リュウSide
幻想郷に溢れたグミをなんとかする為に、俺と霊夢は何時もの様に勘頼りに空を彷徨っていた。
輝夜が住んでいる竹林も、突如現われたグミで溢れかえっているところを見ると、幻想郷の大体の場所にグミが潜んでいると見て良いだろう。
冥界や行った事の無い天界は如何か知らないけど、少なくともこの地上で奴等を見ない場所は無いだろうな。
山の方は……住んでいる連中が如何にかするだろうし、あとは紅魔館の様子でも探りに行けば良いか。
そんな事を考えながら紅魔館に近付いて行くと、屋敷の様子がどうも何時もと違っていた。
何時もの紅魔館は、霧に包まれて不気味な雰囲気になっているのに、今はなんだか慌しいと言うか騒がしくしている様な気がする。
此処にもグミが現われたのなら納得出来るけど、外から見ても分かる騒がしさってのもちょっと変じゃないか?
「……なぁ霊夢。これってもしかして―――」
「当たり……かもしれないわね」
「「……はぁ」」
霊夢も俺と同じ事に思い至ったのか、最後まで言う前に肯定してきた。
ソレと同時に俺達は、二人して呆れた様な溜息を吐いてしまった。
紅魔の連中とはそれなりの付き合いだから、俺からしたら身内と言っても遜色ないんだが……その尻拭いをさせられる訳か。
アイツ等は一体何をしたんだと思いつつ、自分たちの失敗くらいは自分で何とかして欲しいとも思う。
恐らくは何かの実験に失敗したろうけど、幻想郷中にグミを溢れかえらせる失敗って一体どんな失敗だよ。
俺達は紅魔の連中に呆れつつも、溢れたグミをなんとかするべく、門を飛び越えて屋敷の中へと入った。
紅魔館の庭は、予想通りグミ達で溢れかえっていて、庭が滅茶苦茶になっていた。
グミ達の移動方って言うのが、基本的に跳ねるか這いずるかの二択だから、花壇に出現されると草花が悲惨な事になるんだよな。
今は冬だからまだ良いだろうけど、これが春や夏だったら大惨事だったろうに……。
そんな事を思いながら庭を抜け、紅魔館の玄関に辿り着き、大きなドアを開けようとしたその時、中から魔物の気配と誰かが戦っているような物音が聞こえてきた。
魔物はグミで間違いないだろうけど、戦っているのは咲夜……にしては随分と激しい感じだ。
レミリアが自ら戦っているとは考えにくいし、門の所に門番が居なかった事を考えると、中で戦っているのはあの人だろう。
自分の中でそう結論付けた俺は、特に警戒もせずに玄関のドアを開けた瞬間―――
「恋符『マスタースパーク』ッ!!」
「……へっ?」
―――ドアを開けた俺の眼に飛び込んで来たのは、黄金色のグミとそれに迫る七色に輝く光だった。
黄金のグミは、玄関に立っている俺の姿を認識した途端、直ぐに反転して別の方向へと逃げていった。
残るは七色の光だけど……直線に進んで行く光が、自らの意志で方向を変えられるわけがない。
光に耐えられるだけの反射板があれば別だけど、そんなものが手元に有る訳ないし、間違いなく直撃するだろうな。
そう思った俺は、せめて霊夢だけでも逃がそうと彼女を突き飛ばそうとしたが、それよりも先に霊夢が俺の前に出ていた。
「夢符『二重結界』」
俺達二人を包むように張られた結界は、迫って来た七色の光を防いでくれた。
結界に防がれて光が消え、役目が終わった結界も消滅すると、紅魔館のホールに八卦炉を構えた魔理沙の姿を見つけた。
「あ、あれ? なんでリュウと霊夢が此処に居るんだ?」
「それはコッチの台詞…って言うか、いきなりマスパ放ってくるって如何言う心算よ」
「別にお前等を狙った訳じゃないんだが、一度放つと止めるに止められなくてな」
「だったら、もうちょっと考えて使いなさいよね」
「弾幕はパワーだぜ!」
「そう言う問題じゃない!!」
霊夢と魔理沙が織り成す見慣れた漫談。
二人のやり取り……と言うよりも、魔理沙のマスパの所為だろうけど、さっきまで周りに居たグミたちの姿が何処にも見当たらない。
