霊夢Side
そろそろ秋も終わりに近付いてきた10月の後半。
今日は魔理沙が遊びに来ているけど、私はいたってマイペースにこの間買った料理本を読んでいる。
こうして本を読んでいると、私が作れる料理の種類がいかに少なかったのが良く分かるわ。
道具がなくて作れない料理も多々有るけど、その辺りは創意工夫をこなしていけば如何にでもなりそう。
私は本の内容を見ながらそう思いつつ、時折りアイツが話し掛けてくるのに相槌を打ちながら、今晩の献立を考えていた。
「最近どうなんだ霊夢。リュウの奴とは何か進展したのか」
「ん~普通じゃない」
「普通って……わたしとお前の仲なんだし、別に隠す事無いだろ?」
「隠し事なんてしてないわよ」
「……マジで進展なしかよ」
魔理沙が何か呆れた声を出すけど、正直な話どうでも良いので特に気にしない。ソレよりも問題なのは今晩の献立を何にするかと言う事。
リュウはどんな料理を作っても美味しいって言うけど、毎回同じ反応だと本当にそう思っているのか分からなくなるのよね。
別に不味いなんて言われたい訳じゃないけど、偶にはアイツの驚いた顔を見てみたいのよ。
何か変わった料理か、普段作らないような珍しい料理を夕食に出せば良いのかな?
「ったく、一つ屋根の下で暮らしていて、更にお互いに想い合ってるのに進展なしって如何言う事だ」
「想い人のいない魔理沙に偉そうな事を言われたくない」
「グハッ!? ……リュウの前だと素直に為れないくせに、如何してわたしの前だとズバズバ言えるんだよ」
「そんなの知らないわよ」
う~ん……今日は何時もの和食じゃなくて、洋食か中華でも作ってみようかな?
この本のお陰で和食以外の作り方も分かったんだし、有効活用しない手はないわよね。
…あ、でも、中華を作ろうにも調味用が足りないか。
中華を作るのはまた今度にして、今ウチに有る調味料で作れる洋食はないかな~っと。
魔理沙に適当な相槌を打ち、夕食の事を考えながら本のページを捲っていると―――
「ごめんくださ~い」
―――玄関の戸をノックしながら誰かが声を掛けてきた。
「ん? 聞きなれない声だが、誰が来たんだ?」
「さぁ? とりあえず出てみれば分かるわよ」
私は本を閉じてから席を立ち上がり、玄関へと赴き、戸を開けて客人と対面する。
戸の向こうに居たのは、永遠亭にいた妖怪ウサギの片割れ。
リュウは彼女の事を『ウサ耳二号』とか呼んでたし、私もそれに倣って『ウサ耳(仮)』とでも呼ぼうかな。
……え、名前? そんなの尋ねた事無いんだから知る訳ないじゃないの。
「あ、やっと出て来た」
「何の用よウサ耳。この間の借りでも返しにきたの?」
「う、ウサ耳ってなによ! 確かに耳は付いてるけど、私には『鈴仙・優曇華院・イナバ』って名前があるの!」
「…………長いからうどんで良いわね」
「変な略し方しないでよ!!」
「そんな事より、今日は一体なんの用できたのよ」
「(もうやだこの人……)…師匠のお使いで、貴女に薬を渡しに来たの」
「薬なんて頼んでないわよ」
「私は渡すように頼まれただけよ」
そう言ってうどんは、持っていた袋を私に押し付けるようにして渡してくる。
袋を受け取り中を確認してみると、入っていたのは細長い瓶に入った二つの液体だった。
うどんは〝薬を渡しに来た〟って言ってたから、コレが薬なのは間違いないんだけど何の薬かしら?
「用は済んだし、私はもう帰るね」
「あ、ちょっと。コレが何の薬なのか説明しなさいよ」
「中に紙が入ってるからソレを読んでよ。…それじゃあね」
薬を押し付けるだけ押し付けたうどんは、此処から逃げるようにさっさと帰って行ってしまった。
玄関に残された私は、彼女が言っていた紙を袋から取り出し、書かれている内容を読んでみる。
紙には〝色々と苦労してる貴女の為に用意させたわ、上手く活用してね。紫より〟って書かれていた。
……あれ、彼女の師匠って確か永琳よね? なんで紫からのメッセージになってるの?
