あらら、そんな力を押しで突破されるなんて思いもしなかったわ」

「コッチは徹夜で疲れてるのよ。こんな事さっさと終わらせて帰りたいの」

「そうなの。…だったら、次の問題行くわよ」

「お好きにどうぞ」

「二つ目……神宝『ブディストダイアモンド』」

 

少女がスペカを宣言すると、今度は幾つもの光る物体が出現し、彼女を中心にして扇状に展開する。

展開した物体一つ一つから光線が照射され、コッチの逃げ場を狭めて行く。

俺は分が悪くなる前に叩き斬ろうとしたが、展開されている物体は思ったよりも硬く、光線を避けながら叩き斬るのは少々骨が折れそうだ。

霊夢のスペカでもう一度封印すると言う手もあるが、周りにある数を考えると一度に全てを封印するのは無理がある。

それ以前に、此処に来るまでに幾つかスペカを使ってるから、霊夢の手持ちも残り少ない筈だ。

少女はさっき〝五つの難題〟って言っていたから、先の事を考えると此処で霊夢のスペカばかり使うわけにも行かないか。

そう考えた俺は、霊夢が痺れを切らす前にズボンのポケットから一枚のスペカを取り出す。

 

「……何をする心算か知らないけど、この神宝は斬る事も封印する事もそう簡単には出来ないわよ」

「そうかもしれないが、纏めて吹き飛ばす事はできるだろ」

「…?」

「暴風『羅風(ラフ)』!」

 

俺がスペカを宣言すると、俺達と少女の間に旋風が巻き起こり、展開していた光る物体を纏めて何処かへと吹き飛ばした。

自分でやっていて卑怯な気もするけど、さっき霊夢も言っていた通りもう眠いし、此処はさっさと残りの難題を攻略する事にしよう。

夜明けまでに戻れるか分からないが、何時までも遊んでいられないし、次も強行突破させて貰うか。

 

「あ~ぁ、わたしのお宝がどっかに飛んでいっちゃった」

「ソレに付いては悪いと思うが、後で自力で探してくれ」

「そこは〝後で俺が手伝ってやる〟位の事を言って欲しいわね」

「なんでリュウがアンタの手伝いをしてやらないといけないのよ」

「だって吹き飛ばしたのは彼だし」

「……この竹林の中を探し回るのは勘弁して欲しいな」

「仕方が無いわね、後でウサギ達に探させましょう。……それじゃ三つ目、神宝『サラマンダーシールド』」

 

少女が三つ目のスペカを宣言すると、今度は紅い布の様なものが彼女の周りを飛び始めた。

すると今度は、無数の炎の珠が少女の周囲に展開し、それが俺達に襲いかかってくる。

一度に全部の珠が襲い掛かってくる訳じゃないが、今度のも展開している珠の数は中々に多い。

……とは言え、さっきみたいな光線ではなく、只の珠なら俺の剣で十分に掻き消すことが出来る。

 

俺は左右の剣を振るい、コッチに飛んでくる火の珠を次々に掻き消して行く。

時折り斬撃を飛ばして紅い布を斬ろうと試みるが、少女の周囲を飛んでいて中々斬撃が当たらない。

それでも諦めずに何度も斬撃を飛ばし、布から放たれる炎を切り払い続けた。

何度も攻撃していると、布の軌道が段々と読めてくるようになり、少しずつ精度が上がり始める。

タイミングを調整しながら斬撃を飛ばしていたら、遂にベストのタイミングで斬撃を飛ばすことが出来た。

 

それを見た少女は、慌てた様子で紅い布を掴んで懐に仕舞うが、回避までは間に合わずに俺の斬撃をまともに受けてしまう。

両腕で一応のガードはしているものの、俺の斬撃を受けた袖は切り裂かれ、腕からは切り傷が出来てしまい、血が流れ始める。

彼女が血を流しているのを見て俺は、加減を間違えたと苦々しく奥歯を噛み締めるが、それ以上に驚きの光景を目の当たりにした。

俺の斬撃を受けて出来た切り傷が、少女は何もしていないのに綺麗に完治してしまった。

その様子に俺と霊夢は呆気に取られるが、彼女は何事も無かったかのように大きく背伸びをした。

 

