竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第六十三話 蓬莱の人の形

 

十月も後半に入ったある日、俺は買い物の為に人里に来ていた。

何度も訪れているからか、里の八百屋や魚屋なんかともすっかり顔馴染みになり、たまに値段を安くしてくれる。

その分、危険な妖怪が住んでいる場所で釣れた魚を分けて欲しいと頼まれたりするけどな。

 

「……頼まれたのはコレで全部かな」

「今日はえらく沢山買ったな」

「最近、霊夢の奴が料理を作るのにはまったみたいで」

「お前さんの為に頑張ってるのかい?」

「それは如何なのかな? ……でも、霊夢の作る料理は美味いっすよ」

「惚気かこのヤロウめ」

「そんなんじゃないって」

 

八百屋のおっちゃんと他愛のない話しをしていたら、後ろの方で殺気めいた何かを感じた。

その気配に反応して慌てて後ろを振り向くと、眉間にシワを寄せて恐い顔をしている上白沢さんの姿を見つけた。

如何やら今感じたのは、殺気ではなく怒気の様なものみたいだが……なんでこんな昼間からイライラしてるんだ?

寺子屋で教師をしているって聞いたけど、今日の授業の時になにか嫌な事でも遭ったのだろうか。

 

「……………」

 

俺の詮索を他所に、上白沢さんは恐い顔をしたまま横を通りすぎていった。

周りの事なんて眼中に無いって感じだったが、其処まで苛立ちを募らせるなんて、そうそう起こる事じゃないと思うんだけどな。

 

「なんだったんだ今の?」

「ん? リュウは今の慧音先生を見たのは初めてかい?」

「そうだけど……もしかして有名なのか?」

「里で暮らしてれば一度は目にする……って、お前さんは神社で暮らしてるんだったな」

「……??」

 

イマイチおっちゃんの話を理解出来ず、俺は首を傾げて不思議がある事しか出来なかった。

そんな俺を見かねたのか、おっちゃんが咳払いをし後で手招きをしてくる。

おっちゃんの行動も理解出来ないが、とりあえず話を聞くために店の中へと入る。

するとおっちゃんは、内緒話でもするかのように俺の耳もとに手を当てて小声で話し始めた

 

「実は慧音先生な、月に一回のペースであんな風にイラつくんだよ」

「なんでまた?」

「詳しい事は知らん。…でも、俺は子供の時に見ちまったんだ」

「見たって……一体なにを」

「満月の夜に角の生えた慧音先生が何かを紡いでいる姿さ。先生の姿を見て声を掛けようとしたんだが、誰かに後ろから襲われちまって結局解らずじまいさ」

「ふ~ん………ん? 今、おっちゃん〝子供の頃〟って言わなかったか?」

「嗚呼、言ったぞ。慧音先生は半分は妖怪だからな、俺が小さい頃はお世話に為ったもんだよ」

「人は見かけに拠らないって言うけど……なんか意外だな」

「……ちょっと言葉の使い方が変な気がするぞ」

「そうか?」

 

おっちゃんから話を聞いた俺は、八百屋を後にして少し急ぎ足で博麗神社に帰ることにした。

神社へと帰る道中に俺の頭にあるのは、さっきの上白沢さんの様子だった。

普段から厳しい事を言う人が苛立つなんて、満月の夜に一体何をしているんだろう?

一度でも気になりだすと、夜中にあの人に何をしているのか暴きたくなってくる。

……今夜にでも霊夢を誘って上白沢さんのもとを尋ねてみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

そんなこんなで俺は、月が天高く昇った深夜遅くに霊夢を連れて神社を出た。

今夜の目的を彼女に話したところ、物凄くいやそうな顔をしてきたが……なんだかんだ言って一緒に来てくれた。

神社を出るときに色々と言っていたが、割と何時もの事なので軽く聞き流しておく。

 

「全く、なんでこんな夜遅くに慧音の元を尋ねないといけないのよ。昼間で良いじゃない昼間で」

「俺は満月の夜に何をしてるのか知りたいんだ」

「そんなの翌日に本人から聞けば良いじゃないの」

「まぁ、暇潰しみたいなもんだしな」

「……そんなにはっきりと言うんじゃないわよ」

 

霊夢の愚痴に適当な相槌を打ちつつ、とりあえず人里目指して直進していると……前方から白い服に赤いズボンを穿いた、白髪の少女が俺達の近付いてきた。

何度か里で彼女の姿を見た記憶があるけど、こんな夜遅くに一体何をしているんだ?