イマイチ釈然としないまま、玄関の戸を閉めて、魔理沙が待っている居間へと戻った。
「遅かったな霊夢。一体誰が来てたんだ?」
「永遠亭のうどんよ」
「……マジで誰が来たんだよ」
「だからうどんようどん。名前が長いから略してるのよ」
「そこは略さないでちゃんと言おうぜ?」
「覚えてないわよ」
私はさっきまで座っていた席にもう一度座り、袋の中から薬を取り出し、他に何か入ってないか確認してみる。
袋を逆さにして上下に振ってみるものの、二種類の薬とさっきの紙くらいしかない。
何が目的で薬を用意させたのか知らないけど、ちゃんと薬の中身くらい書きなさいよね。
「なんだこりゃ? 霊夢が頼んだのか?」
「違うわよ。紫の奴が私の為だとか言って、永遠亭の薬剤師に用意させたのよ」
「……って事は、リュウの奴に使えって事か」
「さぁね。上手く使えとは書いてあったけど、誰に使えとは書いてなかったわ」
「なら、霊夢用って可能性もあるのか」
魔理沙はそう言いながら薬の一つを手に取り、ジロジロと探るように薬を見回す。
私も残りの一本を手に取って見てみるけど、それだけじゃコレが何の薬なのか分かる訳がない。
この薬がなんなのか知る一番手っ取り早い方法は、やっぱり実際に飲んでみる事だろうけど……こんな怪しいのを飲むのはちょっとねぇ。
せめて如何言う効果なのか分かれば良いんだけど、それが分からないから踏ん切りがつかないのよね。
「折角だから、わたしはこの薬を飲んでみるぜ」
「別に良いけど……どんな事になっても私は知らないわよ」
「分かってるって。それでは……いざッ!!」
魔理沙は変な気合を入れて、瓶の蓋を開けて中に入っている薬を一気に飲み干した。
薬を飲み干して口から瓶を離しても、魔理沙に何の変化も訪れない。
顔色も普通だから、毒とかじゃないみたいだけど……本当に何の薬を飲んだのかしらね。
「……ん」
「如何したのよ魔理沙、いきなり変な声を出して」
「いや、ちょっと胸の辺りが苦しくなってな」
「服のサイズが合って無いんじゃないの?」
「そんな事はないと思うけど……まさかッ!?」
何かに気付いた魔理沙は、突然席を立ち上がり居間から飛び出していく。
一体なにが起こったのか知らないけど、アイツが戻ってこないと分かる訳ないんだから、今は大人しく待っているしかない。
そう思いながら5~6分待っていると、魔理沙が慌てた様子で居間に戻って来た。
「大変だ霊夢!」
「一体何が大変だって言うのよ」
「薬を飲んだら胸が大きくなってた!!」
「……はい?」
慌てて戻ってきたと思ったらいきなり何を言い出すのやら。
私はそう言って切り捨て様としたけど、よく見てみると確かに魔理沙の胸の辺りの生地がキツそうに為ってる。
流石に薬を飲んだだけで胸が成長するなんて思いたくないけど、不老不死の薬を作れるんだし豊胸剤の一つや二つ創れても不思議じゃない。
そう思ってしまった私は、席を立ち上がり恐る恐る魔理沙の胸を触診して見る事にした。
軽く触れた彼女の胸は、確かに普段よりも……と言うか、私よりも確実に大きくなっている感じがする。
「そんな……バカな……」
「これが現実なんだぜ、霊夢」
「……………」
あまりにも無常な現実の前に崩れ落ちそうに為るけど、私は直ぐにもう一本の薬が残っている事を思い出す。
その薬を迷わず手にし瓶の蓋を開けて、中に入っている液体を一気に飲み干した。
