リュウSide
すっかり雪も溶け、神社の周りの桜の花が満開になった今日この頃。
これだけの見事な桜が咲き誇っていると、お祭り好きな連中が集って神社が花見会場になりそうなもんだが、何故かそういった雰囲気にはならなかった。
恐らくは今の時期には咲かないはずの花が咲いていて、幻想郷の各地には霊魂が漂い彷徨っているのが主な原因だろう。
その騒ぎに乗じてるのか、各地で妖精達が騒いでいるみたいだが……そっちは割と何時もの事だから気にしないでおこう。
「……特に害意は感じないけど、動かないと駄目なんだろうな~」
俺はそうぼやきながらも、縁側で桜の花を愛でつつお茶を飲んでいた。
『紅霧異変』や『春雪異変』みたいな感じの異変なら、後々になって被害も出てくるから解決しないととは思うんだが、季節外れの花が咲いて、霊魂が漂っているだけとなると……イマイチやる気もでない。
だからと言って、このまま何もしないで放置していると神社の評判は落ちるし、里に行くたびに〝何時に為ったら解決するんだ?〟って聞かれるんだよな。
放っておいても大丈夫な気がするが、コレ以上評判が落ちるのは困るし、いい加減何とかするか。
そう考えて小さな溜息を吐いた後、俺は湯のみに残っていたお茶を一気に飲み干す。
如何するべきか考えつつお茶を飲んでいると、ふとした瞬間に物凄く嫌な事が脳裏を過ぎってしまった。
里の人間達の声を聞いて異変を解決するのって、神が人の願いを聞き届けている様な感じがするな。
ただの考えすぎなのは分かってるけど、俺のやる気を失くすには十分過ぎる考えだ。
普通の人間だったらこんな事はくだらないって一蹴できるんだろうけど、強大な力を持って産まれてしまった為に神格化されてそう言う扱いを受けたのも事実。
あの当時はそれで良いのだと受け入れていたが、今の俺に取ってはあんな生活に戻るのだけはまっぴらゴメンだ。
俺は飲み終わった湯のみを床に置き、肩と頭を下げて深い溜息を吐いた。
「……はぁ~」
「ちょっと、溜息なんか吐いて如何したのよ」
「んぁ? …あぁ、霊夢か」
「〝霊夢か〟って……随分な挨拶ね。此処は私達の家なんだから、私だって居るわよ」
「そりゃそうなんだけどな」
適当な返事を返す俺に、霊夢は膨れっ面になりながらも隣りに座った。
その様子から不機嫌なのは丸分かりだけど、今は慰めてやる気分には為らない。
鏡を見て無いから分からないけど、多分俺の顔も面白く無さそうな面をしているんだろうな。
そんな面の奴が慰めてやっても、余計に突っ掛かってくるのがオチか。
そう思い余計な事は言わずに黙っていようとしたが、霊夢は如何しても気になるのか訳を聞こうとしてくる。
「それで、今回は何で悩んでたのよ」
「ちょっと待て。それだと俺が何時も悩んでるみたいじゃないか」
「……違うの?」
「違うって、色々と考えただけだ」
「それを悩んでるって言うのよ」
「せめて思慮深いと言え」
「アンタにそんな言葉は似合わないわよ」
「……んだと」
「本当の事でしょ。少しは自覚しなさいって」
「ほっとけよ」
お互いに機嫌が良く無いからか、出てくる言葉や態度がどうにも喧嘩腰になる。
別にこんなやり取りがしたい訳じゃないんだが、売り言葉に買い言葉とはまさにこの事か。
「……それで今回は如何したのよ」
「別に。ただ、この異変を解決しないとなぁ~って考えてただけだ」
「こんなの放っといても大丈夫よ。別に害だって無いんだし」
「…そんな風に適当だから、神社の評判も落ちるんだよ」
「……悪かったわね、適当な巫女で」
流石に今の言は余計だったと思うが、言い終わった後に気がついても遅い。
今から言い繕うにも、ついさっきまで膨れっ面だった霊夢が、今では額に青筋を浮かべて恐い笑顔をしている。
霊夢と喧嘩がしたい訳じゃないはずなんだが、どうも今日の俺は駄目みたいだな。
さっきから出てくるのは暴言ばかりで、何を言っても霊夢を怒らせてしまいそうだ。
「だけど、その適当な巫女のお陰で、助けられた事があるんじゃないの?」
「……何度かあったような気もするが、なくても切り抜けられる様な事ばかりだろ」
「言ってくれるじゃない。…アンタなんか、私の勘が無かったら異変の解決なんて出来ないでしょう」
「別にそんなのに頼らなくても、この程度の異変なら俺一人で解決できる」
