竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第五十八話 十六夜の月見

霊夢Side

 

竹林の奥に建っていた屋敷に乗り込んで、其処の住人が隠していた月を取り戻した私とリュウ。

一晩中戦い疲れて眠っていた私たちだったけど、その日の夕方に突然紫がウチにやって来て、いきなり月見を開くと言い出してきた。

徹夜明けでそんな体力も気力も無いとはっきり告げたにも関わらず、紫の奴は人を集めて月見を強行。

妖怪が私たちの話しを聞くとは思ってなかったけど、もうちょっと日程とか考えても良いじゃない。

 

「ふぁ~……ねむい」

「本当に眠そうな顔をしてるわね。この月見は報酬の代わりなんだから、しっかり楽しんで貰いたいのだけど」

「だったら、日にちをズラしなさいよね。徹夜明けで眠いのよ」

「私だって暇じゃないの。今日を逃したら次ぎは何時に為るのか分からないもの」

「それなら別の報酬を用意しなさいよ」

「霊夢が白無垢を受け取らないのが悪いのよ」

「……あんなの受け取れる訳無いでしょうが」

 

私は心の底から呆れ果てて、肩をがっくりと落として一言呟いた。

対する紫は、何処が面白いのか分からないけど可笑しそうに上品に微笑む。

その表情を見て紫の掌の上で踊らされてる気がして、なんとなく負けた様な気がしてくる。

何に負けたのか自分でも分からないけど、今回の異変はコイツに焚き付けられた所があるから、強ち間違いでもない気がするわ。

 

「其処のお二人さん、隣り空いてるかしら?」

 

私たちの所にやって来たのは、あの屋敷にいた銀髪の女……永琳とか言ってたわね。

なんで彼女が居るのかと言うと、紫が何をトチ狂ったのか今回の月見招待したから。

永琳以外の屋敷の主だった面子は呼んでいて、魔理沙たちに絡まれている二人の妖怪ウサギの姿が在る。

……なんで魔理沙が居るのかって言うと、これも紫が勝手に呼んできたからよ。

 

「何かしら月の賢者さん、用件なら手短にね」

「なら単刀直入に聞くけど、なんでこの宴の席に私達を呼んだのかしら」

「普段と同じ面子もツマラナイからよ」

「……普通それだけの理由で、月を隠した張本人たちをこの場に呼ぶ?」

「他人と同じ事をしても面白くないわ。どうせ何かをするのなら混沌としている方が良いに決まってるじゃない」

「貴女の考えを他者にまで押し付けるのは感心しないわね」

「別にそんな心算はないわ。ただ、私はこういう考え方をしているだけよ」

「……そう」

 

二人の会話に入っていけない私は、彼女達の話しを聞き流しつつ酒を飲むしかなかった。

正直、こう言う堅苦しい会話を直ぐ傍でしないで貰いたいわね。聞いてるだけなのに肩はこりそうだし、頭も痛くなりそう。

 

「ところで巫女さん。ウチの姫様は何処にいるか知らないかしら?」

「……知らないわよあんな奴」

 

永琳があまり触れて欲しくない話題を振ってきて、私はつい素っ気無い返事を返す。

私の返事に彼女は首をかしげ、傍に居る紫は可笑しそうに含み笑いをしてくる。

 

「ねぇ、霊夢。今のは彼を取られた嫉妬かしら?」

「うっさいわね。……て言うか、まだ取られてないわよ!」

「分からないわよ~。もしかしたら、彼の好みってああ言うタイプかもしれないし」

「ぐっ……」

 

紫がからかって来ているだけなのは分かってるけど、リュウの好みの話を出されると何も言えなくなる。

あまりその手の話をしないし、昔からの付き合いがあるたっちゃんも知らないみたいだから、イマイチあいつの好みって言うのが分からないのよね。

だから、リュウの好みが彼女みたいなのって言う可能性も捨てきれないわね。

……あれ? もしかして、本当にリュウをアイツに取られちゃうかも知れないの?