まぁ、あんな物騒な魔法を間近で見たら、グミでなくとも逃げ出すだろうな。
「ところで魔理沙。さっきグミオウの姿を見たんだが……アイツを追いかけてるのか?」
「グミオウってのは、あの黄金の目玉付きスライムの事か?」
「そうそう」
「へぇ~、あのスライムにはそんな名前が付いているんだな。初めて知ったぜ」
「それよりもリュウの質問に答えなさいよ」
「……言わなくちゃ駄目?」
「駄目」
「……絶対に怒らないって約束してくれよな」
「怒らせるような事をしたのね……」
珍しく低姿勢な魔理沙を見て、俺と霊夢は今回の件にコイツも関わっていると理解した。
俺達二人を怒らせる理由がどんなのか知らないけど、魔理沙の姿勢を見る限りだとかなり関わってそうだな。
………
……
…
「―――っと言う訳で、わたし達は徹夜であのスライムを追い掛けているんだ」
「「……………」」
今回の件を簡単に説明すると、誤って召喚してしまったグミオウが、如何言う訳か魔物が通る孔を飲み込んでしまって、今もグミが召喚され続けているとの事。
その話を聞いた俺と霊夢は、魔法使い三人に呆れ果てて何も言えなくなってしまった。
別に実験で召喚するなとは言わないけど、魔法陣を起動させる前にちゃんと確認くらいしておけよ。
「全く、何を考えてるのよアンタ等は」
「うぅ……そう責めないでくれよ。流石に今回は悪いと思って反省してるんだから」
「責めてるんじゃなくて、私は呆れてるのよ」
「とりあえず、孔を飲み込んだグミオウを退治すれば良いんだな」
「ああ。召喚された奴は分からないけど、コレ以上スライムが増える事はないはずだぜ」
「ならさっさと倒しちゃいましょう。何か手掛かりはないの?」
「それがさっぱり。何せ範囲が紅魔館の何処かな上に、見つけても直ぐに逃げるからな」
「駄目じゃない」
「面目ない」
霊夢は手掛かりがない事に文句を言うが、あのグミオウの手掛かりを探せって方が無理だ。
前に居た世界でグミオウ探しをした事あるけど、見付からない時は本当に見付からないからな。
咲夜の能力で見た目以上に広い紅魔館から、神出鬼没のグミオウ一匹を見つけ出すってものかなり厳しいような気が……。
まぁ、あーだこーだと考えるよりも先に動き出さないと。
此処で時間を使えば使うだけ、幻想郷にグミが召喚され続けるんだしな。
「…あ、そうだ。捜索を始める前に二人にグミオウの対策を話しておくか」
「対策って、あんなのにそんなモノが必要なの?」
「どちらかと言うと、逃走防止策だけどな」
「そんなのが有ったのか……。で、その方法ってのは?」
「アイツが持っているリンゴを盗む」
「「……それだけ?」」
俺が話した逃走防止策を聞いて、二人は訝しげな眼差しで聞き返してきた。
「それだけって……簡単に言うけどな、盗むのが下準備で盗んだ後が本番なんだぞ」
「んな事言われてもなぁ~。イマイチ信じられないっての」
「分かってないな。リンゴを盗まれたグミオウの強さは尋常じゃないんだぞ」
「はいはいっと。んじゃま、捜索を始めるとしますか」
「あ、おい!」
話を適当に聞き流した魔理沙は、俺と霊夢をおいてさっさと紅魔館の奥へと進んでいった。
魔理沙は、俺が引き止める間もなくドンドン進んでいき、そのまま姿が見えなくなってしまう。
人の話しは最後まで聞いていけと言いたいが、相手が相手だし仕方がないか。
俺は呆れて溜息を吐きながら、先に行った魔理沙を追いかける事にした。
「ところでリュウ」
「ん? なんだ?」
「さっき〝盗んだ後が本番〟って言ったけど、どういう意味なの?」
「言葉の通りの意味だよ。リンゴを盗まれると怒って逃げなくなる代わりに、怒り出して本気で殺しに掛かって来るんだ」
「……えっ?」