他人の事を言えた義理じゃないが、深夜遅くに独りで空を飛んでいたら不審者以外の何者でもないな。

自分たちも似たようなモノだと自覚しているものの、彼女の姿を見ていると如何してもそう思えてしまう。

そんな事を考えていると、白髪の少女は俺達の十数m手前の地点で静止した。

 

「其処の二人。こんな遅くに何処に行く心算」

「ちょっと上白沢さんの所に」

「慧音の? ……一体なんの用で」

「いや、別に用って程のものでもないかな」

「コイツは慧音が夜中に何をしてるのか見に行くだけよ」

「ちょッ?! 物凄く誤解を招く言い方は止めて!!」

「事実でしょうが」

 

こんな真夜中に連れ出したのがいけないのか、霊夢の奴が何故だか物凄く不機嫌に見える。

でも、こんな時刻に俺一人であの人の元に尋ねられる程、特別仲の良い関係って訳でもないしな。

……やっぱり、夜が明けてから上白沢さんに聞けばよかったかな?

 

「何が目的か知らないけど、お前を慧音の所には行かせない」

「あ、標的は俺だけなのね」

「そりゃそうでしょ」

「直ぐに終わらせるから抵抗はするな!」

 

そう言った白髪の少女は、何処からか取り出した大量の札を俺に向かって投げて来る。

俺は持って来ていた愛刀を抜き、飛んでくる札を次々に切り裂いて行く。

札を斬っている間に霊夢が攻撃してくれると助かるんだが、今回は完全にやる気がないらしく後ろで傍観している。

なんか霊夢のやる気を出す方法はないかとも思うが、彼女を無理矢理連れ出したのは俺なんだし、今回ばかりは一人で頑張ろう……。

小さな溜息を一つ吐いた俺は、頭を切り替えて白髪の少女に向かって斬撃を飛ばす。

俺の斬撃は札を切り裂きながら飛んでいき、あと少しで彼女に当たると言う所まで飛んでいった。

……だが、当たる寸前で少女は斬撃の上を飛び越え、俺の一撃を上手く躱されてしまう。

 

「私の弾幕を斬り裂けても、当たらなければ如何と言う事はない」

「んなの言われなくても解ってる」

「ッ?!」

 

今の一撃は避けられると思っていた俺は、斬撃が切り開いた道を通って彼女との間合いを一気に詰める。

白髪の少女は新たな札を展開するが、完全に展開される前に間合いを詰めた俺は、その札ごと一気に彼女を斬り裂いた。

俺の攻撃はその一撃に留まらず、袈裟斬りから胴薙ぎに繋ぎ、更に斬り上げて、シメに脳天から強烈な一撃を叩き込む。

防がれる事なく叩き込まれた連撃、その攻撃の前に白髪の少女は力なく下へと落ちて行くが、突如として出来ていた傷が治り、背中に赤い炎の翼が出現した。

 

「不死『火の鳥ー鳳翼天翔ー』」

 

彼女がスペカを宣言すると、俺に向かって赤い火の鳥を放ってきた。

俺は鳥を難なく斬り捨てるが、火の鳥が通った後に残っている火の粉に襲われそうになる。

その火の粉を躱すために後ろに後退すると、狙ったように二羽目の鳥が俺に襲い掛かってきた。

 

「チッ。…凍刃『氷牙(ヒョウガ)』!」

 

今の体勢では鳥を斬っても火の粉に襲われると判断した俺は、ポケットに入っていたスペカを宣言し、迫り来る火の鳥を氷付けにして粉砕した。

二羽目を凌いだところで体勢を整え、続いてきた三羽目も『氷牙(ヒョウガ)』で氷付けにしていく。

その後も四羽・五羽・六羽と襲ってくる鳥を氷付けしていると、コレ以上は突破出来ないと踏んだのか白髪の少女は攻撃を止めた。

 

「私の弾幕を氷付けにするなんて大した能力だ」

「俺としてはさっきの傷の治り方に付いて聞きたいがな。……あんた、蓬莱の薬でも飲んだのか」

「…如何してその薬の事を知っている」

「この前知り合った奴に聞いた」

「……そうか、お前輝夜の知り合いか。なら、手加減はいらないな」

「なんでそうなるんだよ」

 

