あと、キャラの語りが長いので少々読み辛いかもしれません。ご了承下さい。
あの月見から数日が経ったある日の昼下がり、霊夢は衣玖と共に人里に買い出しに行って、俺は母屋の縁側に腰掛けながら、愛刀に刃毀れや歪みがないかチェックしていた。
霊夢からこの剣を貰って使い始めてそこそこ経つが……未だに刃毀れどころか、傷一つ無いって如何言う事だ?
太陽の光を受けてギラリと光る刀身を見ながら、俺は独り首を傾げながら思い悩む。
この剣で練習用に作った岩を切り裂いたり、妖夢の楼観剣と何度も剣戟を興じた。
この前だって輝夜の異様に硬い神宝ともぶつけたって言うのに、刃毀れなんて何処にも見たらない。
本当に今更だが、この剣が一体何で出来ているのか物凄く疑問に為ってくるな。
「う~む……」
「お~い、遊びに来たぞ~……って、何をしておるんじゃ?」
「あ、龍神」
「だから『たっちゃん』と呼べ!!」
「あ~はいはい」
「なんじゃその返事はーッ!!」
俺が縁側で剣と睨めっこしていたら、久々に龍神の奴が神社に遊びに来た。
相変わらずあだ名で呼ばなかっただけで怒るが、個人的には『龍神』って呼んだしっくり来るんだよな。
それに、ずっと昔からこう呼んでいた様な気もするし……なんでだ?
「全く、本当にしょうのない奴じゃな。……それで、今は何をしておる」
「べつになにも。……強いて言うなら、この剣の刃毀れのチェックだ」
「その様な事調べなくとも、〝妾の創った〟その剣に刃毀れなど生じる筈がなかろう」
「……妾が創った?」
「うむ」
龍神は驚いたかと言わんばかりに胸を張ってふんぞり返る。
相変わらず偉そうなやつだが、実際にこの幻想郷の最高神なんだし、一応偉いんだよな。
……でも、背丈が小さいから如何しても小生意気な子供にしか見えない。
本人に言ったら何されるか分かったもんじゃないし、俺の心の奥底に仕舞いこんでおくけどな。
「……今、変な事考えたじゃろ」
「気のせいだ。それより、この剣はお前が作ったってのは本当か?」
「さっきそう言ったじゃろ」
「なら、如何してこの剣は俺の力に共鳴するんだ?」
「如何と言われても、その様に創ったからとしか良い様がないぞ」
「なんでそんな機能を付けたんだよ」
「う~む……順序を追って説明すると少々長い話になるが、構わぬか?」
「嗚呼。今日は特に予定も無いしな」
「そうか」
返事に受け取った龍神は、一つ頷いた後、俺の隣の場所に座り込んだ。
隣りに座ったまま、龍神は何処か遠くを見詰めながら、昔を懐かしむように語り始めた。
「今から一体何年前じゃったかな。竜は覚えておらんじゃろうが、お主は前にもこの世界に来ておる」
「……マジでか?」
「嗚呼。……あの頃はまだ幻想郷の基礎も出来ておらず、人間に妖怪…それに神々が好き勝手に暮らしておった」
遠くを見詰めながら語る龍神の顔は、昔を懐かしみながらも何処か儚げな表情をしていた。
その表情が何を意味するのか分からないけど、普段とは違う龍神の様子に内心戸惑い隠せないでいる。けれども龍神はそんな事など露も知らずに語り続ける。
「当時の妾も〝幻想郷の最高神〟ではなく、一介の龍として自由に空を飛びまわっておったある日、空を飛んでいた妾の近くで、天を割って見た事の無い白い竜が現われ〝神は何処に居る〟と尋ねてきた。妾は〝神々なら高天原に居る〟と答えると、その竜は〝そうか〟と頷いた後、何処かへと飛んで行きおった」
話し始めたばっかりで少々気が引けるが、如何しても気に為る事が出来たから質問させて貰おう。
「……あ~二つ質問があるんだが良いか」
「ん? なんじゃ?」
「その白い竜ってのが俺なのか? あと剣の話は如何した」
「最初の質問はその通りじゃ。二つ目に関してはもう少し待っておれ。いきなり剣の事を説明すると、何故コレが必要なのかと言う話になってくるじゃろ」
「……それもそうだな。悪い、続けてくれ」
「うむ」