空になった瓶を床に放り投げ、胸が成長するのを楽しみに待っていたら……何故か目の前が真っ暗になり始める。
「あ…れ……」
「おい、霊夢?!」
心配する魔理沙の声を最後に、私の目の前が真っ暗になり……そのまま気を失い倒れてしまう。
意識がドンドン薄れて行き、真っ暗な暗闇の中で最後に私が感じたのは、自分が別の何かに変わってしまうような感覚だけだった。
霊夢Side out
リュウSide
「今日は豊作っと」
午前中から道具集めに出掛けていた俺は、籠一杯に色んなモノを詰め込んで神社に帰ってきた。
見付からない時はトコトン駄目だが、運が良ければ今日みたいに豊作の日もある。
幾つ当たりの品があるのか分からないけど、今度の納品の時に香霖堂に持って行くのが楽しみだな。
そんな事を考えながら、集めた物を裏庭で選別しようと持って行くと……家の居間で魔理沙が一人でお茶を飲んでいた。
「あれ、居たのか魔理沙。霊夢は如何したんだ?」
「帰ってきた第一声がそれか。……とりあえず霊夢なら何処かに居るぜ」
「何処かってどこだよ」
「それは自分で探してくれ」
「ったく」
俺は小さくボヤキながら集めて来た荷物を庭に置いて、縁側から母屋に入り霊夢を探すことにする。
客が来ているのに勝手に何処かに行く奴じゃないし、魔理沙の言う通り家の何処かには必ず居るだろ。
そう考えた俺は、まず手始めに霊夢の部屋から探すことにした。
着替え中の可能性もあるから、一度襖を軽く叩いてから声を掛けてみる事にした。
「お~い、霊夢~。居ないのか~」
「にゃぁ~」
「……にゃあ?」
声を掛けてみたものの返事はないが、代わりに別の鳴き声の様なものが聞こえてくる。
聞こえてきた鳴き声からして猫だってのは分かるけど、どうして霊夢の部屋から猫の鳴き声が聞こえてくるんだ?
不思議に思った俺は、悪いと思いつつも襖を開けて部屋の中に入る事にした。
霊夢の部屋の中は綺麗に片付いているが、化粧棚の傍に『パンク』の人形が置いてあるのに気が付く。
あの人形は如何にか為らないだろうかと溜息を零すと、足元に綺麗な毛並みの黒猫が近寄ってきたのが分かった。
ここらじゃ見ないし、迷い猫だろうか? そんな風に考えていると―――
「イダッ?!」
―――足の甲の部分を爪で思いっきり引っかかれた。
血は出ていないものの、猫の爪が鋭いのか結構な痛みが足の甲から伝わってくる。
「何するんだよ、この猫」
「フシャーッ!」
引っ掻いてきた猫を叱ろうと思ったら、何故か毛を逆立てて威嚇されてしまう。
なんで猫に威嚇されないといけないのか分からないが、このまま野良猫を霊夢の部屋にいさせとく訳にも行かない。
そう判断した俺は、威嚇している猫を徐に抱き上げて、一緒に霊夢の部屋から出て行く事にした。
猫がまた入らないように襖を確り閉めて、霊夢を探す為に猫を抱いたまま母屋や本殿の中を探すことに。
本当なら外に放してやっても良かったんだが、俺が抱いてやると何故か大人しくなったのでこのままにしておく。
「お~い、霊夢~。何処に行った~」
「にゃあ~」
「お前じゃないっての」
「にゃふ」
俺が霊夢に呼びかけると何故か黒猫が鳴き声を挙げる。
紛らわしいから猫を叱り付けると、耳と尻尾をたれ下げてガッカリした様に項垂れてしまった。
その様子を見ていると怒り過ぎた気に為るが、霊夢に呼びかける度に鳴かれてしまう。
此処は心を鬼にして、しっかりとこの黒猫を躾けて行かないとな。
