竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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最近なんだか創作意欲が湧かないから、一週間とちょっと振りの更新。
今後もこんなゆっくり更新になりそうな予感。


第六十八話 雪が降る中で……

空から深々と降る雪で白く染まりつつある幻想郷の人里。

もう一年が終わるため、年末年始の準備を始めている人達の姿がチラホラと窺う事ができる。

大晦日の慌しさと言うほどではないが、それなりに活気付いている里の中を歩くとある男女の姿に、通り過ぎる人々は訝しげな視線を送っていた。

彼らの視線の先に居るのは、白い襟巻きを着けているが雪が降り始めたにも拘らず腋を露出させている巫女(れいむ)と、彼女が暮している神社に居候している少年(リュウ)

二人は人里で暮らしているわけではないため、里に行けば常に会えると言う訳ではないが、食材の買出しなどで度々やって来るので珍しいと言う訳でもない。

ましてや二人で買い物など良くある事なのだが、肝心の二人の様子が何時もとは若干違っていた。

 

「んで、霊夢。今日は一体何を買う心算なんだ?」

「今回は特別な物を買う予定は無いわよ。何時も通り食材が中心ね」

「だったら俺一人でも良かっただろう。なんだって今日は付いてきたんだよ」

「べ、別に良いでしょそんなの。それよりもさっさと買い物を済ませるわよ」

「お、おう」

 

会話だけを見れば二人の何時ものやり取りなのだが、二人の雰囲気と言うか距離感が何時もと違う様に見える。

巫女は〝さっさと買い物を済ませる〟と言いながら、その歩みは普段の速度よりも遅く、少年の方を横目で見ながら何かのタイミングを窺っているようにも見える。

少年もその事には気がついているのだが、巫女が何のタイミングを計っているのか見当も付かず、如何すれば良いのか分からないでいるようだった。

二人の関係をそれとなく察している人達からしたら、二人の間に何か遭ったんじゃないかと勘繰ってしまいそうになるが、端から見る限りだと喧嘩した時の様な険悪とした雰囲気でも無さそうだった。

 

「……。(手を繋ぐだけ、たったそれだけの事じゃない。今までにも何度か手を繋いだ事は有るんだし、緊張したり臆したりする必要は無いわ)」

「……。(何かを狙ってるのは間違いないが、一体何をしたいのかが分からん。まぁ霊夢の事だから変な事じゃないと思うけど、一体何を企んでいるのやら)」

 

少年が巫女の歩く速度に合わせてゆっくりと里の中を歩いていくが、二人の微妙な距離感が解消されることは無かった。

二人の仲を知る里の人達は何時もとは違う二人を気にするが、直ぐに元に戻るだろうと結論付けて自分たちの仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

霊夢Side

 

…さて、なんだかんだ理由を付けて買い物に同行したけど、此処からどうやって手を繋げばいいのかしら。

手を繋ぐのは初めてじゃないとは言え、基本的にはリュウの方から強引に私の手を握ってくる。

私もリュウみたいに強引に行けば良いのかもしれないけど、コイツは変なところで勘が良いから握る前に勘付かれるかもしれないわ。

出来るだけ自然にそう言う流れに持って行きたいけど、そう言った雰囲気って如何すれば良いのか知らないのよね。

 

「ちわーっす。八百屋のおっちゃん野菜を売っておくれ」

「はいよ…って、何の野菜が欲しいの教えてくれよ」

「そんじゃ……適当になんか見繕って」

「おいおい」

 

リュウは私の気持ちなど露知らず、八百屋の店主と親しげに冗談を交えながら買い物を始める。

二人が何時の間に親しくなったのかしら無いけど、リュウの意識が買い物に向いている今がチャンスかもしれない。

今なら傍に近付いてもバレないだろうし、手を繋ぐ隙だってあるはず。

まぁ、手を繋いだ瞬間に気付かれるだろうけど、その時は適当に言い繕えば問題ないわよ。

 

「そんな事を言うなら本当に適当に見繕うが、お金の方は相変わらずなのか」

「まぁね。だから多少形が悪くても良いから、安いのを頼むよ」

「そんなら店の奥に仕舞って有るやつを出してくるか」

 

そう言って八百屋の店主は店の奥へと引っ込むけど、リュウの意識は私から逸れているから特に問題は無い。

今の内に私は気付かれない様にリュウとの距離を詰め、そ知らぬ顔をしたまま彼の手を握ろうとそっと腕を伸ばす。

少しずつ近付いていくたびに胸の鼓動が速くなっていくけど、リュウは未だに私の事に気がついていない。

本当は私の様子に気付いていて、ただ無視しているだけかもしれないけど、そんなのはどちらでも良い事よ。

こんな機会が今日のうちにあと何回あるか分からないし、チャンスがあるのならそれに飛びつくべきよ。

心の中でそう思いながらそっと腕を伸ばしていき、私の指先がリュウの手に触れたその時―――

 

