竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

60 / 212
第六十話 小さな宴会

 

「今宵はまだまだ呑むぞ! 着いて来れぬ者は無理矢理にでも着いて来い!」

「キャーッ! たっちゃん素敵ーッ! これは私も負けてられないね……よし、次の酒を持って来い!」

「……少し飲みすぎだ、酔っ払い幼女×2」

「「私/妾達はまだまだ呑めるぞー!」」

「駄目だコイツ等、早く何とかしないと……って、もう手遅れか」

 

なんの前触れもなく始まった、第何回目に為るのかも分からない博麗神社での飲み会。

今回の飲み会の切欠は、龍神の奴が外の世界の珍しい酒が手に入ったから皆で飲もうと言い出したからだ。

俺と霊夢はめんどくさいと言う理由で、最初の内は断ろうとしたんだが……何時の間にかやって来ていた萃香の奴がそれに賛同し、気が付いた時には神社で飲み会が始まっていた。

酒と聞いて萃香の奴が黙っているとは思ってなかったが、俺達まで巻き込むのは止めて欲しいもんだ。

まぁ、何時かの宴会に大人数で騒ぐのではなく、仲間内でこじんまりと飲んでいるだけだから、あの時よりは多少マシなんだけどな。

ちなみに今回のメンバーは、俺・霊夢・龍神・萃香・衣玖さんの五人だけだったりする。

なんで衣玖さんも参加しているのかと言うと、今日偶然にも居合わせてしまったからだ。恐らくはつまみを作る奴が欲しかっただけだろう。

 

「ホントにコイツ等の胃ってどうなってるんだ? 二人だけで一升瓶を何本空けたと思ってるんだよ」

「まぁ、お二人ともお酒には強い種族ですからね。他の方よりも多く飲めるんですよ」

「だとしても飲み過ぎだ。この大量の空瓶を誰が片付けると思ってんだよ」

「…良いかい、リュウ。酒ってのは飲みたい時に飲みたい様に飲むもんだ」

「妾達の辞書に〝自重〟の二文字など載っておらん!」

 

二人して好き勝手な事を言ってくるが、コイツ等のペースに付き合わされるこっちの身にも為ってほしい。

コイツ等かなりのペースで飲んでいくもんだから、一緒に飲んでいくと次の日の朝が辛いんだよ。

 

「ったく、お前等の持論にまで文句を付ける気は無いが、周りに迷惑を掛けるよう飲み方をするのは止めろ」

「迷惑? 一体誰が迷惑していると言うのじゃ? 妾には皆目見当も付かん」

「現在進行形で俺が迷惑してるんだよ。そのぐらい理解しろよこの野郎」

「ハッハッハッハッハッ。お主が何を言っているのかさっぱりじゃよ」

「ワタシ、リュウゾクノコトバワカラナイネ」

「あはははははははッ。良い度胸じゃねぇか……テメェ等いっぺんぶっ飛ばす!」

 

二人の余りな態度に堪忍袋の緒が切れた俺は、席を立ち上がって二人を外に放り出してやろうとすると―――

 

「リュウ、動いちゃ駄目。そこに居てくれないとやだ」

 

―――背中に抱きついていた霊夢に無理やり元の席に戻されてしまう。

バカ二人にかなり飲まされた所為か、今の霊夢は酔っ払っていて俺の背中に抱き付いて動こうともしない。

しかも酔いが回っている所為で上手く力加減が出来ていないのか、俺を席に戻すときに普段じゃ考えられないような力を出して来た。

流石に肩が抜けるとまでは言わないけど、両肩にかなりの負担が掛かった所為でかなり痛い。

 

「あのな、霊夢。そろそろ離してくれると嬉しいんだが……」

「やだ、もう少しこのままがいい」

「でもあの馬鹿二人に制裁を加えないといけないし、霊夢もその体勢でいるのも辛いだろ」

「そんな事ない。リュウの背中はあたたかいし、こうしているとすごく落ち着く」

「いや、俺の背中で落ち着かれても困るんだけど……」

「それとも私がこうしていると邪魔?」

 

霊夢は凄く不安そうな声で呟き、その不安を掻き消すように俺の背中に顔を埋めてくる。

こうされると俺から強く言い出すことも出来ないし、別に嫌と言う訳でも無いから無理やり引き剥がす事もできない。

周り……と言うか、龍神と萃香からは俺の事を非難する様な視線を向けられるし、衣玖さんは諦めた方が良いと言わんばかりに首を横に振る。

結局どうする事も出来ないと悟った俺は、霊夢に甘い自分自身に呆れて大きな溜息を吐いた。

 