 

「それは駄目! 絶対に駄目!!」

「うわっ?! ……如何したのよこの子?」

「さぁ? 霊夢の考えは私にもよく分からないわ」

 

一旦落ち着くのよ博麗霊夢、本当にリュウの好みが彼女みたいな子なのか分からないじゃない。

それにリュウは黒髪の子が良いのよ、前に私の黒髪を触って楽しんでた……って、彼女も黒髪じゃないの。

 

「向こうの髪は結構長かったし、いっその事私も髪を伸ばそうかな。いやでも……」

 

もしかしたら髪の毛じゃないかもしれないけど、巫女として服装を変えるわけにもいかないし、体格なんて変えられるものでもない。

紫の式くらいとは言わないけど、せめて衣玖くらいの胸が有ればリュウを押し倒して……って、それは恥かしいから却下!!

 

「……ねぇ、月の賢者」

「何かしら妖怪の賢者」

「鈍感を直す薬って作れないかしら?」

「惚れ薬は作った事あるけど、それは作った事無いから何とも言えないわね」

「そうなの」

「「……鈍感って本当に罪ね」」

 

 

霊夢Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウSide

 

「へっくしッ!」

「あら、風邪かしら?」

「いや、そんなんじゃないと思う」

「それなら、誰かが貴方の噂をしてるのよ」

「……噂をされてクシャミが出るって如何言う事だよ」

「さぁ? そんな事わたしが知るわけ無いじゃない」

 

此処は博麗神社の母屋の屋根の上。俺はこの場所に竹林にあった屋敷『永遠亭』の主である『蓬莱山 輝夜』と二人、月を眺めながら静かに酒を飲んでいる。

この屋根以上に高い建物が鳥居くらいしかないから、この場所からだと月の様子が良く見えて、俺は結構気に入っていたりする。

 

「ところで、いい加減わたしを此処に連れてきた訳を聞きたいのだけど?」

「ちょっと君と話がしたくてね」

「あら? わたしに求婚でも申し込む心算かしら?」

「いや、普通に話がしたいだけだけど?」

「……二人っきりで綺麗な夜空が見える場所にいるのに、普通の話がしたいって……貴方ってもしかしてヘタレ?」

「なんでそうなるんだよ」

 

よく分からん解釈をする輝夜に対して、俺は深い溜息を吐いて呆れ果てる。

あまり他の奴に聞かれたくない話だし、此処からなら月が良く見えるから、月見には持って来いの場所だと思ったんだがな。

 

「まぁ、良いけど。…それでわたしに話って?」

「初めて会った時に言ってたよな、〝わたしには死と言う終わりが無い〟って。それって如何言う事なんだ」

「……いきなり踏み入った事を聞いてくるのね」

「すまん」

「別に謝る必要は無いわ」

 

輝夜はそう言って、手に持っていたぐい飲みに入っている酒を飲み干した。

俺も酒を飲み干して、彼女が口を開いてくれるのを黙って待つことに。

如何しても話したくないのなら無理に聞かないけど、出来る事なら教えて欲しいとも思っている。

俺は空に為ったぐい飲みに新たに酒を注いで、今さっき入れた分も一気に飲み干す。

そうして待っていると、俺達の間にあった沈黙を破って輝夜が口を開いた。

 

「あの発言はそのままの意味で、わたしは〝蓬莱の薬〟を飲んだ不老不死者よ」

「蓬莱の薬?」

「随分昔に永琳が作った薬の事。その薬を飲んだ者は魂が本体になり、身体は只の入れ物に過ぎなくなる。だから老いる事も無ければ、肉体が消滅しても新たな肉体を創れるのよ」

「……魂を滅ぼさない限り死ぬ事の出来ない者か」

「えぇ。でも魂を滅ぼすなんて出来ないから、薬を飲んだ者は不老不死になるって訳」

「なら、輝夜にとって〝永遠に生きる〟って如何言う事だ」

「……ホントに変な事を聞いてくるのね。もしかして、不老不死に興味がある?」

「興味あると言うか、俺も似たような境遇だからな」

「…? 如何言う事?」

 

輝夜は俺の言葉が理解出来なかったのか、今の言葉の真意を尋ねてくる。

俺は自分の秘密を教えてくれた輝夜に、返答とお返しを兼ねて今度は俺の秘密を話すことにした。

俺が人ではなく本物の竜だと言う事、見た目以上に永く生きていると言う事、そして〝死〟を操る亡霊姫に死ぬ事出来るのかと問われた事を。

話を聞いていると、輝夜は少しずつ重苦しい雰囲気を醸し出してくるが、俺はそんな事など気にも留めず話せる事を話した。

 