話の腰を折ってしまったが、龍神は特に気にする様子も無く、一度咳払いをしてから話を続けた。
「…何処かへと飛んでいく竜の姿を見て、妾はなんとなくあやつの事が気になり、後をつけることにした。下手に近付いて勘付かれない様に距離を取り後をつけておると、白い竜は高天原にまで辿り着き、神々に向かって〝俺の敵は何処だ〟と言った。突然現われた白い竜に神々は戸惑いながらも〝そなたの敵とは誰の事だ〟と聞くと、アヤツは〝俺の敵は神だ〟と言い放った。その言葉に神々は驚き、白い竜を高天原から追い出そうとしたが……それが悪かった。白い竜は追い出そうとする神々を敵と認識したのか、自分に向かって来る神々を逆に返り討ちにしてしまいおった。其処から先は只の蹂躙じゃったな……。白い竜は逃げる神に追撃はせんものの、向かって来る者には一切の容赦もなく撃退し続けた。何人もの神が敗れ去り、遂には武神と呼ばれておる
「……………」
龍神の話を聞いている内に、昔の俺は一体何をしていたのかと自分で問い詰めたくなってくる。
前に俺の本質は『神殺し』だと聞いていたが、まさか本当に神々に喧嘩を売っているとは思いもしなかった。
若気の至り……って歳だったのか知らないけど、今の俺なら考えられない暴挙だな。
「建御雷神をも破り、徐々に追い詰めらていく神々じゃったが……突如として白い竜が〝違う、コイツ等じゃない〟と呟き、攻撃の手を止めて高天原から出て行きおった。神々は白い竜が立ち去り、安堵の表情を浮かべておったが、妾は直ぐに後追いかけあやつに今回の暴挙の訳を尋ねた。するとあやつは〝俺は神を殺す為に生まれた竜だ〟と言い、次ぎに言ってきたのが〝他に神は居ないのか〟と妾に尋ねてきおった。尋ねられた妾は心底困り果てた。確かに神々なら日の本へ行けばまだ居るが、案内などしてまた暴挙を引き起こされては我等龍族の立場が危うくなる。何とかしてコヤツを言い包められないかと考えて居ると、妾たちの傍に
龍神が語る中で出て来た『天照大御神』と言う名前。
その名を聞いたとき、どんな奴だったか覚えていないと言うのに……不思議と懐かしさの様なものを感じた。
昔の俺は随分と無茶な事をしていた様だが、神の名前を聞いて懐かしむ位この土地に居たのか。
「妾は最初アレだけ暴れた竜を咎めにきたのかと思ったが、天照は〝他の神々なら日の本に居る〟と白い竜に教えてしまう。一体何を考えておるのかと尋ねるよりも先に、天照の奴は〝しかし、その姿のまま赴く事はまかり為りませぬ。如何しても行くというのなら、姿を変え、力を抑えて行かれよ〟と告げてくる。白い竜は〝何故か〟と聞くと、天照は〝そなたの力は強大であるが故に、今のまま行けば関係のない者達が命を落とす事に為る。……それと良しとするのですか?〟と逆に問い返した。白い竜は暫し考えた後、自らの姿を人の形へと変え〝コレで良いか〟と天照に問い掛けた。天照はソレを見て頷くと、今度は妾の傍に近付き〝暫く間、かの者の様子を見ていて貰いたい〟と頼のみ頭を下げてきた」
「何だってそんな事を頼んだんだ?」
「お主が危険人物だからに決まっておるじゃろが」
「……それで納得出来る自分が嫌になる」
俺は肩を落として凹んでいると、龍神はその様子を見て可笑しそうに笑う。
笑う龍神に文句でも言ってやろうかとも思ったが、彼女の笑顔を見てみると何故かそんな気も失せてくる。
俺は大きく溜息を吐き、龍神は中断していた昔話を続けてくれた。
「天照の頼み事は最初は断ろうとも思ったが、あやつが下げた頭を無碍にする事もできず、結局〝遠くから見ているだけで良いのなら〟と言う条件で引き受けてしまった。此方が提示した条件を天照も了承し、妾も白い竜に倣って人の姿へと変えて竜と共に地上へと降りた。其処からがまた大変でな。竜は神々だけではなく野党や妖怪など、自分に敵対する者全てを潰していきおる。一切の手加減も無い上に、竜言語魔法も惜しみなく使うもんじゃから、一時日の本に住まう者全てから化物扱いされてたわ」