「はぁ~……。もういい、好きにしてくれ」

「ぁ…うん。ありがとう、リュウ」

「はいはい」

 

嬉しそうにお礼を言ってくる霊夢を他所に、俺は適当な返事を返して酒の入っているぐい飲みを一気に飲み干す。

龍神と萃香はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてくるが、霊夢が背中にいる以上力尽くで黙らせる事も出来ないし、イチイチ干渉するのも面倒に感じたのであの二人は放置する事にする。

また言い合いになっても堂々巡りになるだけだろうし、なんかもう色々な事が如何でも良くなって来た。

衣玖さんは力に為れなかった事を申し訳なく思っているのか、若干だが居心地が悪そうにしにも見える。

俺は別に気にして無いんだが、衣玖さん自身が気にしているみたいだし、此処は一つ話題を変えてみるか。

 

「…そう言えば、衣玖さんに一つ聞きたい事があったんだが」

「あ、はい、なんでしょうか?」

「確か初めて会った時に〝剣を落とした〟とか言ってたよな。一体どう言う経緯で落としたんだ?」

「それは…その……余り言いたくない事なのですが……」

 

何かやましい事がある……って訳でも無さそうだが、よほど言い辛いのか衣玖さんは俺から視線を逸らそうとする。

絶対に聞かないといけない事でも無いし、話せないなら話せないで別に構わないんだが、横から龍神の奴も口を出して来た。

 

「そう言えば妾もその事は聞いておらんかったな。酒の肴に丁度良いから話してみい」

「……龍神様がそう仰るのでしたらお話しますが、絶対に怒らないで下さい」

「それは話の内容次第じゃが、滅多な事では怒らんから安心して話すが良い」

「分かりました。……話は龍神様より剣をお預かりしたところまで遡るのですが―――」

 

衣玖さんが話してくれた内容は、なんていうか……怒りを通り越して呆れる様な話だった。

龍神がから呼び出しを受け、雲の中にあると言う竜宮で剣を受け取った衣玖さんは、直ぐに剣を俺に私に行こうと思ったそうだが、天界に在るもう一つの仕事先でやり残している事が有る事を思い出したらしい。

博麗神社と違って其処の仕事場は環境が悪いと言うか、雇い主が大変我が侭なやつらしく、仕事をやり残したまま勝手に何処かに行くと後が五月蝿いそうだ。

急いで剣を渡しに行ってくれと頼まれたわけでも無いし、衣玖さんは剣を届けに行く前に天界に戻ってその仕事をやる事にしたらしい。

仕事場に戻った衣玖さんは、普段使っている休憩所に剣を置いてやり残している仕事を片付け、それも一段落付いたので俺に剣を渡そうと休憩所に取りに戻ると……置いてあった筈の剣が無くなっていたそうだ。

慌てた衣玖さんは部屋の中を隅々まで見たが見当たらず、誰かが持っていたのだと思い屋敷の中を探し回っていると、衣玖さんの雇い主でその屋敷の一人娘が外で剣を振り回しているのを見つけた。

衣玖さんは急いで剣を取り戻しにその娘の所に向かおうとした時、何を思ったのかその娘は突然癇癪を起こし、あろう事か剣を何処かへと向かって放り投げてしまったらしい。

その光景を見て驚いた衣玖さんは、慌ててその娘の元へと向かってわけを問い質すと、返ってきた返事が〝剣が抜けなくて腹が立った〟と言う本当に些細な理由だった。

そんな理由で剣を投げられた方は溜まったもんじゃないが、その娘は自分の雇い主であるために強く言い出す事も出来ず、言ったところで聞き流されてしまうのがオチだと思い堪えたそうだ。

 

「―――あの方が我が侭なのは今に始まった事ではありませんが、あの時は本当に酷い目に遭いました」

「あぁ…うん、お疲れ様」

「わたくしはあの方に暫しの暇を貰い、投げられた剣を探しに出掛けたのですが……結果は皆さんも知っての通り、剣は運悪く地上へと落ちてしまい、わたくしは剣を捜し求めて一月以上幻想郷を彷徨ったわけです」

 