「―――俺も輝夜と同じ不死者らしい。ただ、薬を飲んでそうなったのか、元からそうなのか位の違いでしかない」

「……元からそうなら、なんであんな質問をするの」

「俺には過去の大半の記憶がない。だから何百年も生きるのが如何言う事なのかよく分からないんだ」

「それだけじゃないでしょ。本当にそれだけの理由だったら、態々二人っきりになってまで聞いてくるとは思えない」

 

輝夜は俺の心を見透かすような眼で、俺の事を真っ直ぐに見据えながらはっきりそう言った。

一瞬誤魔化そうとも思ったが、彼女の言っている事は間違いじゃないし、直ぐに観念する事にした。

流石に出逢って一日しか経ってないのに見透かされるなんて思ってなかったな……。

心の中でそう思い、苦笑いを浮かべながら、俺は自分の中にある本音を彼女に話した。

 

「……霊夢と出逢って人の寿命の短さを思い知らされた。彼女は百年も経たずに死を迎えるのに、俺は今と変わらず何百年も生き続ける。……そんな事を考えたら〝永遠に生きる〟って何なんだろうって思ってな」

 

叶う事ならアイツと同じ長さの寿命で歩いて行きたい。……でも、そんなのは無理な願いだって理解してる。

力を捨てて人になる事の出来ない俺には、如何したって途方の無い時間を歩き続けるしか道がない。

中途半端な記憶しかない俺には、永遠に生き続ける事を当たり前の様に受け入れる覚悟なんて出来てる訳が無い。

……だからこそ聞いてみたくなった。〝永遠〟を受け入れた者にとって、永遠に生きる事が何なのかを。

 

「……貴方の言いたい事はなんとなく分かった。その上で言わせて貰うのなら―――」

「貰うのなら?」

「―――そんな先の事を気にしていて如何するのよ」

「……はい?」

 

輝夜の意外な返答を聞いて、俺は思わず目を丸くし素っ頓狂な声を出してしまった。

正直尤もらしい事を言ってくるのだと思っていたから、この輝夜の言葉には本当に驚かされるが、なんでそんな事を言うんだ?

俺が輝夜の真意を尋ねるよりも先に、彼女の方から今の話を続けてきた。

 

「これはわたしの考え方だけど、過去が無限にやってくるのなら、千年や万年よりも今の一瞬を大切にした方が良いじゃない」

「今の一瞬を大切にする……」

「えぇ。何年も先の心配をする暇があるのなら、彼女と一緒に居られる〝今〟を大切にしさないよ」

「……………」

 

輝夜の真意を理解した途端、俺は言葉を失ってしまう。

……だけど、彼女の考えが俺の聞きたかった答えなのかもしれないな。

 

「未来を見据えるのは良いけど、見過ぎて前に進めなくなったら意味がないじゃない」

「…あぁ、確かにその通りだな」

 

輝夜の言っていた言葉の真意を聞いて、今まで胸にあったトゲが取れた様な気がした。

彼女の言う通り、俺は〝未来〟ばかり見ていて〝今〟を見ていなかったのかもしれない。

俺も輝夜に習って、何時の日か来る別れを気にするよりも、今在るこの瞬間を大切にして行こう。

 

心の中でそう誓った俺は、取り戻したばかりの本当の月を眺める。

月は満月から見るとほんの少しだけ欠けているが、それでも優しい月光で地上を照らしていた。

俺は自分のぐい飲みに酒を注いだ後、丁度空になっていた輝夜のぐい飲みにも注いだ。

 

「あら、気が利くのね」

「さっきの礼も兼ねてだ」

「お礼をされる様な事を言った心算はないのだけど」

「じゃあ、俺の気紛れだ」

「そう言う事にしておくわ」

 

輝夜にも酒を注いだ俺は、もう一度空に浮ぶ月を眺めつつ、彼女とほぼ同時にぐい飲みに注いだ酒を一気に飲む。

其処から俺達の間に特に会話らしい会話もなく、十六夜の月が照らす中で静かに酒を飲み続けた……。

 

リュウSide out

 




全体的にあっさりめに終わった永夜抄。個人的にこの回のリュウと輝夜の会話が出来たので満足してる。
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