「しかも最悪のパターンが、二体のお供を連れている時だな。あの二体が死ぬと、グミオウはより強くなるからより厄介になるんだよ」
「強くなるって……どの位よ」
「正確なところは知らないけど、体感的には倍以上だった気がするぞ。前に六人で挑んで全滅しかけたし」
「……見た目はヘンテコなのに、随分とふざけた性能をしてるのね」
「あんな見た目だから、やられたときの悔しさも倍以上だけどな」
暢気に霊夢に教えながらも、話を最後まで聞かずに行った魔理沙の身が心配に為る。
実験に失敗した上に、徹夜でアレを追い掛け回していたと為ると、無我夢中でアイツを倒しに掛かるだろうからな。
合流する前にリンゴを盗んで、本気に為ったグミオウに殺され掛けてなきゃ良いけど。
リュウSide out
魔理沙Side
リュウの奴から逃走防止策を聞いたわたしは、早速試してみるべくあの黄金スライムを探し始めた。
愛用の箒に跨り、邪魔に為るスライム達をドンドン蹴散らしながら、全速力で屋敷の中を駆け回る。
屋敷を徘徊しているスライム達の数は、徹夜でわたし達が倒しているにも拘らず全くと言って良いほど数が減っている気がしない。
一体どんな速度で召喚され続けているのか分からないけど、このまま行くと屋敷の許容量を越えちまうんじゃないのか?
そんな不安を抱えながら疾走していると、アリスの奴が例の黄金スライムを追い掛けているのが見えた。
黄金スライムの他にも、目玉のない黄金スライムや白く濁ったスライムも一緒に居る。
わたしが見付けた時には居なかった筈だが、逃げている間に新たに召喚したに違いない。
そう結論付けたわたしは、前を走るアリスの横につき、そのまま並走をし始める。
「よう、アリス。手こずってるみたいだな」
「そんな軽口を叩く暇があるのなら、貴女もアレを捕まえるの手伝いなさいよ」
「おう。…さっきリュウから聞いた逃走防止策、早速試してみるか」
「リュウが来ていると言う事は、霊夢も一緒ね。……後で文句を言われそう」
「そう言うのは後で考えろって。んじゃ、行くぜ!」
並走しているアリスを抜いたわたしは、そのまま前方にいるスライム達に近付く。
近付いたときに目玉付きのスライムをよく見てみると、確かにリュウが言っていた通りにリンゴを見つけた。
半分ほどスライムの身体の中に埋もれているけど、手を伸ばせば簡単に盗む事ができそうだ。
わたしは速度を上げ、スライム達を追い抜きながらも手を伸ばし、リンゴを掠め取った。
その勢いで前に出たわたしは、箒から飛び降りて、長い廊下を滑りながら減速してスライム達の前に立ち塞がった。
「……見ろグミオウ! お前の大切なリンゴはわたしが頂いたぜ!!」
わたしが見せびらかす様にリンゴを突き出すと、スライムは今盗られた事に気が付いたのか、目玉を慌しく動かしてリンゴを確認し始める。
確認をしてる時のスライムは、慌しく目玉を360°動かしていてちょっと気持ち悪いな……。
「流石、職業が盗賊なだけあって盗みの腕はピカイチね」
「ちょっと待て、アリス。誰が盗賊だ誰が! わたしは只借りているだけだぞ!!」
「借りたものを返さないのは事実でしょ」
「まだ使うから返せないだけ………ッ!?」
アリスの奴と言い合いをしていたら、わたしの顔の横を黄金の何かが通り過ぎた。
目にも止まらぬ速さで通り過ぎたソレは、かまいたちでも引き起こしたのか、わたしの頬をざっくりと切り裂いた。
余りにも突然の出来事に、わたしとアリスは言葉を失ってしまい、何が起こったのか分からず呆然としてしまう。
ただ分かっているのは、激しく怒っている何かがわたしの後ろに居ると言う事だけ。
わたしは冷や汗を流し、頬の痛みに耐えながら後ろを振り返ると……其処には、激怒している目玉付きの黄金スライムがいた。
魔理沙Side out
マジ切れしたグミオウは本当にヤバイ。お供二体を倒した後のグミオウは、ちゃんと育ててないと全滅しかねない。