竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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この話を書いたときは丁度正月だったけか。
あ、今回は久々にリュウ視点のみでお送りします。…そこまで久々でもないか。


第七十話 幻想郷の正月

 

年が明けて新たな一年が始まったばかりの頃。

里の人達だけではなく、妖怪たちも新年を祝っている中で俺達は、何時もの様にコタツを囲んでお茶を飲んでいた。

本来なら今の時期は、神社に取って一番忙しくなり時期らしいんだが……ウチの神社に人なんて来る訳もなく、やる事のない俺と霊夢は暇を持て余している訳だ。

今日は朝早くから衣玖さんも来ているが、彼女は仕事先の新年会から抜け出してきたとかなんとか。

そう言うのは参加した方が良いと思うんだが、衣玖さんなりの考えがあるんだろうし、深く考えないようにしよう。

 

「それにしても暇だなぁ~」

「ほんとよねぇ~。なんで誰も来ないのかしら」

「里では〝妖怪神社〟と呼ばれてますからね。好き好んでくる人などそうは居ませんよ」

「リュウは妖怪じゃないわよ」

「誰もリュウさんの事だと言ってません」

 

霊夢は衣玖さんの事をジト眼で睨むが、彼女はソレを軽く受け流してお茶を飲む。

妖怪神社については、前にも聞いてるから何も言わないけど、衣玖さんは『竜宮の使い』って種族の妖怪だよな。その事に関してのツッコミを入れておいたほうが良いのかな?

 

「あ~ぁ。先代の頃はちゃんと参拝客が来てたのになぁ~」

「それは流石に嘘だろ」

「霊夢さん。幾ら新年だからと言っても、その冗談は面白くないですよ」

「……アンタ等ねぇ」

 

俺達の容赦のないツッコミに、霊夢は自分の湯の身を握り締めて怒りを堪えている。

そこまで怒りを買うとは思ってなかったが、幾らなんでも参拝客が来ていたと言うのはうそ臭い。

人の居ない事で里でも有名な神社なのに、先代の頃はまだ人がちゃんと来ていたってのはなぁ……。

その事が事実だとしたら、霊夢の代になってからこの神社は衰退し始めたって認めてるようなもんだろ。

 

「コレでも先代が居た頃はまともな神社だったのよ」

「……それって、霊夢さんがこの神社を駄目にしていると―――」

「アー聞コエナイ聞コエナイ」

「…一応自覚してるんですね」

 

衣玖さんも俺と同じ事を思っていた様だし、霊夢本人も一応自覚はしていたんだな。

その事に感心すれば良いのか、何もしないでいる事に呆れればいいのか良く分からず、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「とにかく! 先代の頃は普通だったのよ!」

「それなら先代の真似をすれば、参拝客も戻るんじゃないのか?」

「それだけは絶対にいや」

「なんでだ?」

「……私、あの人嫌いのなのよ」

「「はい?」」

 

霊夢の先代嫌い発言に、俺と衣玖さんは思わず変な声を出してしまった。

他人に興味がないって言ってる霊夢が、誰かの事をはっきり嫌いだと言うのはかなり珍しい。

……でも、先代って事は霊夢の母親に当たるののだとしたら、別に他人って訳でもないか。

 

「先代の方が嫌いと言うのは如何してですか?」

「あの人、物凄く真面目な巫女なの。……まぁ、『博麗の巫女』として見るなら文句なしでしょうけど、修行の時になると何かと口煩くて大変なのよ」

「それは霊夢さんを立派な巫女にしたいからでは?」

「だからと言っても、アレは煩すぎよ。元々私は、修行なんて好きじゃないのに強要してきたり……って言うか、私の修行嫌いはあの人が原因ね」

「……そ、其処まで言いますか」

「大体あの人は―――」

 

修行時代を思い出したのか、霊夢はあの頃の愚痴を俺達にぶちまけて来た。

よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、衣玖さんの呆れ顔にも気付かず、霊夢は長々と不満を言ってくる。