心の中でそんな決意を固めながら、俺は黒猫と一緒に霊夢を探す為に神社の敷地内を歩き回るのだった。
………
……
…
一時間くらい掛けて神社の主だった場所を探したが、霊夢の姿は何処にも見当たらなかった。
コレだけ探しても全然見付からないし、こうなって来ると魔理沙の奴が嘘を付いている可能性も出てくるな。
そう考えた俺は、探している間に懐いた猫を連れて魔理沙が居る居間へと戻る事にした。
居間では魔理沙の奴が、買って戸棚に仕舞っておいた煎餅を取り出し、お茶と一緒に勝手に食べている。
俺だって鬼じゃないし、食べるなとは言わないが……せめて一言声を掛けてから食えよな。
「お、戻ったのか。霊夢は見付かったか」
「はぁ…。まだだよ」
「案外直ぐ近くに居るかもしれないし、そんなに気落ちするなって」
「今の溜息の半分はお前が原因だけどな」
「ふぇ?」
煎餅を口に入れてマヌケな声を出す魔理沙に呆れながら、俺は彼女の対面に座り煎餅に手を伸ばす。
猫は邪魔に為るから直ぐ其処の畳の上に逃がすが、何故か直ぐに俺の足元にやって来てじゃれ付いてくる。
「ククク…。随分と猫に好かれた様だな」
「特に何もしてないんだがな」
そう言いながら煎餅を口に銜えつつ、じゃれ付いてくる黒猫を足元から退かす。
だが黒猫は、俺に退かされてもめげずにもう一度足元にじゃれ付いてくる。
何度も退かしてはじゃれ付かれたりを繰り返していると、猫が幼子の様に縋る様な眼差しで俺を見上げてきた。
「うぐっ……」
「如何すんだリュウ。その猫を無碍にするのか?」
「…………はぁ。もう好きにしろよ」
「にゃあ」
根負けした俺がじゃれ付くのを許可してやったら、猫は心底嬉しそうな声を挙げて俺に擦り寄ってきた。
その様子を見て背中を優しく撫でてやると、猫は気持ち良さそうに目を細める。
目を細めた時の猫の姿が、酔っ払って甘えてきた時の霊夢と重なって見えたんだが……なんでだ?
おかしな幻視を見て、俺は変な事もあるもんだなって思っていると、猫は満足したのか俺の手を離れて膝の上に登り丸くなった。
膝の上で大人しくしている猫をそのままにし、俺は食べかけの煎餅を口の中に放り込んでバリバリと食べる。
珍しく気を利かせてくれた魔理沙が、俺の分のお茶を湯の身に入れてくれたので、ソレを飲んで喉を潤しつつ、二人して黙々と煎餅を齧り続ける。
お互いに喋る事無く煎餅を食べていると、この沈黙に耐えかねたのか魔理沙が口を開いてきた。
「ところでさ、リュウ。前から聞きたい事があったんだが良いか?」
「内容によるけど……なんだ」
「リュウは霊夢のどこら辺が好きになったんだ?」
「はぁ?」
「ぎにゃッ?!」
魔理沙の変な質問も気になったが、それ以上に過剰な反応をした黒猫の方が気に為る。
まさかこの猫が霊夢……な訳ないよな。流石に人が猫に変身するのは想像出来ないって。
「如何なんだよリュウ」
「う~ん……どこら辺がねぇ」
「……………」
膝の上から黒猫の視線を感じるが、今は関係ないし、とりあえず無視しておこう。
しかし、霊夢のどこら辺を好きに為ったかなんて考えたこともなかったな。
アイツと一緒に居るのは何かと楽しいし、気が付いたら何時も傍にいるのが当たり前に為ってたっけか。
コレは勘だけど、八雲紫の一件がなかったとしても、霊夢とは今みたいな関係を築けたと思う。……だとしたら俺は一体アイツの何処に惹かれたんだ?