「お~い、持って来たぞ~」

「ッ?!」

 

―――タイミング悪く店主が戻ってきてしまい、驚いた私は反射的に後ろに退いてしまう。

私の行動を見た店主は不思議そうな顔をするけど、変に追及されたくも無かったので顔を逸らして誤魔化す事にした。

 

「なぁリュウ。巫女さんの様子が変なんだが、なんかあったのか?」

「さぁ? 神社を出た時からこんな感じだから、俺にも良く分かんねぇや」

「…まぁいいさ。それよりもご希望の品を幾つか見繕ってきたぞ」

 

少々強引に話題を切り替えた店主は、店の奥に仕舞っていたという野菜をリュウに差し出す。

籠に盛られている野菜たちは、どれもこれも店先に並べるにしては形が悪く、売り物にするには少々難ありって感じかしら。

恐らく形が悪いだけで食べれない訳じゃないから、農家の人から格安で譲り受けているんでしょうね。

 

「それでこんなんで良いのか? 言っちゃ悪いがこれじゃ調理するのが大変だと思うぞ」

「別に大丈夫だって。料理作るのは俺じゃなくて霊夢なんだし」

「ちょっと待ちなさいリュウ。幾らなんでもその言い方はあんまりじゃないの」

「だったら、俺を台所に立たせてくれるのか?」

「それは嫌よ。リュウは大人しく居間で待っていてちょうだい」

「それなら料理するのは霊夢しかいないよな」

「……確かにそうだけど、なんか納得いかないわね」

「細かい事は気にするなって。それじゃおっちゃん、その野菜をくれ」

「まいど」

 

上手い事丸め込まれた様な気がするけど、リュウはそんな事気にもせずに店主にお金を渡して、持って来ていた手提げ袋の中に今買った野菜を放り込んだ。

そしてリュウは店主に別れを告げて歩き出すと、左手にある野菜の入った袋を肩で担ぐように持ってしまう。

私は彼の左側に居るから、そんな風に袋を持たれてしまうと手を繋ぐ機会が完全に失われちゃう。

出来る事なら右手で袋を持って欲しかったけど、こんな事を言い出すと変な目で見られると思うから黙っておこう。

 

「…ねぇリュウ、その野菜を持つの大変でしょ? 私が代わりに持ってあげるわよ」

「ん? 確かに重いけど……別に代わって貰うほどの事でも無いぞ」

「いや、でもほら、他にも買わないといけないんだし、私も少しは持つわよ」

「だったら他のを買ったときに頼むよ。てか、こんな重い物を霊夢には持たせられん」

「……あ、そう」

 

それらしい事を言って左手を開けさせようとしたけど、その企みも遭えなく失敗してしまった。

リュウは私の事を気遣っているんだろうけど、今はその気遣いもそんなに嬉しくは無い。

こんな事になるなら最初に八百屋に行かないで、別の店から回ればよかったかもしれないわね。

 

「…いや、今はそんな事を言うよりも次の手を考えないと」

「次の手って一体何の話だ?」

「こっちの事よ、気にしなくても良いわ」

「気にするなって言われても、朝から様子が変だったら気にもなるぞ」

「変って何よ。私は何時もと何ら変わって無いじゃない」

「…とりあえずその台詞は鏡を見てから言おうか」

「それは一体どういう意味よ」

「言葉のとおりの意味だよ」

 

リュウの言い方が気に入らず、思わず突っかかってしまうけど、上手いこと往なされてしまう。

それでも気にせず突っかかろうとするけど、リュウはそれよりも早く次の店に顔を出してしまった。

流石に店の人に迷惑を掛ける訳にもいかないし、店先で口論するのは止めるけど……やっぱり納得いかない。

とは言っても、上手く丸め込まれるのは何時もの事だし、突っかかっても往なされるのがオチでしょうね。

小さな溜息一つ吐いて頭を切り替えた私は、次のチャンスが来るのを見計らう事にした。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

とある店先でリュウが会計を済ませている中、私は一人離れて肩を落として小さな溜息を吐いていた。

この店で買い物も全て終わり、あとは神社に帰るだけになったんだけど……結局目的を達成できなかった。

あの後も里の色んなの店に顔を出して買い物をしたけど、一度もリュウと手を繋ぐ事が出来ずに時間が流れた。

チャンスは何度かあったけど、いざ実行しようとすると店の人に気付かれたり、リュウが別の所に行っちゃったりして全部空振りに終わってしまった。

後少しってところまでは手を伸ばせるのに、タイミングでも悪いのか全然上手く行かないのよね。

リュウに〝鏡を見てから言え〟って言われたときは突っかかったけど、冷静になって振り返ってみると凄く変な行動を取っていたんだろうな~……。

 

「はぁ~……なんか最近ずっと空回りばっかりしてる気がする」

「今度は何の話をしているんだ?」

「別に何でもないわよ……って、ん?」

 