俺はそれに耳を貸しながらも、適当な相槌を打ちつつコタツの上に出している漬物を食べながらお茶を飲む。

そんな事をしていると、家の裏庭に誰かがやって来たらしく、縁側の雨戸が数回ノックされた。

 

「ん? この時期に誰だ?」

「参拝客でも来たのかしら。だったら表に回って欲しいわね」

「表に何も無いから裏に回ったのでは?」

「賽銭箱があるじゃないの」

「……………」

―コンコン―

「はいはい、今出ますよっと」

 

頭を抱えている衣玖さんを置いてコタツから出た俺は、ノックされている箇所の雨戸を開けた。

すると其処には、色鮮やかな花の刺繍が施された紺色の着物を着た金髪の女性と、上海を連れたアリスの姿があった。

 

「いらっしゃいアリス。そっちの着物の女性はアリスの知り合いか?」

「おいおい、新年早々酷いぜ」

「だから私は気が付かないって言ったのよ」

「わたしだリュウ。よく見てみろって」

「…?」

 

親しそうに話しかけてくる女性に、俺は眼を凝らしてもう一度よく見てみる。

正月だから着物を着ているのは良いけど、金髪の女性の知り合いなんて、そんなに多くは居ない筈。

でも向こうは、俺の事をよく知っているみたいな口ぶりだし……何処かで会ったのかな?

 

「リュウ、誰が来たの……って、その格好は如何したのよ魔理沙」

「流石霊夢。よく気付いてくれた」

「霊夢。魔理沙の奴が来てるのか?」

「着物を着てるのがそうよ」

「……えぇ~」

「なんだよその反応は」

「いや…だってなぁ……」

 

イマイチ信じられない俺は、半信半疑のまま着物の女性をよく見てみる。

金髪と口調を考えれば、確かに魔理沙の特徴ではあるんだけど……なんかが違う気がするんだよな。

俺の中にある魔理沙像は、白黒の服を着て黒い帽子に箒を持っているイメージだから、それ以外の格好だと誰だか良く分からなくなるんだよ。

……あ、だから、目の前に居る奴を魔理沙だと認識できないのか。納得した。

 

「漸く合点がいったか」

「嗚呼。何時もの服じゃねぇと誰だかわからねぇや」

「ひでぇなおい」

「……どうでも良いんだけど、いい加減上がらせて貰えないかしら」

「参拝客じゃないなら帰れ」

「…新年早々酷い夫婦だぜ」

「まだ夫婦じゃないわよ!」

「〝まだ〟ねぇ……」

「アリスもうっさい!!」

 

なんやかんやと揉め事はあったが、アリスと魔理沙の二人はウチに上がってもらった。

一度に五人も来たと言う事もあって、あまり大きくないコタツが更に狭くなり、五人で囲むには少々窮屈になってしまう。

隣同士の幅は狭くなったものの、色々と座席を工夫して、なんとか五人でコタツを囲むことが出来た。

座席を決めるときに、魔理沙がしつこい位に俺の隣りを霊夢にしようとして来たが、誰が何処に座っても同じだと思うのは俺だけか?

まぁ、霊夢も座席の場所は此処が良いと言って来なかったので、魔理沙の言う通り俺の右隣りには霊夢が座る事で落ち着いた。

左隣にはアリスが座り、その隣りには魔理沙、衣玖さんと言う形でそれぞれの座席が決まった。

あーだこーだと席を決めている間に気を利かせてくれた衣玖さんが、新しいお茶を用意してくれたらしく俺達の前には淹れたてのお茶が並んだ。

 

「……あ~、ずっと外に居たからお茶が美味いぜ」

「私は紅茶派だけど、偶には緑茶も悪くないわね」

「衣玖の淹れるお茶は美味しいからね。飲み慣れない奴でも美味しく頂けるわよ」

「有り難う御座います、霊夢さん。お世辞でも嬉しいです」

「お世辞抜きに美味いと思うけどな」

「リュウさんまで……」

 

