???Side
……あの二人と出遭ったのは、つい二週間くらい前の事だ。
私が気ままに夜空を飛んでいた所にやって来て、いきなり好き勝手な事を言って来たあの二人。
好き勝手に言う二人に腹を立て、懲らしめる為に必殺の蹴りを放つものの……青髪の男の前にアッサリと破られ、遠くへと投げ飛ばされてしまった。
……投げ飛ばされた時に私は心に決めたんだ、あの二人に必ず復讐してみせるって!
だけど、知り合いの妖怪から聞いた話だと、あの二人に戦いを挑んで勝てた者はいないらしい。
特に青髪の男の方は、湖の畔に住む吸血鬼と戦って勝ったとか、幻想郷から姿を消した鬼にも勝てたとか……嘘か真かも分からない話がある。
その話を聞いて流石に恐怖に駆られそうになったけど、あの男に畏れて泣き寝入りする訳にも行かない。
何か手はないかと考えていた僕の元に、ある日一匹の妖怪ウサギが変な薬を売りに来た。
その名も『巨大化薬』。この薬を使えば、一定時間だけ服用した生物の身体を大きく出来るとか。
……ウサギがこの薬を売りに来た時に私は思った。
きっと龍神様が、あの二人を倒そうとしている僕の為に、この妖怪ウサギを派遣してくれたんだって。
一瓶の値段は結構張るけど、私は迷わずその薬を五本も購入した。
お陰で今月は苦しい生活になりそうだけど、蟲の地位向上の為にあの二人に舐められる訳にも行かない。
この薬を使って必ずやあの二人に私の恐ろしさを思い知らせてやる!!
???Side out
霊夢Side
「それじゃまたね、霖之助さん」
「またのご来店をお待ちしてます」
私は包んでもらった本を大切に抱えながら、目の前の扉を開けて香霖堂を後にした。
リュウが来てから、前ほど店に遊びに行かなくなったけど、今日は珍しく良い買い物が出来たわ。
あまりにも気分が良かったし、霖之助さんにしては結構安い値段で売ってくれたから、思わず買っちゃった。
先月は結構な高値で売れたのか、リュウがウチに多くお金を入れてくれたお陰ね。
神社には相変わらず客が滅多に来ないけど、アイツが頑張ってくれてるから、こうして本を買う余裕も出来てきた。
「ホント、リュウには感謝しなきゃね。……それじゃ、中身を拝見っと」
私は香霖堂から神社へと続く道を歩きながら、ついさっき買ったばかりの本を取り出し、歩きながら本を読み始める。
この場に慧音が居たら間違いなく注意が飛んでくるでしょうけど、彼女がこんな所に来るなんて思えないし、特に気にする事もないでしょ。
そんな事を考えながら本を読んでいると、何処からともなく虫の羽音が聞こえてくる。
幻想郷にだって虫の十匹や二十匹は居るんだし、特に気にする必要もないんだけど……聞こえてくる音がどうにも五月蝿すぎる。
私の耳に届く羽音は、夜中に聞こえてくる鈴虫の大合唱の方が静かと思えるくらいの音量。
一体何匹の虫が集まれば、こんな大音量の羽音が聞こえてくるのやら……。
いい加減喧しいと感じてきた私は、懐から札を取り出し、虫を追い払おうと振り返ると―――
「…………はい?」
―――私の後ろに居たのは、通常の十倍はあるハエに人と同じ位のサイズのゴキ。更に人よりもデカイ蜂と蟻に、大ムカデに羽が生えた様な謎の虫と、赤ん坊くらいのサイズの芋虫の群れだった。
群れと言っても、ざっと数えた感じだと5~60匹いるかどうかって所かしら。
……まぁ、サイズが尋常じゃないから、その程度の数でもちょっと圧倒されるわね。
「幾ら幻想郷と言っても、このサイズの虫がいたら普通は気が付くと思うけど……どっから来たのかしら?」
あまりにも突然な巨大な虫の出現に、軽く現実逃避していると……何処からともなく声が聞こえてきた。
「ふっふっふっ……人間よ、あの時の借りを返しにきたぞ」
「誰よアンタ、姿を現しなさい」
「そんな事して返り討ちになんて遭いたく無いからね。君の相手はこの蟲たちさ。……あ、青髪の彼の所にも蟲たちが行ってるから、救援には来ないよ。……それじゃ、蟲を舐めた事をたっぷりと後悔するが良い!!」
謎の声がそう告げると、巨大な虫たちは一斉に私に襲い掛かってくる。
私は咄嗟に空に飛び上がりながら札を投げるけど、巨大になったハエには上手く避けられてしまう。
他の虫には当たったのだけど、巨大になってもハエの機動性は全くと言って良いほど落ちていないらしい。