俺は腕を組んで目を瞑り、今まで見てきた霊夢の言動を振り返ってみる事にした。
脳裏に映るのは霊夢の怒ったり笑ったりしてる時の顔と、その時に喋っていた言葉の数々。
こうして振り返ってみると、幻想郷での日々の殆どがアイツと一緒に過ごしてきた思い出になるんだな……。
そんな事を思いながら記憶を振り返ること約十分……くらいが経ったのかな? 兎に角、俺の中で質問の返事が漸く出すことが出来た。
瞼を開いて魔理沙の方を見直すと、何故かちゃぶ台の上に黒猫が少し不安そうに俺の事を見ている。
何時の間に台の上に上がったのか分からないが、とりあえず今は放置して、魔理沙に質問の返事をすることにした。
「……はっきりと言うと、俺にもよく分からん」
「なんだそりゃ?」
「にゃ?」
「今まで何処が好きかなんて考えた事もないんだ、いきなり聞かれても分かる訳ないだろ」
「それじゃ、なんてリュウは霊夢と一緒に居るんだよ」
「……やっぱり霊夢の傍に居て楽しいからかな」
「なんともツマラン返事だな、おい」
「ほっとけ」
呆れる魔理沙と何故か落ち込んでいる猫を余所目に、俺は湯のみを手にして温くなったお茶を飲む。
流石に十分近くも台の上で放置してたから、お茶はかなり温くなってしまった。
急須にも温かいのは残ってないだろうし、今湯のみに入っているのを飲み終わったら新しく入れるか。
「なら逆の質問するけど、霊夢に嫌いな所は何処だ」
「……今日の魔理沙は変な質問ばっかりだな」
「偶には良いじゃねぇか」
「……まぁ良いけど」
そう呟きながら霊夢の嫌いな所を考えてみるが、コレと言って思い当たる所が……一つだけあったな。
好きな所と違って直ぐに思い当たるのも如何かと思うが、アレだけは止めて欲しいと思う事がある。
「その顔は…何か思い当たる節があるのか」
「嗚呼。酔っ払ったときの霊夢だ」
「って言うと?」
「あの時の霊夢も可愛いんだけど、俺を抱き締めるのはなんとかならないかなぁ~」
「そういや、確かに絶対に放さないって言わんばかりに抱き付いてるもんな」
「お陰でトイレに行くのも一苦労だ」
極端に酒に弱い訳じゃないから、宴会のたびに酔っ払いはしないけど……一度甘えだすと何かと大変で。
ちょっとした用事で席を外しただけで、俺の服の袖を掴んで泣きそうに為るし、アイツの手を振り払うと本気で泣き出すからな。
たまに甘え上戸なんじゃなくて、泣き上戸なんじゃないのかって思うくらいなんだよ。
「……そんだけか?」
「そうだけど……如何かしたか?」
「なんだよそれー。全然面白くねぇー」
「いや、面白がるところじゃないだろ」
魔理沙は不貞腐れたように文句を言うが、本当にコレくらいしか思い当たらないんだから仕方が無い。
その事をはっきり言っても更に不貞腐れるだけだろうし、この事は俺の心に止めておくけどな。
「絶対他にも何かあるはずだろ」
「他って……例えばどんなのだよ」
「霊夢の歯に衣着せぬ言い方が嫌だとか、人の事をぞんざいに扱いすぎだろとか色々と!」
「……それはお前が感じてる不満だろ」
「兎に角! 他に何かある筈だろ!!」
「んな事言われても、それが『博麗霊夢』なんだし、嫌いになる訳ないだろ」
「……如何言う事だよ」
魔理沙は怪訝そうに、黒猫は不思議そうにコッチを見てくる。
コレは特に隠す様な事でもないので、俺は思っている事を一人と一匹に打ち明ける事にした。
「俺はな魔理沙。アイツの話し方も、他人に興味を持たない所も、意地を張って素直になれない所も全て含めて『博麗霊夢』だと思ってる。……だから、霊夢の口調や性格で嫌いになったりはしない」
「「……………」」
「そりゃ偶には友人を大切にした方が良いとは思うけど、そう言った所も霊夢の一部だからな。俺はアイツの良い所も悪い所も全部受け止めるだけだよ」
俺が話し終わると魔理沙は口を開けて呆然として、黒猫は何故か気恥かしそうに俯いてしまっている。
魔理沙が呆然とするのは分かるが、黒猫が恥かしがってるのはなんでなんだ?