俺が本当の事を言うと、衣玖さんは恥かしそうに顔を紅くして、畏縮してしまった。

あまり褒められる事になれていないのか、こんな事でも直ぐに顔を紅くする事がある。

一体どんな職場で働いているのか気になるけど、深く関わったら面倒な事になりそうだな。

なんて言うか……天界の連中に喧嘩を吹っ掛ける様な、そんな確信にも似た予感だ。

 

「むぅ……」

「ん? どった霊夢」

「別に何でもないわよ」

「…??」

「霊夢~。其処は素直に言った方が良いぞ~」

「魔理沙うっさい」

 

イマイチ良く分からないが、どうやら俺は霊夢の機嫌を損ねてしまったらしい。

別に変な事を言ったわけでもないし、今の会話の何処に霊夢を怒らせる要素があったのか、皆目見当も付かない。

魔理沙だけではなく、他の二人にも検討が付いているみたいだし、後でこっそりと聞いておこうかな。

 

「ところで魔理沙さん。今日は珍しく着物など着てますが、それは如何したのですか?」

「この間大掃除をしていたら、部屋の奥から出てきてな。正月だし丁度良いと思って着てきたんだぜ」

「良くカビたり、茸が生えたりしなかったわね」

「タンスの奥には茸生えてたけどな」

「……あの光景は本当に酷かったわ」

「アリス、お疲れ」

 

吐き捨てるように言うアリスに、俺は彼女に労いの言葉を掛けるしかできなかった。

恐らく、いきなり押し掛けてきた魔理沙にムリヤリ連れ出されて、そのまま家の大掃除を手伝わされたんだろうな。

アリスは結構面倒見が良いからな、色々と文句を言いながらも手伝ったんだろう。

 

「一体どんな状況だったんですか?」

「……一言で言うなら魔境ってところね。荷物が多くて訳が分からなかったわ」

「そんな事無いと思うんだけどなぁ」

「貴女は住んでるから感じないだけ。普通ならあんな所に住めないわよ」

「……本当に如何いう状況だったんですか」

「深く考えないほうが良いわよ、衣玖。魔理沙は収集癖持ちだから、恐らくは、そこ等で集めた道具が部屋に散乱してるのよ」

「霊夢、正解」

「ひでぇなお前等」

 

魔理沙が不貞腐れながら言うと、俺達は何故だか一斉に笑い出す。

その様子に魔理沙は、更に不貞腐れてしまうが……面白かったんだから仕方が無い。

流石に笑うのも可哀相だけど、俺も良く笑いものにされているんだし、今日くらいは我慢してもらおう。

そんな感じで、魔理沙の服装が違うくらいしか何時もと大差ない正月を過ごしている中、俺はふとある事が気に掛かってしまった。

 

「…そういや、霊夢って着物とか持ってないのか?」

「なによ唐突に」

「だって、普段から巫女服ばっかり着てるだろ? だから、それ以外の服って持ってないのかなって」

 

魔理沙でも着物を持っている訳だし、霊夢も着物の一着や二着くらい持っていても良い様な気がする。

この神社って結構古い家系みたいだし、もしかしたら思わぬ掘り出し物が有るのかもしれないな。

心の中でそんな事を思っていると、霊夢は凄く嫌そうな顔をしながら重そうに口を開いた。

 

「……着物くらいなら持ってるけど、着る機会なんて殆どないんだし、着てないのは当然よ」

「ほう、それは良い事を聞いたぜ」

「魔理沙?」

 

俺達の会話に割り込んできた魔理沙は、何か面白い事でも思いついたのか、口角を釣り上げて嫌な笑みを浮かべる。

その笑みを見て、何かを察した霊夢は一目散に逃げ出そうとするが、意外にも衣玖さんの羽衣に掴まってしまう。

本当に意外な人が手を貸したけど、この二人は霊夢で一体何をする心算なんだ?