俺が輝夜と知り合いだと解った少女は、いきなりやる気を漲らせて、またも大量の札を投げつけてきた。

この二人にどんな因縁があるのか知らないが、俺をそれに巻き込むのは止めて欲しいもんだがな。

そんな事を思いつつ、俺は飛んでくる札を斬り裂き、彼女に向かって斬撃を飛ばすなどして反撃していく。

もう一度間合いを詰めるタイミングを見計らうが、さっきの連撃を警戒してか中々隙を見せない。

斬撃で道を切り開いても、彼女がアチコチに動き回るもんだから、間合いを詰めたくてもソレが出来ない状況になっている。

こうなったら『せんぎり』でも使うかと、ポケットに入っているスペカを取り出そうとしたら、少女の方が先にスペカを取り出し宣言してきた。

 

「不滅『フェニックスの尾』」

 

彼女がスペカを宣言すると、少女から炎の塊の様なモノが放たれ、その塊から大量の火の粉が周辺に振り撒かれた。

火の粉が俺に向かって来るわけじゃないが、放たれてる数が多く愛刀だけでは手が足りなくなる。

俺は左手に叢雲を取り出し、左右に持った二つの剣で切り払っていくが、それでも火の粉の方が数が多い。

叢雲の力で雨でも呼ぼうかとも思ったが、水を掛けて全て鎮火するまでどの位掛かるのか分かったもんじゃない。

そう判断した俺は、左手に持つ叢雲を逆手に持ち替えて、ポケットの中から一枚のスペカを取り出し宣言した。

 

「真円『円舞陣』」

 

カードを宣言した俺は、二つの剣を構えてその場で一回転し、周囲に円形の斬撃を飛ばす。

円形の斬撃は火の粉を次々に切り裂き、少女にも刃が届きはしたものの、流石に一撃で倒すのは無理みたいだ。

俺の斬撃が消えると、火の粉はまた周囲に撒き散らされ、その密度をドンドン高めて行く。

風を使って吹き飛ばそうにも、そんな事をしたら火の勢いが増すだけ……。

火や土の魔法も大した効果は期待出来ないし、今の状況で『せんぎり』は決定力に欠けるか。

 

「……仕方が無い、久々に使うか」

 

小さな声で一言呟いた俺は、二つの剣を仕舞い、ポケットから新たなスペカを取り出した。

白髪の少女は取り出したカードになど目もくれず、炎の塊を操って火の粉を振り撒き続ける。

俺は火の熱に身を焦がされながら、手にしたカードを掲げ宣言する。

 

「氷竜『ジャバウォック』」

 

カードを宣言すると、足元から火の粉を吹き飛ばしながら赤いオーラが立ち上る。

そのオーラに包まれた俺は、中で人から竜人へと姿を変え、包んでいた赤いオーラを吹き飛ばした。

白髪の少女は、人から竜人へと姿を変えた俺に驚いたのか、攻撃の手を止めて呆然とした様子で此方を見てくる。

彼女は俺に声を掛けようとしたが、そんな事をお構い無しに両手に二つの剣を呼び出し、少女との間合いを一気に詰めて滅多斬りにした。

 

「ッ!?」

 

少女は、滅多斬りにされて地面へとまた落ちそうになるが、直ぐに傷を再生して炎の翼をはためかせて飛び上がる。

俺は彼女が飛び上がったところを狙って、幾つもの斬撃を飛ばして切り刻んで行く。

少女も札を展開して迎撃しようとしてくるものの、竜変身(トランス)した俺の攻撃を止めるには火力不足にも程がある。

結局、彼女の攻撃は俺の斬撃を防ぐ事はできず、先ほどとは違って一方的な展開になって来た。

俺はトドメの一撃として愛刀から特大の斬撃を放つが、その攻撃が届く前に少女は新たなスペカを宣言してきた。

 

「蓬莱『凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ―』!」

 

彼女がカードを宣言すると、少女から爆風が巻き起こり俺の斬撃をなんとか弾き飛ばした。

その爆風は次々に巻き起こり、コッチに向かって襲い掛かってくる。

俺は二つの剣で斬撃を飛ばして爆風を斬り裂くものの、向こうの勢いに負けて少女にまで攻撃が届かない。

爆風だけならまだ楽だが、魔法陣のようなものが俺の傍に出現して、突如として爆発してきた。

魔法陣を回避するのは難しくないが、ソッチに気を取られていると爆風に飲み込まれる。

だからと言って、爆風にばかり集中していると、魔法陣の接近に気付かず爆発をまともに受けてしまう。

出現する魔法陣は幾ら斬っても、直ぐに別の奴が出現するから幾ら斬り裂いても意味が無い。

……要約すると、あの白髪の少女と魔法陣、まとめて攻撃してしまえば良いだけの事だ。

そう判断した俺は、二つの爆発を避けながら剣を仕舞い、手の中に一枚のスペカを取り出し宣言する。

 