会計を終えたリュウが近付いてくると、なんだか美味しそうな匂いが漂ってきた。

一体なんだろうと顔を上げてみたら、リュウの手に小さな木の器が握られていて、その中に美味しそうなおでんが盛り付けられていた。

 

「ちょっと如何したのよリュウ。おでんなんか持ってきちゃって」

「この店のおばちゃんが作りすぎたからって分けてくれた」

「そうなの。…なんか悪いわね」

「余らせても捨てるだけだから良いんじゃねぇか?」

「…アンタも実も蓋もない事言うわね」

「気にすんなって」

 

リュウは何処か楽しげに笑いながら貰ってきたおでんの片方を私に差し出してきた。

私が差し出されたおでんを受け取ると、木の器を通して手の中に確かな温かさを感じ取る事ができる。

寒空の下この巫女服で歩いていたからか、おでんの温かさを感じているとなんとなく心がホッとする。

その温かさを堪能した私は、折角のおでんが冷め切ってしまう前に食べ始める事にした。

 

「あむ………あ、美味しい」

「だな。特にこの出汁の滲み込んだ大根がいい」

「私が食べたのはきんちゃくだけどね。確かに大根も美味しそうだけど」

「なら、俺の大根と交換でもするか?」

「ぶっ!? …と、突然何を言い出すのよアンタ! 冗談を言うのも大概にしなさい!」

「悪い悪い」

 

リュウは悪戯が成功した子供の様な笑顔を見せながら、何処と無く楽しげ笑いながらに謝ってきた。

その笑顔に呆れて小さな溜息を吐くけど、内心では交換を断った事をちょっとだけ後悔している。

あんな事私からじゃ絶対に言えないし、リュウの方から言ってくれたのなら乗っかっても良かったかなって。

でも間接キスなんてまだ速いと思うし、とりあえず今はコレで良いはずよね。

 

「さて、ごちそうさんっと。……霊夢はまだ食ってるのか」

「アンタが速いだけで、私のペースが普通なのよ」

「そんな事はねぇと思うけどな」

 

納得が行かないのかリュウは何処か不満そうに呟くけど、私はそんな事気にもせずに自分のペースでおでんを食べる。

盛り付けられた具材を綺麗に食べて、器の中の出汁も飲み干すと体が大分温まった様な気がする。

おでんを食べ終わった私は、空になった木の器をリュウに渡して店の人に返して来てもらう。

リュウは文句を言わずに器を受け取り、そのまま店の方へと向かっていった。

リュウが戻ってくる間の暇を持て余していると、里の中を底冷えするように冷たい寒風が吹き抜け、温まった体を一気に冷ましてしまう。

折角おでんを食べて温かくなったのにコレじゃ台無しね。

冷えた体を温めるように腕を組んでいると、空の器を返し終わったリュウがコッチに戻ってきた。

 

「戻ったぞ……って、今度は如何したんだよ」

「冷たい風に当たって体が冷えただけよ。気にしないで」

「腋を出しているから直ぐに冷えるんだろ。もう少し厚着をしたら如何だ?」

「ほっといて。ウチの巫女服は大体こういう構造なのよ」

「さいですか」

 

リュウは呆れたように溜息を吐くと、今自分が着ている上着を脱いで私に掛けてきた。

私の服よりも一回り以上大きいサイズだから、上に掛けているだけでもだけでも十分に温かい。

だけどリュウは上着を脱いだ所為で半袖一枚になってしまい、見ているコッチが寒くなりそうな格好をしている。

 

「ちょっと、これは一体何の真似よ」

「何ってまた風邪を引かれても困るからな。俺ので悪いけどそれで我慢してくれ」

「いや、そう言うことじゃなくてアンタは寒くないのかって事」

「ものすんごく寒い。だから今すぐ帰ろう、直ぐに帰ろう、とっとと帰ろう」

 

若干早口になりながらそう言うと、リュウは買った荷物を手に持って早足で歩き始めた。

出遅れた私は置いていかれそうになるけど、貸してくれた上着を軽く握り締めてアイツの後を追いかけ始めた。

 

「ちょっと待ちなさいよリュウ! 私を置いて行くんじゃないの!」

「寒いからさっさと帰りたいんだよ……へーっくしゅ!」

 

リュウは私の方を振り返りながらも、本当に寒そうに大きなくしゃみをする。

肝心なところでイマイチ格好のつかない奴だけど、私はこう言うリュウの優しさは結構好きだな。

目標の手を繋ぐ事はできなかったけど、これはこれで一緒に買い物に来た甲斐があったかも。

私は自分でも顔が綻んでいるのを自覚しながら、リュウと一緒に白い雪が降る中を急いで帰る事にした。

 

霊夢Side out

 




端から見るとカップルに見えなくも無い二人だが、リュウに二人の関係を尋ねると家主と居候と答える。……色んな意味で頑張れ霊夢!
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