 

「ちょっと衣玖! アンタ、いきなり何するのよ!!」

「逃げ出そうとした霊夢さんを捕まえただけです」

「それが何でかって聞いてるの!!」

「何故って……折角のお正月ですし、振袖の一つを着てみるのも良いかと思いまして」

「そんなの自分のを着れば良いじゃないの!!」

「一応、此処には奉公に来ていますので、それはご勘弁を……」

「ナイスだぜ衣玖! それじゃ、早速霊夢の部屋を探索するか」

 

魔理沙に促された衣玖さんは、羽衣に包んだ霊夢を引き摺って居間から出て行こうとする。

その見た目は、駄々を捏ねる子供をムリヤリ連れて行く、母親の様にも見えなくもない。

 

「いやー! 助けてリュウーッ!!」

 

霊夢は最後の頼みの綱として、俺に助けを求めてくるが……視線を逸らす事でそれを拒絶した。

 

「……悪い、俺も霊夢の着物姿を見てみたい」

「う、裏切り者~……」

「では、行きましょうか」

 

羽衣に包まれた霊夢は、そのまま楽しげな二人に引き摺られて居間から出て行くのだった。

ちょっと可哀相な事をした気もするけど、霊夢の着物姿を見たのは本当だし、偶には違う格好をするのも良いんじゃないのか。

もっとも年がら年中、似たような服を着ている俺が言うのもなんだけどな。

 

「リュウ。貴方って好きな子を苛めるタイプ?」

「そんな事はないけど、霊夢の反応は見てて楽しいかな」

「……(これは惚気なのか、肯定してるのか微妙な所ね)」

 

 

 

 

 

………

……

 

霊夢たちが居間から出て行って十数分くらいが経った頃。

漸く着付けが終わったのか、魔理沙と衣玖さんの二人が居間へと戻ってきた。

二人は戻ってきたのだが……幾ら待っても霊夢が姿を表そうとしない。

直ぐ傍に着ているのは分かるんだけど、俺の位置からだと陰になっていて全然見えないんだよな。

 

「ほら、霊夢さん。その様な所に隠れてないで、早く入って来て下さいまし」

「いや…だって恥かしいし……」

「恥かしがるなんて霊夢らしくないぞ~」

「五月蝿いわよ魔理沙!」

 

魔理沙と衣玖さんが霊夢を呼ぶものの、恥かしがって全然姿を見せてくれない。

このまま待っていても無駄と判断した俺は、気付かれないようにコタツから抜け出し、そっと霊夢の傍に近付いた。

 

「うわぁッ?! リュウ、アンタ何時の間に!?」

 

霊夢が着ている着物は、薄紅色の下地に桜の花びらや赤と白の花の刺繍が施された綺麗な一品。

普段から紅白の巫女服を着ているからか、霊夢には赤系統の服が良く似合う。

霊夢の黒髪には、普段のリボンだけではなく綺麗なかんざしが挿してあって、彼女の綺麗な髪によくマッチしていた。

 

「……へぇ」

「な、なによ。似合わないとでも言う心算」

「いや、良く似合っているし、綺麗だぞ霊夢」

「ッ!?」

「霊夢は元々可愛いんだし、偶には違う格好もしたら如何だ?」

「あ…う……」

 

俺が普通に褒めてやると、霊夢の顔はドンドン紅くなっていき、最終的には熟れたトマトの様になっていた。

口をパクパクと動かして、何かを言おうとしているが……一向に言葉が出てこない。

そのまま何を言うのかと待っていたら、霊夢が唐突に下を向いて、小さな声で何かを呟いた。

 

「…………ぅ」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもない! ほら、アンタもこんな所で突っ立ってんじゃないわよ!!」

「あ、おい、押すなって霊夢!」

 

顔を真っ赤にした霊夢は、俺の背中をグイグイと押してきた。

その様子を見て、ニヤニヤと笑っていた魔理沙を見つけた霊夢は、彼女を大きな声で怒鳴りつける。

正月だって言うのに、本当に何時もと変わらない状況に、俺は思わず笑い出してしまう。

俺が笑い出したのに釣られて、皆も同じ様に笑い始める。

新年早々に何をしてるのやらと思うが、こうしてる方が俺達らしくて良いのかもな。

 

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