疲れ果てたように話を締め括った衣玖さんだが、俺達は彼女に同情してやる事しか出来なかった。

龍神から預かった物を失くすんだから、それ相応の理由があったんだろう……そう思っていたんだが、蓋を開けてみれば実に馬鹿馬鹿しい理由だった。

そう思っているのは俺だけではないのか、普段騒がしい龍神と萃香も衣玖さんに同情していて、酔っ払っている霊夢も話を聞いていたのか衣玖さんを哀れんでいる様な気がする。

そんな俺達の視線に堪えているのか、衣玖さんは今にも泣き出しそうな表情で下に俯いてしまった。

 

「……あの方に仕えて何年にもなりますが、あの方に我が侭には本当に困っているんです。最初の頃はその内慣れるだろうとと思ってしましたが、あの方の我が侭は性質が悪くて今も心労が耐えませんよ」

「まぁ、天界の連中は色々とアレな輩が多いが、確か衣玖が奉公に行っておる場所は『比那名居』の所じゃったな」

「はい、その通りです。其処のご息女にお仕えしている状態です」

「あそこの家は普通に天人になった訳では無いからのぉ。確か〝不良天人〟とか呼ばれておったか」

「一応自分がお仕えしている家ですので、はっきりとは言いたくないのですが……その通りです」

 

龍神と衣玖さんは話が通じているようだが、天人の事なんて詳しく知らない俺達にはさっぱりだった。

 

「おい、龍神、不良天人ってなんだよ。普通の天人とは違うのか?」

「う~む……種族的に大差ないんじゃが、そうなった時の状況の違いじゃな。普通の天人は修行や功績が認められる場合と、死後、成仏して天界に昇りそれ相応の格を持つ者を〝天人〟と呼ぶ。しかしあの家は昔自分達が使えていた一族の者が神霊となった事で、序でみたいな形で功績が認められただけじゃから天人としての格は持っておらんのじゃ」

「あ~……それで〝不良天人〟なんて呼ばれてるのか」

「更に見も蓋もない事を言えば成り上がりの一族って訳だ。天人にもそう言うのは連中が居るんだねぇ~」

 

萃香の奴が本当に見も蓋もない事を言うと、衣玖さんは何も言い返せないのか乾いた笑みを浮かべた。

龍神はその通りだと言わんばかりに頷いているが、なんでそんな連中を天人にしたのか俺には分からない。

流石に神霊になった奴に仕えていただけって事は無いと思うが、もう少し人は選んだほうが良かったんじゃないだろうか。

誰が決めたのかまでは知る気も無いけど、天人としての格を気にする位ならもう少し厳しくするべきだろ。

 

「衣玖って見た目以上にくろうしてるんだね」

「見た目以上と言うのは少々引っかかりますが、苦労しているのは事実です。…出来る事なら何処か別の方の元にお仕えしたいです」

「そう思ってるなら辞表を出してさっさと辞めちまえば良いだろ。話を聞く限りだと、働きながら別の就職先を探すのは難しそうだしな」

「それは分かっているのですが……辞めさせてくれるのかも怪しいので」

「……酷い話しだなオイ」

「そうなんですよ。お給金が良いのがせめてもの救いです」

「あ、お金はちゃんと支払われてるんだ、私はてっきり支払われてないと思ってた」

「これでもちゃんとしたお仕事ですからね、その位はちゃんと出して頂きませんと」

 

苦笑いを浮かべながら話す衣玖さんを見て、ウチは給料を支払わなくて良いのか本気で考えてしまった。

別にこの神社に奉公にきてるわけじゃないし、此処に来る名目は龍神との連絡を取る為だから気にしなくても良い様な気もするが、衣玖さんの話を聞いていると俺もそれなりの誠意を見せるべきではと本気で考えてしまう。

……まぁ、お金を出す事になってもウチは基本的に貧乏だから、渡せる額は雀の涙程度なんだけどな。余り出しすぎると食費や雑貨代が出なくなるからな。

 

「さてさて、暗い話はこのくらいにして飲み直そうじゃないか!」

「年がら年中酔っ払ってるのに、飲み直すも何も無いだろう」

「分かってないねぇリュウは……私は今すぐ楽しい酒が飲みたいんだ!!」

「いや、どう言う理屈だよそれ」

「余り細かい事を気にする出ない。鬼にとっては何時もの事なのじゃからな」

 

そう言いつつ龍神は近くに置いてあった酒瓶を手に取り、瓶の口を衣玖さんの方に向けて差し出す。

突然の事に衣玖さんは困惑した表情を見せるが、龍神はそんな事を気にする様子も無かった。

 