「…ったく、貴方達さっきから私の神宝を壊そうとしすぎよ」

「そんな事よりも今のはなんだ? 自動で傷が塞がった様に見えたけど……」

「あぁアレ? 見ての通りだけど?」

 

見ての通りって事は、やっぱり今のは勝手に傷が塞がったって事で良いのか。

今まで色んな魔物を見てきたけど、人の姿でそんな事をする奴なんて初めてみたぞ。

 

「……だったら、アンタの能力は『自己修復する程度の能力』かしら」

「残念外れ。今のはある薬の効力でこうなってるのよ」

「ある薬?」

「そうよ。アレを飲んで以来、わたしは〝死〟と言う終わりがなくなり、故郷から追放されたわ」

 

少女は月を眺めながら、昔を懐かしむように静かな声で呟いた。

その横顔からは望郷の念の様なものが窺えるが、彼女の表情からはそれ以外の感情があるようにも見える。

相手の顔を見ただけでその人の全てを知る事は出来ないが、彼女の望郷の念にはちょっとだけ共感するところがあるな。

……今になって考えてみれば、俺も随分と遠くにまでやってきたものだな。

 

「故郷から追放されたって如何言う事よ」

「……その辺りは機会があれば話すわ。それじゃ四つ目の難題、神宝『ライフスプリングインフィニティ』」

 

話を打ち切った少女は、四つ目のスペカを宣言して俺達を試してきた。

カードを宣言すると、白く光る小さな珠が放たれるけど……直接俺達を狙う様なものじゃなかった。

その代わり、その珠は放たれてからある程度進むと、突如として自分の周囲に細長い光線を大量に展開してくる。

光線くらいならまだ余裕はあったけど、展開した後に小さな珠も撒き散らされるから中々に避け辛いか。

 

「これまた面倒なスペカだな」

「そうでなかったら難題にならないじゃない」

「正論だけど、はっきり言われると腹ただしいわね」

 

少女は余裕綽々って感じだが、既に霊夢がこれを如何にかする為に動き出している。

霊夢は彼女に気が付かれない様に四方に札を設置し、あの光る物体を結界で包み込もうとしている。

前に魔理沙にやったのと似たような事だけど、今回はあの時よりも簡略式で行う心算のようだ。

 

「夢符『封魔陣』」

 

札を四方に設置した霊夢は、光線で基点を貫かれる前に結界を発動させ、光る物体を結界の中に包み込んだ。

物体は結界の中で光線を放つが、霊夢の結界を突破する事は出来ず、そのまま中で大人しくなった。

これで四つのスペカを無力化した訳だが、今回は何時も以上にゴリ押しな気がするな。

まぁ、何時もの事と言って仕舞えばそれまでなんだが、流石に此処まですると申し訳ない気持ちに為ってくる。

 

「……こんな方法で四つも突破されるとは思いもしなかった」

「うっさい。…それに私からすれば、アンタの従者の方が強かったわよ」

「そりゃ永琳はわたしよりも強いから当然ね」

「あっさりと認めるんだな」

 

どこぞの吸血鬼ならムキになって否定しそうな事を、目の前の少女は気分を害する事無くアッサリと認めた。

アイツなら絶対に無理だろうな~って思うが、今は関係ない事だし、心の奥底に仕舞いこんでおこう。

 

「否定しても仕方が無いからね。…それじゃ最後の難題いくわよ」

「やっと家に帰れるのね……」

「それは貴方達の頑張り次第よ。……コレが五つ目の難題、神宝『蓬莱の玉の枝ー夢色の郷ー』」

 

少女が宣言すると、今度は玉が付いた枝から七つの魔法陣の様なものが出て、その陣から七色の弾幕が展開された。

七つの弾幕が一つに並ぶとちょっとした虹の様にも見えるが、彼女からも弾が飛んでくるから、数では五つの中で一番多いのかもしれない。

一つ一つの弾はそれほど大きくないけど、こうも数が多いと弾の大きさなんて殆ど関係ないような気がする。

光線が飛んでこないのなら、俺の剣で掻き消していけるが……ずっと掻き消すのは流石にシンドイな。

そんな事を思いつつも、俺は飛んでくる弾を次々と剣で斬り裂いて掻き消して行く。

 

「…ちょっと数が多いわね。リュウ、なんとか出来ない?」

「なんとか…って言われてもな」

 

正直な話、なんらかの竜に変身すればこの位如何とでも出来るけど、此処まで来たら変身しないで勝ちたい。

……だからと言って、弾幕が尽きるまで剣を振るい続けるのも辛いし、何か良い案は無いだろうか?

