竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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この回は霊夢の視点でお送りします。


第六十六話 巫女と使いの会談

「はぁ~…。なんで何時もこうなるのかしらねぇ……」

 

木々についていた葉が枯れ落ち始めた今日この頃、私はリュウの居ない神社で一人溜息を吐いていた。

アイツは狩りに出かけているから当分は帰って来ないし、珍しい事に今のところは誰も遊びに来ないから久し振りに一人で過ごしている。

誰も居ない神社はやっぱり広く感じるけど、今は自問自答したい気分だから誰も居ない方が都合がいい。

まぁ自問自答すると言っても、前の様に自己嫌悪に陥っているわけでもなく、ただ自分の性格をどうにか出来ないか悩んでいるだけ。

言いたい事もしてあげたい事もはっきりしているのに、肝心なときに湧き上がる羞恥の所為で何も言えなくなるこの性格。

アイツから告白してくれるなんて余程の事が無い限りないだろうし、私の方から言わなくちゃいけない……そう分かっているのに、結局何もいえなくて恥かしさを誤魔化すしかできない。

この性格を自分でも如何にかしたいと思っているのに、如何したら良いのかなんて分からなくて行き詰まり、また最初のところへと戻ってしまう。

思考のループとでも言えば良いのだろうか、そう言ったものに嵌ってかれこれ一時間近く悩んでいる様な気がする。

 

「自分の性格を変えるのは簡単じゃないって分かってたけど、此処までなんのアイディアが出ないとは思わなかったわ」

 

私は独り愚痴って小さな溜息を零すと、玄関の方から誰かが戸を叩いてくる音が聞こえてきた。

律儀に戸をノックしてくる辺り、魔理沙じゃないのは確定だけど……一体誰が来たのかしら。

慧音辺りが仕事でも持って来た可能性もあるけど、私の勘だとそう言うのじゃない様な気がする。

…まぁ考えていても仕方が無いし、とりあえず出てみれば分かるでしょ。新聞の勧誘だったら断れば良いし。

 

―コンコン―

「あ~はいはい。今出るわよ」

 

面倒くさい…心の底からそう思いながら玄関の戸を開けると、幻想郷でも見た事の無い紅い実が入った籠を持った衣玖が立っていた。

 

「こんにちわ、霊夢さん。リュウさんはご在宅でしょうか」

「アイツなら釣りに出かけてるけど、何か用事でもあったの?」

「用事と言いますか、龍神様よりこの果実を渡すように申し付けられまして」

「果実…ってその紅い実の事?」

「はい、その通りです」

 

衣玖はそう言って紅い実の入った籠を差し出してけど、私には色からしてコレが果実とはどうにも思えない。

紅い果実ならリンゴがあるけど、この実の表面には葉のような緑色の突起物がある所為か、物凄く怪しい食べ物にしか見えない。

たっちゃんからの贈り物だから毒と言う事は無いと思うけど、初めて眼にする物って第一印象が大事だと思うのよ。

 

「……………」

「あ、あの霊夢さん。ちゃんと食べれる物ですから、そんなに凝視しなくても大丈夫ですよ」

「…私、そんなに睨んでた?」

「はい。実に孔が開くんじゃないかと言うくらいにジッと」

「別にそんな心算はないけど……物凄く怪しいじゃないコレ」

「まぁ、わたくしも最初見たときは疑いはしましたけど、食べてみましたら意外と美味しかったですよ」

「へぇ~そうなの」

「ただ、あまり日持ちしませんので召し上がる時はお早いほうが宜しいかと」

「ふ~ん……」

 

衣玖に美味しいといわれて、私もこの謎の果実にちょっとだけ興味が出て来た。

見た目だけはやっぱり怪しいけど、一つくらいなら食べてみても良いかな。

 

「……衣玖、この後暇なら少し上がって行きなさいよ」

「確かに急ぎの用はありませんが、宜しいのですか?」

「別に構わないわよ。…それに、こんな怪しい物を独りで食べる気には為れないわよ」

 

少し悪戯っぽく言ってみると、衣玖は何処か楽しげに微笑を見せた。

 

「ふふ、確かにそうかもしれませんね。ではお邪魔させて頂きます」

「ど~ぞ~っと」

 

家に上がった衣玖から籠を受け取った私は、そのまま台所に向かって紅い実を一つ切ってみる事にした。

触ってみた感じからして外皮は硬いのか、リンゴの皮の様に剥くように余り適していない様な気がする。

とりあえず実を半分に切って、それを更に四等分に切り分ければ問題ないでしょ。

そんな事を考えながら実に包丁を入れて切ると、半分になった実から白い果肉と沢山の黒い粒が見えた。

黒い粒は多分この実の種なんでしょうけど、その量が予想以上に多くて若干引いてしまう。

果実なんだから種の一つや二つあるのは分かってたけど、予想の何十倍の数があるなんて思うわけ無いじゃない。

種は果肉の中に沢山あるから、無理に取り出したりはせずに西瓜みたいに食べるのが正解かしら。

そんな事を考えながら実を切り分け、適当な皿に乗っけて衣玖が待っている居間へと運んだ。

 