黒猫の様子をチラ見しつつ、俺は残っている煎餅に手を伸ばしてバリバリと齧り始める。
居間には俺が煎餅を齧る音だけが響いていると、魔理沙は何処となく呆れたような感じで口を開いた。
「……なぁリュウ。お前は〝愛〟って言葉の意味を知ってるか?」
「いや、知らん」
「それなら、今度辞書でも引いて調べとけ。わたしはもう帰る」
「ん? もう帰るのか?」
「お前の話しを聞いてたらお腹一杯に為ったわ。精々末永くイチャついてろってんだ」
「なんだそりゃ」
「鈍い奴には分からんだろうよ。……んじゃまたな」
最後の最後でおかしな事を言い捨てた魔理沙は、縁側で脱いでいた靴を履いて、箒に跨り何処かへと飛んでいってしまった。
その後姿を見送った俺は、お茶のお代わりを淹れようと台所に移動してお湯を沸かし始める。
お湯が沸くまで暇だな~って思っていると、何時の間にかちゃぶ台から降りた黒猫が俺の足元に擦り寄ってきた。
「如何かしたのか猫」
「にゃぁ~」
足元にやってきた黒猫は、俺に何かをうったえる……言うよりも何かを問う様に鳴き声を挙げる。
動物の言っている言葉なんて分からないが、猫の眼を見ると大切な事を聞いている様な気がした。
「……悪いな、お前が何を聞きたいのか分からないんだ」
「にゃあ……」
「でも、さっきの事ならアレが俺の偽りのない本音だって言い切れるぞ」
「……にゃふ」
如何やらさっきの事を聞いていたらしいが、俺の言葉を聞いたら猫は何故か変な声を出す。
俺は喉に何か詰まらせたのかと思って、猫を抱き寄せて近くで様子を見てみることにした。
コレと言って苦しがっている様子はないが、その代わり猫の顔が少しずつ近付いているような気がする。
本当に如何したんだと不思議に思っていたら―――
―ボフン―
「……へっ?」
―――変な効果音と共に猫が煙に包まれ、ソレが晴れたと思ったら……俺の目の前には何故か霊夢の顔が間近にあった。
如何して霊夢が猫になっていたのかって言う疑問は置いておくとして、この状況は一体如何すれば良いんだろうか?
お互いに顔が直ぐ傍にあるから、見る場所と角度によっては俺達がキスしているように見えなくもない。
此処は台所だから、見付かる事はないと思うけど……ここから如何動けば良いのか検討が付かないな。
「……………」
「……………」
「……………」
「……よ、よう」
「~~~~~~~ッ!!!!」
俺が軽く声を掛けると、霊夢の顔はみるみる赤くなっていき、コッチが心配に為るくらい真っ赤になった。
だが今までの経験上から言うなら、この状況で声を掛けても掛けなくても、俺は痛い目に遭うんだよな。
そんな事を考えて現実逃避していると―――
「……き、キャアァァァァァァァァァァッ!!!!」
「うわッ?!」
―――羞恥心が限界を超えたのか、霊夢に思いっきり突き飛ばされてしまう。
運よく頭はぶつけなかったものの、碌な受身も取れなかったから尻餅をついてしまった。
「いって~~ッ」
「あ、ごめんリュウ。でも今はなんて言うか…その……」
「俺は大丈夫だから落ち着け霊夢」
「……とにかく今はごめ~んッ!!」
自分でも何を言っているのか分かっていない霊夢は、俺に一方的な謝罪をした後、顔を真っ赤にしたまま何処かへと走り去ってしまった。
まぁ、夕食までには帰ってくると思うが……久々に凄く慌てた霊夢を見た気がするな。
そんな事を思いながら立ち上がった俺は、ズボンに付いた土を払い、お湯が沸いたヤカンを手に取ってお茶の用意をするのだった。
リュウSide out
手持ちの辞典で〝愛〟と言う言葉を引くと『個人の立場や利害にとらわれず、広く身の回りのものすべての存在価値を認め、最大限に尊重していきたいと願う、人間本来の暖かな心情』だそうです。
此処でリュウは人間じゃないじゃんってツッコミは野暮ですよ。