俺は剣を振るいながら、今の手元に残っているスペカを思い返してみる。

 

竜言語魔法のカードはまだ残ってるけど、今の姿で使えるやつで彼女のスペカを攻略できるとは思えない。

間合いを詰めて体術系のカードで決めるにしても、あの弾幕の中を突っ込むのは流石に自殺行為か。

……結論としては、今の位置から動く事無く、彼女に攻撃を叩き込めるカードってところだな。

手持ちのカードで何が良いか考えた結果、習得してから一度も使った事のないあのスペカに決めた。

 

「霊夢、ちょっと時間を稼いでくれ」

「……何秒」

「10…いや5秒も有れば事足りるか」

「5秒ね、分かったわ」

 

そう言うと霊夢は、俺の前に立って正面に結界を展開して少女の弾幕を防いでくれる。

霊夢が防いでる間に、俺は愛刀を仕舞って叢雲にありったけの力を注ぎこみ準備を始めた。

力を注ぎ込まれた叢雲は、普段の雲の様なオーラではなく、赤いオーラを刀身に纏った。

その状態のまま、ポケットに入れているスペカの中から一枚取り出し、少女に聞こえるように宣言する。

 

「断迷剣『迷津慈航斬』!」

 

カードを宣言した俺は、結界を張っている霊夢の前に飛び出し、叢雲に注ぎ込んでいた力で巨大な赤い刀身を作り出す。

その刀身を維持したまま剣を脇腹の辺りで構え、展開されている弾幕ごと少女を一気に薙ぎ払う!

……俺が剣を振り払った後、若干の静寂がこの場を包み込むが、それは少女の一言で打ち破られた。

 

「う、うそ……」

 

信じられないモノを見たように少女は小さく呟くが、それも仕方が無いのかもしれない。

俺が叢雲を振り払った後に残っていたのは、屋敷の上空に飛んでいる俺達三人だけ。

さっきまで大量にあった弾幕と展開していた魔法陣は、叢雲の一刀に斬り裂かれて全て消滅した。

……正直な所、俺も此処までの威力があるなんて予想していなかった。

元々威力の高い技だとは知ってたけど、まさかこれ程の威力があるなんて夢にも思わなかったぞ。

 

「さ、流石は〝草薙の剣〟。恐ろしい破壊力ね」

「草薙の剣?」

天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)の別称よ。…その昔、ヤマトタケルが敵の火刑に遭い窮地に追い込まれたとき、その剣で草を薙ぎ払い逆に敵に向かって火を走らせ、窮地を脱した事から付いた名と聞いてるわ。……まさか弾幕ごっこでその再現を見るなんてね」

「……………」

 

霊夢の話を聞いて、俺は思わず絶句して手に握っている叢雲をマジマジと見詰める。

俺が作った刀身を未だに纏っているが、久々に暴れられて喜んでいるのか、本来の刀身が何時もより輝いているように見える。

これで満足してなかったら如何しようかと思ったが、この調子なら特に問題はなさそうだな。

……それにしても、龍から出土した剣だからって切れ味が良すぎじゃないか?

 

「ところで、五つ全て攻略したからもう帰っても良いわよね?」

「良いけど……草薙の剣は卑怯よ。あんな風に弾を斬られたら、誰も貴方に勝てないじゃない」

「あ、あははは……次からは自重する」

「むしろ封印しないさいよ」

「そんな事したら叢雲が怒るから勘弁してくれ」

「なによそれ」

「アンタは気にしなくて良い事よ。…それじゃ帰ろっか、リュウ」

「だな」

「それじゃあねぇ~」

 

少女の気の抜けた別れの言葉を背に受けつつ、俺と霊夢は博麗神社へと急いで帰ることにした。

夜明けが近いのか空は大分白んできて、神社に着くのは太陽が昇り始めた頃になりそうだ。

……その時間に着いたら、寝る間もなく妖夢と戦う羽目に為りそうだが、大丈夫だよな?

 

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