「じゃあやってみなさいよ! どうせ解決できなくて、私に頼ってくるに決まってるんだから!!」
「はっ。その勘が利かなくて首を傾げていたのは何処の誰だったかな?」
「ちゃんと利いてるわよ!」
「だったら証明してみろよ!」
「えぇ証明してあげるわ! 私の勘は年がら年中冴えている事をね!!」
「俺だって、お前の勘を頼らずとも異変を解決できるって事を教えてやるよ!!」
吐き捨てるようにそういった俺は、手の中に愛刀を呼び出し、そのまま博麗神社から飛び出していった。
………
……
…
霊夢と喧嘩して神社を飛び出した俺は、人目の付かない森の中に入り、物凄く後悔をしていた。
別にアイツが悪いわけでもないのに、あんなに暴言を吐くなんて……何してんだ俺は。
ただ虫の居所が悪かったと言うか、気持ちが下がり気味だっただけど言うか、本当にそれだけなのにな……。
今更後悔しても本当に遅いのだが、流石に今回は後悔せずに入られそうにない。
今から霊夢の所に戻る……って言う訳にも行かないし、今回の異変を調べながら時間を潰すとするか。
「……調査の基本は情報を得る事からだし、こう言うのに詳しそうな奴の所に行ってみるか」
気を取り直した俺は、腕を伸ばして背筋を伸ばした後、森を抜けて空へと飛び出した。
俺の知り合いで異変に詳しそうな奴と言うと、上白沢さんか永琳って所かな。
八雲の奴も詳しそうだけど、普段から何処に居るのか分からないし、アイツにだけは頼りたく無いからな。
そう考えた俺は、寺子屋で忙しい上白沢さんの事を考慮して、まずは永遠亭から尋ねる事にした。
リュウSide out
霊夢Side
リュウが神社から飛び出していった後、私は自室に戻って色々と道具を取り出していた。
今回は久々の単独での異変調査と言う事もあって、普段よりも念入りに準備をしている。
何時ならリュウが戦い易いように、装備はホーミング性の高い物で揃えるんだけど……今回ばかりはそう言う訳にも行かない。
アイツと一緒だったら、こんなにも念入りに準備する事のもないのにな……。
「…って、何を考えてるのよ私は。今回はアイツが悪いんだし、私が気落ちする事無いじゃない」
声に出して自分を奮い立たせてみたけど、気持ちが好転する事なんて無かった。
それどころか、ドンドン気持ちが沈んでいって、言葉に出して言っても空しくなってくる。
普段から誰かと喧嘩する事なんて無いし、したとしても大体は弾幕ごっこでケリを着けていたから、今回みたいな事になるのは初めてかもしれない。
リュウと口論になるのは何も今回が初めてじゃないけど、今日のは何時もとは何かが違う様な気がする。
それにアイツは今回の異変の事で悩んでいるって言ったけど、あの時本当に悩んでいた事はきっと別のことなんだと思う。
直ぐ隣りに居る筈なのに、リュウは何処か遠くに居るような気がして……。
だから私は本当に隣りに居るのか確かめたくて、ちょっと意地になってアイツから聞き出そうとしたんだけど……それが悪かったのかな。
喧嘩に慣れているのも嫌だけど、喧嘩し慣れてしないと如何やって謝れば良いのか分からないのよね。
「……あ~もう、止め止め。こんなの私らしくないし、どうせ向こうから謝ってくるでしょ」
そう言い聞かせるけど、頭の隅で〝もし謝られなかったら如何しよう〟と考える自分がいる。
お互いに意固地になって、このままの状態をズルズルと引き摺ってしまったら……そう考えてる途中で恐くなった私は、頭をふるって途中まで考えていた空想を振り払った。
「だ、大丈夫よ。アイツは私と違って意固地になったりしないし、ちゃんと謝りに来てくれるわよ」
今の言葉が虚勢でしかないのは分かってるけど、虚勢でも言ってないとやっていられない。
不安に押し潰されそうになった私は、自分の両頬を思いっきり叩いて無理やり気合を入れる。
パチンっと言う音が部屋に響き、叩いた頬から痛みがじんわりと伝わってくる。
ちょっと叩き過ぎた気もするけど、弱気になっている今の私にはこの位が丁度良いのかもしれない。
「さって、気合も入った事だし、さっさと準備を終わらせないと。今回の異変は必ず私一人で解決して、アイツに謝らせなくちゃね」
そう言って私は、考え事をして手が止まっていた準備を再開した。
気合を入れて不安を押し殺した心算だけど、胸に懐いた虚無感だけは消す事が出来なかった。
霊夢Side out