札を躱したハエは、その速さを落さないまま正面からコッチに向かって突撃してくる。
私は直ぐ目の前に障壁を展開して、正面から来たハエを防ぐけど……背後から他に飛べる虫が襲って来た。
背後にも障壁を張っても左右から襲われると思った私は、懐からスペカを取り出し迷わずそのカードを発動させる。
「夢符『封魔陣』!」
スペカを発動させると、私を中心にした四方に結界が張られ、直ぐ傍にいた虫たちを吹き飛ばした。
身体のサイズは巨大になっても虫は虫らしく、吹き飛ばされたのはあっさりと動かなくなる。
こうも簡単に倒せると分かったのなら、あとは命中率の問題だけ。
直進するだけの札だと簡単に躱されるけど、狙った相手をホーミングする弾なら話は別。
私は買ったばかりの本を懐に押し込めるたら、服の袖の中からアミュレットを取り出し、それを虫たちに向かって投げ付けた。
投げたアミュレットは、真っ直ぐに地面にいる虫たちへと向かって行くけど、ハエにはまたしても避けられてしまう。
だけどホーミング弾を投げているから、ハエに避けられたアミュレットは直ぐに旋回して、もう一度ハエへと向かって行く。
虫たちに私の弾を如何にかする術が無い以上、離れたところでホーミング弾を撃っていればその内ケリが着くでしょ。
そんな風に高を括っていたら、蟻はその強靭な顎で、蜂は持ち前の針で私のアミュレットを壊してしまう。
巨大な飛行ムカデにも、ダメージを受けながらもその巨体でアミュレットを薙ぎ払うし……やっぱ火力が足りないのね。
火力は何時の間にかリュウの役目になってたから、普段の異変解決なら特に気に為らないけど、今みたいに独りでいる時だと困るときは困るわ。
封魔針でも使えば問題ないけど、アレは札以上にかさばるから普段から持ち歩こうって気には為らないのよ。
「まぁ、そんな事は兎も角。何時までも虫と遊んでる暇もないし、さっさと片付けよっと」
私は前準備として、地面にいる虫たちを取り囲む様に八箇所に札を設置する。
札を設置している間も牽制にアミュレットを投げてるから、多少は時間が掛かるけど……まぁしょうがないわね。
スペカを持って来ていれば、こんな面倒な手順を踏まなくても良いんだけど、こんな大掛かりな結界を使わないといけないなんて思う訳がない。
私の勘も普段から利いてくれると助かるのになぁ~って思っていると、飛行ムカデの背に芋虫たちが乗って何かを準備し始める。
芋虫はムカデの背で丸くなると、直ぐ傍に居た蟻たちが丸くなった芋虫を私に向かって吹っ飛ばしてきた。
「そんな無茶苦茶なッ?!」
そう叫びながら飛んでくる芋虫を避けると、虫たちはそのまま勢いに乗って里の方へと飛んでいく。
今のは撃退すれば良かったと思い、アミュレットを投げようと慌てて後ろを振り向くと―――
「ぬがッ?! ……いって~、なんだこのデカイ芋虫?」
―――里の方から飛んで来たリュウと正面衝突していた。
でも、リュウとぶつかったのは一匹だけで、また三匹ほど里へと向かって飛んだまま。
「リュウ! そいつ等を里に入れないで!!」
「了解。……暴風『
私が大声を出してリュウに頼むと、アイツは直ぐにスペカを発動させて旋風を巻き起こした。
巻き起こった風に飲み込まれた芋虫は、発生したカマイタチで全身を切り刻まれた。
里への侵入を防げたのは良いけど、あのサイズの虫が切り刻まれるのって結構アレよね……。
普段は小さいから特に気にしてなかったけど、大きさが変わるだけで感じ方も随分と変わるものね。
そんな感傷に浸っていると、何食わぬ顔でリュウが私の傍にまでやってきた。
「神社に馬鹿でかい蟲が現われたから様子を見に来たんだが、その様子だったら大丈夫そうだな」
「まぁ私は平気よ。下にいる連中も直ぐに片付けるからちょっと待ってて」
「分かった」
リュウが頷くのと見た私は、さっきからしていた結界の準備の仕上げに掛かった。
基点となる八箇所に札を設置した後、私はその中心点に飛び込み札を設置すると、八箇所を結ぶように霊力の壁が天高く展開し、巨大な結界が完成する。
結界の中に捕らわれた虫たちは、其処から抜け出そうと壁と接触するが、触れたモノ全て結界の中心部へと吹き飛ばされた。
飛べる虫は空を飛んで逃げ出そうとするけど、壁の高さは虫が飛べる高度を遥かに越えている。