「お待たせ…って、そう言えばお茶を出して無かったわね」

「いえ、お構いなく。それにこの果実は緑茶よりもお水の方が合うと思いますよ」

「そうなの? …まぁ、水は喉が渇いたときに出せばいいわよね。とりあえず食べてみましょう」

「はい」

 

持って来た皿をちゃぶ台の上において、切り分けた果実の一つに噛り付いてみる。

食感は大量の種の所為かショリショリしていて、味は…ほのかな甘味と酸味があるって言えば良いのかな。

幻想郷ではまずお目にかかれない果実だけど、見た目の割には中々に美味しいかもしれない。

 

「……意外といけるわねコレ」

「そうでしょ? …ですが、わたくしが食べた果実とは別品種みたいです」

「あら、そうなの?」

「わたくしが食べたのは果肉が紅くて、甘味もそちらの方が強かったかと思います」

「ふ~ん。…まぁ、他にも何個か残ってるし、もしかしたら紛れてるかもしれないわね」

「そうかもしれませんが、一つだけ気をつけてください。紅い果肉の方は果汁も濃いので、服に付いてしまうと中々落ちません」

「……それは厄介な事この上ないわね」

 

衣玖から嫌な情報を聞いて思わず苦い顔をするけど、本当に紅い果肉の奴が紛れているか分からないし、余り気にしないようにしよう。

本当に紛れていたとしても、果汁が服に付かないように気をつけて食べれば良いだけよね。

そんな事を考えながら二人で食べていると、八切れあった実はあっという間になくなってしまった。

元々大きな実と言う訳でもないし、細かく切り分けた訳でも無いから直ぐになくなるのは当然かもしれない。

果実を食べ終わった私は、口直しと言う意味を込めて緑茶を入れる事にした。

これを食べた後に緑茶と言うのも微妙な気もするけど、ウチには緑茶か水しか出せないんだから仕方が無い。

別に水でも問題なかったんだけど、なんとなく私がお茶を飲みたい気分だったからコッチにした。

付き合わせる衣玖にはちょっと悪いけど、今回は我慢してお茶を飲んでもらうことにしよう。

 

「ってな訳でお茶が入ったわよ」

「すみません、霊夢さん。本当でしたらわたくしがお茶を淹れるべきなのですが」

「何言ってんのよ。今の衣玖はお客なんだから、ウチに来てまで仕事しようとしなくて良いの」

「……そう、ですね。では、お茶の方ありがたく頂戴いたします」

「其処まで畏まらなくても良いんだけど」

「こういう性格ですので、それに関しては諦めてください」

「じゃあそうさせてもらうわ」

 

おどけた様に言う衣玖に対して軽口を叩くように返すと、そのやり取りが可笑しくて二人して笑ってしまう。

普段からウチに来ている魔理沙とは違うタイプだから、こう言うやり取りは新鮮でちょっと面白い。

アイツと軽口を叩き合うのも悪くは無いけど、たまにはこういった感じの会話をするのも良いかもしれない。

そんな風に思いながら、私は自分で淹れたお茶を飲みつつ、衣玖と他愛の無い談笑をし始めた。

衣玖の仕事ぶりから始まって、職場での愚痴を聞いたり、龍たちが住む世界の話を聞いてみたりもすれば、私から普段の神社の生活やリュウが来てから変わった事なんかを話した。

なんの為にもなら無い様な話ばかりだけど、私達は時が経つのも忘れて会話に夢中になっていた。

彼女と知り合って数ヶ月は経つけど、じっくり腰をすえて話をするのは今回が初めてかもしれない。

別に衣玖と話をしたくなかったわけじゃない、ただ彼女の場合は大抵リュウに用事があって此処に来るから、こうして二人っきりで話す機会が中々無かった。

他の連中と違って酸いも甘いも経験してそうだし、この機会にいろいろと話を聞いてみましょうか。

 

「…ところでさ、衣玖。一つ聞きたい事が有るんだけど」

「はい、なんでしょうか」

「衣玖って誰か想い人とか居るの?」

「想い人ですか? いえ、これと言って特別な方は居ませんよ」

「え、そうなの? なんか意外ね、衣玖って美人だからモテそうなのに」

「美人だなんて言い過ぎですよ。それにわたくしの職場は出会いが少ないと言いますか、今は総領娘様のお世話が忙しくてその様な余裕も無いのです」

「……そんなに大変なの。天人の世話って」

「あの方限定な気もしますが、かなり大変ですね。…しかし、何故その様な事を聞いてきたのです?」

「いや、衣玖に恋人とかいるなら色々と助言とかして欲しいなぁ~って」

「助言……ですか」

「そうそう」

 