「ラストスペル『ヘル=ブリザード』」

 

カードを宣言すると、俺を中心にして黒い壁の様なものに覆われる。

その中で俺は、ヒレの様な翼を持ち水棲生物にも似たシアン色の翼竜へと変身し、周りにある黒い壁を討ち破った。

爆風の熱から逃れるように飛び上がった俺は、空に昇る満月をバックにして少女へと狙いを付ける。

彼女に目標を定め、口元に大きな氷塊を作り上げ、その塊を少女に向かって撃ち放った。

氷塊は空気中の水分を凍り付かせながら進み、巻き上がる爆風にも負けず……少女の元に辿り着き炸裂した。

彼女の元で炸裂した氷塊は、少女や魔法陣を飲み込んで巨大な氷の柱を創り上げる。

氷付いた空気中の水分が、満月の明かりに照らされてキラキラと輝く中、俺と白髪の少女の戦いは静かに幕を下ろした……。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「さて、如何するかなコレ」

「如何するかな……じゃないでしょ」

 

変身を解いた俺は、霊夢と共に氷付けにした少女をどうやって助け出そうか考えていた。

蓬莱人だから死ぬ事はないだろうけど、流石にこのまま放置していくわけには行かない。

まぁ氷に閉じ込められているだけだし、炎で溶かしてしまえば良いんだけど……久し振りに使ったから少し加減を間違えてしまいそうだ。

前の世界で使ってたときは、此処まで巨大な氷柱は作った事がないし、出来たとしても直ぐに砕け散ってたから特に気にした事も無かった。

この大きさと為ると……『ジャブジブ』でも使ったほうが速いかもしれないが、変身を解いて直ぐに変身するのも面倒だな。

 

「……いっその事砕くか?」

「そんな事出来るの?」

「分からん」

「出来るか如何かも分からない方法を取る前に、ちゃんと助けられる方法を取らないか」

「立て続けに変身するのも面倒なんだよ」

「言い訳をする前にさっさと……やれッ!!」

「ぬがッ?!」

 

霊夢と二人で話してると思ったら、何時の間にか第三者の声が聞こえ、その声の主に強烈な頭突きを後頭部に貰ってしまった。

あまりの痛みの前に、目の前が白黒に点滅して周りの風景がよく見えなくなる。

俺は後頭部を押さえながら後ろを振り返ると、其処には薄緑の髪に角と尻尾が生えた上白沢さんの姿があった。

 

「か、上白沢さん。何時の間に……」

「お前達が戦っている最中からだ。全く、お前も妹紅も何をしているんだ」

「リュウがアンタの様子を見に行こうとしたら、あそこで氷付けにされている子に襲われたのよ」

「半分は霊夢の言い方にも問題があったと思う」

「私は事実を言ったまでよ」

「なんか納得行かないけどまぁいいや。…ところで上白沢さんはこんな夜遅くに何してるんです?」

「幻想郷の歴史の編纂作業だ。能力を用いてやる作業だから、この姿になれる満月の時にしか出来ない仕事だ」

「歴史の編纂? つまり歴史の書物を作ってるだけか。思ったよりも地味だな」

「……なんでも良いから、さっさとアイツを助けてやってくれ」

「了解っと」

 

下手な事を言ってまた頭突きを喰らいたくない俺は、愛刀を取り出して刀身に炎を纏わせて、彼女が閉じ込められている氷柱を焼き斬る事にした。

このやり方だと時間がどの位掛かるのか分からないけど、砕いたり焼き尽くしたりしないだけマシかな。

 

「ところで霊夢、お前はアイツの正体を知った上で共に暮らしているのか」

「そうだけど、なんか悪い」

「悪いとは言わないが……博麗の巫女として、それで良いのか?」

「私は巫女であるよりも、一人の女として生きるって決めたの。誰になんと言われても変える心算は無いわ」

「……お前がそんなんだから、神社から人が減るんだ」

「私達の仲は龍神も認めるから良いのよ」

「はぁ……。もう好きにしろ」

 




最近、コラボとか書いてみたいと夢想している。
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