「……ソレを見かねた龍神が、力を抑えるために俺に剣を創って渡したと?」
「見かねたと言うよりも、天照を哀れんだと言うのが正しいじゃろうな。竜と共に日の本を歩き渡っておったある日、天照の奴が妾たちの前に現われ〝お願いだから、もう少し穏便に戦って〟と涙ながらに頼み込んできたからな。日の本の太陽神が涙ながらに頼んで居るのに、竜は〝コレ以上抑えようが無い〟とあっさり言い捨ておった。その一言に天照は卒倒しそうになってな、ソレを見かねた妾が力を使い竜の為の剣を創リ始めたと言う訳じゃ」
長い話だったが、漸く本命の剣に関する話にまで辿り着く事ができた。
それと同時に、昔の俺は随分と酷いやつだったと言う事が分かった気がする。
「剣を創り、竜に手渡したのは良いが……力を込めただけで、あっさりと灰にしてしまってな。本人に何故その様な事をしたかと追求すれば、あやつは〝俺は軽く力を込めただけだ〟と言いきりおった。あの当時のお主は、戦う時に拳や脚に自身の力を集中させて繰り出しておったからな。戦うときの様なノリで力を込めたんじゃろ。手加減を知らぬのは分かっておったが、まさか此処まで手加減知らずとは思いもしなかったわ」
「ん? でも、前に使ってた刀は燃え尽きたりしなかったぞ」
「それはちゃんと手加減しておったからじゃろ。当時の竜は本当に酷かったからの」
「……………」
なんとなく自覚はしていたが、其処まではっきり言われると悲しいものがあるな……。
「まぁ、当時の妾も創った剣あっさりと灰にされたのが悔しくて、竜が使える剣を創り出そうと躍起になってたわ。何本も剣を創り、それを竜に渡しては壊される毎日……。望む物を創れない悲しさと悔しさから、夜中に独りで泣いておった事もある。それでもめげずに剣を創っておると、一本だけ壊れ方が他の剣とは違うのが出来てな。詳しく調べてみると、その剣だけが竜の力を受け入れる様な作りをしておった」
「力を受け入れる?」
「うむ。…竜の力を水と例えるなら、その壊れた剣は水を注がれる杯のようなものじゃった。杯に水を注いでも許容量までは持ち堪えられるが、量を超えれば水が溢れて決壊してまう。それと同じ様に、剣も受け入れる力が限界を超えると崩壊しておった。その事を知った妾は、幾ら注がれても壊れない器を作ろうとしたが……竜が注ぐ力の方が圧倒的で、何度壊れない剣を創ろうとも、竜はいとも簡単に限界を超えてしまう。そこでまた妾は考えた。無限に注がれる力ならば、それに共鳴し、余分な力を別のモノに変換する仕組みを作ればよいと」
「それが、俺の力に反応する理由と刀身が光る理由か」
「その通りじゃ。材料には金剛石よりも硬い
龍神は出来上がった時の事を思い出しているのか、本当に嬉しそうに笑いながらそう話す。
一方で俺は、知り合った当時から迷惑や苦労を掛けていたと知り、申し訳ない気持ちで一杯に為ってくる。
多分だけど、昔の俺は龍神に感謝の言葉も言わないで〝…まぁまぁだな〟とか言ってるんだろうしな。
「なんつうか……苦労を掛けたみたいだな」
「気にするでない。妾が好きでやった事なんじゃし」
「そうは言ってもな……」
「当時の竜からもちゃんと礼を言われておるから、お主が気にする事ではない」
「言ってたのかよ?!」
龍神の何気ない一言に俺は眼を丸くし、大声を出して驚きを顕わにした。
「そんなに驚く事もなかろう。……確かに当時の竜は、鉄仮面でも被っているのかと言う位無表情で、口数も少なかったがちゃんと礼は言う奴じゃったぞ。……まぁ、謝罪は滅多にせん奴じゃったがな」
「……今の俺と全然違うんだな」
「そうじゃな。妾も今のお主を見たときは別人かと疑ったくらいじゃし」
「俺も龍神の立場だったら、間違いなく疑うだろうな」
今までの話を聞いていると、本当に今の俺とは別人と言っても良いくらいに違いだ。