「…あの、龍神様……これは一体」

「なに、妾が酌してやろうと思ってな。お主もぐい飲むを出すが良い」

「そんな!? 龍神様に酌して頂くなんて恐れ多いにも程があります!」

「気にするでない。…今宵は無礼講じゃ、普段の立場など忘れて今宵の酒宴を楽しめ」

「いえ…ですが……―――」

「衣玖さん、此処は素直に酌してもらっとけって。余り断ると龍神の奴、無理やり注いでくるぞ」

「流石は竜じゃな。妾の考えが良く分かっておる。記憶はなくなっても妾の事は分かると言う訳か」

「お前、こういう場だと結構分かりやすくなるからな。分かりたくなくても読める」

 

宴会ではしゃいでいる龍神に呆れながら言うと、向こうも俺の考えが読めると言いたげな笑みを浮かべる。

 

「クックックックックッ。竜よ、如何でも良さそうに言いながらも実際はお主も楽しんでおるのじゃろ」

「……さて、それはどうかな。お前の思い過ごしって可能性も有るぞ」

「竜よ、妾とお主の間で下手な隠し事など無意味と知るがいい」

「勝手に言ってろ」

「むぅ~……リュウの事をいちばん分かっているのは私だもん」

「あ~はいはい、そうじゃなそうじゃな」

「なんか適当にあしらわれた。…こうなったらリュウ、たっちゃんに分からせてやるわよ」

「……からかわれるネタになるから勘弁してくれ」

 

前みたいな事になるのは嫌だったから思わず本音を零すと、背中に抱き付いている霊夢がより身体を密着させてくる。

この調子だと、明日は恥かしさからまともに顔を合わせてくれないだろうな。

何処か他人事の様に思っていると、龍神と萃香は面白がっている様な嫌な笑みを浮かべてコッチを見てくる。

全力で張り倒してやりたい……そんな衝動に駆られるが、背中に霊夢が居て思うように動けないので自重する。

俺が何もして来ないのを良い事に、二人は更に露骨な笑みを浮かべてくるが……もう気にしない事にしよう。

 

「まぁそう言う訳だから、衣玖さんもこんなのに気を遣わずに気楽に楽しめって」

「こんなのとはなんじゃ、こんなのとは! コレでも妾は幻想郷の最高神じゃぞ!」

「私だって鬼の四天王の一人なんだぞ! 敬え、そして畏れろー!」

「はっはっはっはっはッ。首を洗って出直して来い、馬鹿ども」

「きゃー! リュウかっこいいーッ!」

「……とりあえず、霊夢は少し黙ろうな」

「えーやだー」

「やだってお前な……」

 

霊夢のキャラが崩壊して行くのを感じて思わず溜息を吐くと、戸惑っていた衣玖さんの表情が明るくなった。

恐らくは俺達を見て吹っ切れたのだろう。さっきの苦労話の時よりもずっと良い顔をしている。

衣玖さんは自分が使っているぐい飲みを手に取り、それを龍神の持っている酒瓶の方へと向けた。

 

「恐れ多いですが龍神様、お酒を一杯頂けますでしょうか」

「……何を言うておる。一杯とは言わずに十でも二十でも酌してやろう」

 

龍神は不敵な笑みを浮かべながらも衣玖さんに酌をするが、その発言に彼女の顔も引き攣ったものになる。

 

「さ、さすがに其処までは飲めないので勘弁してもらいたいのですか」

「なんじゃつまらん。…仕方が無い、代わりにリュウ。お主が妾たちに最後まで付き合え」

「めんどくさいから断る」

「わっはっはっはっはッ。残念だけどリュウ、お前さんは強制参加で付き合ってもらうよ」

「無茶言うな、幾らなんでもそこまでは付き合えねぇよ」

「そんな事…私たちが知るわけ無いだろ!」

「ふざけんな!!」

「「なははははははははははははッ!」」

 

俺が大声を出したのを皮切りに、龍神と萃香は楽しそうに笑い出した。

その楽しげな笑いに釣られたのか衣玖さんも小さく笑い出し、霊夢も何処か楽しげに抱きついてくる。

そんな周りの連中に感化されたのか、自分だけ怒っているのが馬鹿らしくなってくる。

俺は呆れたように小さな溜息を一つ零すが、この状況を楽しんでいる自分が居るのを自覚していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。