衣玖は何処か釈然としない顔をするけど、私が最近起こった黒猫変化の事を話すと合点が行った様な顔で頷く。

そのついでに自分の性格をなんとかしたいとか、リュウに素直に甘えるには如何すれば良いのか色々と相談してみることに。

私の相談を受けて衣玖は瞑目して考え始めるけど、一分も掛からずに考えが纏まったのか直ぐに口を開いた。

 

「霊夢さんの悩みは分かりましたが、別に無理をする必要も無いのではないでしょうか」

「…? それって如何言う事よ」

 

衣玖の言葉の真意を測りきれず、思わず聞き返すと彼女は嫌な顔一つせず話し始める。

 

「リュウさんはありのままの霊夢さんを受け入れると仰ったのですよね? でしたら無理に今の自分を変えたりせず、今のままの霊夢さんで居た方が喜ばれると思いますよ」

「そうは言うけどさ、私って口よりも先に手が出ることが多いのよ。だからこのままじゃ、アイツに乱暴女って思われるんじゃないかって」

「でしたら逆にお聞きしますが、今までリュウさんに手を上げてその様な事を言われた経験があるのですか」

「それは……ない、けど……」

「そうでしょう? 恐らくですが、リュウさんは霊夢さんのそう言う行動を照れ隠しだと分かっているのだと思います。ですからきっと、霊夢さんのことを乱暴女だとは思っていない筈です」

「……………」

「無理に性格を変えたら心配されるでしょうし、今のままの霊夢さんで十分ですよ」

 

衣玖の言葉は根拠の無い励ましにも聞こえるけど、それを否定する要因もなく私は押し黙ってしまう。

今のままの私でいい、彼女はそう言ってくれたけど……本当にそれでいいのかしら。

アイツは私に色々なモノをくれるけど、ただ貰うばかりじゃなくて私からもアイツに何かをしてあげたい。

…でも私の性格じゃ思うように素直になれないし、この性格をなんとか出来ればって思っていたんだけど……。

 

「……………」

「それでですね、霊夢さん。素直に甘える方法に付いてなんですが」

「ぇ…あ、なに?」

「いきなり大胆な事はしないで、小さな事から少しずつ慣れていくと言うのは如何でしょう?」

 

自信あり気に言う衣玖の提案に、私は思わず関心してしまった。

恥かしくて大胆な行動なんて取れないけど、何時までもこのままで居るわけにもいかないし、少しずつ慣れて行くのはアリかもしれない。

 

「……確かに一理あるわね。それで、具体的には如何すれば良いの?」

「そうですね……買い物に一緒に行ってさり気無く手を繋ぐとか、あの方に耳かきをしてあげると言うのは?」

「本当に小さなことみたいね。その位だったら私でも出来るわ」

「それで少しずつ慣れてきましたら、あの方の腕に抱きついてみたり、あの方に膝枕や腕枕などをしてもらいましょう」

「な、なんか一気にハードルが上がった様な気が……」

「何を言っているのですか。最終的には(ねや)を共にするのですし、この程度のことで怖気づいている場合ではありませんよ」

 

衣玖は何処か呆れた様な口調で言うけど、なんか物凄く聞き捨てなら無い様な言葉を言った様な気がする。

 

「……ちょっと待ちなさい。なんで話の途中で閨なんて言葉が出てくるのよ」

「えっ? だってお二人は結婚を前提にお付き合いをしているのですよね? でしたら結婚した暁にはそれが当たり前になると思いますよ」

「だから、なんで私とリュウが…その……恋人ってことになってるのよ!」

「違うのですか? わたくしはてっきりリュウさんが遠まわしの告白をしたのだと……」

「アイツがそんな事言ってくれるわけ無いじゃない。もしそうだったら私がどれだけ楽になるか……」

「えっと…それはつまり……」

「そうよ、何時もの紛らわしい台詞よ」

「……………」

 

私が何処か諦めたように呟くと、衣玖は愕然とした表情で黙り込んでしまった。

まぁ、私が衣玖の立場でコレを聞いたら同じ様に愕然としたでしょうし、黙るのは仕方が無いのかもしれない。

 

「と、とりあえず、今はリュウさんとのスキンシップをはかり、少しずつ慣れる事から始めましょう」

「そうね。そうする事にするわ」

「日中は何処かに行っている事が多いですし、夜中にあの方の部屋に忍び込むのもアリかも知れません」

「い、いや……流石にそれは勇気がいる様な気が……」

「この際ですから多少強引にいける勇気を持ってもらいませんと」

「さっきと言っている事が微妙に違う様な気がするけど」

「気にしてはいけません」

 

そう言って衣玖は話を強引に打ち切ってきたけど、本当にコレで良いのか物凄く不安になって来た。

…でも、何時までも今のままの関係でいたく無いし、多少の恥かしさは我慢するしかないのよね。……ちゃんと出来るか分からないけど。

 

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