もう一人の俺だったフォウルも、別人と言っても過言じゃない位に性格が違っていたっけ。
その事を思い返してみると、もしかしたらフォウルの方が昔の俺に近かったのかもな。
「と言う訳で、お主が剣を手にするまでの経緯はざっとこんな感じじゃ」
「長い話をありがとな龍神」
「それは構わぬのじゃが……そう呼ぶのを止めろと言っておるじゃろ」
「別に良いだろ。龍神は龍神なんだし」
「……その呼び名はな、自分と妾を区別する為にお主が呼び始めたのじゃぞ」
「そうなのか?」
「そうじゃ! それに初めの頃は〝神〟ではなく〝人〟で『龍人』となっておったのに、お主が彼方此方で暴れるもんだからお主は破壊の神として呼ばれるようになり、何時の間にか妾とお主が同一視され『龍神』として畏れられておったのじゃぞ!!」
「あ~……それは災難だったな」
口ではそう言うものの、霊夢から〝龍神は破壊と創造の神〟と聞いていたから、別に問題ないだろと思ってしまう。
まぁ、暴れまわっていたのは当時の俺なんだし、本当なら俺がそう呼ばれていても不思議じゃないんだが……世の中分からんもんだな。
「世に広まる前にお主が別の呼び名で呼んでおれば、今も自由に空を飛んでおれたものを……」
「そうは言うが、別の呼び名って例えばどんなのだよ」
「無論『たっちゃん』に決まっておるじゃろ。今からでも遅くはない、さぁ呼ぶがいい!」
「その名前は断る」
「なんじゃとーッ!!」
怒り掴み掛かろうとする龍神を片手で押さえ付け、前みたいに首を揺すられない様にする。
そうして暴れる龍神を押さえていると―――
「ただいま~。リュウ、今帰ったわよ~」
「おじゃまします」
―――買い物に行っていた霊夢と衣玖が神社に帰ってきた。
その声を聞きつけた龍神は、素早く俺の手から離れて二人の方に向かって走り出す。
「ん? 何する心算だ?」
「知れた事……。お主の知らない過去をあの二人に喋るだけじゃ!!」
「あ、お前!」
「話されたくなければ、今度は妾の事を『たっちゃん』と―――」
「それは断るって言っただろ」
「―――霊夢ー! 衣玖ー! 面白い話があるから聞かぬかー!!」
「ちょっと待ってーッ!!」
俺は大声を出しながら、二人の元へ行こうとする龍神の後を追いかけた。
龍神が一体何を言うのか知らないけど、さっきの話しを聞く限りだと絶対に碌な過去じゃない。
本当に止められるのか分からないが、霊夢に変な事を吹き込むのだけは絶対に止めさせてやる!!
オマケ
……あの日、この日の本から竜が姿を消したとき、妾は途方もない寂しさを覚えた。
あやつがこの世界に現われてから、何百年も共に行動していたのだ、寂しくなるのも当然なのかも知れぬ。
……じゃからこそ、この幻想郷に姿を現したときは本当に嬉しかった。
竜が消えてから数百年の間に色んな事があり、その間の事を全て話してやろうとも考えていた。
しかし、再び姿を現した竜には妾との記憶がなく……あやつは妾ではなく霊夢を選んだ。
その事が酷く悲しかったし、叶う事ならまた二人で世界を見て周りたかった。
……けれども、今は大丈夫じゃ。記憶を失っていても竜は竜だと分かったからな。
「―――で、その時の竜は何を考えたのか、天魔を全力でぶっ飛ばしおってな。いや~、アレは見事な吹っ飛び様じゃったぞ」
「今もそうだけど、昔から破天荒な事してるのね」
「ちょっと待て霊夢。〝今も〟って如何言う事だよ〝今も〟って!」
「そのまんまの意味よ」
「……もしかして、自覚がないのですか?」
「い、衣玖さんまで……」
「まぁ、お主は昔からとんでもない奴じゃったと言う事じゃ」
「あれ? 眼からしょっぱいものが……」
昔の様に共に世界を渡り歩けぬのは寂しいが、こうして皆が集り騒ぐと言うのも存外悪くはない。
じゃからこそ、独りでいた数百年分の時を帳消しに出来るくらい、思いっきり楽しませてもらうぞ。
……なぁ、我が最良の友、竜よ……。
終わり