残った手段として虫たちは私に襲いかかってくるけど、その行動はあまりにも遅すぎた。
「夢符『二重結界』」
私がそう呟くと、真下にある札から八角形の結界が私を取り囲む様に張られる。
結界が二重に張られた途端、一枚目と二枚目の間にいる虫たちは、立ち上った霊力の光に一匹残らず飲み込まれた。
霊力の光は少しの間輝き続けていたが、それも収まり、結界を解除すると……光に飲み込まれた虫たちは全て動かなくなり絶命した。
「……スペカでもなく、順序も色々と省略した割にはまぁまぁの威力ね」
「これだけやっておいて、まぁまぁってお前なぁ……」
「リュウに文句を言われる筋合いはないわよ」
結界を解除した私は、空の上で呆れた様な顔をしているリュウの傍へ向かう。
空に浮かび上がりながら、私はこの場所にリュウ以外の奴がいないか探していると、直ぐ傍の茂みで緑の髪の妖怪を見つけた。
前に何処かで会った様な気もするけど、妖怪の顔なんてイチイチ覚えてられないし、別に忘れたままでもいっか。
そんな事を考えながら、この場から逃げようとしている妖怪に向かって四枚の札を投げ、即席の結界を作り、中に閉じ込める。
「け、結界?! 何時の間に張られたの!?」
「そんなの今に決まってるでしょ。……それより、覚悟は出来てるわよね?」
「いや、ちょっと待って―――」
妖怪は何かを言おうとしているけど、私はそんなの無視して懐から一枚のスペカを取り出し、彼に向かって直ぐに宣言した。
「神霊『夢想封印』」
カードを宣言すると、私の周りに複数の光弾が現われ、全弾が結界の中にいる妖怪へと飛んで行く。
妖怪は結界から逃げ出そうとするけど、私の光弾は結界をすり抜け……そのまま命中した。
「うわああぁぁぁぁぁぁッ!!」
結界の中が光弾の光に包み込まれると、妖怪の断末魔が聞こえてきた。
その断末魔も聞こえなくなり、光と結界が消え去ると……其処には、私のスペカを喰らって気絶している妖怪の姿があった。
………
……
…
「まったく、なんだったのかしら」
「妖怪の暇潰しだろ」
「本当にそうだったら物凄く傍迷惑な話ね」
妖怪を撃退した私は、迎えに来てくれたリュウと一緒に、神社に向かってのんびりと歩いていた。
飛んで帰れば直ぐなんだけど……今日は気持ちの良い青空が広がっているし、たまにはこうして歩いて帰るのも悪くないわね。
「そういや霊夢。懐に何を入れているんだ?」
「…? 懐?」
リュウに言われて自分の懐を探してみると、私の手に本の様なものが触れた。
なんでこんなのが入っているんだろうと思いつつ、その本を取り出した瞬間……自分が何を入れていたのか思い出した。
虫に襲われてたからすっかり忘れていた……って言うのは言い訳でしかないわね。
とりあえず、何事のなかったかのようにもう一度懐に仕舞いこんで―――
「……ちょっと借りるぞ」
「あ、返しなさいよバカ!!」
本を仕舞いこもうとしたとき、リュウにその本を奪い取られてしまった。
別に見られて困る様な本でもないんだけど、コイツに見られるのだけは困る!!
「何々……『大切な人に食べさせたい料理集』?」
「声に出してタイトルを読むなーッ!!」
私は声を荒げてリュウから本を取り戻そうとするけど、コッチの手が届かないくらいに高く持ち上げられて奪い返せない。
背丈はリュウの方が上だから、高々と持ち上げられると触れる事もできないから物凄く困る。
私は背伸びをして手を限界まで伸ばして、リュウから本を取り戻そうとするけど……それ以上に高い位置にあるから掠る事も出来ないでいる。
「さっさと返しなさいよ!」
「……あ、霊夢。今日の晩飯はコレが食べてたい」
「そう言うリクエストは後にしなさいよ! ……て言うか、ちょっと楽しんでるでしょ!!」
「ソンナコトナイヨー」
「私の眼を見て言いなさいって!!」
私は怒鳴りながらもリュウから本を取り戻そうと、躍起になって手を伸ばす。
リュウは楽しそうに笑いながら、私の手が届かない位置で料理本をパラパラと捲り、本の内容をを読み続けた。
コイツには本の事を内緒にしようと思ってたのに、なんだってこうなるのよーッ!!
霊夢Side out
リグルは犠牲となったのだ、リュウと霊夢がいちゃつく為の犠牲にな……。